※すいません 予約投稿日時を間違えました 第22話 積み上がる瓶
乾式選別に手応えを得た翌日、朝から工房にこもった。
昨日巻き直した電磁石を手に取り、芯の状態を確かめる。細い芯に戻し、巻き数を稼いだ分、磁力は安定している。
「……これなら、いける」
砂鉄の袋を開け、乾いた部分を広げる。湿った塊は脇に寄せ、乾くまで放置する。
電磁石をそっと近づけると、黒い粒が跳ねて吸い寄せられた。昨日よりも確実に多い。
「悪くない」
皿に落とした黒は、乾いた砂の上で浮かび上がるように動く。
湿式では半日かかった作業が、今は数分で終わる。その差は大きかった。
昼頃、フランチェスカが水を持ってきた。
「順調そうですね」
「まあな。乾式が形になってきた」
机の端には、昨日よりも多くの黒の瓶が並んでいた。
フランチェスカは一本を手に取り、光にかざす。
「……増えましたね」
「乾かす時間が減った分、選別に回せる。これなら、しばらくは安定して作れる」
フランチェスカは瓶をそっと戻し、微笑んだ。
「あなたが前に進んでるのを見ると、少し安心します」
その言葉に返事はしなかったが、胸の奥がわずかに軽くなる。
午後は、作業工程を整えることにした。
乾いた砂鉄を広げる場所、選別した黒を置く皿、膠を混ぜる小鍋、瓶詰めの漏斗。
それぞれの位置を決め、動きやすいように机を少しずつずらす。
「……これなら、もっと作れる」
黒い粒が乾いた砂の中からまとまって吸い上がり、瓶に落ちる音が一定のリズムを刻む。
積み上がる瓶。増えていく黒。昨日までとは違う光景だった。
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乾式選別が安定してから数日、工房の空気は少しだけ変わった。
砂鉄の袋を開けるたび、以前よりも胸が軽い。
黒を皿に落とし、瓶に移す。その流れがようやく“仕事”になり始めていた。
瓶の数は二十を超え、三十に届きそうだった。
昼頃、フランチェスカが工房をのぞいた。
「今日も順調そうですね」
「まあな。乾式が安定してきた」
机の端には、数本の瓶が並んでいる。
フランチェスカは一本を手に取り、光にかざした。
「……こんなに作れるんですね」
「まだまだだ。これじゃ返すには足りない」
そう言いながらも、瓶が増えていく光景は悪くなかった。
「でも、前よりずっと……安心できます」
その言葉に返事はしなかった。
午後、作業を続けながら気づく。
乾式選別は確かに早い。だが、粉砕、膠混ぜ、瓶詰め――
その後の工程が追いついていない。
「……ここが限界か」
選別だけが突出してしまった。工程全体を見直さなければ、量産には届かない。
夕方、フランチェスカが声をかけてきた。
「今日は……少し疲れてますね」
「まあな。乾式はうまくいってるが……まだ足りない」
「足りない、ですか?」
「量だ。黒は安い。量がすべてだ。ギルドに持っていくなら、なおさらだ……」
フランチェスカは小さく息をのんだ。
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翌朝、積み上げた瓶を見つめる。
増えたとはいえ、三十瓶程度。
「……行くか」
一本を布で包み、ギルドへ向かった。
ギルドの受付の男は瓶を光にかざし、淡々と言った。
「前より粒が細かいな。色も悪くない。だが――これじゃ仕事にはならん」
「……分かってる」
「黒は安い。仕事として扱うには、この倍は必要だ。
だが……まあ、今回はこれでいい。質は悪くない。続けて持ってこい。
次からは最低五十だ」
それは拒絶ではなく、現実だった。
帰り道の足取りは重かった。
黒そのものではない。“五十瓶”という現実の重さだ。
工房に戻ると、フランチェスカが顔を上げた。
「どうでした?」
「……買い取ってはもらえた。質は悪くないと言われた。
だが、次からは五十瓶は必要だと」
「……五十瓶」
フランチェスカは息を飲んだ。
「じゃあ……もっと作らないといけませんね」
その声は励ましのようで、どこか自分に言い聞かせているようでもあった。
窓の外では、夕風が砂を巻き上げていた。
工房の中には、積み上がりかけた瓶と、遠い五十瓶。
その壁は、静かにそこに立っていた。




