鬼隠し 1日目のオワリ
「うわぁぁぁ!!」
どこかで生徒が叫び声をあげる。
「また捕まった人がでたんだ・・・」
雄一郎は悲しそうに言った。
明美もなんだかすぐれない顔をしている。
「本当に楓クンから・・・逃げれるのかな・・・」
明美の口から本音がこぼれる。
すると雄一郎は片手を明美の方にポンとのせた。
「大丈夫。多分白羽君ここと反対の場所にいると思うし・・・」
雄一郎は少し自身あり気に言う。
明美の不安な表情が若干ゆらぐ。
現在、2人がいるのは体育倉庫である。
詳しく言うと体育倉庫の跳び箱の中。
明美の野性的視力がここで役立った。
2人で入っているわけだが・・・これが若干きゅうくつでもある。
それでも鬼から逃げ切るという願いのため。
2人とも我慢しているのであった。
沈黙の時間がおとずれる。
2人は何も話さずあたりを見回していた。
するとしばらくして何かが体育倉庫の周りを走り回る音が聞こえてきた。
タッタッタッタッタッタッタッタ・・・
2人とも息をのんだ。
だがその音は近づくことも離れることも、絶えることもなかった。
「おい、お前見てこいよ・・・」
体育倉庫の中で誰かが小声で言った。
「えっ!?やだよ・・・何でオレが・・・」
その声に返答するように小さい声が聞こえてくる。
2人以外にも体育倉庫に隠れる者がいたらしい。
「これでしゃべったら確実にボクたちが行かされる・・・」
雄一郎はそうつぶやくと自分と明美の口を軽くおさえた。
「っ・・・!?」
明美は突然のことに驚いて目をまるめる。
だが雄一郎の言いたいことが分かったのかすぐにおとなしくなった。
雄一郎の人差し指の側面は時折自分と明美の鼻息がやさしくかかった。
今これが祭りの最中でなかったら雄一郎を恨む者はたくさんいるだろう。
明美は男子から意外と人気があるらしい。
雄一郎はそれを思い出すと若干苦笑いをする。
ちょっとの罪悪感が雄一郎の心にあらわれた。
そしてふと本来の目的を思い出す。
今ここでしゃべってもらっては困るのだ。
「よしっ・・・それじゃあジャンケンで決めようぜ」
「ぉぅ・・・いいだろう・・・ジャンケン・・・・」
「「ホイッ!」」
2,3年生2人の声が体育倉庫に響く。
「うぉぁ!!」
どうやらどちらかが負けたらしい。
「それいってこいよ!」
パシッ
1人がもう1人の背中をたたく音が聞こえてきた。
「痛ぇな!分かってる・・・少し様子見てくる」
すると1つの足音が体育倉庫の入り口へ向かっていく。
もう少し・・・もう少しと雄一郎は願う。
体育倉庫の扉に手をかけ横へ引っ張りあける。
ギギギギギ・・・
扉はもろい音をたててゆっくりと開きはじめた。
扉が開いて月の光が体育倉庫の中を照らした。
その光は跳び箱に入っている雄一郎たちの目にもうつる。
そして1つの足音は体育倉庫を抜け出し、月の光をおびて外へ駆け出した。
だがその瞬間であった。
「うはぁっ!」
なんとその生徒は出た直後に捕まったのだ。
目にもとまらぬ速さで楓はその生徒を吹き飛ばす。
そしてニヤリと笑うとナイフをその生徒に向けた。
「マジかよっ!」
その生徒は少し驚いて怖がる。
そして楓はナイフをその生徒へ刺し込む。
「うぁっ!」
ナイフは生徒の右腕の方からひじのあたりまでの間に刺さっていた。
だがナイフから楓の手は離されてなかった。
刺し込んだ反動で生徒は後ろに倒れこむ。
楓はそれと同時に思い切りナイフを抜き取った。
吹き出た血が月に照らされる。
「ぅぅ・・・」
だが楓はそれでもまだ満足いかないようだ。
少し不機嫌そうな顔をしている。
「あ〜ぁ・・・そろそろこのナイフ・・・替えないと・・・」
楓が赤く染まったナイフを見て言う。
生徒は怖がりながら傷口をもう1つの手でおさえる。
楓を見ていた生徒の目はもう恐怖そのものをうつしだしているかのようだった。
楓はそれに気づきニヤリと笑ってナイフを軽くなめる。
「っま・・・コイツを殺ることぐらいはできるよな・・・」
楓はナイフを生徒に向けた。
生徒は恐怖におびえて足がすくんでいるようだった。
死と対面していれば当然のことである。
「天国なんて・・・連れて行かせないから・・・」
楓はそうまじめそうに言うと生徒に襲い掛かる。
生徒はあおむけになり楓は生徒の上に乗りかかった。
ナイフは何度も刺し込まれ、抜き取られる。
その度に生徒は悲鳴を上げ、楓はそれを快楽として楽しむ。
しばらくして楓の手の動きがとまった。
楓は生徒の顔を見てため息をつく。
「これで事件にならなければいいんだけどなぁ・・・」
月の光に生徒の顔がうつしだされる。
なんと生徒の顔はもう血にまみれて原型を保っていないほどグチャグチャだった。
どこが目でどこが口なのかさえよく分からなくなっている。
当然のことながら既に生徒は死んでいる。
楓はあきれたような顔をして立ち上がった。
月の光に照らされない赤い瞳は今返り血に見えなくもなくなっていた。
雄一郎は外で何が起こったのかまだ理解できていなかった。
ただ分かるのは楓が出て行った生徒を刺し殺したということだけ・・・。
楓はまだ運動場で立ち尽くしているのだろうか・・・。
それとも・・・。
「ここに何人いるのかなぁ?」
突然楓の声が体育倉庫の中から響き渡る。
雄一郎は驚いて指がピクリと動く。
タン タン タン タン・・・
体育倉庫を歩き回る音が聞こえてきた。
歩き回っているのは当然楓だ。
何かを探している。
いや・・・生徒を探している!
楓は時折横を向いたりしてふざけていた。
だが楓の目に狂いはなかったようだ。
ガラガラ〜〜・・・
突然何か色々と落ちる音が聞こえてきた。
そして楓がニヤリと笑う。
「見〜つけた♪」
その歌い方は楽しくもなんともない。
ただ怖いだけだった。
「うあぁ・・・!?」
もう1人隠れていた生徒が見つかったらしい。
だがそれにしてはあまり叫んでいないようだ。
恐怖を感じていながら、いたって冷静といったところか・・・。
その反応に楓は不満を感じたようだ。
ナイフを少し振り回す。
「お前オレが怖くないのか?お前を殺す鬼だぞ?」
そう楓が言うとその生徒は鼻で笑う。
楓がまゆをひそめた。
「悪いけど・・・わたしはまだ死ねないんでね」
すると楓が高笑いをした。
その表情はいたって楽しそうだった。
そして急にそれをやめると真剣になってその生徒を見る。
「それじゃあ今死んでもそれは死じゃないと?」
生徒は目をつむって微笑む。
「まぁ・・・もう今日は死ねないけどね・・・?」
その言葉に楓は少し腹をたてたようだ。
ナイフを振り上げる。
「じゃっ・・・ここで死ね」
そう言ってナイフを下ろした。
そのときだった。
キーンコーンカーンコーン
ナイフは生徒の頭ギリギリのところでとまった。
鐘の音、今回は鬼隠し休憩時間の合図だった。
気づくと月は沈んでいて太陽が闇を燃やす準備をしている。
楓はナイフをしまった。
生徒は自信あり気に笑う。
楓は舌打ちをすると体育倉庫を出て行った。
明美の口から手が離される。
明美はやっと口呼吸できるようになったことがうれしいのか過呼吸している。
そしてその結果ふらつくハメとなった。
雄一郎は恐怖と安心を感じて深く息を吸った。
「一日目・・・何とか逃げ切れたのか・・・」
そうつぶやくと明美がうれしそうにうんうんとうなづく。
明美の喜ぶ顔を見てホッとする雄一郎。
突然跳び箱の一段目があけられた。
2人とも驚いて上を向く。
「あ・・ゴメン。驚かせちゃったかな・・・?」
1人の生徒が少し苦笑いしながらこちらをのぞいていた。
鬼隠し 一日目――――――終了