Episode 396 ま~た忘れてるよ
順番はすぐに回ってくる。各個人が自身のルーティンをこなし、好きなタイミングで飛び出していくから、かなりのペースで。
「速いなぁ。まぁええか。美咲、頼むわ」
直哉はスタートの準備が整うと、私に声をかけてくる。
それを見て、私も直哉に声をかける。
「はいはい。ほんなら……。いきまーす、よーい、ゴッ!」
私の声でスタート決めようとする。
だけど、春にここで合同練習に参加した時に、タイムトライアルをしたけど、そのときの感覚は全部吹き飛んでいるみたいで、見たこともないくらい慎重にスタートする直哉。
それを見て、少し吹き出しそうになったのは秘密の話ね。
いつも以上に慎重にスタートした直哉。いつも以上に飛べていないし、かなり手前で着水。だけど、そこからの直哉はさすがだった。
スタートはやる気のない感じに周りからは見えただろうけど、主中のドルフィンキックからは勢いが違った。
加速を始め、あっという間にハーフラインに到達。流石にそこまでには浮き上がってきていて、そこからはフォームを意識しているのかストロークピッチを少し落として泳いでいった。
それでも、私が声を出してから体感10秒あったかなってくらい。
ここはワンウェイだから、さすがにターンして戻ってくる。ということはなかったけど、あまりのスピードにスタートレーンの側のプールサイドにいた人たちが少し戸惑っていた。
まぁ、そりゃそうか。スタートは相当ゆっくりだったのに、水中からいきなり目の前に現れたかと思えば、トップスピードのまま目の前を通過していくもんね。
初めて見たらビックリすると思う。
まぁ、私は何度も見ているから、全く驚かないけど。
そこから数回、直哉は飛ぶだけ飛んで、飛ぶときの感覚を確かめていた。
プールサイドから見る感じ、足の先をしっかりとスタート台の縁に引っ掛け、足の指の力だけで飛んでいる。印象的にはそんな感じかな。
「指先だけで飛ぼうとしてんの?」
「うん?あぁ、あれか。滑らんように踏ん張ってるって感覚が近いかもな。せやないと、とんでもないことになるし、ここでは前からそうしとってんけどな」
そうなんだ。そこまで見れていなかったな。ずっとなにかしら滑らないようにと祈りながら見ていたからかもしれない。
さすがにそれだけだとしんどいか。でも、自分のやり方を見つけられたならいいのかもね。なんて思ったり。
「ただ、相当指の力入るから、ほかの奴らには言うなよ?真似されて変になったらかなんし」
「まぁ、あんたの理屈からしたらそうやな。わかってるって。言うわけないやん」
「そうか。やったらええけど」
直哉はそれだけ言うと、適当に空いているレーンに入り、ゆったりと泳ぎ始めた。その姿を見るだけで、一旦ダウンしてストレッチするのかな。と思った。
本来なら、遊菜も探すところだけど、今はいいや。とりあえず、時間もそろそろミーティングが始まりの時間に近づいてきているし。いったんプールから離れて控え室に戻る。
「あっ、咲先輩、いいところに。リレーのオーダーって、ノートに書いてた通りの書いて出したんですけど、それでよかったですか?あと、ミーティングってどこでやるんですか?」
私が戻ってくる鳴り、優乃ちゃんが顔を輝かせて聞いてきた。
「あっとまた忘れてた。リレーのオーダーってメドレーもフリーも男女でノートに書いてた順で出してんな?ありがとう。毎回忘れるん、どうにかしたいな。で、ミーティングやけど、プログラムになんか書いてへんかった?初めの方に書いてあったけど」
「えっ?……あっ、書いてあった」
こういうのもね、経験だからね。いろいろ考えさせ過ぎているところはあるかもしれないけど。
「会場に着いたら、マネージャーは隅から隅までプログラムを見ることな。たまに訂正の神とか大事なお知らせが入ってたりするから」
「はい、気を付けます」
「えっと、トレーニングルームですね」
「ほなそこ行こか」
「行き方は……地図があんのか」
同じ過ちは2度しなかった優乃ちゃん。そこはちゃんとほめてあげる。
そして、プールに併設されているトレーニングルームに来ると、地区に名を連ねている学校の代表者がかなりの数集まっていた。




