表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/247

幕間 ジン編 2 ~俺とケバブとエトセトラ~

 ケバブは今日も美しい。


 カランコロン。

「いらっしゃいませ~」

 新作のケバブの試作に疲れ、飲み屋の扉を押したのは、結構遅い時間だった。店の名は、天晴れ。異世界というところから飛ばされてきた人が店主だ。

 前々からあった店ではあるが、今年に入ってから同じところから飛ばされてきた二人が加わり、三人で営業している。

 先日、妹のティルが迷惑をかけて以来、ちょこちょこと足を運ぶようになった。

 カツミ君という優し気な青年が持つ異能は素晴らしい。彼の異能のおかげで、ケバブはますます世界を輝かせている。

 それはともかく。

「やあ。遅い時間にすまないね。一人なんだけど、いいかい?」

「うっす!こちらどうぞっす!」

 ミヤ君という、いつも元気な青年がカウンターを勧めてくれる。店内にはお客さんはもういないが、いいのだろうか?

「あらぁ~ジンちゃんじゃない。遠慮してないで、いらっしゃい~」

 戸惑っていると、奥のカマド部屋から店主であるアスカさんが出てきた。

 アスカさんはいつも、気さくでいい。できないことはハッキリとできないと言うし、イエスとノーがしっかりしているところが、魅力的だ。父に負けず劣らずの体格をしているところも、自己鍛錬をしているということが感じられて、素晴らしいと思う。

「ありがとう、アスカさん」

 カウンターに腰を落ち着ける。

「何か、さっぱりした飲み物を」

「お酒でいいの?」

 黙って頷く。

 ちょっと待っててね、と言うとアスカさんは酒のボトルを眺め始めた。

 カウンターに視線を落とす。

 ケバブは今日も変わらず美しい。それなのに、俺はケバブを輝かせられるほどの新作を作り出すことができないでいた。

 新作を試行錯誤するのは楽しい。

 それなのに。

 思うような新作ができずに、ここ最近は悩んでいた。これだ!という閃きが足りない。俺のケバブはもっと輝けるはずだ。

 ケバブの試作に疲れたのではない。ケバブの美しさを引き出すことができない自分に疲れたのだ。

 数年前から月に一度は必ず店に寄ってくれる常連さんの顔が思い浮かぶ。

 イケオジの彼は、ちょっと遠いところに住んでいるらしいが、定期的に店に来てくれる。

 そして、喜んでたくさん食べてくれて、更に大量のケバブを持ち帰っていく。

 ニコニコと満面の笑みでケバブを頬張るイケオジ。言わば、心のケバブ友。

 今月も、そろそろ来てくれるはずなのに。なのに。

 無論、毎月ケバブの新作を出しているわけではない。けれども、そろそろ新作を出したいのだ。

 不甲斐ない自分にため息をついたとき、アスカさんがお酒を静かに出してくれた。

 ウィンクをして出してくれたそれを、一口飲む。

「爽やかな口当たりだね」

 それは、白ブドウ酒にオレンジを絞った飲み物だった。

 このお店は異世界の料理も出している。肉料理も、初めて食べるものもあり、楽しめる。

 オツマミは何にしようと黒板を眺めていると、平皿に盛り付けられた肉料理と小皿に入れられた香辛料が差し出された。

「?」

「お店に出そうと思っている新作よ。試してみて」

 小麦粉で作ったのだろうか。薄く丸く伸ばして焼いてある生地の上に、何種類かの野菜をみじん切りにしたものと漬物のようなものを混ぜたものが広げてあり、その上に、細切りにして焼いた肉が乗せてある。

「香辛料は、お好みでかけてちょうだい」

 指先に香辛料をつけて、少し舐めてみる。ピリッとっして香りが高い。ここら辺にはない香辛料だ。

 半分に香辛料を振りかけ、半分はそのままにする。

「クルクルって巻いて食べてね」

 言われた通りにクルクルと巻いて食べてみる。

「!!!!!!!」

 なんと!!肉と野菜、漬物の風味が薄い生地と合わさって、楽しい食感になっている。香辛料を振りかけた部分はスパイシーで、香りが高く肉の美味さを引き立てる。


 これだあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!


 勢いよく立ち上がる。

「アスカサン!!コノリョウリハ!!!!!!!」

「あ……えっと、カツミたちがバリスの村に行ったときに、お土産に香辛料をもらったから、それを使いたくて……」

「キジハ!!!!!」

「小麦粉を水でゆるーくして作った生地よ。鉄板に薄く伸ばして、広げて……」

「ヤサイノソースハ!!!」

「マヨネーズと、トマトのソースと、レモンとか入れて……」

「ウンウンウンウン!!!!!!!」

 どんどん前のめりになっていく俺とのけぞっていくアスカさんを見て、ミヤ君が俺の肩に手を乗せる。

「二人とも、倒れちゃうっすよ~」

「ミヤクン!!」

「うっす!!」

「コノコウシンリョウハ!」

「南の地方の物らしいっすよ~。バリスさんに聞いてみるといいっす」

「アリガトウ!!!アスカサン!!!」

 ミヤ君に向いていた顔をグリンと向き直る。

「はいっ」

「マヨネーズノレシピヲ、オシエテクレナイダロウカ!!」

「い……いいわよ……。明日の休憩時間でもいいなら」

「モチロンダトモ!!モンガイフシュツニスルコトヲチカウッ!!」

 次は!!バリスだな!!

「ゴチソウサマデシタ!!!!!」

 大急ぎでお金を支払い、役所へと走る。

 視界の隅に、何やらボウっとしているカツミ君が映ったが、今はそれどころではない。

 カランコロン。

 待っていろバリス、今行くからなああああああああ!!!!!


 ケバブは今日も美しい。

 あの後に走っていった役所は、夜も遅い時間だったので閉まっていた。入口で開けてくれるようにお願いしていたら、なぜか警備隊にコッテリとしぼられたが、その辺はなんの問題もない。

 いい歳をした大人なのだから一人で帰れるというのに、なぜか呼ばれてきた父に連行されたのは不本意だったが。

 次の日には朝一で役所に駆け込み、バリスには香辛料を仕入れてもらう約束もしたし、アスカさんにはマヨネーズも生地の焼き方も教えてもらった。

 ここからが本番だ。

 必ずこの試作品を、完璧にケバブを輝かせられるモノに仕上げてみせるっ!!

 イケオジの常連客にも、きっと気に入ってもらえるだろう。

「お兄ちゃん、何個も似たような物大量に作るのやめてよ」

 妹の称賛の声が、今日も聞こえる。


 そう。ケバブは今日も美しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ