94 共生
◯ 94 共生
次の日、目が覚めると体中が痛くて、筋肉が張ってるのが分かった。ストレッチも頑張ったんだけど、効果があったのかは分からなかった。いつかのレイの様に階段を下りて行くと、マシュさんがコーヒーを片手に何やら書類を熱心に見ていた。
「……何だ、今度はアキの番か?」
ちらりとこっちを見たマシュさんが、呆れた顔でそんな事を聞いて来た。
「いや、交代って訳じゃないんだけど……」
とりあえず、このままじゃ、仕事どころじゃないので朝からお風呂に入る事にした。霊泉の効果があるから痛みも取れるし、汗も流せる。カシガナにも朝の挨拶に向かった。血を吸われたが、まずそうな感じが伝わって来た。う……植物にも調子が悪い事が分かるのかな? マシュさんにそのことを言ったら、そりゃ、毎日、血を吸ってたら違いも分かるだろうと言われた。
まずいという事は、普段は美味しく飲んでるってことだなと何やら、ブツブツ言っていた。乳酸が嫌いなのか、糖の濃度か、嗜好があるのか、それとも今芽生えているのか、と何やら書類に書き加えていた。
「それでその葉っぱは何だ?」
「カシガナだよ」
「それは分かっている。どうするんだ?」
ちょっぴりマシュさんの眉がぴくりと動いた。
「サラダにしようかと……」
「……その報告は無いぞ?」
更にピクピクと眉が上がりながら動いた。
「えっ? あ、あれ?」
「で、それは何時からだ?」
両眉が上がって、しっかりと睨まれながら聞かれた。
「ええ、と……」
背中の汗が流れるのを感じながら、僕は必死で思い出した。
「確か、あのカシガナを調べに来た日には食べてたよ。メレディーナさん達が来た日にもサラダにしたよ。一緒に食べたし……」
「で、具体的には?」
眉の角度が下がった。
「えーと、宙翔の所で教わった後、一、二回食べたよ……だから、これで四回目だよ」
僕は持ってる葉っぱを振って、マシュさんの顔を見た。
「……良いだろう。やっぱり張り付いていて正解だった」
普通に戻ったマシュさんを見て、僕はホッとした。
「で、それを食べるのは、カシガナも承知なんだな?」
「うん、重なりすぎてる所を貰ったよ」
「なるほどな……相互に食いあってるのか」
何やら考えながら呟いたマシュさんの言葉は、なんだか直接すぎて傷つく。
「そんな言い方はしなくても……」
「他にどう言えば良いんだ?」
「う……考えてみます」
「で、それだが、研究に一枚提出を求める」
僕の持っているカシガナを指差しながら、そう言われた。まあ、その為にいるのだから当然か。
「あ、うん。そうだね、分かったよ。サラダは食べる?」
葉を渡しながら、なにげに聞いてみたら、
「当然だ」
と、答えが返って来た。これも当然だったらしい。味の研究もするのかな?
一応、2種類作って出してみた。朝食もまだだったので、ついでに一緒に食べる事にした。レイを起こして来て三人で食べた。
「へえ、これ、カシガナだったんだ。気が付かなかったよ。確かに紫だし、言われたら同じだね」
「三人とも食べておいて、気が付いてなかったか」
「えー、だって、言われないと分からないよ。マシュはサラダ状態でも分かるって言うの?」
「……無理だな」
マシュさんは眉間に皺を寄せながらも認めた。
「ほらー、自分が気が付かない事を責めるのおかしいよ〜」
フォークを片手に頬を膨らませて、マシュさんを睨んでいた。いつもの言い合いの範疇だな、と思いながら会話を聞いていた。
「悪かったよ。……こっちの方が美味いな」
「あっ、ボクもそっちが好きだな」
どうやら、落ち着いたらしい。
「生のままだとちょっと癖があるから、そっちはお湯に少し通してあるんだ」
「ふうん、前に出てたのもこっちだよね?」
「うん、生も慣れたら美味しいけど、好き嫌いがあるから食べやすい方にしたんだ。味も知っておきたいのかと思って、一応は生も用意したんだけど」
一口食べた後は、食べやすいお湯を通した物ばかり減っていた。まあ、生は僕が食べるからいいけど。
「まあ、食用としてもいけるな。葉も実も食べれるってことか」
マシュさんがサラダを頬張りながらそう言った。
「そうだね」
僕はその様子を見て気に入ったのかなと、思いつつ見ていた。
「アキの血を吸ってるから、アキも食べてる気分だ」
隣で、レイが食べながらそんなことを言った。途端に、
「その言い方は止めろ」
と、マシュさんが嫌そうな顔をした。
「何でー」
口を尖らせて、レイが訳が分からない、といった顔をして聞き返した。マシュさんは方眉を上げて言い返した。
「気持ち悪くなるだろうが」
「そう?」
確かに。……それに言い方は二人とも良い勝負だと思うよ。




