19-世界樹を狙う者-
今回、新たな十二神が…?
俺たちは世界樹、そしてその内部にある軍神の宮殿とついに対面した。大きい。遠くから見ていてもわかったが、近くから見るとやはり馬鹿でかい。神々しい魔力も内部から感じられる。
「もうすぐそこだけど…準備できたかな?」
「…ああ。特に準備するアイテムもないしな。」
「そうね。行きましょ、エイト、フェリア。」
事前に聞いた話では、この世界樹の内部に広がる迷宮のような神殿を踏破すれば、軍神の元へたどり着けるらしい。だがこの神殿、そして天を貫くように高い世界樹を踏破するのに何時間かかるのだろうか。
「…よし、行くか。」
俺は決意を込めて言った。そして途方もなく長い神殿に足を踏み入れた。
「…!?」
だが次の瞬間、俺とソフィとフェリアの三人を謎の光が覆った。その光は俺たちを包み込むように光り輝く。そしてその光はどんどん強くなる。
「何だよコレ…!」
俺たちはその光に包まれて身動きがとれない。
そしてその光が明るく白く輝き、周囲が見えなくなる。何が起こっているのだろうか。気付いたら地面の感覚も無くなっている。
「…!ここは?」
俺たちが目を開けると、そこは既に神殿への入り口ではなかった。エルゼンダルク王宮にある玉座の間のような、だがしかし、それと比べ物にならないくらい神聖で、神々しく、美しい。
そして、その部屋の奥、玉座の方から、何者かの声が響いた。
「試練に来た巫女の様だが…こんな招待になってしまってすまないな…。」
その者は、玉座から立ち上がり、こちらへ向けて歩いてくる。
純白の髪を持つ長身の男だ。黒い鎧とマントを身に着け、神々しい雰囲気を纏っている。年齢は読み取れない。だが、体内に秘めている魔力は相当のものだ。
彼は再び口を開いた。
「ようこそ、我が神殿ヴァルハラへ。私は軍神オーディン、十二神の一角だ。」
「軍神…!」
「何で私たちを…?」
フェリアが、ここにいる三人全員が思っていたであろう疑問を口にした。するとオーディンは真剣な顔になって言う。
「一刻を争う状況だったのでな。…このヴァルハラ、そしてこの世界樹ユグドラシルは、今何者かに狙われている。恐らく邪神族の一派だろう。」
「世界樹が!?それも邪神族って…!」
「ああ、冥界に封印されていた。千年程前からな。だがその封印が、一瞬だけ綻びを見せた。奴らはこの一瞬を逃さず、進軍して来るだろう。」
それは大事だ。俺は今まで邪神族に遭遇したことがない。ただ知っているのは、その強さは神族にも匹敵するということだ。
「…この世界にだけしか進軍してこないのか?」
「ああ。恐らくは。今回できた綻びは、冥界に近いこの世界までしか到達できないものであった。だが、この世界が制圧されれば恐らく他の世界までもが…、」
「…そうか。」
ならばやることは一つ。この世界も守らなければならない。それに、俺たちの世界も守らなければならない。
「…すまないが、この世界を守るのに力を貸してくれないか?…黒龍の剣士、白の巫女、そして世界樹の巫女。これが君らに課す試練としよう。」
「…はい。分かりました。私もこの世界を守るために戦います!」
フェリアが威勢よく言う。俺はソフィと顔を見合わせ、同時に微笑みながら頷いた。どうやら満場一致で賛成のようだ。
「感謝する…。こちら陣営の戦力はそれほど多くはない。この少数で相手の軍勢を凌ぎきる必要があるな…。」
「推定の数は?」
「標準型の悪魔が2000、上級種が50、邪神族が1、といったところか。」
「多いな…。殲滅なら得意だが…。」
「安心しろ、標準型の悪魔はそれほど強くない。試練として、君たちには邪神族の相手を頼みたい。」
邪神族か。恐らく強さはゼルエルなどと同等かと思われる。黒龍と互角に戦えるとしたら恐らくは邪神族最強の個体ぐらいだろう。ゼルエルやコキュートスなどと同格と想定できる。
「ああ、任せろ。奴らの進軍はいつだ?」
「…明日から四日後の間のどこかで来る。そうこの宮殿の占い師たちは言っている。それまではこの宮殿に滞在してくれ。」
「…了解した。」
♢♦♢♦
オーディンとの対面の日の夜、ヴァルハラにて。
彼らは贅沢に一人一部屋貸してもらい、敵軍の進軍まで待機していた。天蓋付きの大きなベッドにクローゼット、本棚、そして中央にテーブルが置かれた個室だ。
かつて、まだ神霊軍と冥界軍の戦争が行われていたころ、神霊軍の拠点のうちの一つになっていたらしいこの宮殿。俺が借りた部屋は、その中でも騎士長の部屋だったらしい。
俺は大きなベッドに横たわり、物思いに耽っていた。
その1000年前の大戦で、何者かの手によって分かたれた世界。互いの世界、特に冥界とその他の世界はほとんど干渉し合えないようになっていた。
だが今、その隔たりが消えようとしている。人類や神々などからすれば実に厄介なものだ。また戦争が始まることだけはどうしても避けたい。
俺がそんなことを考えていると、俺の部屋のドアをノックを音がした。そして、扉が開き、二つの人影が入室した。
「何か用でもあるか?」
「うん、ちょっと。」
俺が予想していた通り、部屋に入って来たのはソフィとフェリアだった。俺は部屋の中央にあるテーブルの椅子に腰かけた。二人もテーブルを囲むようにして座る。
そして、二人は真剣な顔で話し始める。
「…軍神の話では邪神族の一角が来るらしいじゃない?」
「それも俺たちが相手しないといけない…な。」
「うん。それについてどうするかなんだけど…。」
そう聞いてくるフェリアに対し、俺は彼女らの真剣な表情とは真逆の表情で答えた。
「まあ何とかなるって。」
「…え?」
「いつも通りに全力で戦えば邪神族なんかに負けないよ。」
俺たちは今まで、神霊獣や十二神など、例えば黒龍バハムートのような天変地異の比ではないような神々と対峙してきたのだ。今更邪悪な神に負けるはずがない。
「それに、さ。これで相手を倒せば世界樹の試練を突破したことにもなるんだとさ。これ以上に良い試練があるか?」
「…なんでそんなに自信満々なの?」
「…相手との決闘で俺が負けるわけねぇ。それだけだ。」
俺は、戦闘の時にもよく見せるかの獰猛な笑みを静かに浮かべて、不思議そうに聞いてきたフェリアに向けて答えた。
「…でも絶対に守らないとな。この世界が蹂躙されれば恐らく再び戦争が始まるし、何よりフェリアの故郷が滅びる。それだけは俺たちの力で阻止しよう。」
「…うん。そうだね。ありがと、エイト君。」
フェリアは少しだけ微笑み、俺に向けてそう言った。
翌朝、俺は外の騒がしさで目を覚ました。そして、俺の元に冥界軍が攻めて来たという報告が入ったのは、そのすぐ後だった。
次回から、第二部の大詰めです。最大の戦闘が始まります。