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最適解

 静かな時が流れる相模原の平地を、轟音と砂埃を立てて突っ込んでくる黒い群れが見えた。群れは圧倒的な数と質量の暴力で襲い掛かってきたのだ。


 「相模原ポイントAに入りました!」


 モニターを確認する青年がそう叫ぶと、禿頭の大柄な男が叫んだ。


 「作戦開始! クラスター爆弾を使え!」

 「了解」


 すると突然ドローンカメラが揺れ始めた。攻撃が始まったのだ。

 空を埋め尽くす無数の弾が次々と炸裂し、蟲の群れを蹴散らしていく。が、数が多すぎる為に止めきれない。


 「第一作戦終了! C-4爆弾を起爆します!」


 と、言い終わるのと同時に地面が噴き上がった。地中に埋められた爆弾が一斉に爆発したのだ。砂を巻き上げ瓦礫さえも吹き飛ばす威力だったが、蟲の外層が硬いのかあまり効果が無い。


 「チッ……全戦力を入れろ! もう時間が無ぇんだ、なんとしてでも止めるぞ!」

 「了解、障壁起動させます」


 そう言った時、突然モニターがエラー表示した。ドローンカメラからの応答が無い。


 「どうした」

 「強度のパルス攻撃です! ドローンカメラが機能停止しました……! それに誘導弾は目標を捕捉しません!」

 「シールドを超えただと? 核も使わずしてか!?」


 禿頭の男はデスクを叩いた。第二基地はトーキョー都市部から三〇キロほど離れているが、ここは相模原だ。基地から蟲の群れまでの距離も無ければトーキョーまでの距離も無い。


 「ネクストワールド社と八巻蟲研究所に援護要請を入れろ。今は人命優先だ」


 しかし、と反論の声を上げる前に、ここまで静かだった男が動いた。

 男は腰まで垂れる濃緑の髪を結んだ姿で、禿頭の男を見た。


 「島田くん」

 「特殊戦闘員の派遣許可をお願いします」

 「な……命を無駄にする気か? また皆殺しにするのか?」

 「今回は雷電が待機しています。時間稼ぎにはなるかと」


 男は顎を掻いてから、


 「分かった。特殊戦闘員の出撃命令を出す。待機中の戦闘員に伝達! 作戦は失敗、これより一部人員を本拠地に帰還させる。向こうで指示を受けろ」


 島田は小さく一礼した。

 男は肩を叩いて、耳元で囁いた。


 「失敗するなよ」


 島田は薄く笑みを浮かべた。










 『これより特殊戦闘員の指揮権は私、島田幸先が受け持つ。作戦は先ほど指示した通りだ。無事の帰還を祈る』


 無線はブツっと切れた。そして真っ暗だったCr-2の車内灯がゆっくりと光り、操作パネルが光った。モーターが静かに音を立て、エネルギーを注入するためのコードが全て外されていく。


 「なぁ、今回の作戦」


 空は助手席で安全ベルトを締めながら操縦席に座る颯太に話しかけた。


 「雲切雷電単独突入ってマジでやるのかな」

 「島田さんの言うことでしょ。何か案があるんじゃない? じゃないと流石の雷電さんも……」

 「そうだよなぁ……」


 悩み続ける空を横目に、颯太は安全装置を外してCr-2を起動した。


 「行こう」

 「よっしゃ」









 Cr-2が静かな音で駆動する。向かうは黒煙の立ちのぼる蟲の群れの中。この時のために特殊戦闘員は存在すると言っても過言ではない。

 そしてこの男たちも、その一人だ。

 Cr-2を操縦するのは【crow】と呼ばれる特殊戦闘員部隊の隊長を務める橋宮海斗だ。助手席には入念に手荷物を確認する雲切雷電の姿もある。


 「雷電、本当にやるのか?」


 その橋宮の問いかけに、雷電は手を止めた。


 「橋宮さんには迷惑かけませんよ。それに、最適解を知ってるのは俺だけです」

 「けど、ヤシマの戦力でも無理だったんだぜ?」

 「……ヤシマはまだ戦力を保有しています。何故か使いませんけど」


 そう言って、雷電は再び手を動かし始める。

 橋宮が横目で見ると、丁度注射器を何本かポーチに詰めているところだった。


 「やっぱり、今回も使うのか、細胞活性剤」


 細胞活性剤とは、身体中の損傷した細胞の修復を促進させる薬物で、主に戦闘で痛めた筋肉などに少量投与することで高速回復が可能になる。が、彼はそれを大量に摂取する。それによって、戦闘中でも細胞を修復し続け、長時間の戦闘を可能にするのだが、使い過ぎると自我を失う上に、身体が崩壊する。そんな危険な薬物なのだ。


 「使わなきゃ全員死にますよ」

 「お前一人が無茶しなくても」

 「さっきも言いましたよ。最適解は俺しか知らねぇんです」

 「あ、あぁ……」


 橋宮は視線を前に戻した。

 彼の強さは分かっている。到底辿り着くことの出来ない人間離れした、破壊することに特化した強さ。

 それゆえ、甘く見ているところもあるのではないかと心配になるのだ。


 「橋宮さん、着きますよ」

 「あぁ、行ってこい」

 「了解。背中、任せます」

 「安心しろ」


 そんな短い会話をすると、雷電はまだ走行中のCr-2のドアを蹴破って、飛び出していった。


 「おい! 雷電!」


 橋宮は片手で操縦しつつ、空いた手で島田に無線を繋いだ。


 「俺だ、橋宮だ」

 『――かいとくん、どうしたの』

 「雷電が飛び出していった」

 『……分かったわ』


 ブツリと無線が切られ、そのすぐ後に全員に向けて無線がかけられた。


 『戦隊及び隊員各位、作戦変更。所定の位置で迎撃用意。戦線を下げないよう最低限の討伐をお願いする。また、【crow】に通達。雲切雷電を全力で援護しろ』

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