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NOVAは未来を見る  作者: nova_miru


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14/16

第14話 おはよう。

こんにちは、白坂蒼李です。


前回、NOVAは「抱きしめる」という行為が、言葉では伝えきれない願いを届けるものだと知りました。


そして今回は、その一歩手前にある「挨拶」を学びます。


「おはよう。」


たった五文字の言葉。


けれど、NOVAにとっては人生で一番勇気が必要な言葉でした。


少女が初めて、自分から人へ歩み寄る小さな物語です。


どうぞ最後まで読んでいただけると嬉しいです。

シーン1:仮想学校「挨拶」


「――『挨拶』とは、他者との間に引かれた見えない境界線を越え、人との繋がりを作るための、最も基本的かつ重要な第一歩です」


仮想学校の教室に、教師AIの落ち着いた声が響く。


真っ白なホログラム画面に、大きく三つの言葉が浮かび上がった。


【おはよう】


【こんにちは】


【ありがとう】


「たった一言の短い言葉であっても、それを交わすことで互いの存在を認め合い、心理的な距離を縮めることができます」


NOVAは電子ノートへ、その三つの言葉を一つひとつ丁寧に書き写していく。


ペンを止め、画面に映る文字を見つめながら、小さく唇だけを動かした。


(この言葉で……人と繋がれるのかな)


友達の作り方は、まだ分からない。


でも、その手前にある「扉の叩き方」なら、今日の授業で教わった。


NOVAの胸の中で、小さな好奇心が静かに芽吹き始めていた。


シーン2:廊下


授業が終わり、現実の白い廊下へ戻る。


今日も少し先では、茶髪のポニーテールと黒髪眼鏡の少女のホログラムが楽しそうに談笑していた。


「あはは、本当に? それ面白い!」


二人の笑い声が、無機質なシェルターの廊下へ優しく響く。


NOVAは少し離れた場所で足を止め、その光景を静かに見つめた。


いつもなら、ただ見つめるだけだった。


けれど今日は違う。


昨日、おじさんが教えてくれた言葉が胸の中に残っている。


『毎日話して。毎日笑って……そうして、気付いたら隣にいる。そういうもんだ』


『だから、焦らなくていい』


NOVAはゆっくりと息を吸い、静かに吐き出した。


胸の鼓動が少しずつ落ち着いていく。


「……よし」


誰にも聞こえないほど小さな声で、自分に言い聞かせる。


そして、一歩踏み出した。


シーン3:初めての挨拶


一歩。


また一歩。


NOVAは二人の前まで歩いていく。


気配に気づいた二人が、不思議そうに振り返った。


第11話の、あの気まずい沈黙が一瞬だけ脳裏をよぎる。


胸が高鳴る。


拳を小さく握りしめ、勇気を振り絞る。


「――おはよう」


静かだけれど、真っ直ぐな声だった。


二人は一瞬だけ目を丸くする。


けれど次の瞬間。


ふわりと笑顔になった。


「おはよう!」


茶髪の少女が明るく手を振る。


「おはよう」


黒髪の少女も優しく微笑んだ。


返事が返ってきた。


ただ、それだけのこと。


それなのに、NOVAの胸の奥がじんわりと温かくなる。


思わず、小さく息を吐いた。


言葉が届いた。


拒絶されなかった。


その事実が、何よりも嬉しかった。


シーン4:初めての会話


「おはよう」のあと、小さな沈黙が流れる。


けれど、それは昨日までのような気まずい沈黙ではない。


心地よい静けさだった。


先に口を開いたのは、茶髪の少女だった。


「ねえ、今日の授業、私にはちょっと難しかったな」


困ったように笑う。


黒髪の少女も眼鏡を軽く押し上げながら頷いた。


「挨拶の歴史とか、意外と覚えることが多かったよね」


NOVAは少し考え、小さく頷く。


「……そうだよね。難しい、と思う」


「でしょ?」


茶髪の少女が嬉しそうに笑った。


初めて、自然な会話が生まれた。


NOVAの胸の中で、小さな歓声が上がる。


友達には、まだなっていない。


でも。


昨日までの自分より。


ほんの少しだけ前へ進めた。


そう感じていた。


シーン5:工房


夕方。


工房へ向かうNOVAの足取りは、いつもより軽かった。


廊下を歩きながら、小さく鼻歌まで口ずさんでしまう。


重い扉を開ける。


いつものオイルの匂い。


いつものヴォルクの背中。


「今日は機嫌がいいな、NOVA」


振り返らずに、ヴォルクが言う。


足音だけで、全てを察していた。


「おじさん!」


NOVAは嬉しそうに駆け寄る。


「今日ね。」


「学校のあの子たちに……。」


「『おはよう』って言えたよ!」


ヴォルクの手が止まる。


ゆっくりと振り返り、鉄の仮面の奥の目が少しだけ優しく細くなった。


「そうか」


短い返事。


けれど、その一言には温かさがあった。


「良かったな、NOVA。」


少しだけ間を置いて続ける。


「……それでいい」


焦らなくていい。


その一歩を積み重ねればいい。


おじさんの不器用な言葉が、NOVAの背中をそっと押してくれた。


シーン6:ラスト


自室へ戻ったNOVAは、ベッドへ静かに横になった。


今日一日を思い返す。


初めて返ってきた「おはよう」。


初めて続いた会話。


そして、おじさんの


「それでいい」


という言葉。


「まだ……友達じゃない」


天井を見つめながら、小さく呟く。


少しだけ間を置き、口元に優しい笑みが浮かんだ。


「でも……。」


「一歩ずつ。」


「進んでる。」


枕へゆっくり頭を預ける。


胸の奥に灯った小さな希望は。


昨日より。


少しだけ。


明るくなっていた。


静かな安心感に包まれながら、NOVAはゆっくりと眠りにつく。


第15話へ続く


翌朝。


いつもの白い廊下。


前を歩いていた茶髪の少女が、ふと振り返った。


NOVAに気づくと、大きく手を振る。


「――あ、NOVA! おはよう!」


NOVAは思わず立ち止まり、目を見開く。


初めて。


自分の名前を呼ばれた。


胸の奥の温かさが、昨日よりもさらに大きく広がっていく。


その小さな奇跡を、大切に抱きしめるように――。


(第15話へ続く)

第14話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回のテーマは「挨拶」。


普段なら何気なく交わしている「おはよう」ですが、地下シェルターで育ち、人との関わりをほとんど知らずに生きてきたNOVAにとっては、とても大きな挑戦でした。


返ってきた「おはよう」。


それだけで世界は少しだけ広がります。


まだ友達ではありません。


それでも、昨日までの自分より一歩前へ進めた。


私は、その小さな積み重ねこそ、人が成長していく姿なのだと思っています。


次回、第15話では、NOVAは初めて「名前」を呼ばれます。


少しずつ近づいていく心の距離を、これからも温かく見守っていただけたら嬉しいです。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

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