空に憧れる少女 NOVA
はじめまして、または読んでくださってありがとうございます。
地下で生まれた少女・NOVAが、
“まだ知らない世界”を一つずつ知っていく物語です。
今回は「風」。
扇風機の風しか知らないNOVAが、
初めて“見えないものの気配”に触れるお話です。
静かに読める短い章なので、
ひと息つくような気持ちで楽しんでいただけたら嬉しいです。
地下シェルターの静かな一室。 NOVAの部屋には、古びた扇風機がひとつ置かれている。 金属の羽根がゆっくりと回り、弱い風がNOVAの頬を撫でた。 NOVAはその前に座り、そっと手を伸ばす。 「……これが、風……?」 指先をすり抜けていく空気の流れ。 確かに触れているのに、掴めない。 その不思議さが胸の奥に小さなざわめきを生んだ。 「本物の風って……どんな手触りなんだろう」 地下で生まれ育ったNOVAは、自然の風を知らない。 扇風機の風とは違う、 教科書の中にしかない“本物の風”。 空も、雨も、風も―― それらはすべて、彼女にとって遠い世界の話だった。 答えを知りたくなったNOVAは、 いつものように整備工房へ向かった。 機械の音が響く工房で、おじさんは振り返る。 「NOVA、どうした? なんかあったのか?」 NOVAは少し恥ずかしそうに、胸の前で手を組んだ。 「ねえ、おじさん…… 風って、どんな手触りなの?」 おじさんは少しだけ目を細め、考えるように天井を見上げた。 そして机の上から、白い羽を一枚つまみ上げる。 「風はな……見えないけど、触れるんだ」 羽を指先に乗せ、おじさんはそっと息を吹きかけた。 ふわり――。 羽は空中を漂い、ゆっくりとNOVAの方へ流れていく。 その動きは、まるで目に見えない手が羽を運んでいるようだった。 羽がNOVAの頬の近くを通り過ぎた瞬間、 ほんのわずかな空気の揺れが肌に触れた。 NOVAは胸に手を当て、驚いたように目を見開く。 「見えないのに…… そこにいるんだ」 おじさんは静かに微笑んだ。 「本物の風は……もっと自由なんだ」 NOVAはそっと目を閉じ、 羽が運んできた“風の気配”を胸の奥に刻み込む。 「いつか…… 本物の風を、感じてみたい」 その願いを聞いたおじさんは、何も言わずにNOVAの横顔を見守った。 やがて羽は床へ落ち、 扇風機の弱い風に揺られながら、 しばらくNOVAの足元で静かに揺れ続けていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
NOVAにとって“風”は、
まだ教科書と機械の中にしかない存在です。
それでも、
羽が揺れたあの一瞬――
彼女は確かに「見えないものの気配」に触れました。
次の物語では、
NOVAがまたひとつ、
“外の世界”に近づきます。
よろしければ、続きも見守っていただけたら嬉しいです。




