護衛依頼(練習)
「こほん。という訳で、本日は護衛依頼の練習になります。もう1回スケジュールを確認するよ」
「「はい」」
リーダーの号令でわらわらと集まるパーティメンバー達を、レンタルした幌馬車の御者台から眺める。
『レオが自分の有用性を理解できないのは、レオの居ないパーティを知らないからだろうね』というアルトの言の元、急遽開催された3泊4日の練習会。
俺の居ないパーティを、俺が体験する、というトンチキな状況を作るため、今回は護衛対象の商人役として、戦闘には参加しないことになった。
だから、これはハブられている訳ではない。
手持ち無沙汰を解消するべく、荷台を再確認する。
運ぶのは、冒険者ギルドに『護衛依頼の練習するから暫く空ける』と伝えた際に、それならと出してもらった運送依頼のものだ。依頼報酬は多くないが、マイナスになるはずの収支が0に近づく程度にはもらえることになって、アルトが喜んでいた。
依頼を失敗したくないことは当然として、善意にはちゃんと返したい。声を出しつつ、指差しをして、念入りにチェックしていると、後ろから足音が近づいてきた。
「レオ」
「お、打ち合わせ終わった?」
「うん。改めまして、本日から4日間の護衛を担当します、落葉星の雨です。どうぞよろしくお願いします」
「これはご丁寧に。私は商人役のレオと申します。こちらこそ、隣町までよろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げたルカに合わせて、新品の麦わら帽子をわざとらしく脱いで挨拶する。
御者台に戻ると、レオの号令でパーティが配置に着いたのを確認してから、俺は手綱をしならせた。
隣町までの道中は、舗装こそされていないものの、それなりに人が通るためかモンスターの気配は少ない。
その少ないモンスターも、草むらの影に隠れられるくらいの小さなもので、車輪の音や振動に驚いては逃げていく。
大型のモンスターや賊が隠れるような障害物もない、開けた草原。
穏やかな風が草の先をくすぐる度に、色合いの変わっていく緑を、のんびりと眺めながら馬車を走らせる。
「……」
ルカたちの強い緊張感が伝わってこなければ、うっかり昼寝をしていたかもしれないくらいには長閑だ。
「えー、お兄さん方。護衛してもらってる身で言うのもなんですが、ちょーっと肩に力が入りすぎじゃないですかね」
砕けた敬語で、荒事に慣れていない商人でも気づける程度には空気が張り詰めていることを指摘すると、余所行きの笑顔のルカが、代表するように振り返った。
「何が起こるか分からないのが旅ですから。警戒しておいて損はありません」
正論だ。
不慮の事故はあるあるな冒険者にとって、油断は引き金にも等しい。
だからこそ、疑問が深まる。
隣町へ向かうルートはいくつかあるが、その中でも最短距離の、最低でも2日は森の中で過ごすルートを選んだのはルカだ。
馬車が通れる程度には整備されているとはいえ、死角が多いことに変わりはなく、中型モンスターの縄張りもある森は、当然、草原よりも集中力と体力を消耗する。
その前の比較的安全なエリアでは適度に力を抜いておくべきであり、もしパーティメンバーが不慣れな様子なら、リーダーが都度調節する必要がある。
護衛ごっこを忘れないくらいには冷静なルカが、自分で選んだ道のりを忘れて、ペース配分を怠るとは考えにくい。
この緊張は、ルカにとっては正常ということなのだろうか。
「それもそうですね。いやー、よろしくお願いしますよ」
雑な相槌で話を切り上げる。
追及は野営のときでも良いだろう。情報共有がすぐに行われなかったことを省みれば、俺が商人役を続けていられる程度のアクシデントに違いない。
とはいえ、依頼人を不安にさせるような雰囲気だったことは事実のため、今日中に反省会をしておきたいところだ。
と、思っていたのだが。
「レオが居ないのって、こんなしんどかったっけ……?」
森に入ってすぐ、日の暮れない内から始めた野営準備が終わるなり、問い詰めるまでもなくルカが力尽きたように呟いた。
「そんな変わるもんか?」
声には覇気がないが、足取りはしっかりとしているルカにスープを手渡す。
干し肉と乾燥野菜をぶち込んだだけの、シュナ特製『煮ただけスープ』は今日も絶品だった。味見をさせて貰う度に思うが、俺が作ってもこうはならない。
「全然違うよ。安心感が違う」
「安心感ン?」
身に覚えのない話だ。
盾役のヴォルフや、治癒師のリリーに対してなら理解できるが、名ばかりサポーターがいたところで、『ちょっと便利だな』ならまだしも『安心する』とはならないだろう。
「なら今日やたらピリピリしてたのは、肩に力が入ってただけってことか。トラブルがあった訳じゃないよな?」
「何もなかったよ。戦闘もなかったしね」
「大丈夫。ルカ気づく、レオ気づく」
「お疲れシュナ。まーそれもそうか」
全員の分をよそい終えたらしいシュナが、両手にお椀を持ったまま、俺たちの会話に頷く。
純粋な索敵能力のみを比べると、ぶっちぎりの1番が斥候のシュナ、そのかなり下に俺、ルカと続いていく。ルカが気づく違和感なら、御者台に乗っている俺だって気づくだろう。
「そういや、ヴォルフたちは?」
「先食べる、終わる、寝た」
「じゃその器は、って誰か近づいてきてるな。リリーか?」
「ん。足音、リリー」
因みに、シュナは目も耳も良いが、恐ろしいほど夜目が効かない。
「魔物避け、焚いてきましたよ」
「お疲れー」
「ありがとう、リリー」
「スープ」
「いえ。こちらこそ待っててくれてありがとうございます」
器を受け取ったリリーが腰を下ろした。
形式も長さもばらばらな、3つの食前の祈りを横目に、俺は両手を合わせる。
「いただきます」
脱退するなら、『落葉星の雨』に自分が含まれないことにも慣れなければならない。
余計なことを考えるのは、きっと腹が満たされていないせいだった。




