第百六十三話 画家ノ狂気 中編
『別に君に憲兵隊のスパイをして欲しいという訳じゃないよ、単に君の能力を鑑みた結果、憲兵隊に就職するのが最も適していると判断したまでだ。個人的には得意な事よりも好きな事に従事させたい気もあるが、今までの放蕩のツケだと思ってくれ』
そう言われてステイギアは憲兵隊へとコネ入隊と相成った。
「三日間の内に【風車】を盗むか・・・館長、コレ本物?何か雑なんだが?いつもの仮名も無いし」
「ど・・・どうでしょ〜、鍵の掛かってた館長室の机に置かれていた物ですから多分本物では?」
クリスティーン館長としては折角ナイアールの宝がタダで手に入るチャンスなのだ、偽の予告状認定されて憲兵隊のやる気が削がれては困る。
「本物か偽物かはどうでもいい、今度こそナイアールの奴を捕まえればいいんだろ?なあ、姉貴、秘書官殿?」
そう興奮気味に語るのは皇帝の姉の一人、レムリア。
以前ナイアールに煮え湯を飲まされ今回リベンジにやって来たのである。
「しっかし放蕩娘がなぁ、ネメスの兄貴、甘過ぎじゃね?ん?」
ステイギアの頭を乱暴にワシャワシャと撫でる様は可愛い妹に対する愛情と放蕩娘に対する軽視が入り混じった何とも複雑な想いが込められていた。
しかし、その行為をステイギアの付き人クルアハが止めに入る。
「そこまでですレムリア殿下、ステイギア様に対する侮辱はこの私が許しません」
「ほう?誰が誰を許さないって?そう言えばチンピラ殺して周ってイキってた【帝都裏社会で最も成功率の高い暗殺者】とかいう微妙な肩書の女が貴様と同じ背格好のカラス鳥人だったな」
「皇族の方がそんなチンピラ殺しを態々お調べになるなんて暇なんですか?」
『ゴゴゴ』と効果音が聞こえそうな睨み合いだったがオーギュストが割って入った。
「お止め下さい殿下、クルアハ氏の戸籍に不審な点はありません、何より殿下の兄君ネメス総司令から直々の人事です。無用な争いは控えていただきたい」
「一番疑っているのは貴様だろうに、疑わしきは罰せずか?生真面目な事だ」
レムリアは興味を無くしソファーに腰掛けた。
オーギュストはクルアハに拳骨を落とす。
「いて」
「お前もだクルアハ、ステイギア殿下の付き人とはいえ今は憲兵隊の一員だ、他所の部隊に喧嘩を売るんじゃない」
「他所の部隊ね。了解しました少佐殿」
クリスティーン館長は一連のやり取りに不安を覚えつつもオーギュストに今後の方針を問う。
「それでオーギュスト殿、実際どうするおつもりで?」
「なに、こんな巫山戯た予告状を送って来たのだ、こっちも相応に馬鹿にしてやろうではないか」
オーギュスト以外の全員が頭に疑問符を浮かべるのだった。
〜1日目〜
「少佐、オーギュスト少佐、通常営業とはどういう事ですか!?」
「何か問題でも?入館料は取れた方が運営としても有り難いのでは?」
「やる気が無いのですか!?この場にあるのは一つとして欠けてはならない・・・」
まくし立てるクリスティーンをオーギュストは冷静に静止させる。
「・・・不公平ですな」
「何ですって?」
「ああ、独り言なので聞き流して下さい。兎も角、ナイアールに多人数で挑めば変装されて内部を引っ掻き回される、少数精鋭で挑めば人材集めと人件費に苦慮した挙句チームワークゼロ・・・考えたのだがいっそ人数なんて気にしない、気にするだけ無駄なのではないかとね」
「それがこの現状ですか」
ナイアールが来る事は珍しく互いに伏せられていた為、客入りは平日と変わり無い。
そこがオーギュストの気に食わない点でもある。
「大々的に喧伝して人を呼べば侵入も容易いものを・・・」
正直、何かのイベントでもない限り一般の民衆が頻繁に来る場所ではない、今日も美術品好きのマニアや金持ちがまばらに来館している。
普段と比べて警備員の多さにジロジロ見られるが気にはしない。
「グフフ、見てよタラッサたん。このティアラは女帝アリアの着けてたヤツだよ、きゃわいいタラッサたんがコレ着けてボクたんに奉仕してくれたら・・・グペペペ、考えただけで股座が、ゲヒヒ」
などと下品な発言が聞こえた方へと目をやればド派手な服を着たデブ人間が隼鳥人の美少女を連れて美術品の蘊蓄を垂れていた。
デブに尻を撫でられている美少女の瞳は虚ろで真っ当な関係では無い事は一目瞭然である。
「ふむ、ステイギア隊員ちょっとこっちに来てあの男の魔力を注視してくれ、対話はワシがやる」
ステイギアの能力については入隊時に何度か簡単に実験している。
ナイアールの魔力を覚えさせる為にも初日は見に徹する方が得策だろう、最もステイギアは竜二と合ってるので要らぬ作業なのだが。
「困りますなミスター、館内での猥褻行為は逮捕理由として十分ですぞ」
「にゃにゃにゃにおぅ、このボクたんをニトクリス商店の御曹司、超大金持ちのエドワードと知っての無礼か!」
「聞いたこと無いね、星の智慧社なら知っとるが?」
「ボクたんがあんな田舎企業の成金よりも下だと言うのか、何て失礼な警備員だクリスティーン館長の教育はどうなっている?」
「ふむ・・・(星の智慧社の名前を出して反応を見てみたものの嫌味な金持ちとしては完璧な反応か、そう言えばアイリーン王妃曰くナイアールは)」
オーギュストの口元が一瞬ニヤける。
「いや大変失礼いたしました。何分浅学非才の身の上でして、時にそちらは奥方様ですか?」
「ゲヒヒ、タラッサたんは借金で困ってたから優しい優しいボクたんが肩代わりしてあげたんだよ。ボクたんの愛でタラッサたんは平穏な日常を送っているんだ」
キモデブのエドワードが美少女タラッサの頬をベロベロと舐める光景に普通なら嫌悪感を抱くが、続いたオーギュストの言葉は意外なモノだった。
「ええ、とてもお似合いですよ。借金こさえた阿呆の娘なんぞ生まれの悪い底辺家庭の出身でしょう、良かったですね金持ちに買ってもらえて、金が目当てのアバズレには相応しい結果ではないですかな?」
「おいテメェ、俺の妻に何つった」
口調が変わったエドワードに『あちゃー』といった感じで目頭を押さえるタラッサたん。
「はい逮捕」
オーギュストは王国製の最新型手錠をエドワードいやナイアールに掛けた。
「そう興奮しなさんなナイアール、口調が崩れているぞ」
「んな!?」
その瞬間、今まで瞳のハイライトが無かったタラッサたんが瞳の輝きを取り戻しデブに変装しているナイアールを軽々と持ち上げた。
「ちょ!タラッサ?俺は君を侮辱したこの野郎に」
「ハイハイ、そんなのいいから逃げますよ。素直に負けを認めて大人しくして下さい」
「チクショー覚えてやがれ!!」
スタコラと逃げて行くが深追いはしない、こちらが客の中に憲兵隊を紛れ込ませている様に向こうも部下を忍ばせているのは明白だからだ。
ナイアールの部下はナイアール本人よりも高火力、下手に刺激してはいけない。
ステイギア達も駆け寄って来た。
「今のがナイアールの変装だったのですか?」
「そうだ、下品そうな見た目に反してやたらと美術品に対する正確な知識を持っていたからな、ヤツが創設した星の智慧社の話題で釣ってみたらあからさまに見下した発言をした。少し前なら兎も角、今や帝国中や周辺国に支店を構える星の智慧社を田舎企業扱いするのはわざとらし過ぎる」
「急に激高して馬脚を現したのは何故でしょう」
「以前王国のアイリーン王妃からヤツは相当の愛妻家であると聞いてね、本人には梨の礫でも奥方への侮辱はどうかと試してみたのだ。まあ、色んな意味で二度目は無いだろうがな」
カラカラ笑うオーギュストに興味本位でクリスティーン館長も疑問を呈す。
「あんな下品で目立つ姿でどうやって盗むつもりだったのでしょう、怪しさ全開では?」
「恐らくだが、ワシが気付かなければ隊員二・三人で詰所に連れて行った事だろう、そして詰所内を制圧後に隊員に変装して盗み出す魂胆だったと考えられる・・・そうじゃないかも知れないがね。さてステイギア隊員」
「はっ・・・はい」
「ヤツの魔力は覚えたな、明日からが本番だ。ほら、人が集まってきたぞ、立入禁止の準備をしないとな」
〜2日目〜
「ほれ、ニトクリス商店で買ってきたお菓子だ、色々あるから好きなの選べ」
「まさかニトクリス商店が老夫婦二人で経営してるお菓子屋さんだったとは」
「今度アジオ系のお店で修行したお孫さんが帰って来るらしくてな、店を譲るとかナントカ」
前日と違い美術館を閉鎖しての警備となる。
休館の表向きな理由は明日搬入する星の智慧社からの美術品を受け入れる準備だが、昨日ナイアールが出た事は既に噂になっており敷地周辺には野次馬が集まっている。
「今日はナイアールについておさらいしよう。まず一番にして最大の特徴は驚異的な変装能力、ぶっちゃけてな、コレさえあれば大抵の事は可能だろう、ヤツの資金力の根源だ」
正直、オーギュストが幾度か対面した感じでは変装のみならず人間力も相当であろうと考える。でなければあれ程の組織を維持出来ないだろう。
「次に体術、実のところヤツの力はそれほど強くはない、しかしヤツの恐ろしいところはこちらの急所を一瞬で正確に打ち抜く事だ。これには大した力は必要無い、ただタイミングを見計らって必要最低限の力を加えるだけで良い、と言葉にすれば簡単だが一体どれほどの修練を積めばその領域に辿り着けるのかは計り知れん」
ナイアールの奇術のいくつかも既にタネ自体は割れている。理屈は説明出来るが再現するには技術が追いつかないといったのが現状である。
「次に魔法だが、王国との交流でヤツには魔法に見える奇術は使えても魔法そのものは使えない・・・ないのだが王国のアイリーン妃より信じ難い情報をいただいた」
その、あまりの現実離れした情報にしばし言葉が詰まるが、それでも伝えなければならない。
「ヤツは・・・極星の魔法を盗み妖精へと変化させたという、そしてその出力は極星以上、更に妖精の属性で起こりうる自然現象は全て起こせるだろう。過去に交戦した極星は三人、土、風、水、つまり自在に地中に潜り空を飛び水の底の底まで潜伏出来る」
ザワザワと憲兵隊員が震え上がるがオーギュストが一喝。
「それを踏まえて!!だ。作戦を考えた 。レムリア殿下、頼めますかな?」
「ああ、構わない。それと今日は一人見学を連れてきた」
「?見学ですと?理解されておられるでしょうがあまり部外者を入れるのは・・・」
「まあそう言うな、入れ」
やって来たのは黒髪の青年剣士。
「弟のアルバートだ」
「むぅ、帝国軍剣術指南役アルバート殿下・・・(ステイギア隊員、本物か?)」
「(ええ、間違いなく兄上です)」
「本当に困りますな、偉い人を増やされると指揮系統がこんがらがりますぞ、いっそネメス総司令も追加しますかな?ここまで来ると総司令に来ていただいた方が有り難いのですがね」
カラカラと笑うレムリア。
「皇族は暇そうに見えるか?」
「いえ全く、むしろ何処から時間を捻り出しているのか知りたいくらいですな。兎も角、作戦を伝えます」
・・・
・・
・
「さて、ステイギア隊員、見えるかね?」
「地中にナイアールともう一つ見たことも無い様な巨大な魔力が」
「驚いた、そんな巨大な魔力に呑まれずナイアールの僅かな魔力を判別出来るのか」
「20m、15m、5、4、3、2、」
「今ですレムリア殿下!!」
『ザン』とレムリアは大剣を床に深々と突き立てた。
タイミングバッチリ、剣先がナイアールの前髪を掠め、流石のナイアールも血の気が引いた。
たまらず床を爆散させながらナイアールが飛び出す。
出た場所は。
「エントランスか、もうちょい行けると思ったんだけどな〜」
広いエントランスホールの周囲の柱に鉄線が囲む様に張られ所々に変な箱が設置されている。
何度も練習したのだろう隊員達が慣れた動作で箱に何やら石を入れ魔力を流した瞬間、鉄線に電流が走った。
この時、ナイアールの顔は冷や汗を流しながらもニヤけていたに違いない。
まさかこんな文字通り天文学的な距離の離れた星の彼方で電流デスマッチにお目にかかるとはナイアールも予想していなかった。
「これは我が社で研究していた雷の魔石か!」
「ほう、今の発言は現在も星の智慧社総帥であるとの自白か?」
「いや、偉大なる創設者にして栄光ある前代表としての意見だよ。でも高かったんじゃないの?」
「心配無用、試作品の実験という事で向こうの八割負担にしてもらったよ。さあレムリア殿下!頼みましたよ」
既にレムリアは床から大剣を引き抜き戦闘準備万全、鉄線の周囲には憲兵隊員とアルバート殿下、ふとナイアールの中に遊び心が芽生える。
『コツコツ』と高そうな靴でエントランスホールの床を鳴らし愛用の刀を構えるナイアール。
「俗に、自分の手持ちよりも長い武器と渡り合うには三倍の実力が必要とされる。剣道三倍段等と呼んでいるがね」
「貴様は私より三倍強いとでも言いたいのか?」
「いやいやそんな俺程度ではまだまだ・・・だけどどこまで出来るかは試してみたいよね?」
チラリとアルバートの方へ目配せするが、それも一瞬、ゆっくりと刀を仕舞いマントを翻す。
するとどうだ、ナイアールの姿はおっとりとしたタレ目の主婦の姿へと変じていた。
主婦、地球では松葉順子と呼ばれた竜二の知人の姿である。ナイアールは手に下げたバッグから大きなボクシンググローブを取り出し装着しながらレムリアに語る。
「武器はリーチが長い方が有利、当然の常識です。古くは槍の達人だったという猛将クロスも最強の武器は弓矢だと答えています。ですが極まった達人というのは面白いモノで、短ければ短い程強くなるなんてバカみたいな事を言うヤツも居るのですよ」
「まさか拳闘の方が強いとか抜かすか?」
その問いには答えずグローブを嵌め終わった瞬間、凍りつく様なプレッシャーが周囲を包み込んだ。
その衝撃にステイギア含めた気の弱い者数名がへたり込む。
「あらら失敗失敗、こんなヌルいプレッシャーを放ったんじゃあ本人に怒られちゃいます」
「おいおい、本物はコレ以上だってか?」
「ええ、残念ですが私だとこの程度という事ですね、でも・・・」
その見えない初撃を防いだのは直感だった。
大剣の刀身に痺れる程の衝撃が走る。
「どこまで出来るか試してみたいじゃねぇか、なあ!!」
「マ・ジ・か・よっ!!!」
それでも地球人より力の強いユグド人、強引にナイアールを押し返し剣を薙ぐが剣身にアッパーカットを当てられ強引に上方へと打ち上げられる。
「くぅっ!!」
バランスを崩し焦るレムリアに嗤う女の貌が映るが、しかし不利はナイアール。
本物ならば同じ事をしても拳に負担を掛ける様な愚は犯さなかったろうが、理の追いついていないナイアールには少々重かった。打つたびに負担がのしかかる。
勝つだけなら、勝つだけならレムリアが圧倒的に有利である。問答無用で広範囲風魔法を放てば良いが、ここは美術館である。魔法は制限せざる負えない。
「楽しいなぁ皇女殿下ぁ!!骨の軋む音、滴る血、やっぱ闘いはこうでなくっちゃ♪」
「むぅ!」
「ほらほらほら、ここまで懐に入られるとそんな大剣じゃ対応出来ないだろ?」
剣身を、鎧を殴り続けるナイアールとてもうボロボロだろうに笑みが止まらないのは度し難い変態にして変態、観戦していたアルバートが息を飲んだ瞬間、密着状態の有利を捨ててナイアールがバックステップ。
明らかに射程外から拳を振りかぶるテレフォンパンチの構え、しかし心臓を突き刺す程に一点集中して放たれるプレッシャーは必ず当たるという幻想をレムリアの脳に叩きつけてくる。
「おおおおお!!!」
「うぁぁぁぁ!!!」
レムリアは見た。まるでスローモーションの様にナイアールのグローブが鎧の胸部を打ち抜く瞬間を。
「(あっ、これダメなヤツだ。絶対衝撃で気絶する。でも・・・)勝った!!」
「グッ!!」
大剣がナイアールの脇腹を裂く。
一瞬、ほんの一瞬ナイアールの視界が眩む。その一瞬が欲しかったのだ。
オーギュストが叫ぶ。
「今だ!!」
エントランスホールの天井から雷の魔石を付けたワイヤーネットが降ってくる。
レムリアごとナイアールを電気網の餌食にしようという自滅覚悟の作戦だったのだ。
その光景にナイアールは感動のあまり涙を流した。
口では何のかんの言いながらもアイリーンはナイアールのルールに沿って挑もうとする悪癖が有る。一方でオーギュストはナイアールの敷いたルールを覆し自身のルールを押し付ける道を選んだ。
成ったのだ。オーギュストは探偵女王アイリーンとは別方向の名刑事へと成ったのだ。
「ならば!!」
バッグからマントを取り出しレムリアを庇う様に被さる。
「レムリア!!」
「姉上!!」
「お姉ちゃん!!」
クリスティーン、アルバート、ステイギアの三人が叫ぶがオーギュストは努めて冷静に様子を見る。
「お静かに、死なない程度には威力を抑えております、これで止められなければ・・・」
魔力を切り鉄線の一部を解放して恐る恐るマントに近付いていく。
「そうはいかねぇんだよ!!」
マントから飛び出し怒声を張り上げるナイアールに何人かが腰を抜かす。
無傷のナイアールであればここで絶縁体の解説の一つでも自慢げに入れるところだが、遊び過ぎたツケである。
「(あと少しズレてたら中身が出てたぜ、早く帰って手当てを)ハァッ!!」
「まだそんな力が!?」
ここで毎度お馴染み煙幕だ。
だが相手も手慣れたモノ。
「風魔法で散らせ!」
煙幕が晴れれば既にナイアールの姿は無かった。
「くっ、ヤツは何処に・・・」
これまで黙っていたアルバートが床を指差す。
「隊長殿、床に血痕が」
「ありがとうございます殿下、血痕の跡を追うぞ!!」
「なに、姉上がああなった以上は俺も黙ってはいられないからな。さて、ナイアールが逃げ切れたなら明日は俺の番か・・・」
オーギュスト達が辿り着いたのは館長室、一行は勢いよく部屋の扉を開けた。
「ナイアール!!」
ナイアールが窓の外に垂れ下がっている縄梯子に手を掛けていた。
「悪いね、今日も帰らせてもらうわ」
そのまま上昇、上空に飛行船を待機させていたのだ。
「飛行兵は?」
「妙な風に阻まれ近寄れないそうです」
「風の妖精の仕業か、流石に重症だと形振り構ってられんと見た。総員、レムリア殿下を治療班に送り解散、明日の為にしっかり休んでおけ」
・・・
・・
・
退勤後、秘密基地に戻ったステイギアは悩んでいた。
ソレをするべきか否かを。
「おや、ステイギア殿下とお付きの方、いかがされましたか?」
「あれ?貴女は昨日美術館に居た・・・タラッサたん」
「たんを付けるな!・・・失礼、改めて自己紹介を、道路工事ギルド『グローリーロード』幹部タラッサです」
「え?道路ギルド幹部?『グローリーロード』って国内最王手の?」
土木建築に力を入れている帝国で道路工事は切っても切れない関係、そのギルドの幹部と言えばエリートである。
「え?借金のカタに買われたって」
「嘘です。本当は飲み屋で意気投合してお持ち帰りされたのが切っ掛けです」
「は?飲み屋?」
「ああ、昔から若く見られますが今年で29です」
「にじゅうきゅう!?」
「それよりも何か悩んでらっしゃいましたか?彼の事でしたら気になさらず、スリルを求めて痛い目見るのはもう止められない不治の病みたいなモノですから怪我の一つや二つで怒りはしませんよ。もう治療は済んでますし」
「もう治ってる?」
「当家は医師も光魔法使いも超一流が揃ってます故」
「ふ〜ん、ありがとうタラッサたん」
「たん付けるな!!」
何やら覚悟を決めた割には『にへら〜』と締まり無い顔をするステイギアに疑問符を浮かべるクルアハ。
「決めましたクルアハ、私は彼と一夜を共にします」
「それは傷の一因が御身にあるという自責の念からですか?」
「全く違います、むしろ極めて打算的思考による行いです。では、いざ!!!」
・・・
・・
・
全裸のステイギアが竜二の寝所からフラフラとした足取りで出て来る。しかし、その顔は恍惚としていた。
「フヒヒ、やった、力が溢れてくる!お腹の奥に彼の力が渦巻いて・・・視える!この家に住む強い魔性の美姫達の力が!!フヒフヒヒ」
『そうかそうか、じゃがナイアールに勝つにはそれだけでは足りぬのぉ』
突如、何の魔力も気配も感じないのに寒気がする様な声だけが耳朶を打つ。
「なっ!!何者です!?今の私に感知出来ない存在なんて」
しかしステイギアは大した抵抗も出来ずに見えない何かにヒョイと首根っこを摘まれ軽いノリでワープさせられてしまった。
「ここは?」
「ここはアカギ家の美術館、ようこそステイギア姫、歓迎致します」
不思議な女性だった。
色っぽいスケスケドレス姿で褐色肌の何処か高貴な外見のタヌキ獣人、だけどそこに居るのに存在感がまるで無い。
いや違う、何かステイギア自身の何かが彼女を視る事を拒否しているのだ。
「いい子いい子、お主のソレは魔法の領域を超えた突然変異の超能力の類じゃ。妾の本質を視るにはもう数年修行が必要じゃなっと、そんな事より忠告。お主、龍の体液を取り込んで能力が強化されたと思っておる様じゃが勝つにはまだ足りぬぞ」
「へ?」
自身の目論見がアッサリ見破られ、あまつさえ無意味だと指摘され間抜けな声が漏れる。
「まあその事も踏まえて美術品鑑賞をしながらアドバイスしようかの」
「でも私全裸・・・」
「案ずるな、どうせここの美術館はスタッフも客も展示品も半裸か全裸ばかりじゃ。最も一戦終えた直後に来るヤツは中々おらぬがな」
途中で合流した渦中の人物、カリス・キンナリーも加えた三人で美術品鑑賞をしながら夜は更けていくのでした。




