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ラミアの独り言 ---「気がついたらラミアに」サイド・ストーリー ---  作者: 並矢 美樹


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医療部隊としての初の実戦だったのだろうか?

 何かが起こったことは、私も感知していた。 たぶん公邸の窓ガラスじゃないかと思う。 大きな音がしてガラスが割れる音を私は聞いたのだ。 あんな大きな音を立てて割れるなんて、公邸の窓ガラスしかないんじゃないだろうか。


 私の同僚の、同僚と言ってもラミアではない、騎士見習いの同僚の人間の女性が、私のいた部屋にノックもせずに駆け込んで来た。


 「アーブ、アレク様が呼んでいる。 急いで。

  ウスベニメさんが大怪我よ」


 私は咄嗟にいつも身近に置いてある救急セットをとりあえず持って、呼びに来てくれた女性と共に大急ぎでアレクさんの元に向かった。

 部屋に駆け込むと、血だらけのウスベニメさんが、レンスさんをはじめとした何人かに世話されながら横たわっている。 どうやら意識はない。

 

 「アーブ、こっちだ。 意識は私が奪った。 興奮していて、どうにもならなかったから。

  主な負傷は見てのとおり矢が刺さっている。 その他に窓から飛び込んで来た時の軽い切り傷多数。 これは今確かめていたけど、ガラス片などが刺さったりはしていないみたい。 でも一応もう一度確かめて」


 「はい、レンスさん」


 私は、私を呼びに来た同僚がまだ側に居たので、私の部隊の隊員を呼んできてもらうことにした。 彼女が部屋を出て隊員を連れて来てくれる間に、私も少し細かく診せてもらおう。


 部屋の中は騒然としていて、中にいる人はアレクさんをはじめ、私の方をチラッと確かめるように見ると、無理矢理気持ちを切り替えるような顔をして、深刻そうな話に戻っていった。 レンスさんも、私がウスベニメさんを診始めると、ちょっと珍しく感じてドキッとしたけど、キッと決意するような顔を見せて、「アーブ、任せる」と言って、その話の輪に加わって行った。


 ウスベニメさんの容態は、レンスさんの言うとおりで、矢が太腿に突き刺さっている以外は、大した怪我はないようだ。 窓から飛び込んで来たとのことで、窓の激しい壊れ方を見ると、もっと体のいたるところに結構な傷を受けていてもおかしくない気がしたけど、きっとハーピーの羽毛が怪我から守ったのではないかと思う。 最初見た時血だらけだと思ったよりも、体の怪我は大したことない。 ウスベニメさんの綺麗な羽毛が赤く染まっていたから、より深い傷に見えたのかも知れない。 確かにガラス片も残っていないようだ。 後でもう一度しっかり調べてみる必要はあるけど。

 矢の方は、この出血量だと、大きな血管は傷つけていないと思われる。 それでも単純に引き抜こうとすると、より一層傷つけてしまう可能性がある。 鏃によっては、抜こうとした時により一層傷を酷くするような、残虐としか良い様がない物もあることを私は知っている。 ここで今すぐに抜くことは出来ないな、と私は考えた。


 私はとりあえずこの場で出来ることをする。

 矢が動いて、これ以上ウスベニメさんを傷つけないように固定する。 本当は矢を短く切って固定すればより安全なのだけど、矢を短く切る道具がない。 アレクさんか、セカンさんに頼めば、剣で切ってくれるかなと考えはしたけど、それは諦めた。 剣で一瞬で斬るというなら大丈夫な気もするけど、それでも刺さった鏃が動かないように上手くいくかはわからないし、第一今はそんなことを頼める雰囲気ではない。 ウスベニメさんの為だから、頼めばすぐにしてくれそうだけど、自分が絶対に上手く行くという自信を持てないのに、とても頼めない。


 壊れた窓から、外の風が部屋の中に吹き込んでいるけど、誰もそれに注意を向けず真剣な話をしている。 私は、応急処置を進めるのに精一杯で話している内容までは聞き取れていないのだけど、とても深刻な話がされているのだけは、この雰囲気だけでもとても伝わってきて、緊張して震えそうだ。


 騒ぎに気付いた私の部下も、こちらに向かって来ていたのかも知れない。 呼びに行ってくれた同僚と、思っていたよりも早く部屋に入って来た。


 「馬車を用意して。 最も揺れなそうで、担架を乗せることの出来るのを。

  大急ぎでラミアの里に行って、スクナピオンさんにウスベニメさんの治療をしてもらうよ」


 正直に言って、今まで研修を受けてきた今の私ならば、スクナピオンさんに頼らずとも、ウスベニメさんの治療を行えるのではないかと思う。 でも、その余裕があるのならば、私よりもより安全で適切な治療が出来るスクナピオンさんを頼る方が正しいと私は思った。


 私は、今の真剣な話し合いをしているアレクさんに声を掛けるのは、ちょっと勇気が必要だったけど、アレクさんにその方針を伝えた。


 「アーブ、よろしく頼む。 今、僕たちはウスベニメのために動いてやることが出来ない。 スクナピオンさんにもよろしく伝えてくれ」


 次々とやって来た部下たちと、私は慎重にウスベニメさんを担架に乗せて、ラミアの里にと急いだ。


 スクナピオンさんがいる、ラミアの里の元の町に建てられた病院に着くと、そこには当然連絡が入っているスクナピオンさんだけじゃなく、ラーリン様とウスベニメさんのお母さんも待っていた。 ラーリン様は当然のように思ったみたいだけど、ウスベニメさんのお母さんはウスベニメさんに意識がないのを見て、より一層青褪めた。 私は簡単に説明してあげた。


 「当然だと私は思うのですけど、ウスベニメさんは酷く興奮していて、それを抑えるために、レンスさんが眠らせてくれただけで、ウスベニメさんが今意識がないのは何の問題もありません」


 「レンスがやったの。 じゃ、何も問題ないわね」


 ラーリン様がそう私に向かって言ってくれたけど、私に向かってではなく、ウスベニメさんのお母さんに向けての言葉だろうなぁ、と思った。 落ち着いた調子の言葉だったけど、その言葉を発したラーリン様の顔も真っ青だった。


 「こういった負傷の治療の場合、その治療には一般的に苦痛が伴うことが問題となる。

  何しろ今のところは、治療の痛みを軽減するための薬とか、意識を失くさせる薬とかは副作用が強くて、現実的にはあまり使わないからなぁ。

  その点、ラミアがいてくれると、安全に意識を失わせてくれるから、治療もしやすく、安全も増す。 

  お母さん、何も心配することないですぞ」


 スクナピオンさんは医者だから、かなりの年齢のエルフなのに尊大さはあまりないのだけど、それでもスクナピオンさんにしてみると、かなりの言葉のサービスの気がしてしまった。


 ウスベニメさんの治療は私も加わって行ったのだけど、何の問題も無く、簡単に済んだ。 矢も当たり所が良くて、大出血を起こさなかったばかりか、後から障害が残るようなこともないようだった。 そもそもあまり深く刺さってはいなかったし、鏃の形も意地の悪い形では無かったのだ。


 その結果を聞いて、ウスベニメさんのお母さんとラーリン様は少し安心したみたいだ。 それでも2人はウスベニメさんの目が覚めるまで、病室に付き添っていた。


 私は、少し仮眠室で休ませてもらっていたのだけど、夜明け前にラーリン様が自ら足を運んで起こされた。

 ウスベニメさんが目覚めたとのことで、病室に向かうと、病室に残っていたのがお母さんだけだったのがいけなかったのかも知れない、ウスベニメさんが凄く興奮していた。 これでは矢の刺さった状態だったら、即座に気を失わされる訳だ。 私は最初見た時に、レンスさんによって意識を失わされていた理由が良く理解できた。


 「私は今、こんなところで寝ていられる訳がないじゃない」


 「お前は、矢で怪我をして、ここに運び込まれたのよ。 ここがどこだか解るでしょ、病院よ」


 「そんなの解っている。 矢なんて、私は布でも丸めて口に入れて、引き抜けばそれで良いと思っていたのよ。 誰よ。 私の意識を奪ったのは」


 普段冷静で、物静かな様子しか見たことがなかったので、私は荒れ狂うウスベニメさんに驚いて、完全に萎縮してしまった。

 だけど、その荒れ狂う様子に全く動じる態度を見せず、何でもないことのように普通の調子でラーリン様は言った。


 「意識を奪ったのは、レンスだそうよ。 レンスは経験があるから、問題はないわ。

  ウスベニメ、今、あなたが無理して動かなければならないことは何もないわ。 みんなが懸命に動いてくれているわ。

  モエギシュウメだって、ここには来てないでしょ。 あなたの代わりに動いてくれているのよ。 親友のあなたを心配して、ここに来るよりも、そっちを選んでいるのよ。 他のみんなも同様よ。

  だから、今はあなたは、そんなみんなの為にも、まずは傷を治すことを第一に考えないといけない。 傷だらけの身体では、何もできないわ」


 ラーリン様の完全な正論に、ウスベニメさんは自分の荒ぶる心を何とか鎮めたようだ。

 少し深呼吸をしているような様子を見せた後、ウスベニメさんは言った。


 「ラーリン様、お母さん、私はもう全然大丈夫だから。 ここで傷が早く治るように静かにしています。

  私はこんな調子ですから今は動けませんが、2人は色々と出来ることがあると思います。 どうなっているとしても、今はより多くの人の力が必要になると思います。 2人もそちらを優先してください。

  アーブ、私の代わりに2人を見送ってきて」


 さっきの荒ぶっていた姿と違って、ウスベニメさんは凛とした調子で、そう言った。 私は今度は気圧されてしまった。

 ラーリン様とお母さんも、このウスベニメさんの言葉には何も言えず、心配しながら病院を去って行った。 送りに出た私に、特にウスベニメさんのお母さんは私に、ウスベニメさんのことを頼まれた。


 私が一応、2人を送り出してきたことを報告に戻ると、部屋の扉をノックした瞬間から何か異変を感じた。 何か部屋の中で慌てているような気配がした。

 私は悪い想像が頭の中で駆け巡った。 さっきの異常に興奮したウスベニメさんの姿を思い出し、冷静になって凛とした姿は演技で、私たちを騙して、何かとんでもない事をしでかそうとしているのでは。


 私は焦ってしまい、少し乱暴に急いで扉を開けて、部屋の中へと入って行った。

 杞憂だった。 ウスベニメさんは、さっきは痛いはずなのに立ち上がって歩いたり、ベッドに腰かけたりしていたのだけど、今はちゃんとベッドに横になっていた。

 私は安心したけど、それよりも変な想像をして、慌てて乱暴に部屋に入ってしまったことが恥ずかしくなった。


 「すみません。 なんか乱暴に部屋に入ってきて」

 「ううん、大丈夫」


 ウスベニメさんは、私の方を見ないで、反対側の方に体を向けて横たわっているのだけど、あれっ、やっぱりなんか様子が変な気がする。

 うーん、どうしようかなと思ったけど、やっぱり少し気になってしまって、部屋を出て行くことが出来ない。

 私が出て行かずに、ただ静かにウスベニメさんの横たわる姿を見ていると、だんだんウスベニメさんの背中が震えて、そして嗚咽が聞こえてきた。


 「ごめんなさい。 駄目よ、早く出て行ってくれなくちゃ。 我慢していたのだけど、我慢しきれなくなっちゃったじゃない」


 ウスベニメさんは泣いていた。


 「ミーリン様も、ミーレン様も心配なの。 でも、やっぱり、それ以上にキースが心配なの。

  でもそれだけじゃなくて、今の私は、キースが恋しくて恋しくて、切なくて切なくて、心が張り裂けそうで、心臓がドキドキして、どうにも落ち着いていられないの。

  分かっているの。 キースもミーリン様もミーレン様も、もうきっとこの世にはいない。

  私を逃すために最後まで死力を尽くして戦ってくれたんだと思う。

  その悲しさも、もちろん凄く大きいの。 でも、このキースが恋しくて切なくて、ソワソワしてしまうのも抑えられないの。

  そんな自分を感じると、違う悲しみというか、自己嫌悪も出てきて、涙が止まらないの」


 あ、私には思い当たることがある。 ウスベニメさんはハーピーだから知らないんだ。 モエギシュウメさんなら知っていそうだけど。

 私はウスベニメさんに、私の知っていることを教えてあげた。


 「ラミアの毒は、スクナピオンさんが言うように副作用がない訳じゃないんです。

  ラミアの毒は、眠らすというか意識を失くさせることが出来るだけじゃなくて、人間の男性に対しては強力な催淫剤にもなるんです。 以前はその為に使うことが多かったとも聞いたことがあります。

  もしかすると、ハーピーにもその作用が出るのかも知れません」


 「スクナピオンさんが何を言ったかは知らないけど、そんな作用があるの?

  人間の男にだけ効果が出るという訳ではないの?」


 「あ、スクナピオンさんの言葉は、ウスベニメさんのお母さんに言ったことでした。

  効果の対象はどうなんでしょうか。 人間の男性にその作用があるのは周知の事実ですけど、他はラミアに対して使うのしか、私は見たことがありませんから。

  そういえば、ラミアに対しても意識を失わせる効果があるのは分かっていますけど、催淫効果はどうなんでしょう? そこははっきりしてないです」


 「なんではっきりしてないの?」


 「えーと、私の知っている事例では、ラミアに使った時は、アレクさんや他のお兄さんたちが看護にも当たりましたから、回復のエネルギーは与えていたようですから、効果があったとしても、その欲求は満たされてしまっていたと思います」


 「ええ、何それ。

  つまり、アーブの見解としては、今の私の精神状態は、意識を失わせるために使われたラミアの毒の副作用の影響もあるということなのね」


 「はい、そういう可能性がきっと高いと思います」


 「そうなの。 ちょっとだけ安心した気もするわ。

  でもね、アーブ、私がキースのことが恋しくて恋しくて、切なくて切ないことは、私の本当の本当の気持ちでもあるのよ」


 そう言ってウスベニメさんは、また涙をハラハラと見開いた瞳からこぼした。

 私はそれを見たら、私も何だか胸がいっぱいになって、詰まってしまった感じになって、何も言えず、扉から部屋の外に出た。

 見ていられないし、見せたくもないのだろうとも思った。


 そんな風に思って、ウスベニメさんの病室を出た私なのだけど、自分の仮眠室に戻って、少し時間が経つと・・・。


 ラミアの毒は、実際問題としてラミア自身にも催淫効果の副作用があるのだろうか。

 怪我の治療を、特に大きな怪我を治療する時には、ラミアの毒で意識を失わせることはとても有効なのだが、副作用の問題には対処しなければならないだろうか。

 対処する必要があるなら、どんな対処の方法があるだろうか。


 そんなことを真剣に考えている自分に気がついた。


「気がつけばラミアに(なろう改訂版)」の投稿を始めました。


基本的にはミッドナイトに掲載しているR18版と同じですが、全年齢対象に書き直しています。 ただ、ストーリー的にどうしてもいくらかの残酷シーンが必要なのでR15の制限はかかってしまいます。

一話一話はタイトルは同じ、内容も意味するところはほぼ同じですが、簡単な訂正だけの話もあれば、ほぼ全面的に書き換えた話もあります。

もう一度、最初からストーリーを追ってみても良いなと思われるか、R18版との違いも見てみたいなと思われましたら、ぜひ(なろう版)の方も軽く斜め読みでもしていただければ嬉しいです。


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