君のとなり
「やぁ善人。こんなところで奇遇だね」
「善人。買い物行くから、荷物持ちして」
「ちょ、ちょっと待って、善人は今から私との用事が」
体育館でのサークル練習を終え、紗季と共に駅前に向かっていた道中で悠人とまもりに遭遇した。悠人の表情を見るに、おそらくはまもりと結託して待ち伏せしていたんだろう。
「...悠人、なんのつもりだ?今日は予定があるんだが」
「ちょっと善人、無視すんなし!」
黒幕であろう悠人を問いただすも、ご機嫌斜めなまもりが邪魔をする。紗季はまもりの勢いに負けてあわあわしている。
「まぁまぁ、こんなところで立ち話もなんだし。少し場所を変えようか」
そう言いながら悠人は駅に向かって歩き出す。不安そうな瞳で見つめてくる紗季に向かって「ホントごめん」とつぶやいて、俺は悠人の後を追うように歩き出した。
◇
「いやぁ、篠宮さん。なんだか邪魔したみたいで申し訳ない」
わざとらしく謝罪の言葉を口にする悠人。その隣でスマホを弄るまもり、相変わらず不機嫌そうな表情をしている。
「ううん、いいの。私も、柊くんの役目を譲ってもらってるわけだし」
おそらく練習の差し入れのことを言ってるのであろう紗季は、俺の隣でこのアウェイ感に押しつぶされて小さくなっている。
「で、わざわざ喫茶店まで連れてきて、何が目的だ?」
目の前の席で余裕の表情を浮かべる悠人をにらみつける。紗季との予定をキャンセルされた以上、その理由くらいは聞き出しておきたい。
「そんな怖い顔しないでくれよ、善人。これはとっても大事なことなんだよ」
相変わらず嘘くさい口調の悠人。まもりは悠人の話に興味すら示さず、黙々とスマホとお楽しみ中である。
「今日の朝、善人からプロポーズされてね」
メディアの悪質な切り抜きのように、朝の出来事の一部分だけを語る悠人。ちょっと待てぃ、それはさすがに語弊しかないだろ。
悠人の衝撃の告白に、さすがのまもりも顔を上げて絶句していた。紗季はぽかんと開いた口がふさがらない様子だ。
「待て、悠人。あれは違うだろ、お前がパートナーの話をしたから」
話を遮るように俺に向かって手を伸ばす悠人。もう片方の手を口元に当て、シーっと人差し指を立てる。
「ど、どういうことよ、善人!なんでこのホモ野郎を選ぶの!?」
錯乱状態のまもりが声を大にして問い詰めてくる。おい、公共の場でホモ野郎はやめなさい。
「...善人くんと、柊くん...が?やっぱり、そうだったんだ...」
光の失われた瞳でぶつぶつとつぶやく紗季。ちょっと待て、『やっぱり』ってなんだよやっぱりって。
「はぁ...それが、残念ながら、まだ選んでもらえてないんだ」
本当に残念そうにつぶやいた悠人が、恨めしそうに俺を見つめてきた。知らんがな、こっち見んな。
「ちょっと待って、悠人。それってマジなわけ?ファッションホモじゃなくて?」
汚物でも見るような目で悠人を睨みつけるまもり。あと、そんなファッションあってたまるか。
「そうだよ。今日の朝、僕からのプロポーズは済ませたよ」
こちらに顔を向けてウインクをする悠人。どんな顔したらいいか分からない、とりあえず笑っておこう。
「ええと、ごめんなさい。結局、これは...どういうことなの?」
瞳に光が戻った紗季が、どうにか話をまとめようと切り出す。みんなの視線は、自然とこの会を企てた悠人に集まる。
「篠宮さん、いい質問だね。なぁに、簡単な話だよ」
先生のような偉そうな態度の悠人は、流暢に話を続ける。
「善人を愛する者として、一度ちゃんと話し合いをしたいと思ってね」
悠人の率直な言葉に思わず頬を染める一同。いや、当事者がいるところで話し合いすんなよ。
「まもりも篠宮さんも、善人を狙ってるんだろ?」
悠人の問いかけに「ま、まぁ」と口ごもるまもりと紗季。これは完全に悠人のペースだ。
「ということで、立場をハッキリとさせておきたい」
独壇場となった悠人の一人語りもそろそろ終盤を迎える。悠人はひと呼吸だけ置いた後、芯のある声で宣言する。
「僕は、この三角関係には入らないから。善人の隣で、眺めているね」
勝者の笑みを浮かべる悠人の姿に、俺はただただ笑うことしかできなかった。
次回作にご期待ください




