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マッドピエロは踊り続ける  作者: うわの空
エピローグ
17/17

終演

 咲弥は通話を切ると、風花のスマートフォンを床に落とした。スマートフォンの画面に映し出されている時計を、目の端で確認する。部屋に火をつけてから、八分ほど経過していた。


 マッドピエロは、熱に強い。とはいえ、高温にさらされれば死滅する。

 ――風花達を監禁する前に、研究データは破棄した。実験用のウイルスも全て死滅させた。


 あとはこの建物に残っているウイルスさえなくなれば、ピエロとして踊り続けるのは風花一人になる。


「……もう少し」


 咲弥は荒い息を吐きながら、耐えるようにその場に蹲っていた。



 そういえば、彼女と長い坂道を自転車で登った時も、とても暑かった。アスファルトがゆらゆらと揺れていたのを、鮮明に覚えている。それから、真っ赤な顔をした彼女も。その頬に張り付いている髪も。


「……ねえ、風花ちゃん」

「なに?」

「ここ登り切ったら、何をお願いする?」

「どうしようかなー。咲弥ちゃんはもう決めてあるの?」

「うん」


 必死になって自転車を漕いでいたが、今となっては何が楽しかったのかさっぱり分からない。坂道を登り切れば願い事が叶うなんて話、いくら子供だったとはいえ自分が信じていたとも思えない。


「えーなになに、何をお願いするの?」

「まだ内緒!」

「ええ、今教えてよー」

「あ、ほら危ない。転んじゃう」


 ――きっと、彼女が側にいたから楽しかったんだろう。一緒に笑ってくれたから、嬉しかったんだろう。


「そんな些細な事で、よかったのに、ね」


 いじめを提案した徳田真由。

 同調した仲間達。

 離れていった風花。

 復讐を決意し、親友すらも赦せなかった咲弥。


 誰が、どこで間違えてしまったのだろう。



 火事が発生から、十分が経過しようとしている。咲弥は風花の通った薄暗い廊下を一瞥すると、先ほど自分が閉めた扉へと向き直った。この向こうには岸野優美と羽村ひいなの死体が、そして『燻ぶっている炎』が残っているはずだ。それはきっと、新鮮な空気を今か今かと待っている。

 ――計画通りに終わらせるのなら、この扉を開けるのは今だろう。

 皮手袋をしたまま、扉へと手を伸ばす。手袋をしている咲弥にも、鉄製の扉が相当な熱さになっているのが分かった。


「……あれ」


 震える手は、思うように動かない。頬を伝うものが汗ではないことに、気付く。

 ケロイドの上を流れるそれを拭い、咲弥は笑った。


「一度目は怖くなかったのにね」



 きっと自分は、マッチ売りの少女のように暖かな場所へは行けないだろう。



 風花の進んだ道とは背を向け、咲弥は笑った。


「本日は、ご来演頂き誠にありがとうございました! これをもって、マッドピエロのサーカスは終了させて頂きます!」


 ――幕引きは、私の役目だ。

 咲弥は息を吸い込むと、何もない場所へと続く扉を開いた。



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