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なんでもアリの異世界エトセトラ  作者: 大福満代
第一章

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第二十話 ヒーリングの村から南へ 2

 一座との待ち合わせは三日後に迫っていた。座長に送った手紙の返事は、既に来ている。南での申請が条件付きになってしまったのは仕方がないということで、境界橋ではジンだけが一座と合流することになった。

 バンドローたちの一件のことは、まだ返事がきていない。そりゃそうだわな。キョワッシーに託したのが、座長たちの返事が来てからだもん。ほんの数日前。どうかしたら、キョワッシーで返事が来る前に、境界橋で会うのが先くらいな感じ。

 やむにやまれぬ事情というほど切羽詰まった状況だったわけではないが、結果的には人助けにはなったし、そもそもバンドローから頼まれたことだ。異能は絶対に発動してはいけない、と禁止されているわけでもない。……しない方がいいけど。

 強制送還にはならない。それは大丈夫だと思う。お叱りは受けるかもしれないけど。

 ナオと話したその日、干した貝が入ったお粥の朝ご飯をごちそうになった後、俺たちはピオプナの頼みで修行中の人たちの歌を聞くことになった。実験台になることになったのだ。

 どういうことかって?

 村では今、合唱でのヒーリングの効果も研究しているのだそうだ。通常は一人一人、個別にヒーリングを行うのだが、合唱でのヒーリングが可能であれば、より広く、多くの人を一度に癒せるんじゃないか。また、相手が一人であっても、通常よりも効果が期待できるヒーリングが可能なんじゃないか。それから、一人ではヒーリング能力が弱くても、合唱になったら癒せないか、とか、いろいろな可能性を模索しているらしい。

 たまに通りがかった旅人がケガをしていれば治療したりするが、基本的に病人や怪我人は旅をしないし、この村を目指してくる人は、ほぼ、いない。

 無償で出張ヒーリングをすることはあるけれど、日常的に機会があるわけでもない。

 ということで、たまに来る旅人は貴重な練習相手、というわけだ。

 ちなみに、野生の動物がケガをしているのを見つけたときも、歌でのヒーリングを試みているそうだ。できなかった場合は、通常の治療をしている。今のところ、動物相手の場合は、マイナスの効果は出ていないんだって。治療できるか、そのままか、ってな感じっぽい。

 そんなわけで、ナガ達もこの練習に参加することとなった。

 朝ご飯を食べた後、再び休息していたナガとアシとルウは、出発するわけでもなさそうな俺たちに、村の広場に連れてこられてキョトンとしている。

 夏の終わり、秋の始まりの空は高く澄んでいて、昨日までの雨降りが嘘のような爽快な天気だ。

青空の下で、歌声が聞けるのかと思うと、ワクワクする。

 空を見上げながら気持ちの良い風に吹かれていると、三十人程度の人が俺たちの目の前に並び始めた。ピオプナが整列させている。この人たちが修行中のヒーラーってことか。

 黙って見ていると、声出しの練習……ウォーミングアップ?をし始めた。キレイな声が響き渡り始める。

 ボーっと眺めていると、隣にいたミヤが俺を肘でつつく。

「カツミさん」

「どうした?」

「今、思い出したんっすけど、アスカさん、歌でヒーリングするのって、相性があるって言ってたっすよね?」

 そういえば。

「言ってたな」

 古い映画の主題歌の話になったときだ。それに、ナオもそんなような話、してたな。

「個人個人で相性試してないのに、突然、集団の合唱ヒーリング受けて、その中に相性悪い人が混ざってたら、どうなるんっすかね?」

 考えてなかった!!

「そうだよな」

 が、もう既に準備は万端だ。ロムとジンを慌てて振り返るが、二人ともおとなしくヒーラーを眺めている。

 ああああぁ。ロムと魔力酔いの話ししたばっかりだったじゃん!!アスカさんも話していたし、どうして俺、そういうの結び付けられないんだよ!!

 って、ちょっと待て。ピオプナはその危険性、分かってるよな?!

 慌ててピオプナに向かって口を開くと、タイミングを見計らったように振り向いた彼女が、ニッコリと笑った。そして、間髪入れずに、合唱の指揮を執り始めた。

 うわー!!!ほんとに実験台だ!!

 おっとりニッコリの雰囲気に熟練のヒーラーということで、すっかり油断していたが、ピオプナはなかなか食わせ者のようだ。始まってしまったものは、もうどうしようもない。育成者としてきちんとしたヒーラーも揃っているだろうし、もし、相性が悪くても、どうにかヒーリングしてもらえるだろう。

 歌でのヒーリングの難しさって、相性の良し悪しの問題も大きいんだな。ただ、緊急性があるときに、相性の良し悪しなんて試してる暇もなかったりするだろう。

 それとも、相性は悪くても、ケガや病気のヒーリング自体は可能なのだろうか?……分からない。

 協力すると言ったんだし、覚悟を決めるしかない。

「ミヤ。諦めよ」

「うっす」

 そうして俺たちが目を瞑ると、合唱の声がいきなり強くなった。圧力で、体が後ろに押されるようだ。

「強すぎるわよ~」

 ピオプナの声に、歌声の塊の勢いが少しだけ弱まる。

「そうそう。押し付けるんじゃないのよ。相手を包み込むように歌うの」

 旋律が柔らかくなる。歌声も。優しい歌声と一緒に流れ込んでくるのは、幼い頃の記憶。柔らかくて肌触りのいい布団にくるまれて、安心して眠った記憶がよみがえってくる。

 フワリ、と柔らかい毛布に全身が包まれたように、幸福感に包まれる。明るい光が温かく体を包む。ゆったりとその大きな温かさに身を任せようとした、その瞬間。

 

 ドサッ!


 何かが倒れる音が間近でした。

 なんだ?! 

 フワフワとした幸福感が一気に散り、驚きと共に音の先を見やる。

「ロム!!」

 なんと、ロムがグッタリと倒れていた。ロムの斜め後ろで、ナガとアシとルウが、オロオロしている。

 隣にいたジンがロムを抱え上げ、ミヤと俺もロムの側にしゃがみこむ。

 そこで、歌声がピタリと止まった。

「魔族の子に、合わない子がいたのね」

 妙に冷静なピオプナ。

「そういうこともあるって、分かってたんですよね?」

「そうだよ。怒る前に聞くんだ。その子はこの世界の魔族だろう?本人も、その可能性があることは分かっていたはずだ」

 言われてハッとする。確かにそうだ。ナオの歌を聞くのを断っていたし。それに、ロムの稼業を考えると、知らないわけがない。ヒーリングのことだって、その能力はなくても、ある程度、知識がないと思わぬ時に対処できないだろう。

「集会所に運んで。症状を見て、ヒーリングをするから」

「うっす」

 そうして俺たちは、オロオロするナガ達をなだめつつ、意識が朦朧としているロムを運んだのだった。


 ピオプナは村長だけあって、ヒーリング能力だけではなく、医師として働いていた実績もあった。症状を見てみると、相性が悪かった歌声のせいで魔力酔いしただけだろう、ということで、横たえたロムの耳元でいろいろな音を出し、最終的に一人の女性を連れてきた。

 耳がとがっているその女性は、やはり魔族だという。

「ヒーラーとして勤務していた経験もある。彼女なら、ロムを回復させられる」

 そうして、その女性はロムの傍らに座り、大きくもなく小さくもない声で歌い出した。優しい音色のそれは、水の流れや優しい太陽の陽射しを思い出させるような歌声で、まるでゆりかごに揺られているような感覚に包まれる。

 見ていると、眉根を寄せて顔色が悪かったロムが、次第に頬に赤みが差し、眉間の皺もなくなった。呼吸も穏やかになり、もう苦しくはなさそうだった。

 歌が終わる頃には、すっかり顔色もよくなり、ロムはケロリと起き上がった。

「あー。気持ち悪かった」

 そんなんで済むかよ?!

「大丈夫か?」

「うん。大丈夫だ。承知の上だ」

「なんで断らなかったんだよ?」

「断ってしまったら、研究の助けにならないだろう?世の中にはいろんな形のヒーリングを必要としている人がいる。少しでも、誰かを助けられるなら、多少はな。ここ、ヒーラーもいるから、何とかなると思ったし。実際、なっただろう?」

 なんでもないことのように肩をすくめて言う。

 ……そっか。ナオはちょっと聞いてみない?っていう誘いだったから断ったけど、ピオプナは、研究の一環として協力して欲しい、ってことだったから断らなかったのか。

「どこか、おかしいところはないか?」

「まだちょっと、魔力の流れが悪いけど。まあ、そんなに支障はないな」

「そう。回復したばかりで申し訳ないけど、どんな状態だったか教えてもらえるかい?」

 水を差し出しながら言ったピオプナに、ロムは快く頷いた。

「合唱自体は、キレイだと思って聞いていた。ただ、中に一人だけ、不協和音みたいな感じの音が混ざっていて、それがダメだったな。気が付いたら、気持ち悪くてグラグラしていた」

「なるほどね。その音だけ、突出して聞こえたということはないかい?」

「ない。微かにしか聞こえてなかった。でも、その微かな音がダメだった」

 不協和音?そんなの聞こえたかな?

「カツミたちは?不協和音は聞こえた?」

 こちらを振り向くピオプナに、俺たち三人は横に首を振った。

「聞こえなかったっす」

 うんうん、と難しい顔で頷いたピオナが、ロムの手を握って頭を下げる。

「こんなこともあると分かっていて、実験に協力してくれて、ありがとう。感謝するよ」

「朝飯が軽かった理由が分かったよ。吐いたら危ないもんな」

 ロムがニヤリと笑って言った。

「昼ご飯はたっぷり用意してあるから、遠慮しないで食べておくれ。村の子たちも、すっかり腹ペコだからね」

 穏やかに笑ったピオプナが、どっこいしょ、と立ち上がった。


 大丈夫だとは言っていたものの、ロムは昼ご飯を食べたらそのまま眠り込んだ。村では修行が始まっており、集会所まであちこちからの歌声が聞こえてくる。見学はよした。邪魔になるだけだし。俺たちも、相性がよくない相手がいたら、マズイし。

 ジンは土間に下りて包丁の手入れをし始めた。普段と目つきが変わっている。

「明日だな、境界に向かって出発するの」

「うっす。二日で着くっすかね?」

「多分。ロムが起きたら聞いてみよう」

 ジンはここから境界までの距離は見当もつかないだろう。西に来るのも初めてだと言っていたし、俺たちと同じようなもんだ。

「ギリギリだよ。ロムがそう言ってた」

 包丁の手入れをしていたジンが、手は止めずに答える。

「そうなの?」

「うん。一日、余裕を持ってたらしいから」

「なるほど」

「正解だったっすね」

「そうだね。さすがだよね」

 刃の具合いを見つつ、ジンが言う。

 確かに。旅慣れてないと、日程の組み方って難しすぎるよな。

「それにしても、歌でヒーリングっていうのも、いろんな課題があるもんなんだなぁ」

「そっすね。相性があるヒーリングって、難しいんっすね。効く人にはすごく効きそうっすけど」

「そうだなぁ。ある程度、万人に効く薬とは違うよな」

「歌でのヒーリングは、外傷なんかにも効くらしいよ」

 包丁の手入れが終わったらしいジンが、板間に上がって会話に参加する。

「効くの?」

「骨折とかもね」

「それはすごい」

 マジですごい。病気だけじゃなくて、切り傷や骨折まで治るのか。あ、でも動物のヒーリング試してるってことは、そっか。

 不思議な力がある世界ってすごい。俺たちは今回、誰もケガしてなかったからな。心地よくなったり、魔力酔い、って形だったんだな。

「すぐに完治するわけじゃないよ。それは、通常のヒーリングもそうだけど」

「あ、そうなの?」

「そうだよ。通常のヒーリングだって、すぐに全部が元通りってわけではないから」

「そうなのか」

 そりゃそうか。いくらなんでも、あっという間に全てが元通り、なんてないか。

「でも、いっすよね。ケガまで治せるって」

 ヒーリング能力があるミヤがポツリと言う。ミヤのヒーリングは異能だし、俺の異能に対するヒーリングだけだから、複雑なのかも。

「ヒーラーが側にいるなら、ケガもある程度は怖くないけど、全ての村や町に医療が整っているわけではないからね。気を付けるに越したことはないよ」

 確かに。ヒーラーがいないとこで大怪我なんてしたら、命の危険があるわな。

「そっすよね」

「それに、緩和も多いしね、ヒーリングは」

「どういうこと?」

「トウカもそうだけど、前もってヒーリングをして、悪化を防ぐんだ。事前カウンセリングだよね」

「あー……。悪化しそうな場合、ヒーリングをしてメンタルとか回復させておくってこと?」

「そう。それでも悪化しないとは限らないけど、前もって緩和しとくっていうのは、大きいよね」

 確かに。前の世界だと、ストレス発散とか自分にご褒美とか、そんな感じかな。

「前の世界だと、明確なそういうの、なかったなぁ」

「あんまり、メンタル方面でのケアって、なかったの?」

「うん。知らなかっただけかもしれないけど。そういう方面での、俺の認識や知識も低かったよ、今から思うと」

「そうなの?」

「うん。そういうの、あんまり意識してなかったかも。なんでだろうなぁ」

「なんでっすかね?」

 そういえばそうだった、みたいな感じでミヤも首を傾げる。

「うん」

 不思議だ。心と体は繋がっているし。大切なことだ。今なら分かる。でも、当時はそういう認識、なかった。

「苦しかったろうねぇ」

 何気ないジンの一言に押し黙る。なんか、言葉が繋がらない。

「っすね。でも、いいとこもいっぱいあった世界だったっすよ!」

「豊かな世界だもんね、話を聞いてると」

 そうだ。俺たちの日常生活は、情報量も多く、衣食住も恵まれてた。ポチッと押すだけでなんでもできて、常にライフラインに困らない世界というのは、とんでもなく豊かな世界ではある。

「うっす。なんでもあったっすねぇ」

 ミヤが懐かしむように、目を細めて言った。

 物質的には豊かだけど、どこかは歪にゆがんでいる。世界というものは、矛盾と歪さを抱え込んでいるのかもしれない。

「ミヤ君たちの世界のケバブ、食べてみたかったなぁ」

 ジンがあの世界に行ったら、ものすごく喜ぶだろうな。日本だけでも、いろんな料理を堪能できるし、様々な種類の食材も調味料も溢れている。でも、手に入らないものも多いし、なによりも、現地の料理は現地でしか味わえない空気感と味がある。だから、現地にも行ってみたいだろう。

 夢中になって食べ歩きをしたり、調味料を探したりするジンのことを想像して、思わず笑みがこぼれる。

「ジンと食べ歩きしたら、楽しいだろうなぁ」

「そうっすよね!」

「いろんなとこ、連れて行きたいよな」

「うっす」

「まずは、日本で一番有名な商店街かな」

「いっすね~。あそこの店員さん、メッチャフレンドリーっすよね!」

 さすが有名店。日本で一番有名な商店街、だけでミヤに通じた。

「フレンドリー通り越してるだろ」

「あそこの接客、独特だけど癖になるっすよね、聞いてると。あれも一つの腕っすよね!」

「確かに」

 でもあれ、すっごく上級者の接客トークだぞ。誰でもできるわけじゃない。

「何のお店?」

「ケバブだよ。俺たちが住んでたとこに、有名な商店街があってさ」

「うん?」

「食べ物とかの店がズラーっと並んでるとこがあるんだ。集中的に。食べ物だけじゃないんだけど」

「そうなんだ?」

「そうそう。そこに、すっごく有名なケバブ屋があるの」

「へぇ~」

 目が輝いてきた。

「ドネルケバブって言って、薄切り肉を重ねて大きな塊にして、火で炙ってさ。それを削いで使うの。店先に、その大きな肉が見えるんだ。」

「うんうん」

「で、いろんなメニューがあって」

「俺、オーソドックなピタパンに挟んであるのが好きだったっす」

「そうそう。前に話した、ピタパンっていうのに、野菜と肉とソースを挟んだのだな。俺も、それ好きだった」

「うんうん」

「普通のパンに肉とかサンドするのもあるし、串に刺さったのもあるし、海苔っていう、海藻を干した四角い紙みたいのに米を敷いて、クルクル巻いたのもあった気がするな」

 俺は食べたことがないけど。海苔巻きタイプ?あれ?別の店だったかなぁ?記憶があやふやだ。

「海苔?」

「うん」

「あるよ、こっちにも。緑色の薄い紙みたいなのだよね?」

 あるの?マジで?!

「あるの?」

「うん。北でも、漁村で作ってるよ。町にも、魚屋にあるよ」

「ええー!!そうなの?」

「うん。でも、海苔とお米とケバブって、なんか、想像つかないな」

「だよな。俺たちの世界でも、本来は、バンとか小麦粉の生地を薄く焼いたのとかと合わせるからな」

「もしくは、串で刺したり、皿に盛ったりとかっすね」

「そうそう。ただ、俺たちの国、なんでも改造して、自分たちの身近な食材に合わせる習性があって」

 だから、本場のケバブっていうのを、ちゃんとは知らない。

「それはおもしろい!可能性はいっぱいあるね。そうか。身近な食材を使うのも、おもしろいかもなぁ」

「海苔巻きだったら、材料さえあれば作れるっすよ。ケバブとは違うっすけど」

「海苔巻き?」

「うっす。海苔の上に酢飯を敷いて、中心に具材を入れて巻くっす。よかったら、ジンさん特製ケバブを乗せて巻いたの、作るっすよ」

「ほんとう?!」

 メッチャ嬉しそう。

「うっす」

「いいよ!喜んで。俺のケバブを使ってくれるの、嬉しいよ。もしかしたら、屋台でも売れるかもしれないよね」

 そう言われてみれば。

「うっす。確かにそうかもっす」

「材料、揃うかな」

「この世界にも、酢と砂糖と塩はあるっすから。米もあるし。ただ、サラッとしたタイプじゃない米があるかどうかっすよね」

「だよな。サラサラの米だと、巻き寿司には向かないよな」

「っすね。うーん。ちょっと、探してみましょうっす」

「だな」

 それにしても。

「どんな味なんだろうなぁ、海苔巻きケバブ」

 メニューでチラッと見たことあるような、程度の記憶だからなぁ。勘違いかもしれないし。

「どんなっすかね?もしかしたら、酢飯じゃなくて、普通に炊いたお米で巻いてる可能性もあるっすよね」

「確かに」

 言われてみると、肉巻き寿司とかって、酢飯使ってなかったりするもんな。

 そこで、何かを思い出すように考えつつ、ジンが口を開いた。

「あったよ、確か。サラサラじゃないタイプのお米。サラサラのお米の方が食べられてるけど」

「マジで?」

「うん。野菜の一種っぽくして食べることもあるから、サラサラタイプが多いけど、ちょっと粘りがあるようなのも、あるよ。後、すごくモチモチしてるのとか。それは、両方とも、そのまま食べたり、具材と一緒に炊いたり蒸したり」

 すごくモチモチしてるのって、モチ米かな。

「いっすね!!なら、作れるっす」

「楽しみだな」

 鼻歌でも歌いだしそうなご機嫌な様子でジンがニコニコと笑う。

「ただジン、海苔巻きのケバブは、ケバブと名はついているけど、実際、別物だぞ」

 想像するに、肉巻き寿司のような気がする。

「それでもいいよ。ケバブと関係して発想してるんなら」

 なるほど。

「手巻きだとその場でササッとできるっすけど、食べづらいっすかね?」

「だな。屋台でやれたら、おもしろいけどなぁ」

「これからの季節だと、収穫祭もあるしね。屋台の出番だよね」

 南の秋の祭りって、もしかして収穫祭なのか?

「材料が揃ったら、作ってみましょうっす」

「だな」

「あのさ。ちょっと考えてたんだけど、ヨーグルトにニンニクのソースって、どうかな?」

 話しが急に変わって、ちょっとだけ驚く。ジンがこんな風に話題転換するのは、珍しい。

「美味いよ」

「あれ?知ってる?」

「前の世界であったよ」

「そうなの?!」

 ジンが驚いた顔をする。

「うん。俺たちがいた国の料理じゃないけど。水気のないヨーグルトにニンニク混ぜたソースって、あったよ。俺が知ってるのは、肉とか野菜にかけてた」

「そうか。じゃあ、これはちょっと……みたいにはならない?」

「うっす。美味しいっすよ」

「ありがとう。やってみようかな」

「いいと思うよ」

「西に来て、ニンニクを多用した料理をみているうちに、北のヨーグルトと合わせてもおもしろいんじゃないかなぁって思って。北では、ヨーグルト、そのまま食べたり飲んだり、肉を漬けたりするけど、ニンニクとかと合わせてソースっていうのは、なかった気がしてさ」

 おお。ジンが長文話してる。

「試作品、楽しみにしてるっすね!」

「うん」

「俺たち、先に南の中心町に行く予定だから、巻き寿司の材料、揃うか探してみるよ」

「いいね!」

「問題は、作る場所だよな」

「宿の厨房とか、借りられないっすかね?」

「そこはまあ、ロムに相談だな。もしかしたら、融通がきくところを知ってるかもしれない」

 三人の視線がロムに集中する。

 これもまた珍しく、ロムは熟睡しているようだった。全然、起きない。普段は寝ていても、眠りが浅そうだけど。割とすぐ起きるし、寝坊することもないし。

「疲れも溜まってたのかもな」

「そっすよね」

 ジンも黙って頷く。護衛だし、危機回避の為に、一人でいろんなことを背負わせてしまっていたのかもしれない。

 なんたって、地理にも明るくなく、旅も初心者、異能持ちの護衛だ。

 仕事相手だけど、旅の仲間としてそんなことを感じさせないくらい、気さくに接してくれてるし。たまに口悪いけど。

 こっちに気を使わせないように、さり気なくいろんなことをしてくれてるんだよなぁ。

「ゆっくり休ませよう」

「うっす。俺たちも、ちょっとのんびりしましょうっす」

「あ、ピオプナに言って、昨日の温泉に交代で入ってこようか」

「賛成っす!」

 俺とミヤ、ジンで入れ替わりで入った温泉は、晴天の昼間ということもあって、ものすっごく気持ちよかった。そして、俺たちはその後、ロムと一緒に眠りこけてしまったのだった。

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