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なんでもアリの異世界エトセトラ  作者: 大福満代
第一章
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第十二話 慌ただしく決まるアレコレソレ 4

 集合場所には俺たち二人とバリスがほぼ同時に着き、少し遅れてジンが到着した。が、護衛の人がなかなか姿を現さなかった。

「ちょっと、手配が遅れてるのかもしれないです」

 手配?なんか手配してんの?

「少しくらい遅れたって、平気だよ。ところでジン、出発するにあたって、店は大丈夫そう?」

「そうだね。大丈夫だと思うよ。父さんもティルも、すごく頑張ってたから」

 穏やかに言うジンだけれど、しばらく前に耳にした噂がある。ティルが、‘絶対にお兄ちゃんをギャフンと言わせる。いない間、売り上げ上げてやるんだから’と息巻いているそうなのだ。よっぽど、大変だったんだろうな、特訓。そこで放り出さないで、逆に売り上げ増へ熱意を向けるとこが、ティルは前向きだ。

「いよいよっすもんね!!」

 ミヤが言った時に、人の気配がした。振り向くと、小柄な人?魔族?が立っている。金髪碧眼でトガリ耳のその青年は、なんか。なんていうの、鳥を連れてるんだよ、二羽。それはいいんだけど、その鳥っていうのが、俺たちよりずっとデカい。そして、ダチョウとヒヨコとキウイを足して二で割ったような鳥で。なんか、馬みたいに轡?と座るとこなんていうの?が乗ってる。

 え。どういうこと。

「バリス。遅れてすまない。これの手配に少々手間取って」

 外見の印象よりもずっと、バリトンボイスで話し出した彼は、鳥の轡から伸びてる革紐?を持ったまま、バリスに近づいて行った。

 わっさん、わっさん、みたいな感じで鳥が目の前を通過する。思わず目で追いかける。と、視界の端に、今度は別の生き物が映った。セントバーナードくらいのデカさの犬!犬!でけえ!!!

 呆気に取られていると、バリスが口を開いた。

「ロムさん、急な無理を押し通してしまって、申し訳ありません」

「ほんとだね。まあでも、仕事として依頼されたんだ、やるからにはきちんとやるさ」

「よろしくお願いします」

「うん。で?」

「紹介します。カツミさん、ミヤさん、ジンさんです。こちらの方はロムさんです」

 よろしくお願いします、と俺たち三人が頭を下げていると、じっとこちらを見ていたロムが口を開いた。

「ジンは、この世界の人だな?」

「そうだよ」

 俺たちを素通りしてジンに急な会話を飛ばす。

「これ、乗れるか?」

「そうだね。乗ったことはあるよ。ただ、あんまり速いと着いて行けないかもしれない」

「二人乗りは?」

「したことがあるよ。何年も前だけどね」

 一つ頷くと、今度は俺たちを見る。

「どっちが運動神経がいい?」

 ミヤが手を上げ、俺がミヤを示す。考える余地もない。

「じゃあ、お前が一番鈍くさいんだな?」

「まあそうです」

 初対面の相手に、ずいぶん単刀直入だな。

「ジン。ミヤと一緒に乗ってみてくれ」

「分かった」

 そう言うと、片方の鳥の紐をジンに渡し、自分は俺を連れて少し離れた場所へ行く。

「馬に乗ったことはあるか?」

「馬は、ない」

「なんならあるんだ?」

「冬にトナカイが引いてるソリに乗ったよ」

「そうか。でもまあ、今回の旅はこれに乗ってもらう。馬に乗る要領で乗れ、と言いたかったんだが、乗ったことがないのではな。どうするかな」

「ここに足を引っかけて、またげばいい?」

「うん。そうだ。ただ、ちょっと馬よりはコツがいる」

 向こうではジンが見本を見せつつ乗っている。ミヤのメッチャ興奮している声が聞こえてきた。

「見てろ」

 そう言うと、ロムも、鳥の胴体部分にぶら下がっている……鐙?っていうんだっけ?……へ足を引っかけて、首横に回されている紐をグッとつかんで一気に鳥にまたがった。ってか、ロムは小柄なので、勢いをつけて飛び乗った、って感じに見える。

 よくよく見てみると、この鳥、すげえデカい。さっきもデカいと思ったけど、この、鐙も、俺の太ももの位置くらいあるし、そこからまた、飛び乗らないといけない。最初に足を引っかける鐙の上に、乗ってるときに足を固定させる用のものが、別に装着されている。

「やってみろ」

 や、やれるかな。向こうでは‘やったっすー!’とか言ってる声がしてるけど。ミヤ、すげえな。どうやって乗ったんだ。

「思い切りが大事だ。グッと足をかけたら、一息に体を持ち上げろ」

 戸惑っていると、愛想は悪いがロムが丁寧に教えてくれる。

「よいせっ」

 気合いを入れてやってみるが、体が鳥の上の方へ行かない。何度もやってみるが、腕力なのか脚力なのか。体幹なのか。もしくは全てか。足りないらしい。

 何度かのチャレンジの後、息を切らして下を向いた俺を見て、ロムが口を開いた。

「難しいか。仕方がない。動くなよ」

「え?」

 と返事をしたかしないかくらいで、俺の首の後ろを何かがぐいっと持ち上げた。そのまま宙づりになって、ロムの前に降ろされる。

 ってか、ドサッ、と、こう………鳥に胴体でまたがった感じ?

「そこから体を起こせるか?なんとかして足でまたがれ。すぐ横の革紐をつかんでいいから」

 言われて必死で両手で革紐をつかむ。背中をロムに支えてもらい、体をなんとか引き上げてまたがる。

 目の前に、鳥の顔があった。大きくて黒目がほとんどの目。まつ毛がバサバサしてる。

「うぉっ?!」

 鳥は目が合うと、すーっと前を向いてしまう。どうやら、この鳥が首根っこをつかんで引き上げてくれたらしかった。

「ありがとうな」

 小さく言うと、かすかに頷いた、気がするような。

「乗れるまでは、コイツが引っ張ってくれる。そのうち、自力で乗れるようになれよ」

 ロムの言葉に、頷く。うう、情けない。頑張ろう。

「よし、しっかり捕まってろよ」

 鳥の背中なので不安定なのもあるけど、大人の男二人なんて、重量オーバーではないのですかね?!確かにダチョウとかよりずっとデカいけど。鳥ですよね?!

「紐にしっかりつかまってろ」

 ロムの言う通りに紐につかまる。

「落ちるなよ」

 そう言うと、ロムは城壁沿いに鳥を走らせ始めた。ガックンガックンガックンガックン、と前後に揺れながら走るので、その都度、上半身が頭ごと大きく揺れる。

 オエ。これ、俺、十分くらいで吐ける。

 最悪の想像をしていると、ロムが紐を操りながら、耳元で言う。

「前かがみになれ。鳥の首に抱き着くようにして。紐をしっかり握って。舌をかむなよ」

 訳が分からないながらも言われた通りにする。すると、いきなり鳥がビョーン、と前にとんでもない速度で走り出した。ビヨーン、ビヨーン、と一歩が大きく、しかもすごい速度で前に進む。さっきまでのガックンガックン、が嘘のように、前にだけビヨーンとすごい速さで進んでいく。

 なにこれ?!メッチャ速い!!動体視力がついていかないんだけど!?

 後ろからミヤの、アハハハハハハハハという心底楽しそうな笑い声が聞こえてくる。ミヤの肝っ玉、ほんとすげえよ。

 町の城壁を一周する頃には、しがみついていた手と足、全身がヘロヘロになった。鳥から降りてグッタリしている俺を見て、ロムが無情にも言い放った。

「旅芸人の一座に追いつくために、この鳥で追いかける。出発前に、少しでも体力と筋力をつけておけ」

「はい」

 出発までの時間を考えると、体力や筋肉をつけておくなんてことは無理なのだが、そのくらいの覚悟を持っとけ、ってことだろうと、素直に頷く。

「すごいっすね、この鳥!!でっかいし速いし!!かっこいっす!!」

 ミヤが大喜びで鳥をなでる。

「そうか」

 その様子を見て、ロムが少しだけ嬉しそうにしているような気がする。

「この鳥は、ナガシ鳥という。南の地方の鳥なので、こちらにはあまりいないし、寒さにはあまり強くないので、冬は北の領地では活動できない」

「へええー!!この鳥、馬よりも速いっす?」

「そうだな。持久力でいくと馬の方が勝つかもしれないが、速さだったら、この鳥の方が早いな」

 あ、そうか。早く追いつく為に、わざわざこの鳥を手配してくれたのか。

「ジン、なんでこの鳥に乗れるんだ?」

「父は子煩悩でね。いろんなことをさせられたんだ。だから、この鳥にも乗る機会は今まで何回かあったんだよ。でも、長乗りはしたことがない」

「大丈夫だ。この鳥は賢いし、馬には負けるけど、持久力もある。もちろん、休憩時間は必要だがな」

 ロムの言葉に頷く。大人二人を背中に乗せて、あのスピードで走るんだ、休まないとやってられないよな。荷物もあるし。

「よ、よろしくお願いします」

「うん。それで、俺の相棒のルウだ。よろしく頼む」

 俺たちが鳥で走っている間、律儀に一番後ろを走ってきていた犬が、大きく鳴いた。

「犬なの?」

「狼に近いけどな。犬だ」

「人なつっこそうだけど」

「なつっこいぞ」

 そう言って、今日、初めてロムが笑った。笑ったって言っても、口の端が上がっただけだけど。かわいがってるんだな、ルウのこと。

「ロムさんは、とても優秀な人で、商人にも大人気ですね。通常の護衛の他に、旅にも慣れています」

「別に人気などない」

 照れているのか、少し俯いて言ったロムが、俺に問いかけてきた。

「旅芸人は、十日くらい前に出発したんだよな。今、どの辺にいるか分かるか?」

「分からない」

「そうか。……まあでも、十日程度なら、それほど重装備はいらないな。食料も途中で補給できるし」

 ブツブツとロムが計算をし始めている。しばらく一人で考え込んでいたが、最終的にはこちらを向いて話し出した。

「旅芸人から返事が来たら、すぐに教えてくれ。まず、防寒具とか必要なものはきちんと一式そろえておけ。水、簡易的な食糧も必要だ。三日分くらいか。とりあえず」

「分かった」

「旅芸人の一座では、仕事はもらえるんだな?」

「うん。そういうことになってる」

「じゃあ、お前たちの衣食住は、合流さえすれば問題ないな」

「多分」

「一応言っておくけど、寝袋も用意しておけよ。直で寝たくないならな」

 うひー。

「分かった」

「よし、それじゃまた、近いうちに。バリス、よろしくな」

「はい。今日はありがとうございました」

 そう言うとロムは去っていった。鳥たちに夢中だったミヤが、鳥とルウを撫でつつ、またな、と言っているのが聞こえた。

 荷造りしとけよ、ってことだよな。バックパック的な荷造りでいいっぽいよな。

「今日は鳥は、来ませんか?」

 荷造りについて考えていると、バリスが話しかけてきた。

「うん。鈴を振ったけど、来なかった。一昨日だから、鳥に手紙渡したの」

「そうですか。それでですね、これが座長に渡す手紙です」

 そう言ってバリスは鳥便用の書簡入れを渡してくれた。

「この手紙が往復すれば、いよいよ出発日が決まりますね」

 あ、そうか。

「うん、そうだな」

 いよいよなのか。ここを離れる時が近づいてきているということが現実味を帯びてくる。言いようのない心細さと、どんなことが起こるかのワクワクと。

「ロムさんには私が連絡を取りますので、旅芸人から連絡が来ましたら、お知らせください。それでは」

「うん。ありがとう」

「バリス、また店に寄ってくれ。俺たちが出発する前に」

「ぜひ」

「バリスさん、またっす~」

「はい」

 そう言ってバリスは去っていった。早い。ほんと。ん?マジのイイ男って、バリスか?そうするとバリスを目指せばいいのか?いやでも、俺にあんな風に立ち回れるか?

 なんか訳の分からん思考に入っていると、ミヤが不思議そうに言った。

「あの鳥、俺たちの他に荷物運べるんっすかね?」

「とんでもなく重たい物は難しいだろうけど、ある程度は運べると思うよ」

「ジン、すごいな、あの鳥に乗れるの」

「いや、俺じゃなくて、あの鳥がすごいんだよ。よく訓練されてると思う。乗りやすかった」

 そうなのか。ロムの仲間とかが飼育してるのかなぁ。南の鳥だっけか。

「すごかったっすね!!メッチャ速かったっす!!」

「最初のガックンガックンは俺、マジでもう少し続いたら吐くかもだった」

「おもしろかったっす!!」

「鳥にもルウにも休憩が必要だろうから、休み休み行くだろうし、そんなに心配しなくて大丈夫だと思うよ」

「そうか」

「うん。とりあえず、ロムに細かいことは任せよう。せっかくバリスが彼を雇ってくれたんだし」

「そうだな」

「言われたものを準備して、旅芸人からの連絡待ち、ってことになるね」

「うっす」

「さて、そろそろ俺たちも戻らないと。店があるし」

 そう言ったジンの言葉を合図に、俺たちは城門で手続きをして町の中へ入った。


「あれ、良くないっすか?」

 そして定休日、俺たちは町の文房具屋のようなところへ来ていた。

 ちょこちょこと仕事の買い出しの合間などに品物を買い、揃えていった道具は、なんとかナップザックくらいの大きさの袋に収めることができた。ミヤはパッキングも上手く、小さくまとめた荷物をパズルのように組み込んで袋の中に詰め込んでいった。袋を縛った上に、小さくたたんだ寝袋をくくりつけて、荷造りは完成した、はずだったが、ミヤが足りないものがあるという。

 それはなんと、手紙を書くための道具だった。

 確かに必要だけど、この世界に携帯して大丈夫な紙とかペンとかないんじゃないのかと思いきや、あるのだ、これが。考えてみると、パソコンとか電話とか、通信系の連絡手段がない世界なんだ、旅先からの連絡は手紙に頼ることがほとんどなのだろう。なので、意外なことに携帯用のペンと紙は存在した。すげえ。

 もちろん、ボールペンそのものじゃないんだけど、インクをわざわざ持ち歩かなくても、ある程度インクを注入したペンが存在する。それは、インクがなくなったら、店に持っていくと、新しいのを足してくれる仕組みになっている。

 思ったよりもたくさんの文房具的なモノに囲まれ、どうしていいか分からない俺を置いて、ミヤは興味津々で文具を見ている。

 そして、ミヤがあれよくないっすか?と言って指差したのは、手紙に封をする封蝋だった。ロウソクとかの熱で溶かして、溶けた場所を封をしたい場所へ垂らす。その上から、意匠がされたものをハンコように押す。そうすると、溶けた蝋に模様が入り、それが固まれば、手紙に封ができる。ハンコみたいになっているものは、いろんなデザインがあって、見ているだけでも確かに興味深い。

 が、なんとなくこういうところは落ち着かない。文房具屋って、来たことなかったからな。

「うん。なんか、すごくそれっぽいな」

「なんすか、それっぽいって」

 なんて言っていいか分からずにそう言うと、ミヤは封蝋のセットを手に取って眺めながらちょっと笑った。

「ミヤ、結構手紙とか書く方だったのか?」

「全然っす。おもしろいっすね、こういう店。初めてっすよ。あ、でも、ばあちゃんはよく手紙とかハガキ書いてたっすね」

 そうか。おばあちゃんが書いてたのか。なんとなくミヤが手紙を書くことに躊躇いがない理由が分かった。俺の方が、手紙というものに親しんではない気がする。子どもの頃の年賀状くらいかなぁ。物心ついた頃には、携帯もあったしなぁ。

「どうする?荷物がかさばってもダメだよな」

「そうっすよね。最低限でいいと思うっすよ。西にはまた、別の文具が売ってるかもっすから、そこで珍しいのを買って手紙にしたら、アスカさんも喜ぶんじゃないっすかね」

 なるほど。

「いいな、そのアイディア」

「楽しみっすね。とりあえず、俺、これとこれとこれっすね」

 そう言ってミヤが選んだのは、シンプルな紙と封筒、細身のペンと封蝋のセットだった。鳥のデザインが入っている。

 ほぼ即決。

 慌てて俺も決めようとするが、なかなか決められない。その様子を見たミヤが、ニコニコしつつ言う。

「俺、もっと店の中見てるから、ゆっくりでいっすよ。今日は休みだし、時間も気にすることないっす」

 そう言うと、トコトコとガラスケースの方へ歩いて行く。

 ほんと、いいやつだ、ミヤ。

 視線を手元に戻して、並べられている文具を見る。なんだかいろいろあって、どれを選んでいいか分からない。

 自分が場違いなんじゃないかって気もして、ソワソワするけれど、しっかり選ばないと。

 イイ男、イイ男と心の中で唱えつつ、たくさん並んだ文具を見ていく。やっぱりミヤが選んだシンプルな封筒と紙がいい気がして、それを手に取る。ペンも。ただ、封蝋だけは、違うのを選んだ。大ぶりの花がデザインしてあるそれを手に取り、ミヤの方へ行く。

 旅の準備をしていてつくづく思ったのは、俺たちはあんまり金を使わないで生活してたな、ってこと。

 一度だけの役所の仕事の報酬も残っていたし、普段は食住も確保されてるおかげで、店で働いた分の給料も、あまり使わないで生活していたことに気付いた。遊びまわったりもしてなかったし。遊技場には行ったけど、それくらいだもんな。

 おかげで、旅支度についてはお金の心配をすることはなかった。旅に行くにしても、金銭面で心細いということもない。ありがたいな、とつくづく思った。

 ガラスケースを熱心に覗き込んでいるミヤの隣に並ぶ。

「どうした?」

「うっす。これ、キレイだなって思って」

 ミヤが見ていたのは、木彫りで飾り細工がされている、手の平の半分くらいの大きさの筒のようなものだった。

「キレイでしょ、それ。万華鏡だよ」

 ミヤの言葉を聞いて、座って何かを読んでいた店主が眼鏡をズラして教えてくれる。

「よかったら、のぞいてみるかい?」

「いいんすか?」

「もちろんだよ」

 店主がガラスケースを開けて出してくれた万華鏡を嬉しそうに受け取るミヤ。宝物のようにそれを受け取ると、そっと覗き込む。

「キレイっすねー」

 すごくすごく愛おしそうな顔で万華鏡を覗き込むミヤは、なんだか声がかけづらくて、そして邪魔をしてはいけないような気がして、口をつぐむ。

 店主も、微笑んでミヤを見つめていた。

 穏やかに静かに、万華鏡を覗きこむミヤを二人で眺めていると、ふとミヤが我に返ったように慌てて万華鏡から目を離した。

「すんませんっす。ついつい、夢中になっちゃったっす」

 ミヤが万華鏡を店主に返そうとする。

「いいんだよ。気に入ったのかい?」

「うっす」

「そうか。ちょっとオマケしてあげるから、買っていくかい?」

「え」

 ミヤはちょっとだけ迷ったようだったけど、すぐに大きく、頷いた。

「うっす。ありがとうございますっす」

「ありがとうございます、は俺の言葉だなぁ。お買い上げ、ありがとうございます」

 店主がニコッと笑って万華鏡を受け取り、ミヤが買おうとしていた文具と一緒に包む。ミヤの買い物が終わり、俺も文具を包んでもらって店を出る。

「いいのがあって、よかったっすね」

 嬉しそうに紙袋を抱えたミヤが俺を見た。

「うん。俺も結局、ミヤと同じのにしたよ。封蝋の意匠は違うけど」

「俺がイイ男ってことっすかね!」

「そうだな、ミヤはイイ男だと思う」

 優しいし気も利く。懐も大きいし、肝も据わってる。考えてみると、ミヤってすごいイイ男じゃないか。

 っていうか、こっちに来てから、俺の周りってイイ男ばっかりじゃん。中身がイイ男ばっか。それって、きっと、すごく運がよかったんだ。

「何言ってるんすか~。照れるっすよ!」

「いや、ほんとほんと」

 二人で茶化すように笑いつつ歩き出す。

「ミヤ、万華鏡って好きなのか?」

「あ、そっすね。……子どもの頃、ばあちゃんが万華鏡を見せてくれたことがあって」

「そうなのか」

「そうっす。じいちゃんとの思い出の品だったって。ちょうどこんな大きさで。すごくキレイだったなって。ばあちゃんのこと思い出したんっす」

「そうか。万華鏡が思い出の品って、なんかロマンがあるな」

 そう言うとミヤは、子どものような顔で嬉しそうに笑った。

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