第三十一話 一緒に授業ですわ!
「リアそこ間違ってるぞ」
「あっほんまやありがとう‥‥ちょっと近ない?」
あの後、私たちは共に授業を受けていた。
生徒会が活動するのは昼休みと放課後、昼休みには、ララとの約束があるので、私たちは放課後に伺うつもりだ。
それまでの間やることがないにゃあ吉は、先生のご好意で共に授業に参加することが許可されたため、時間まで一緒に授業を受けることにした。
そしてにゃあ吉は私の隣に席を用意してもらい、私の席とくっつけながら授業を受けている。
「いつもの姿じゃ授業のアドバイスなんて出来ないからな。一度こうしたことを‥リアと授業を受けてみたかったんだ」
にゃあ吉はそんなことを言いながら肘をついて笑顔で私を見つめてくる。
いつもは私が揶揄う側だが、どうも人の姿になられてしまうとその立場が逆転してしまう。
本来にゃあ吉は素直に私と授業が受けたかったなんて事は、恥ずかしくて言わないはずだ。
けれど今は、そのようなことを言われてしまうと私が照れてしまうため、にゃあ吉は面白がって平然としながら、恥ずかしいセリフを積極的に吐いている。
(また顔赤くなってないやろか)
もしもまた顔が赤くなっていたら、照れているのがバレてしまっていることになるため、またそれが恥ずかしくなって顔が赤くなる。
これの繰り返しで、私はすっかり茹で上がっていた。
「いつもの調子はどうした?少し照れすぎじゃないか?」
「勘違いせんといて、暑いだけやから。あー暑い暑い」
私はそう言いながら手で顔を仰ぐ。
「いいなーリアさん。あんなイケメンと仲良さそうにして」
「ほんとよねー。私もお話ししたい」
そんな嫉妬のような言葉を小声で吐いているクラスメイトが、多数いる。
「ほんと羨ましい。私にもあんなイケメン彼氏がいたらなぁ」
(彼氏じゃないって!!)
私は心の中で激しいツッコミをいれる。
「私たちは恋人に見えてるみたいだな」
「うるさい!」
「ずっと照れてて、リアさんかわいい」
「なんだ?照れてたのか?」
「照れてへん!」
いちいち生徒の言葉に反応して、にゃあ吉は私をいじってくる。
その都度イタズラな笑みを浮かべこちらの様子を伺うかのように顔を近づけ、見つめてくる。
「あの人もリアさんに好意抱いてそうだしね」
私をからかい続けていたにゃあ吉だが、この言葉を聞いてピタリと固まる。
「ほんと好きなのバレバレだよね」
「そうなん?にゃあ吉?」
「ふん。彼らの単なる憶測だ」
突如立場は逆転する。
先程のにゃあ吉のように、私は意地悪な笑みを浮かべにゃあ吉を煽るかのように顔を近づける。
「相思相愛ってやつじゃない?」
「「違う!!」」
逆転したかと思えばすぐこれだ。
私たちは同時に今のセリフを発した人にツッコミを入れる。
2人して顔を赤くして、皆には本当に滑稽に見えているだろう。
「はいみなさん授業中ですよ。静かにして下さい。特にそこのカップルは喋りすぎです」
「「だから違うって!」」
私たちはまた言葉を被らせた。
「全く散々な目にあったわ。明日からも私は登校せなあかんねんで?めっちゃ恥ずかしいわ」
「恥をかいたのは私も同じだ」
一限目が終わった後の短い休み時間の間に、私たちは中庭で下らない言い争いをしていた。
「にゃあ吉は目立ちすぎやねん。明日からあの人はどうしたの?とか聞かれるんは私やねんからあんまり目立たんといて」
「私は別に目立つような行動をそれほど取っていない。殆どは生まれ持ったこの容姿のせいだ。私の意思じゃない」
「確かにそうやな。言いがかりつけてごめん」
「素直だな」
にゃあ吉はすぐに謝った私に驚いた顔を見せる。
「随分と調子に乗ってるようですね」
私たちが下らない会話をしていると、何処か聞き覚えのある声で嫌味を投げかけながら誰かが近づいてくる。
私たちが振り返るとそこには入学式の日に絡んできた偉そうな女性が前と同じ取り巻きを3人つれて、胸を張りながら現れた。
「学園に関係のない男を連れてきて、まるでアクセサリーを見せびらかすかのように歩き回る。相変わらず下品なことしてますわね」
相変わらず彼女は見下すようにしながら、余裕の笑みを浮かべて話しかけてくる。
「そんなこと言いにきただけなら話しかけんといて」
私は睨むようにしながら相手に言い返す。
「よせリア。関わるだけ無駄だ」
「あら?貴方もやはりそちら側なのかしら?容姿がいいだけに残念ね」
彼女は煽りを繰り返す。
「行こうリア。もうすぐ授業が始まる」
そう言ってにゃあ吉は私の手を取り校舎へ向かい、少し早足で歩き出す。
「私たちは貴方たちへ忠告しに来たんです」
にゃあ吉は彼女を無視して先へと進む。
けれど次の発言と、彼女に刻まれたある紋章を見て私たちは動きを止めざるを得なくなる。
「時期に彼らが攻めてきますわ。感の鈍い貴方たちじゃわからないかしら?」
そう言って彼女は胸元を見せるかのように服を下げる。
そこに書かれていたのは、私たちが見たことのある紋章。
『黒薔薇の最後』のものだった。




