第10話 楽器(下)
「ごめんな、みんなをがっかりさせちゃった。」
「そんなことないよ。夜限はもう十分頑張ったよ。」
鈴木蒼が慰めると、響合は悔しそうに言った。
「全部あいつらのせいだよ!毎回毎回俺たちを狙ってくるなんて!」
小林陽もただ言った。
「夜限、大丈夫だよ。少なくとも俺たちは史上最高の2 位を取ったし、キルポイントも十分だよ。」
「あとは結果発表を待つだけだ。」
小林陽が夜限の肩を叩くと、響合も夜限が落ち込んでいるのを見て言った。
「あらあ、夜限。決勝で一位じゃなくても別に大したことないよ。俺が聞くけど、楽しかったか?」
夜限はそれを聞いて、笑顔を浮かべた。
「楽しかった。」
「それでいいじゃん。ゲームは楽しむのが一番だよ。」
鈴木蒼はスマホの画面を見て、不安そうに言った。
「だけど俺たち、やっぱり1 位じゃないみたいだよ。ドラムはどうしよう?」
「蒼、どうして1 位じゃないってわかるの?」
小林陽が疑問そうに聞くと、鈴木蒼はスマホを挙げて言った。
「選手の誰かがフォーラムで試合結果と順位をまとめて、ポイントランキングを出してたんだ。俺たちは2 位で、1 位はDreamってチームだったよ。」
「え、そうなの!?」
小林陽は驚いて言った。
同時に心の中で、鈴木蒼の不安をよく考えていた。
確かに、俺たちは1 位の賞金を取って楽器を買うためにここに来たんだ。
小林陽の考えはすぐに別の方に飛んでいった。
「そうだよ、1 位じゃなかったらドラムはどうしよう。このままだと廃部になっちゃうかもしれない。先生に頼んで、少し待ってもらえないかな?」
隣の響合はそれを聞くと、すぐさまスマホを取り出してゲームフォーラムを開き、怒りながら言った。
「なんでだよ!Dreamが1 位なんて、なんでだよ!」
「彼らは毎回順位ポイントが高かったんだよ。最低でも4 位だったし、何度も1 位の順位点を取ってたから。だけど本当に惜しいよ、Dreamとの総合ポイントはたった1 点差だったんだ。」
鈴木蒼の冷静な説明を聞いて、響合はスマホの試合情報を見た。
「それなら3 位の方がよかったよ!少なくともPolk Audio MONITOR XTシリーズのフルセットスピーカーがもらえるのに!」
響合はそう言った後、何かに気づいたように狂ったように叫んだ。
「あああああ!俺のドラム!俺の1 位!俺のロック部!」
だがその時、笑い声が聞こえた。
「もういいよ、みんなありがとう。今回のゲーム大会は本当に楽しかった。」
「響合、ドラムのことは心配しないで。さっきのミスは、神様が俺を呼んだから気が散っちゃっただけだよ。もう遮断したから大丈夫。」
「それに気が散った瞬間、神の運命眼を開いて少し未来が見えたんだ。」
「ほんの一瞬だったけど、響合のドラムのことは全然心配いらないよ。今回の大会がちゃんと解決してくれるから。」
「それにたとえ今回の大会がすごく負けて、25 位になったとしても心配しなくていいよ。廃部なんて絶対にないから。」
三人はお互いを見合わせた。
夜限のこの発言を聞いて、響合と小林陽と鈴木蒼は肩を寄せ合って、順番に言い足した。
「この子、大会が終わってから。」
「中二病が発症したんだな。」
「俺たちのためにそう思ってくれるなんて、本当に優しいよね。」
そして三人は顔を上げて、夜限の方を向いて、感謝しながら頷いた。
その時、場内アナウンスが流れた。
「試合結果が出ました。各選手はホールにお集まりください。」
四人はお互いを見合わせて、それからホールの方へ歩いていった。
......
「2 位、ミステリー賞 ローランドTD-27KV2 フルセットドラム!」
!!!
三人はあっけにとられて、主催側が発表したいわゆるミステリー賞を見つめた。
夜限は隣で笑って言った。
「だから言っただろ、心配いらないって。」
響合はこの驚きのニュースを聞いて我に返り、疑問そうに言った。
「そういえば、このドラム俺が運ばなきゃいけないのかな?向こうが届けてくれるよね?」
「響合、お前まだそんなこと考えてるのか。」
鈴木蒼が呆れて言うと、小林陽が隣でツッコんだ。
「もしかしたら、響合がドラムを選んだ理由ってそれなんじゃないのか。」
「ダメなのか?一人でドラム運ぶなんて嫌だよ、重いし大変だし。」
鈴木蒼は響合の頭を手刀で叩いて言った。
「お前まだ不満なのかよ。この2 位のドラムの価値は、1 位の賞金と大して変わらないんだぞ。」
頭を撫でながら響合は、ステージの大型スクリーンに映るドラムの型番を見て言った。
「確かにそうだけど、このドラムって運送代いらないのかな?運賃かかるよね。」
夜限は笑って言った。
「響合、安心して。俺たちが手伝うから。」
主催側が全ての試合結果と順位、賞品の読み上げを終え、記念撮影が始まるのを見て、小林陽は提案した。
「主催側に受け取り方を聞きに行こうか。指定の場所まで運んでもらうとなると、やっぱり運賃がかかるだろうけど。」
みんなは頷いて、聞きに行くことに同意した。
その時、場内アナウンスが流れた。
「全出場選手とスタッフは、ステージ中央ホールにお集まりください。記念撮影を行います。」
倉庫の中は、一気にざわめきに包まれた。
そこで四人もその場所に向かい、全員が並び終わるのを待った。
夜限は主催側から渡された、2 位の賞品が書かれた大きなカードと、メダル4 個を受け取った。
四人は全出場選手の中のセンターに立ち、1 位、2 位、3 位の順に並んでいた。
「え、銀メダルかよ。金が欲しかったなあ!」
そう言いながらも、手に持った銀メダルを離さない響合の様子から、彼が十分満足しているのは明らかだった。
「安心しろ。いつか絶対金メダルを取れるから。」
夜限はメダルを首にかけながら、そう言った。
鈴木蒼も黙ってメダルを撫でながら、耳元に響く多くの選手たちのざわめきを聞いて、ぽつりと言った。
「ゲームって、本当に楽しいな。」
小林陽はこの9 試合の一つ一つを振り返り、黙って頷いた。
メダルを掲げ、目の前のカメラのライトを見つめながら、深く同意するように言った。
「うん。」
ステージの下のカメラマンが声を上げた。
「撮影を始めます。準備はいいですか?」
小林陽は隙を見て1 位のチームの方を見た。
三人がメダルを掲げているのに、一人だけいないのが、少し気になった。
だが、会場全体が「3、2、1」と声を揃えてカウントダウンする中で、そんな思いも、それぞれの選手の勝敗も、もうどうでもよくなった。
ここに集まった人たちは、賞金のためかもしれないし、名誉のためかもしれない。
ただ純粋に趣味のためかもしれない。
あるいは、夢のために?
この瞬間、誰もが心からの笑顔を浮かべていた。
試合には勝ち負けがあるけれど、ゲームは絶対に楽しさが一番だ。
それは誰もが認めることだった。
会場の全選手、全スタッフがカメラに向かって、一斉に叫んだ。
「チーズ!!!!!」
「パシャッ」
写真が、その輝く瞬間を永遠に切り取った。
「重すぎる、もう嫌だ、捨てちゃいたい。」
響合がドラムスタンドを引きずりながら言うと、鈴木蒼もシンバルを持って言った。
「誰がお前が節約したくて、主催側に届けてもらわなかったんだよ。」
小林陽もドラムモジュールを抱えながら後悔して言った。
「やっぱり、運送会社のクーポンがあるなんて言わなきゃよかった。」
「おかげで俺たちが運転手のところまで運ぶ羽目になったじゃないか。」
夜限もバスドラムを引きずりながら、笑って言った。
「あと100メートルで着くよ。みんな頑張って。」
そもそも電子ドラムは、一人ずつ少しずつ分担してもかなり重く、諦めたくなるのも無理はない。
「響合、このバカ野郎!」
「あらあ、蒼、怒るなよ。仕方ないだろ、小遣いがないんだから。運び終わったらマクドナルドおごるよ。」
「それならお金あるじゃん。」
「マクドナルドか。じゃあチキンがいいな。」
運ぶのは大変だけど、四人はずっと笑いながらおしゃべりしていた。
......
一方その頃。
「ありがとうな。この優勝賞金、受け取ってくれよ。俺たち三人は夢を叶えられたんだ。ようやく一度、大会で優勝できたからな。」
「そうか。」
揃いのユニフォームを着た三人は、皆笑顔で言った。
「それじゃあ、また会おう。」
「ありがとな、汐見。」
「じゃあな。」
「うん、またな。」
三人の着ていたユニフォームの胸元には「Dream」とプリントされたロゴがあしらわれており、その姿は視界の彼方、地平線へと次第に溶け込んでいった。
うつむく。
スポーツウェア姿の汐見夢翔は、手に提げた袋に視線を落とした。
中に入っているのは、先ほど三人から手渡された品々だった。
キーボード、マウス、ヘッドホン。
しかも特注品で、どのアイテムの隅にも、同じ文字が刻まれていた。
「Dream」と。
その時、周囲からざわめきが聞こえてきた。
しばらくして、汐見夢翔は顔を上げ、夕日に染まる遠くの方で、二位になったチームの連中が楽しそうに笑い合っている姿を眺めた。
それから再び視線を手元に戻し、四十万円分の商品券を見つめながら、小声でぶつぶつと独り言を漏らした。
「音楽関連の商品券か......」
「もしかして、ギターでも買ってみようかな?」




