エピローグ.博愛の聖女
エピローグその二、短めです。
そこは始まりの場所にして、終わりの場所。
人間の領域の最奥に位置する街、古都ノムカピテール。その中心に聳える大教会の聖堂にて、領域教会の総主神、聖女神リクシルの像へ、一人の少女が一心に祈りを捧げていた。
少女の名はミーシェ。『神託』のギフトスキルを持つ、聖女神リクシルに認められた博愛の聖女ミーシェ。この祈りは、聖女たるミーシェが毎日行う日課の一つであった。
ミーシェが祈り始めてから、どれだけの時間が過ぎた頃だろうか。そろそろ祈りを終えようとしたところで、唐突にミーシェの持つ『神託』のスキルが発動し、聖女神リクシルの言葉がミーシェの内に降りてくる。
――汝、単身で病魔の森へ向かい、失われた聖剣を探し出せ――
それは、聖女神リクシルよりミーシェへ与えられた使命だった。
失われた聖剣の探索という使命は、聖騎士たちにも同様に与えられている。その上で聖女にこの使命が与えられたのは、探索する場所が悪名高き呪われた地、病魔の森だからだろう。あの地に掛けられた大魔王の呪いは、あの地に侵入した人間の身体を蝕む。それは領域教会内でも有名な話だった。
強すぎる呪い故に、【聖女神リクシルの加護】を強く受けた教会の聖騎士たちでさえ、あの地に立ち入ることは難しい。だからこそ、あの地は代々、勇神の血を引き、特別なスキルを受け継ぐ者たちを有する勇王国に管理を任せていたのだ。しかし、その勇王国は数年前、魔王レティシアの軍勢により滅ぼされてしまった。あの地を管理する勇王国は既に滅ぼされており、聖騎士たちでは立ち入ることも出来ない。それ故に今回、その使命を任せる相手に博愛の聖女ミーシェが選ばれたのだろう。何故なら、聖女であるミーシェが持つ【聖女神リクシルの恩寵】であれば、あの地の呪いにも耐えられる。
聖女とは、聖女神リクシルの眷属にして、その力を最も発揮できる器の候補でもある。だからこそ、勇者ほどの力は無いにしても、その辺の魔物たちには負けない力を持つ。しかし、聖女の本領たる力は守護と治癒。それ故に、普段の聖女は聖騎士たちに守られる存在だった。だが、今回はそんなわけにもいかない。病魔の森の呪いに耐えられるのは、聖女であるミーシェのみなのだから。だからこそ、聖女神リクシルもわざわざ、単身で、と付け加えたのだろう。
普通であれば探索が主目的とはいえ、聖女が一人で魔物の住処へと向かうというのは、非常に危険な類いの使命だ。それでも、領域教会の総主神である聖女神リクシルから直々に与えられた使命である以上、聖女にそれを断る事など出来はしない。故にこれは決死の覚悟を持って、挑まねばならない使命と言えよう。
しかし、この博愛の聖女ミーシェの思考は少し違っていた。今、博愛の聖女の胸の内にあるのは、期待と高揚。博愛の聖女には、昔からずっと願っていた夢があったのだ。
それは領域教会に属する敬虔な信徒であれば、まず間違いなく忌み嫌われる夢。領域教会の外であっても、拒絶されることだろう。なにせ、歴史がそれを伝えている。
だからこそ、これまで誰にも話せない密かな夢。
今までは周囲を聖騎士たちに囲まれていたため、どうすることも出来なかった。だが、病魔の森に向かうとなれば、ミーシェは独りだ。だからこそ、出来る。
病魔の森でなら、きっとミーシェの夢である魔物たちと友達になることが出来るはずだ。
博愛の聖女は意気揚々と病魔の森へ向かう。
博愛の二つ名に恥じぬ、夢を胸にして。




