第八十四話 全てですわ!
「本来契約魔法とは、動物や魔物と言った者と契約し、戦闘の際に手助けしてもらうものなのは、知っているな?」
にゃあ吉の問いかけに私は頷く。
「まぁ先程、僕様、つまりは人間と契約したみたいなイレギュラーも存在するみたいだけどね。その中でもあいつは、イレギュラー中のイレギュラー、それ以外の者と契約している」
「ん?それ以外ってなんかある?すぐには思いつかへんけど‥結局ノットさんは何と契約してるん?」
「クレア・ノットは、精霊や妖精と言った、半ばフィクションと思わざるを得ないもの達と契約をしている」
「何やそれ!」
(まぁ魔法とかある世界やから、ない話ではないんか?
でもめちゃくちゃやな‥)
「そう言った私たちでは認識すら出来ない者との契約を成立させたあいつは、超常的な力を手に入れたと言うわけだ」
「‥それがノットさんの力の秘訣なんや。めちゃくちゃや」
「ほんとめちゃくちゃだな。神に溺愛でもされているのかね。まるで実の子供かの様に」
力を理解した上で、ノットさんの戦いを見てみると、先程とは違った見方ができる様になった。
ノットさんが攻撃をする際、光の様なものが宙を舞っていたり、相手に攻撃が当たった際に火の粉が散ったりと、身体能力だけでは片付けられない技を使っているのがわかる。
「もう終わりそうだな‥」
2人の戦いを見ながらそう言ったにゃあ吉は、何処か複雑そうな顔をしていた。
「はぁ流石に限界の様ですね。血を流しすぎたせいか、前があまり見えなくなってきました」
「むしろまだ意識を保てているのが奇跡の様なものだと思うよ。まぁでも、可哀想だし本当に終わりにしようか」
そう言ってノットさんは拳を握る。
カースは諦めたかの様に、その場から動かずにただ立ち尽くしている。
「それじゃあね」
そう言って、ノットさんはカースに拳を突き刺した。
突き刺したというのは何も比喩表現などではなく、本当にカースの体を貫いたのだ。
私はそれを見て嗚咽してしまう。
体を貫いた際に発した、肉をえぐる様な生々しい音や、あたりに飛び散る血液のにおいに気分が悪くなってしまったのだ。
にゃあ吉やナギアが心配して駆け寄って来てくれて、次のような事を言ってくれた。
「リア。別室にいた方がいいんじゃないか?」
「そうだぞ!あまり無理をするな」
この様に言ってくれるのは嬉しいが、私は次の様に言葉を返す。
「ありがとう2人とも、でも‥仲間が頑張ってんねんから、側にいないと」
そう言って私は躊躇いながらも、ノットさんの方へ視線を向ける。
ノットさんは貫いた拳を体から抜いて、血を払うかの様に腕を振った。
そして不思議そうに自分の手を眺める。
「‥君どうやったの?」
私はノットさんが言った事も気になったが、それよりも気になったことがある。
(何でカースに話しかけてるんや‥?)
何せ私はもう、カースは死んでしまったと思っていたからだ。
「どうやったとはどういうことですか?」
けれどカースは心臓を貫かれた筈なのに返事をしたのだ。
それだけではない。カースは未だ倒れることなく、平然と立っている。
「君の体を貫いた時の異常な感触。私も人の体を貫くなんて初めてだからハッキリとはわからなかったけど、やはりおかしいね」
そう言ってノットさんは自身の手の感触を確かめる様にしながら話を続ける。
「お前、心臓何処にやったんだ?」
ノットさんは鋭い目つきでそう言った。
その後の事である。
私は今日1番の衝撃を味わうことになった。
ただでさえ今日は驚くことばかり起こっているのに、それらを軽く超えてくることが起きたのだ。
カースの胸が治っていたのだ。
確かに私は胸を貫かれるのを目の当たりにした。
それが今は見る影もなく綺麗に治っている。
それだけではない。体中にあった無数の傷跡も、ナギアの攻撃で失った筈の右腕も、全てが元に戻ったのだ。
まるでまだ戦いが始まっていないかの様な、そんな緊張感のない表情でカースは立っていた。




