母に会いにきました
久しぶりに登場しますエマさんです。
エマさんは難しいです。
半年に1回会っている母に会いに来た。
体当たり女たちのことをフィー姉様に相談するのは嫌だな、でも誰か大人に相談したいなと思い、母が浮かんだ。
城下でも平民が多く暮らす区画へやって来た。
華やかさはないが王都とは思えない穏やかでどこか活気の満ちた区画だ。
「お久しぶり、母さん」
母が出て行ってから母の呼び方を変えた。
母様なんて呼んでしまっては目立つ。
「サラ」
相変わらず、美しいとは思う。
金髪に薄茶の瞳は平民には多いが母は特に美しい。
まあ、兄様たちの前では霞むが。
「いきなりごめん。時間ある?なければまあ別の日に来るけど」
今の母に伯爵夫人だった頃の面影はない。
「大丈夫よ。先に私の家に行ってて」
そう言って私に家の鍵を渡す。
母は父と離縁するとき何も貰おうとはしなかった。
しかしそれでは父の立つ瀬がないとこの区画に一軒家を建ててもらった。
「わかった、待ってる」
鍵を握りしめ、母の家へと向かう。
母の家についてしばらくすると母も帰って来た。
「ただいま」
「おかえり」
決して仲が良いとは言えない私と母だが、悪くもない。
母がイスに座ると私は持ってきたお菓子とお茶を出す。
「サラ、何があったの?」
簡潔に聞いてくる。
基本的に母は人の話を聞くのが苦手だ。
私は学校で出会った体当たり女のことを母に話す。
最初は眉をひそめて聞いていた母は話が進むにつれて愉快そうに笑い始める。
「ハハッ、私もだいぶ愚かだったと思うけど彼女も大概ね」
自虐的な母の本心だろう。
母は父と離縁した後、他の貴族の後妻の座を狙い色々な貴族を誘惑していた。
そんなことをしているから、実家のあった郊外の町では腫れ物扱いされ、最終的には母方の祖父母は母を残してその町から姿を消した。
それでも母は貴族の誘惑をやめなかった。
この頃には既婚、未婚見境なかった。
それはいつしか国王陛下の耳にも入り、母は社交界を追放された。
追放された母は生まれ育った町にも帰れないため、渋々父から貰ったこの家に住むことにしたらしい。
王都にあるため母の他にも元愛人とか現愛人がいるらしい。
「サラ、夢の中で生きるのってとっても幸せなのよ」
自虐的な笑みを浮かべたまま語りだす母。
「生まれた時から美しいとみんなに言われて、お姫様にだって負けていないと言われる。誰も本物のお姫様なんて見たことないくせに。自分は美しく、誰よりも愛されている。私が主役の物語がこんな田舎町で終わるはずがないって」
当時のことを思い出しているのだろうか。
こちらを見ているはずの母と目が合っていないように思う。
「親の反対を押し切って王都に出てきたときはあぁここから私の物語が始まるって本気で思っていたわ。ユリウス様に会ったときはこれで私はお姫様になれるって。
でも、結果は今見ての通りよ。あんなに憧れていた社交界は魔の巣窟で、お姫様は私の何倍も美しい。私の王子様だと思っていたユリウス様には奥方様がいて、子どももいることを知ったときには貴方が1歳になっていたわ。
ユリウス様は愛していると言ってくるれるのに、貴方を育てなくちゃいけないと思うと段々と心が荒んできたわ。結婚した時でさえ私はまだお姫様になる夢を捨てられていなかった。
ユリウス様の愛が離れていくのを感じながら私がしていたのは自分磨きで、他の子たちにもサラにでさえ微塵を興味がなかった。
離縁しても私の王子様は他にいるはずと迎えにきてくれた両親でさえ振り払い、お金を浪費して社交界に居続けた。
行き着く先が望んでいた未来ではないと気付かずに。
我に帰ったときには全てが遅すぎた。
ただ人より少し器量の良い町娘が夢を見続けた結果が今の私。
町娘なら身につけていてもおかしくないものは何も身につけておらず、満足に働くとかさえできない。
要らないと捨ててきたはずの娘にお世話になっているわ。
娘しか頼れる人はいない。
巷で流行っている優しくて正義感の強い平民や教養のない貧乏令嬢が王子様に見初められる話を見るたびに思うは、どんなに本物より価値があろうと所詮偽物は偽物なのだと。
どこかで必ずボロがでる。
そしてまともな王子様はそんな偽物を選びはしないと。
その体当たり女だっけ?
彼女はきっと夢の中にいるのね。
自分よりも上がいることを知らず、自分の価値を見誤ったままで」
ここで母は私が持ってきたお菓子に手を伸ばす。
「もしも、知っていたら見誤っていなかったら、今もまだ夢の中に入れたと思う?」
「無理でしょうね。夢には終わりがある、だから夢の中が幸せだと思えるのよ。
その体当たり女に言ってあげなさい。
生まれは才能だと。
どんなに美しかろうと、どんなに努力しようと生まれは変えられない。
王子様の隣に立つには生まれという才能が必要不可欠なのよって」
伯爵夫人だった頃にそれなりに努力した結果だろう。
母のお茶を飲む仕草はマリエ様には及ばないが美しくはある。
「そうですか……」
母が何を思っていたのか今まで気にしたことはなかった。
だから、今日聞いた話は全て初めて聞くものだった。
「その点サラには悪いことをしたと思うわ」
まだ続きがあるらしい。
「?」
意味が分からず首をかしげる。
「ごめんね、母さん平民で」
心底申し訳なさそうな言う母を見て失礼だが、そんなことかと思ってしまった。
「気にしないで。母さんが平民であろうがなかろうが、私はマクレル伯爵家の二女サラ・マクレルだから」
確かに母の生まれで学園では悪い噂をたてられているが、それはあくまで私の問題だ。
「そっか」
納得したような、してないような声で言う母。
「そろそろ帰るわ」
私がそう言ってカップを洗いに立ち上がると
「カップそのままでいいわよ、私が洗うから」
と言う母。
「そう?ありがとう母さん」
母も立ち上がり、玄関まで見送ってくれる。
「またね、母さん」
「またね、サラ」
少しは母としての自覚が芽生えたのか、昔はしてくれなかった瞼へのキスを贈られる。
「ほどほどに頑張ってね」
「うん」
私は軽く手を振り立ち去る。
仲は良いとは言えない。
でもきっと悪くもないと私は思っている。
サラと母親は本当に仲がいいわけではありません。
瞼にキスを贈っていたとしてもです。
この行為自体は女性の知人や近所の方が赤ちゃんのときに健やかな成長を祈って行います。




