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続・紫竜の花嫁 ~檸檬の章~  作者: 秋桜
第3章 熊族編
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谷底の熊

~別荘~


会議を終えて朱鳳たち3種族は帰っていき、龍陽は父と弟とともに別荘に母と妹を迎えに行った。



「芙蓉、ごめんな。お待たせ。」


「いいのよ。あなた、お疲れ様」


笑顔で返事した母に、父は唇を重ねてキスをしている。



人にとってキスは愛情表現らしい。

龍陽が子どもの頃から、母は龍陽の頬やおでこによくキスをしてくれた。

でも唇を重ねるキスは夫婦の間だけでするものらしい。


父と母は毎日何度もキスをしているので、龍陽たちには見慣れた光景だけど、龍陽は誰かにキスをしたいと思ったことはなかったのに。



なんで霊山であんなことをしてしまったのか、いまだに分からない。

柚子が怒らなくてよかったけど、龍陽は罪悪感でいっぱいだ。



柚子は大丈夫かな?

龍陽たちが霊山に閉じ込められていたのは数時間くらいと思っていたけど、実際には3日も経っていたらしい。


霊山から解放されて、霊山の麓で待っていた父と豊と合流し、父の馬車で龍陽は本家に帰ってきたけど、疲れで丸2日眠っていた。

龍陽でもこれほど疲れていたのだから、柚子はもっと寝込んだかもしれない。



気になるけど、あまり龍陽が柚子を気にかけすぎると、父に感づかれそうで嫌だ。




「龍陽?」


「え!?なに?母上?」


母に呼ばれて龍陽は我に返った。



「大丈夫?まだ疲れてるの?」


今回霊山に拐われたせいで、母にはまた随分と心配をかけてしまった。


「僕はもう大丈夫だよ。」


「そう?無理はしないでね。」


母はいつも優しい。

母に気にかけてもらっていると実感するたびに龍陽は幸せな気持ちになるのだ。



やっぱりまだしばらくは子どもで居たいな。

大人になって母と離れるのは寂しいのだ。




~紫竜本家~


夜、龍陽がお風呂から出ると、侍女のスミレがジュースを持ってきてくれた。



「どうぞ若様」


「ありがと、スミレ。

そうだ。明日から熊族に行くからついてきてね。」


「畏まりました。」


今日の会議で、手分けして神罰をうけた獣人たちを調べることになったのだ。



白鳥と鴨は朱鳳

狼とハイエナは黄虎

人族と熊は龍陽たち紫竜の担当だ。


龍陽はまた北都に行きたかったけど、父たちは龍陽と弟が霊山に近い北都に行くことを許さず、龍陽は熊の担当にされた。


明日から龍景とともに熊族領に出張だ。




「なあ、スミレ?」


「はい、若様?」


「新年会でさ、スミレも部屋の隅で主要取引先たちを見てたよね?」


「はい。」


「若い娘が何人か来てたけど、スミレが気に入った娘はいた?」


「・・・え!?気に入った、ですか?」


スミレは困った顔だ。



「うん、逆に嫌だなって娘でもいいよ。」


「・・・それなら居ます。」


スミレは遠慮がちに答えた。



「え!?誰?」


龍陽は気になる。



「人族の娘です。」


「なんで!?」



まさかの柚子?

スミレは唯一面識があるのに!?

まさか豊の屋敷で何かあった?



「若様になれなれしいです。あんな礼ぎ知らずはダメです。」



「・・・そっかあ。」


龍陽からしたら、龍陽のことを嫌わないどころか、親しく接してくれる柚子は魅力的なのに・・・侍女のスミレからしたら悪印象だったらしい。



「人族は僕の妻候補にはならないよ。」


「そうなのですか?」


スミレは驚いている。

使用人教育では教えてないらしい。



「うん。僕らの一族は母親と同じ種族とは結婚できないんだ。」


「どうしてですか?」


「え!?どうして・・・」



龍陽はそういうルールだと教わったので、理由までは知らない。



「そういうルールだからだよ。昔の一族会議で決まったんだって。」



龍陽はそれしか言えなかった。




~熊族領~

翌日、龍陽は龍景と熊族領の南東にある谷に来ていた。


この谷底で霊山の花の欠片を所持していた熊の商人が死んでいたらしい。

死体はもうないけど、一応、谷底も確認せよとの族長命令だ。



「この幅では馬車で降りるのは無理ですね。」


龍景の言うとおり、谷は下に行くほど幅が狭くなっている。



「僕らで降りようか。」


龍陽と龍景はスミレと龍景の執事に馬車の番をさせて、谷底に向かって飛び降りた。




~谷底~


谷底には細い小川が流れているけど、断崖絶壁に囲まれているせいで生き物の匂いはしない。



「若様、こちらです。この辺りに熊の死体がありました。」



龍景が指差して教えてくれたけど、


「龍景兄ちゃんが見つけたの?」


「いえ、見つけたのは解放軍です。しかし、やつらでは死体を回収できず、私が派遣されました。」


「なるほどね。霊山の神は花を返して欲しかったんじゃないのかな?

なんでこんな場所で熊を殺したんだろ?」


龍陽は疑問だ。



「いえ、死体を検死した熊の医師によれば、死後に谷底に落ちたようです。

熊の死因は餓死だそうです。」


「え?餓死!?なんで!?どこで!?」


「熊族の調査と、解放軍の話によれば、熊は他の熊商人たちとこの近くの町に泊まっていたそうですが、宿から行方不明になり、その6日後にこの谷の上、先ほど馬車を止めた辺りで熊の遺留品が見つかったそうです。

それから解放軍が熊の死体を見つけたのが、熊の失踪から13日目のこと。

しかし、熊医師によれば、おそらく熊は失踪から2日後には餓死していたようで・・・普通ではありえない死に方だと。」



龍景の報告にゾッとした。

神罰をうけて死んだ獣人たちは皆異常な死に方をしている。



「餓死した熊を谷底に落としたのは誰?」


「分かっていません。私でも死体に残った匂いは分かりませんでした。ただ、熊の死体は100キロ以上ありましたから、できる獣人は限られます。」


龍景の嗅覚でも無理なら、獣人たちも無理だろう。



「熊の家族に話を聞こうか。」


「はい、若様」


2人は馬車に戻り、2時間かけて熊の家に向かった。




~熊の家~


「若様、補佐官殿、ご足労頂き痛み入ります。」


熊の家前で待っていたのは、熊族長補佐官と解放軍のトモエだ。

 熊を追って発見したのは解放軍なので、父がトモエにも協力要請したのだ。



「さっそく家族に話をききたい。」


「はい。熊の妻、息子2人と、娘、妻の両親がここに住んでおります。」


熊の補佐官が答えた。



「妻の両親?死んだ熊の親兄弟はいないの?」


「はい。両親とも亡くなっており、兄弟はおりません。死んだ熊は入婿(いりむこ)でした。」


「イリムコって何?」


龍陽の知らない言葉だ。



「男が嫁入りすることです。妻の家で暮らし、妻の家業を継いでいました。」


「・・・へ~」


熊の説明は分かりやすいけど、龍陽は不思議で仕方ない。



「熊の家族が無事だったのはイリムコだったからとかある?」


龍陽は龍景に尋ねてみた。


「どうでしょう?夫婦であることにはかわりませんが・・・」


「確かにね。」



なんで熊の家族は神罰の対象にならなかったんだろう?



「紫竜の若様と補佐官殿がお越しだ。」


待っていたのは中年の雌熊、子ども熊3人と、年寄りの熊夫婦だ。



「死んだ熊はお前の夫で間違いないのだな?」


龍景の問いかけに中年熊は困った顔で頷いた。



「なんだ?自信がないのか?」


「い、いえ。所持品から夫で間違いないと・・・」


「は?顔をみて分からんのか?」


「おそれながら、夫の死体はかなり干からびておりまして、顔を見ても分かりませんでした。」


妻熊から悪意は出なかった。



「子どもたちはどうだ?親の顔でも分からんのか?」


「も、申し訳ありません。私どもも分かりませんでした。父とは5年は顔を合わせておらず・・・」


「5年!?なんで!?」


龍陽は驚いた。



「夫は行商人なので、遠くの町まで商品を売り歩くのが仕事なのです。子どもたちが幼い頃には1年に1度は帰ってきていましたが、もう大きくなったのでここ5年は戻ってきておりませんでした。」


熊は嘘をついてないけど、龍陽は信じられない。

自分の家に何年も戻らないなんてあるの!?



「それって熊では普通なの?」


「いえ、商人によります。夫は体力があるのでかなり遠方まで行っておりました。」



龍陽たちはあれこれきいてみたけど、参考になりそうな話は出てこなかった。



「う~ん、これからどうしよ?」


龍陽は馬車まで戻ってきて困った。

手がかりなんてなかった。



「・・・おい、トモエ?何か思い付かないか?」


龍景はトモエに尋ねている。

トモエはフードを被って熊補佐官の隣に立っていただけで、何も喋らなかった。



「・・・死んだ熊が身に付けていたペンダントはお持ちですか?」


「あ、ああ。花びらはないがな。」


龍景は懐から金のペンダントを取り出してトモエに渡した。



「このペンダントトップの隙間に花が?」


「ああ。ピンクの花びらが填まっていた。」



「熊の補佐官殿にお尋ねしてもいいですか?」


「なんだ?」


「このペンダントは女用に見えますか?男用に見えますか?」


「は?どう見ても女物だろう?」


熊は怪訝な顔で答えるけど、龍陽も同感だ。

トモエはなんでそんな当たり前のことを?



「では熊族では男の商人がピンクの装飾品をつけることはよくありますか?」


「・・・ピンクは若い女が好むな。男の商人なら、商売繁盛や安全祈願でつけるのは赤か黄色だ。」


「でも死んだ熊はピンクのペンダントを首から下げていたのですか?」


「ああ。俺が死体を見つけた時、熊の首にかかっていた。」


龍景が答えた。



「・・・そのペンダントは本当に熊の物だったのですかね?女から奪った可能性は?」



「え!?どういうこと?トモエ?」


龍陽は驚いて尋ねた。

 


「熊の死因はおそらく神罰で間違いないでしょう。わずか2日で大柄の熊の獣人が餓死するなんてありえない。でも、熊が白鳥からペンダントをもらったというのはまだ推測です。

白鳥からペンダントを譲り受けた首都の貴族や鴨は一族皆殺しにされたらしいですが、

熊が女からペンダントを奪ったのなら、家族は無事だったことと何か関係するかもしれません。」



「どういうことだ?あの熊は例の白鳥商家と取引があったぞ。だから解放軍も追っていたのだろう?」


龍景にもトモエの言いたいことが分からないようだ。



「はい。ですが取引があった全員がペンダントをもらっている訳ではありません。むしろ、白鳥が雄熊の商人にわざわざピンクのペンダントを渡すなんておかしいと思いませんか?」


「まあ、確かに違和感はあるが、妻や娘へのプレゼントとしてもらったのではないのか?」


「それなら熊が首につけていたのはおかしいのでは?」


「う・・・確かにな。だが、女から奪ったって、その女とは誰だ?」



「熊の補佐官殿?他にあの谷周辺で不審死した獣人は居ないのですか?」


「調べた限りおらん。熊族長の命令で、花が霊山から盗まれた時期まで遡って死者を調べたが、不審死はあの熊だけだった。」


「そうですか。」


トモエもお手上げのようだ。



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