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激戦再び②

 今回の管制室は静かだった。電波妨害(ジャミング)により通信機器が切断されているからだ。隊員との切断は慣れているものの、ドローンカメラと無人機の切断は今までに無かった。それ故、初めは騒然とし、あらゆる手段を用いて再接続を試みたが結果は現在の通り、全く復旧しない。

 島田もその中の一人だ。初めは各隊員に連絡を繋げたりしていたが、その声も届く事は無かった。他の面々も同じく、諦めムードが漂っている。


 「そして島田ぁ、また雷電はおらんのかね」

 「……いつもの事ですよ」


 眉間にシワを寄せて詰め寄る禿頭(とくとう)の男が机を叩いた。


 「通信は切られるわ、雷電はおらんわ、全く【crow】はどうなっとるんじゃ!」

 「通信は私たちの責任じゃ無いですからねぇ……」


 島田は缶コーヒーを一口飲んで、画面を見つめた。どのモニターも作戦開始前の画面でフリーズしている。


 「次雷電が来なかったら奴は解任じゃな」

 「奴ってかいとくん?」

 「その呼び方は鳥肌が立つが、そうじゃの」


 そう言って男は去っていく。

 解任というのは冗談だろうと島田は思った。

 実際、橋宮を解雇するわけにはいかないのはヤシマ工業の上層部も理解しているはずだ。彼が雷電をこの世界に引き込んだ要因であり、雷電が唯一敬語を使う相手なのだ。彼が居なくなれば雷電もその後をついて行くのはおおよそ想定内だろう。

 と、そんな思考に(ふけ)っていると、前に座るオペレーターが叫んだ。


 「右翼前方の0001から0180までのドローンカメラ復旧しました!」


 島田はそれに素早く反応した。右翼前方は【crow】の作戦展開地点では無いが、早く状況確認をしておきたかったのだ。

 荒い画像から徐々に画質が綺麗になり、画面が動き出した。島田のデスクには四つのモニターがあり、全てを使ってドローン映像を出力した。

 そんな彼の目に映ったのは……


 「右翼半壊……? あり得ない。遠距離火砲を三十機待機させておいたはず……」


 モニターに映し出される映像には木っ端微塵となった建物や無人機の他に、遠距離砲や固定砲台、傷だらけの人の姿もあった。

 電波妨害が消えたという事は、右翼前方のコオロギは掃討されたはず。トノサマバッタだけでこの破壊力だと言うのか。


 「ちっ……まずいわね……」


 島田は左翼中堅のドローンカメラに接続を試みたが、エラーコードしか表示されない。

 何としても早く状況を伝え、サポートしなくては。

 島田は何度も何度も接続を試みた。すると、その希望が通じたのか、長いノイズの後に声が届いた。


 「ゆきか?」


 中性的な声が響いた。


 「ミッチー? そうよ、私よ」

 「良かった。私は後方に下がった。思ったより相手が手強くてな」

 「他のみんなは?」

 「空と颯太が『狩人』を引っ張って前衛に飛び込んだ」

 「まさか! 早く後退させないと……」


 興奮する島田と反対に冷静なミチルの声が響く。


 「ダメだ。交戦中らしい」

 「援護は」

 「出来ない。目標が動きすぎる上に流れ弾に当たりかねん」


 島田は大きく息をついた。いくら精鋭部隊を率いているからと、前衛に飛び込むのは死に急ぎの他ならない。だかここで死なせるわけにはいかないのだ。

 すると再びミチルの声が聞こえた。


 「大丈夫だ、ゆき。あいつらなら生きて帰ってくるさ。少し冷静になった方がいい。電波妨害が復旧した時に二人を、隊員を混乱させる気か?」


 その彼女の優しくも厳しい言葉に胸を突かれた。と同時に自分の愚かさに気がついた。このままパニックに叫べば誰も付いて来ないだろう。預けられた命を蔑ろにする指揮官など有り得ない。


 「ごめん、ミッチー。私とした事が」

 「大丈夫だ。アンタが思ってる以上に私たちは強いからね」

 「……あぁ、二人を頼むわ」

 「了解」


 ミチルは短く返事を返して通信を切っていった。

 そしてこれまで首が回っていなかったが、どうやらちらほらと復旧し始めているらしい。騒がしくなってきたのだ。

 島田は手元の缶コーヒーを一気に飲み干し、その缶を握り潰した。

 やらなければいけない事がある。やり遂げなければいけない事がある。

 そう心に言い聞かせて、モニターを操作し始めた。







 爆散した建物を避け、道路に転がるコンクリートの塊を飛び越え、目標の蟲を追いかけていた。


 「はぁ……はぁ……」

 「ソラ、無理しなくても」

 「うるせぇ! 絶対に、殺す」


 肩で息をするのは空だ。ここまでコオロギを探しつつ飛び回るトノサマを追い続けること二十分。ほぼ継続して全力疾走になる身体からは汗が吹き出し、徐々に速度が落ちていた。


 「ふーたぁ!」

 「任せて!」


 颯太は正面から向かってくるコオロギの頭を撃ち抜きつつ、左右を確認してトノサマの追撃を気にする。


 「まだいける?」

 「……余裕だ」


 そう言って空は歯を食いしばり、苦しい顔をする。

 戦線を押し上げ、中央から群れを二つに割って少量ずつを囲んで撃破する作戦なのだが、この空の体力が限界値を迎えていた。


 「無理は禁物だよ?」

 「分かってるっつの! いいよなお前は! 俺の指示で銃撃てば良いんだからよ!」

 「こんな高速で動いてて一撃で仕留めないといけないプレッシャー味わったことある?」


 その一言で空の足が止まった。


 「そんなの楽勝に決まってんだろ」


 そう言って無理矢理颯太を降ろし、自前の銃を持って正面のコオロギに単騎で飛び込んでいく。


 「ダメだよ!」


 颯太が止めようとするも、もはや手遅れ。


 「楽勝だぁ!」


 そう言って空は一回の跳躍でコオロギの頭の上を飛び越え、丁度頭上に来たところで銃を素早く構えて射撃。

 上手く立ち回れたものの、放たれた弾丸はコオロギの横を抜けて何も無い所に着弾した。


 「くそ!」


 横に着弾した音に反応したコオロギが空の方を向いて走り出した。

 脚は速くない。空は着地して素早く照準を合わせて迎撃する。が、表面の皮が重戦車のような堅さで小銃では全く歯が立たない。

 勢いの止まらないコオロギは大きく口を開けて空に突っ込んでいき……


 「ソラー!」


 しかしコオロギは横から放たれた弾丸にその硬い装甲を撃ち抜かれた。

 空の身体を食いちぎる寸前で息を失ったコオロギが撃沈する。


 「大丈夫? だからダメだって言ったのに」


 颯太は走って空に駆け寄った。

 撃ち切って弾の出ない銃を片手にぶら下げたまま俯く空は、


 「……ごめん」


 と一言謝った。

 大きな勘違いをしていた。颯太に出来て俺に出来ない筈はないと、どこかで颯太を見下していた。能力は無いくせに指示だけ飛ばし、美味しいところだけを持っていく卑怯な奴だと思っていた。

 けど違った。彼は到底追い付かない銃の技量を持ち合わせている。考えもしなかった蟲の表層の硬度。劣っているのは自分の方だった。

 しかし、颯太は首を傾げた。


 「そ、そんなに深刻な顔してどうしたの……」

 「……俺だった。ふーたの足を引っ張ってたのは、俺だった」


 そう言うと、颯太がしばしポカンとした顔をした後、笑顔を弾けさせた。


 「大丈夫だよ。いつも二人で二人の足を引っ張りあってたじゃん? でもいつも切り抜けられた。俺は相棒がソラで良かったって思ってる」


 そう言って空の背中を叩いた。

 ここに似合わぬ笑顔の彼が友人で、同期で、相棒で良かったと、心の底から思った。


 「ごめん。先に進もう」


 そう言って空はしゃがんだ。


 「でももう足が」


 颯太は空の足を見た。血管が浮き出て、筋肉が時々痙攣しているのだ。限界が来ている。


 「大丈夫。俺ならいける」


 そう言って空は二本の注射器を取り出した。


 「細胞活性剤!?」

 「雷電に貰った」

 「でも負担が」

 「大丈夫って、言っただろ?」


 空はその注射器で付属の容器から液体を吸い出し、空気を抜いてから足に直接突き刺して、中の液体を身体に流し込んだ。


 「あぁ、こういう感覚か」


 足を叩いて確認した。

 そして颯太の目を見て、


 「乗れよ、背中。走り抜けてやるよ」

 「……あぁ、援護は任せろ」


 二人は小さく拳を突き合わせ、その場を走り去った。それに続いて、静かに黙っていた狩人も動き出す。

 この小さなカラスのヒナの二人の背中を見つめながら。

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