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第十八話 夏の祭りの喧騒で 1

「ミヤ。もう笑うな」

「うっす」

 スッカリ回復したナガとアシ、ルウとともにドワーフの里を発ったのは、一日置いた次の日の早朝だった。最速ではないけれど、それなりのスピードで走っているアシの上で、ミヤが肩を震わせて笑っている。その姿に堪えきれなくなったようで、ロムも俺の後ろで吹き出した。

「ロムまで!!」

「すまんすまん」

「いやあ、アスカさんたちに見せたかったっすよ、カツミさんの雄姿を!!」

 見せなくていい!!っていうか、見なくていい!!できることなら、二人にも忘れて欲しい!!

「この世界に来て、一番、スマホ使えたらなって思ったっすね!!」

「むしろ俺は、スマホがなくてよかったよ……」

 そうなのだ。一昨日の夜の里長一家との晩ご飯は無難に終わったのだが、昨日、里の幾人かの人を集めて話をしたときに、どういうわけか、実演販売の物真似をすることになったのだ。

 なぜなんだ。

 俺たち、日本の祭りとかコンサートとか食べ物の祭典とかナントカ市とか、なんかそんな話をしていたのに。いつの間に実演販売の再現をすることになったのか。話しの流れは思い出せないのだが、なぜかそんな話になった。ああいやでも、なんか商売とか店の話しになったんだったかなぁ?ちゃんと思い出せないんだけどさ。

 とはいっても、俺、実演販売ってしっかり見たことない。通りがかったときに、あの口上を聞いて、プロってすごいって思ったくらい。

 えー、どうしよう。そもそも商品は????なにでするわけ?と目まぐるしく考えていると、すかさずミヤが、客の役をゲットした。ええー!!ずるい!!確かに客の役も必要だけど!!と思っていたところに、‘こんなものでよければ’とカシメルがなぜか、フサフサのホウキを持ってきた。真っ直ぐ俺を見つめるカシメル。これって、もしかして、商品……。

 逃れられない。どうする、俺!!

 と迷ったのは一瞬だった。ヤケクソになった俺は、ホウキを片手に、見かけたことのある実演販売を必死で思い出しつつ、物真似を始めた。笑顔はひきつっているし、掃除だって普通レベルの俺のホウキさばきなんてたかが知れているし、口上は聞けたもんじゃなかったかもしれないが、それでもみんな、最後まで聞いてくれた。

 ホッとしたところで、客になり切っていたミヤがチャチャを入れて来た。

「そのホウキって、あれっすか、お高いんっすよね?」

 ミヤぁ!!終わらせてくれよ!!

「い、いえいえ。今ならお手頃のお値段で買えますよ」

「誰が使っても、キレイになるっす?」

 言いそう、言いそうだよ、確かに!!見てる人。特に、包丁とかだと言いそう!誰でもこれくらい切れるんですか?とかさ。これはホウキだけど。

「もちろん!!アレヨアレヨというように、魔法の手付きであっという間~」

 ヤケクソになりつつ、杖を操る魔法使いのような仕草をすると、ミヤが笑いを噛み殺そうとして失敗していた。

 そして終わった後の、カシメルの一言がなかなかのモンだった。

「それは、一人で全部やるものなのか?客は一人しかいないのか?」

 全然、伝わってない!!そりゃそうだよ。俺、商品を売る口上なんてできないし!!天晴れの本日のオススメだって、言うのにつっかえちゃうんだぞ。

 カシメルの真面目な顔が、更に俺に追い打ちをかける。恥ずかしさのあまり、消えてしまいたい気持ちになりながらも、なんとか答える。

「いっぱい人がいるところでやるから、その商品が気になった客は足を止めてみてくれる。けど、商品が売れるかどうかは、その売っている人の腕にかかってるんだ」

 堪え切れずに大笑いしているミヤと、元ネタは知らないが俺の動きを見て、顔を伏せて肩を震わせているロムをどつきたい気分に駆られつつ、うつろな目で空しいセリフを繰り出す俺。

 笑ってないで、せめて助太刀して欲しかったよ、ミヤ。そもそもこういうの、ミヤの方が得意なんじゃないか。

「例えば、大通りとかでやったりするのか?」

「そうだな。そんな感じ。おススメの商品をみんなに知ってもらうために、やるんだ。包丁なんかだと、切りづらい物を用意しておいて、実際に切ったりしてさ。こんなに切れますよ、って。だから、プロは口上だけじゃなくて、手さばきも見事なもんだよ」

「なるほどな。路上パフォーマンスみたいな感じか?」

「うん」

 と、このくだりは必要だったのかと疑問に思うほど尻すぼみな感じで、ドワーフの里での、異世界の話しをする会は終わった。

 まあ、そんなこんなで、話は他にもしたんだが、あまりにもその部分が強烈過ぎて、どうにもこうにも、他の記憶が吹っ飛んでいる。

 くっそ、どう考えても、物真似いらなかっただろ。

「どうしよう、里でアレの真似が流行っちゃったら」

 ポツリと俺が言ったその途端、ミヤがアシから落下するんじゃないかと思うくらい、大笑いし始めた。

「はっ、流行って欲しいっす………!!」

 笑いつつ息も絶え絶えに言うミヤに、ちょっと恨みがましい気分になる。

 あー腹がよじれるかと思ったっす、と目じりの涙を拭いつつ満足げにしているミヤは、すっかり元気になっている。よかったよ、元気になったんならさ。

「ロムも、いつまで笑ってんだよ」

 控え目ではあるけれど、ロムも思い出し笑いが続いている。

「いや。俺は実演販売というのは知らんが、あのカツミの動きはな」

 そこまで言って、またしても笑いだす。

「だからアレは、プロの技なんだよ!俺が簡単にできるようなもんじゃないの!」

「この世界の、市や祭りの屋台の人も、なかなかの商売上手だが。アレも確かに、口上が上手い人は、とんでもなく上手いな。商品に興味がなくても、意識が向く」

「カツミさんのあの姿、カツミさん自身にも見せてあげたかったっすよ!!」

「いらん!!!そして、忘れてくれ!!」

 何が悲しくて、自分のそんな姿見なきゃならんのだ。語気も荒く言い放つと、ロムとミヤの笑い声が青空に響いた。

 気づけば、西の中心町での祭りも、後十日ほどに迫っていた。祭りの三日前には西の町に着けるよう、一座は余裕を持って、三日後には村から町へ出発することになっていた。

 おそらくジンたちも、そのくらいまでには戻ってくるのだろう。

「そういえば、ジンの包丁って、出来上がりはいつなんだっけ?」

「あ」

 ロムがまた首を傾げ、またしても俺たちは肝心なことを聞くのを忘れて、里から戻ってきてしまったことに気がついたのだった。


 というわけで、里での忘れ物を思い出したものの、引き返すこともできなかった俺たちは、とりあえず村に戻った。そして今。村に残っている一座が全員集合した、そのど真ん中にいる。っても、三十人くらいだけど。

 そうです。異能が発動した件について、これから沙汰が下されます。

 実演販売の物真似とかいう暴走をしていたのが西の領地での最後の思い出になるのかもなぁ、と薄っすら遠い目になりつつ座る。

 日はもう、傾き始めている。うーん、なんか、名作であったよな。懐かしい。目の前には暴君もいないし、俺の為に走ってくる親友もいないけど。なんだっけ、あの話。

 いいように現実逃避を始める脳みそを引き戻す。

 自分がやったことの結果なんだ、現実逃避なんてしてないで、ちゃんと受け止めなくちゃ。

 俺たちの目の前には座長が腕を組んで立っている。一座の人は、半円を描くように、俺たちを取り囲んで座っていた。

「まずは、無事に帰ってきてよかった。今度は、何事もなかったか?」

「うっす」

「はい」

 無言で視線を向けられたロムも、頷く。

 何事かはあったけれど、座長はあんなふざけた一件のことを問いたいわけではないだろう。恥をかいたことは、黙っておく。

「お前たちのことだが、不在の時に異能を受けた者たちと共に話し合った。結果、今回は保留となった」

「えっ」

「えっ、とはなんだ」

「いやその」

「ミヤのヒーリングが効いたこと、カツミの異能がコントロールできないこと、今回が初めてだったこと、という三点が保留の主な理由だ」

 よかった。旅を続けられるんだ。

「うっす!!ありがとうございますっす!!」

「ありがとうございます」

「だが、あまりにも頻繁に異能が出るようであるならば、また、話し合いの場を持つ。そういうことに決まった」

「はい」

「うっす」

「それから、一緒に旅をするからには、きちんと、一座の手伝いもしてもらう。それは分かっているな?」

「はい。あ、でも、あの」

「なんだ?」

 い、今だよな?あの話しするの。マリーの。タイミング的には、今だ。一座の手伝いをする、と約束しておいて、ナンだけれど。

「実は、俺の異能はどうしようもないけど、トラウマ自体を軽減できるんじゃないかっていう案があって。北の隊医に相談したら、西に歌でヒーリングをする養成所の村があるから、そこに行ってみたらどうかってことだったんです」

「トラウマそのものを治療ということか?」

「はい。トラウマを治癒できれば、今よりも発動しなくなるんじゃないかって。効果があるかどうかは分からないんですが、相談だけでもしてみたらどうか、と」

 今も、精一杯出ないようには気を付けているけど、この間みたいに、無意識に自分で自分を罠にはめているときだってある。それが軽減されれば。

「そうか。その村に行ってみたいのか?」

「はい。ただ、一座の旅の行程と合うかも分からないですし、今すぐというわけでもないです。祭りが終わった後、南へ移動するときに、別行動で行かせてもらえれば、嬉しいです」

「なるほどな。よかろう。カツミの異能の脅威が少しでも減る可能性があるなら、行ってみる価値はある。ただ、祭りに関しては、しっかりと手伝ってもらうぞ」

「ありがとうございます」

「うっす!!頑張るっす!!」

「よし、そういうわけだ。みんな、また、二人をよろしく頼むぞ」

 そう言った座長に、一座の人たちは頷いてくれた。

 そろそろ晩ご飯の支度もある。話が終わってゾロゾロと各自の持ち場へ戻っていく人に紛れて、その流れに混ざろうとすると、トカイが鼻歌混じりに近づいてきた。

「よかったな」

 ポンポン、と俺とミヤの肩を叩きつつ言う。

「うん。ありがとう」

「うっす」

「俺は何もしてないさ。ただ、座長がだいぶかばってくれてた」

「そうなのか」

「そうだな。それにさ、一座の者って、割とワケアリが多いのさ。だから、多少のワケアリは受け入れる気持ちは、みんな持ってるんだよ」

 そうはいっても、やっぱり、俺みたいな異能があるのを受け入れるのには、抵抗もあるだろう。感謝の一言に尽きる。

 何ができるか分からないけど、一生懸命頑張ろう。

「そもそもさ、入ってきて、なんだかんだと文句を言うだけ言って、あっという間に出て行っちまうヤツの方が多い。期間限定とはいえ、馴染もうとしているお前らを、批判的に見るヤツもいないさ」

 そんなに入れ替わりが激しいのか。旅芸人の一座って。でもまあ、俺たちだって一年っていう区切りもあるから、人のことなんて言えた義理じゃないか。異能のせいで必要な、役所の申請の為に別行動になることだってあるし。うん。

 でもまあ、来るもの拒まず、去る者追わず、っていうスタンスなのかもしれないな。旅芸人、っていう集団的な特徴として。

「二人とも、北では居酒屋にいたんだろう?」

「うっす」

「なら、屋台の手伝いになる可能性が高いな。期待してるぞ」

 そう言ってトカイは俺たちと反対方向に歩いて行った。

「屋台っすか!楽しみっすね!」

「そうだな。どの屋台になるだろうな」

 この時の俺たちは、てっきり、一座が既に予定している屋台に割り振られると思っていたのだ。がしかし、蓋を開けてみたら、そういう展開にはならなかったのだった。


「え。ジンの屋台?」

 ジンがオムリと帰ってきたのは、二日後だった。というよりも、西の領地へ散っていた人たちが戻ってきたのが、その日だったのだ。

 三十人程度が残っていた村は一気に騒がしくなった。三倍くらいの人がいるもんな。この他に、まだ、北の領地からこちらへ向かっている人たちが二十人くらいいるっていうから、大所帯なんだよな、一座。ってか、引退した人も含めると、どれくらいいるんだろう?引退した人も、どっかに行ったりしてるみたいだしなぁ。

 あれ?でも、現地の祭りに行くのって、どれくらい?お祈りやパフォーマーのことを考えると、露店勢、少なくない?もっとズラーっと並んでたよな?北の祭りのとき。この人数でパフォーマーが半分、露店が半分、後は俺たちと座長、って考えると、あんなにたくさんの露店はそろわないよな。

 あれ?それに、楽器は?楽器関係の人たちもいたよな。それはパフォーマーとは別の人だよな。じゃあ、引退した人達も行くのかな?じゃないと、人手が足りなさすぎるよな。

 後で、聞いてみよう。

 それよか、ジンの話だ。

「うん。そうなんだ」

「え、スペースもらえたの?」

「うん。オムリがミレイさんに頼んでくれて。仕入れなんかも、一座が懇意にしているところからできることになったんだ。試作も上手くいったしね」

「いいっすね!」

「そうだね」

「でも、いきなりスペースもらって、大丈夫なのか?」

「うん。それが、そういうものらしい」

 どういうことなんだ?

 首を傾げると、ジンの隣に座っていたオムリが説明してくれた。

「一座だけでは、あれだけたくさんの露店は出店できないからさ。ミレイとサルスナの手配で、それぞれの領地の人たちも、出店してもらうんだよ。毎年。近場の村や里の特産品出してもらったり、店やってる人に屋台出してもらったり。もちろん、中心町の飲食店なんかも。後は、祭りを目的にしている、ウチとは別の商人なんかも大勢いるしな」

 あ、そうか。だから、一座の人数よりも大規模な露店が並ぶのか。そりゃそうか。あれだけの数を抱えた一座になってしまうと、維持費も莫大になる。いくら役所からの祭りの仕事もある、日銭も稼げる、とは言っても、そうそう賄いきれるような規模じゃなくなる。

「そっか。で、どれくらいのスペースなの?」

 あんまり大きなスペースだと、三人でさばききれないかもしれない。俺、屋台初めてだし。居酒屋とは勝手が違うよな?

「そんなに大きくないよ。俺も、本格的な屋台はしたことないし。三人で大丈夫」

 ジンの言葉にホッとする。

「ケバブだよな?」

「うん。いつもとはちょっと違った感じのケバブにしようと思ってる」

 おっ。

「いっすね!楽しみっす!!」

「ありがとう。ミヤ君のお好み焼きもやってみたいけど、試作も作れてないから、今回はケバブってことで」

「でも、肉とか火とか、どうするんだ?」

「火はね、現地で炭火を使おうかと。ケバブは、こう……大きく肉を切って、それを大きめの串に刺してね。炭火でじっくり炙って、その串刺しの肉から肉を削ぎ落として使おうかなって」

 ふむふむ。なんか、似ている料理を知っているような?

「で、炭火で肉を焼くのと味付けは俺がやるから、鉄板でその肉を包む薄い生地を、カツミ君かミヤ君に焼いてもらいたいんだ」

 おおおおおおおお!!!

「ミヤ。生地係、頼んだ」

 俺、絶対無理。

「明日、もう一回、試作品を作るよ。ソースの仕込みも必要だし。村のみんなのご飯も兼ねて。カツミ君もミヤ君も、練習できるけど」

「無理。そんな短時間でできるようにはならない。もちろん、練習はするけど、今回はミヤに頼む」

 俺はそういう意味では、身の程を知っている。そして、できないことをできると言うと、結果的にみんなに迷惑がかかることも分かっている。

 そう。俺は雪道は歩けないとキッパリ言ってから気が付いた。今できないことは、すぐにできるようになるほど、俺は器用じゃない。

「いっすよ!!カツミさん、接客係っすね!!」

 おっ、おお。考えてみると、お金のやり取りと接客と呼び込みは、俺か。

「そうだな。頑張る」

「じゃあ、明日は朝から、二人とも特訓だね」

 ニコリとジンが笑った。おれたちも素直に頷く。そう。それはいいんだ。それは。例え三食、ご飯がケバブになろうとも、なんの不満もない。それよりも。

「あの、ジン、ごめん。実は俺たち、包丁の納期聞くの、また忘れて戻ってきちゃったんだ」

 屋台の話も一段落ついたところで、包丁の話をする。マジで忘れてたので、謝るしかない。

「うん。いいよ。祭りが終わったら、ドワーフの里にも行きたいし。直接聞くよ」

「じゃあ、俺たち、また一緒に行けるように、座長に頼んでみるよ」

 ナガとアシに乗っけてもらうと、往復が速いからな。それに、俺たちは祭りが終わったら役所での申請もあるから、一座と別行動になるし。

 待てよ。俺、実演販売やってきちゃった、よな。どうしよう、またやってくれとか言われたら。そうではなくても、話題にはなってるよ、な?

「あ、……」

「そうだね。そうしてもらえると、ありがたい」

「よし、決まったな!まずは、明日から屋台の準備だ」

 オムリがそう言って、その場にいた全員が頷いた。いやもう、話題になってようとなんだろうと、仕方がない。ジンの為だ。恥ずかしいけど、行くしかない。せめてもう少し時間を置いて、みんなが忘れかけた頃に行きたかったけど。

 露店に関しては、ロムにも手伝ってもらおう、接客係。一人でやれるかどうか不安だし。……なんだかんだ言っても、結局は俺、自分に自信がないんだよなぁ。

 ちなみに、全然出てこないカナタはどうしているかというと。

 芸事の練習がキツ過ぎて、毎日へばってる。副座長のハールのシゴキが、めっちゃハードで。休憩時間になったらバタンキュー、ご飯食べたらバタンキュー、って感じの毎日。

 くわばらくわばら。

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