その11の2
「わざわざ正直に言って欲しいのか?」
「そうですね」
「魔導器がなければ体も動かせないような不完全な女と、
結婚する気にはなれない。それだけだ」
「テメェ!」
レグが大声を上げた。
彼は猫からおりて、トカルを睨みつけた。
「それが婚約者に言う言葉かよ!?」
「っ……!」
レグに気圧されたのか。
それともただ、不快に思ったというだけの話か。
怒声を受けて、トカルは顔をしかめた。
何にせよ彼は、レグに対して弱腰に出るつもりはないようだ。
傲然と表情を正して、レグにこう言ってきた。
「おまえに何の関係がある」
「友だちを酷く言われたら、
怒るに決まってんだろうが……!」
「おまえごときが何と言おうが、
既に決まったことだ。婚約解消が覆ることはない」
「そうかよ。だったらとっとと失せろ!」
「言われなくてもそうさせてもらう……!」
男は不快そうにレグたちに背を向け、庭の外に出た。
そして通りに停車していた猫車に乗り込み、どこかへと去っていった。
「だいじょうぶか? アム」
レグはアムに向き直り、彼女を気遣う様子を見せた。
アムは冷たい無表情で、レグにこう尋ねてきた。
「友だちだったのですか?」
「あ?」
何を言いたいのかわからず、レグは疑問符を吐いた。
「私とあなたがです」
ついさきほど、レグはアムを友だちだと言った。
アムはわざわざその事に言及してきたらしい。
「違うかな?」
そりゃあ正確に言えば、雇用者と労働者の関係かもしれないが。
いちいち突っ込むようなことかと、レグは首を傾げてみせた。
アムはどうでもいいことのように、淡々とこう答えた。
「知りませんけど」
「それでどうだ?
気分が悪いなら、今日は出かけるのはやめとくか?」
「そんなおおげさに心配してもらうことでもありませんけど」
「好きだったんじゃねぇの? あいつのこと。
婚約者だったんだろ?」
平民的な感性で、レグはそう尋ねた。
貴族であるアムは、冷たくこう返してきた。
「べつに、周りが決めた婚約者でしたから」
「お貴族サマともなると、嫌な相手とも結婚するのか」
政略結婚。
物語の中でだけ見聞きしたことがある言葉を、レグは思い浮かべた。
「いまどきの貴族というものは、
そこまで非情でもありません。
昔と比べれば、
勢力の維持が生死に関わるような時代でもありませんからね。
権力争いのために女が犠牲になるというのは、
皆無とは言いませんが、
少なくはなっているようですよ。
それで……私と彼との婚約は……
まあ、嫌というほどでもありませんでした。
以前の彼は、紳士的ではありましたから。
他に恋心を抱くような相手も居ませんでしたし。
まあ、べつに良いかなと。
そんなふうに思っていました」
「紳士的? アレが?」
事故に遭った女性に対し、尊厳を辱めるような言動を見せた。
レグが見たトカルは、下衆にしか見えなかった。
「本性を出して来ましたね。
男の人というのは、
女にちょっとでも価値がなくなると、
ああなるものなのかもしれませんね」
「男はって、女はどうなんだよ?」
「どうとは?」
「男に価値がなくなったらどうするんだ?」
「世間一般のことは知りませんけど、
わたし個人のことを言うのであれば、
ああも極端に手のひらを返すような人間にはなりたくないですね」
「そうか。優しいな」
「優しさではなく、品性の問題だと思いますけど」
「そういうもんか? まあ、良かったじゃねえか。
取り返しがつかなくなる前に本性が知れてよ」
「かもしれませんね。けど……」
「アム?」
「あんなやつ……こっちのほうから振ってやりたかったのです……」
「次に会ったらビンタでもしてやれ」
「そうですね。この鋼鉄の右で」
アムはガントレットをグーパーと動かした。
「……加減はしてやれよ」
「気が向いたらそうします。
それより、気晴らしがしたい気分です。
どこか良い所に連れていってください」
「良い所って何だよ?」
「それくらい自分で考えてください。
役目でしょう? 運転手の」
「初耳だが。
そんなこといきなり言われてもな……。
公園とかで良いか? でかいやつ」
「良いでしょう。
次はもっと凝ったプランを考えてきてくださいね」
「はいはい。じゃ、行くか」




