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幕間 バリス編 1 ~私と憂鬱とエトセトラ~

 今日も私の悩みは解消されない。考えると憂鬱になる。

 しかし、私は諦めない。レッツ。イメチェン。


 私は狼男の一族だ。

 一族は農耕や酪農、ドラゴンとの共同運営である運送業をしている者がほとんどだが、私は思うところがあって、役所に就職した。

 役所を希望して、すんなりと就職できたのは、我ながら運がよかったと思う。期待に応えられるよう、今日も職務に精一杯邁進したい。


「バリス。今日も来てるぞ」

 お昼前、同僚から声をかけられて、手元の書類から顔を上げる。同僚の指差す方を見ると、受付のところにケバブ屋のご子息のジンさんがいらしている。

 私を見ると、ニッコリと笑って紙袋を軽く掲げた。


 数ヶ月前、私はくじ引きで新しい担当の仕事が決まった。異世界から来た二人の、異能を使った新しい職業だった。

 私の所属する新職業課は好奇心旺盛な者が多いので、希望者が多い場合、担当はクジで決めることがままある。今回の仕事も、異世界からの異能者の担当、しかも変わった異能者ということで、希望者が群がった為にクジ引きとなった。

 私はやはり、運がいい。

 このときも、希望通りに当たりクジを引いた。

 いぃよおっしゃあああああああああ!!!!!

「バリスか!!」

「俺、やりたかったあ!!」

「まあ、でもバリスだし」

 バリスだしとはいかなることか。

 当たりクジを握りしめつつ、心の中で全力のガッツポーズを決める私の耳に、聞き捨てならないセリフが届いた。

 狼男の私は、耳もいい。

「バリス、あんまり堅苦しくならないようにな」

 先輩が私の肩をポンポン、と叩きつつ、外れクジをゴミ箱に放り込んで言った。

 堅苦しいとはどういうことか。

 毎日仕事に邁進し、精進しているというのに。

 更に、私はこんなにもお茶目でフレンドリーなのに。

「バリスは真面目過ぎるところあるからなー」

 なんということだ。

 続いて聞こえてきた、同僚の言葉に内心、ショックを受ける。

 そういえば、職場で冗談を言っても笑ってもらったことがない。皆、きょとんとすることが多い。なぜだ。

 私は今日も誤解されている。

 それはさておき、その仕事の関係で、図らずもジンさんとも親しくなる機会が訪れた。

 彼はなにやら、私に会いたくて、夜中に役所に訪ねてきたという。夜も深まったころに役所の出入り口で、‘バリスを出せ’と騒いでいたということだ。

 なんということだ。

 そんなに私に会いたがってくれる人が現れるとは。

 ちなみに彼は、私の一族の食事で使用している香辛料を定期的に仕入れたいという願いがあった。翌朝、役所が開くや否や、受付に飛んできて、私を呼んで前のめりで話していた。

 ジンさんは人間であるにも関わらず、狼男の私が、思わずのけぞるくらいの力強さと勢いでお願いされたのだ。その熱意に、応えないわけにはいかない。

 そう。例え、本職の仕事とは関係ないとしても。

 素早く了承した私は、早速族長と連絡を取り、彼のところへ香辛料を卸す段取りをつけた。彼の店への香辛料の販売は、月に二回、私は一族の村へ帰るので、そのときを利用して必要な分だけ、届けることになった。

 なんの問題もない。

 それ以来、彼は試作品だと言っては、定期的にケバブを差し入れしてくれるようになった。

 嬉しい限りだ。

 あのとき、当たりクジを引いてから、更に運がよくなっている気がする。

 そもそも、彼が夜中に訪ねてくるほどの熱意で興味を持ってくれた香辛料は、私が担当している二人が働いている、天晴れという飲み屋で、それを使った料理を試食したからだという。

 その香辛料は、彼らへのお土産で渡したものだった。彼らは、自分たちだけで楽しむだけではなく、広く香辛料を使ってくれていたのだ。

 喜ばしいことだ。

 そして、彼ら二人の縁から、更にジンさんへと縁が広がったのだ。

 なんと素晴らしいことだ。

 ちなみにだが、異世界から来た二人とも、私は友好な関係を築けていると信じている。なぜなら、二人とも、私の冗談に笑ってくれるからだ。

 冗談を言って笑ってもらえたのは、実は初めてだった。特に、ミヤさんという、いつも快活な彼が大喜びで、私と一気に打ち解けてくれたのだ。

 こんなに嬉しいことがあろうか。

 

 ケバブを受け取り、スキップでもしたいような気分で自席に戻る。今度、村へ帰るときは、ケバブをたくさん注文して、手土産として持って帰ろう。

 一族への手土産の予定も立てつつ、更に心を弾ませていると、同僚がまた声をかけてきた。

「お前も大変だな、こんなにケバブの差し入れもらって」

 呆れ返ったように言う同僚に驚く。なぜだ。私はこんなに嬉しいのに。

「困ってるんなら、俺がたまには食べてやるぞ」

 これは昼食に大切に食べるのだ。全然、困ってなどいない。

 首を左右に振る。

「ほんと、真面目だよな」

 同僚は肩をすくめて歩いて行ってしまった。

 なぜだ。どうして誤解されたままなのか。

 最近知り合った人たちとは打ち解け始めているのに。

 職場でも理解されたい。私は面白いのだと。


 今日も私の悩みは解消されない。考えると憂鬱になる。

 しかし、私は諦めない。レッツ。イメチェン。 

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