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24/24

※すいません 予約投稿日時を間違えました 第22話 積み上がる瓶 

 乾式選別に手応えを得た翌日、朝から工房にこもった。

 昨日巻き直した電磁石を手に取り、芯の状態を確かめる。細い芯に戻し、巻き数を稼いだ分、磁力は安定している。


「……これなら、いける」


 砂鉄の袋を開け、乾いた部分を広げる。湿った塊は脇に寄せ、乾くまで放置する。

 電磁石をそっと近づけると、黒い粒が跳ねて吸い寄せられた。昨日よりも確実に多い。


「悪くない」


 皿に落とした黒は、乾いた砂の上で浮かび上がるように動く。

 湿式では半日かかった作業が、今は数分で終わる。その差は大きかった。


 昼頃、フランチェスカが水を持ってきた。


「順調そうですね」


「まあな。乾式が形になってきた」


 机の端には、昨日よりも多くの黒の瓶が並んでいた。

 フランチェスカは一本を手に取り、光にかざす。


「……増えましたね」


「乾かす時間が減った分、選別に回せる。これなら、しばらくは安定して作れる」


 フランチェスカは瓶をそっと戻し、微笑んだ。


「あなたが前に進んでるのを見ると、少し安心します」


 その言葉に返事はしなかったが、胸の奥がわずかに軽くなる。


 午後は、作業工程を整えることにした。

 乾いた砂鉄を広げる場所、選別した黒を置く皿、膠を混ぜる小鍋、瓶詰めの漏斗。

 それぞれの位置を決め、動きやすいように机を少しずつずらす。


「……これなら、もっと作れる」


 黒い粒が乾いた砂の中からまとまって吸い上がり、瓶に落ちる音が一定のリズムを刻む。

 積み上がる瓶。増えていく黒。昨日までとは違う光景だった。


---


 乾式選別が安定してから数日、工房の空気は少しだけ変わった。

 砂鉄の袋を開けるたび、以前よりも胸が軽い。

 黒を皿に落とし、瓶に移す。その流れがようやく“仕事”になり始めていた。

 瓶の数は二十を超え、三十に届きそうだった。


 昼頃、フランチェスカが工房をのぞいた。


「今日も順調そうですね」


「まあな。乾式が安定してきた」


 机の端には、数本の瓶が並んでいる。


 フランチェスカは一本を手に取り、光にかざした。


「……こんなに作れるんですね」


「まだまだだ。これじゃ返すには足りない」


 そう言いながらも、瓶が増えていく光景は悪くなかった。


「でも、前よりずっと……安心できます」


 その言葉に返事はしなかった。


 午後、作業を続けながら気づく。

 乾式選別は確かに早い。だが、粉砕、膠混ぜ、瓶詰め――

 その後の工程が追いついていない。


「……ここが限界か」


 選別だけが突出してしまった。工程全体を見直さなければ、量産には届かない。


 夕方、フランチェスカが声をかけてきた。


「今日は……少し疲れてますね」


「まあな。乾式はうまくいってるが……まだ足りない」


「足りない、ですか?」


「量だ。黒は安い。量がすべてだ。ギルドに持っていくなら、なおさらだ……」


 フランチェスカは小さく息をのんだ。


---


 翌朝、積み上げた瓶を見つめる。

 増えたとはいえ、三十瓶程度。


「……行くか」


 一本を布で包み、ギルドへ向かった。


 ギルドの受付の男は瓶を光にかざし、淡々と言った。


「前より粒が細かいな。色も悪くない。だが――これじゃ仕事にはならん」


「……分かってる」


「黒は安い。仕事として扱うには、この倍は必要だ。

 だが……まあ、今回はこれでいい。質は悪くない。続けて持ってこい。

 次からは最低五十だ」


 それは拒絶ではなく、現実だった。


 帰り道の足取りは重かった。

 黒そのものではない。“五十瓶”という現実の重さだ。


 工房に戻ると、フランチェスカが顔を上げた。


「どうでした?」


「……買い取ってはもらえた。質は悪くないと言われた。

 だが、次からは五十瓶は必要だと」


「……五十瓶」


 フランチェスカは息を飲んだ。


「じゃあ……もっと作らないといけませんね」


 その声は励ましのようで、どこか自分に言い聞かせているようでもあった。


 窓の外では、夕風が砂を巻き上げていた。

 工房の中には、積み上がりかけた瓶と、遠い五十瓶。

 その壁は、静かにそこに立っていた。

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