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第15話「二十年前の真実」

バルドへの面会申請を出したのは翌朝だった。


フィアがギルドの内部ルートを使って連絡を取り、その日の夕方に時間が取れるという返事が来た。


「……思ったより早かったです」


「バルドさんが待ってたんじゃないっすかね」


「……どういう意味ですか」


「フィアさんから連絡が来ることを、ずっと待ってたかもしれないっすよ」


フィアが少し黙った。


キュウが鳴いた。


「お腹すいたって言ってますよ」


「……さっき食べたばかりですよ」


「成長期っすよ」


フィアが干し肉の切れ端をキュウに渡した。キュウが満足そうに目を細めた。


---


夕方、ギルドマスター室に三人で向かった。


カイト、フィア、テッドだ。


ガルドは廊下で待機している。キュウはガルドに預けた。預ける際にガルドが「なんで俺が狐の世話をするんだ」と言ったが、キュウがすぐにガルドの腕に収まったので問題なかった。


扉をノックすると、すぐに開いた。


バルドが机の前に立っていた。


俺たちを見て——フィアを見て、一瞬だけ動きが止まった。


「……入れ」


三人で中に入った。


バルドが椅子に座るよう促した。俺とフィアが座る。テッドは立ったまま、壁に背をつけた。


バルドがテッドを見た。


「……テッド」


「久しぶりだな、バルド」


「二十年ぶりか」


「そうだ」


二人の間に、長い沈黙が流れた。


俺は黙って見ていた。


バルドがフィアを見た。


「……お前は、エリナの娘か」


フィアが少し体を強張らせた。


「……母の名前を知っているんですか」


「知っている。エリナ・シルフィード。二十年前、Aランクパーティの魔法使いだった」


「……私の母が亡くなった理由を、知っていますか」


バルドが目を伏せた。


「……知っている」


部屋の空気が変わった。


フィアの手が、膝の上で静かに握られた。


「聞かせてもらえますか」


「……それがここに来た目的か」


「はい」


バルドが立ち上がった。窓の外を見た。ランセルの街が夕日に染まっている。


「……二十年前、親父——オルドが何をしていたのかは、俺も途中まで知らなかった」


「途中まで」


「魔物の誘導で村に被害を出し、復興費用を貴族から集めていた。その話を俺が知ったのは——エリナが死んだ後だった」


フィアが黙って聞いている。


「親父から呼ばれて話を聞かされた。口封じをした、と言った。俺に事後承諾を求めた。ギルドマスターの息子として、組織を守るために黙っていろ、と」


「……あなたは黙ったんですか」


バルドが振り向いた。


「……黙った」


フィアの目が、静かに細くなった。


「理由は」


「当時の俺には、親父に逆らう力がなかった。証拠を出せば組織ごと終わる。俺だけじゃなく、この街のギルドで働いていた全員が路頭に迷う——そう言われた」


「言い訳ですね」


バルドが少し目を閉じた。


「……そうだ。言い訳だ」


テッドが壁から離れた。


「バルド」


「……なんだ、テッド」


「お前が黙っていたことは知っていた。ずっと」


「……そうか」


「怒っていた。二十年間」


「……そうだろうな」


「今も怒っている」


バルドが頷いた。


「……当然だ」


テッドがまた黙った。


俺は二人を見ながら、ナビに話しかけた。


(ナビ)


「はい」


(バルドは嘘をついていると思うか)


「……嘘の反応は見られません。後悔と自責の感情が強いと推測されます」


(そっすね)


「……カイト」


フィアが俺を見た。


「どう思いますか」


「バルドさんは本当のことを話してますよ」


「……信じられますか」


「信じるかどうかはフィアさんが決めることっすよ。でも——今日ここに来たのは、話を聞くためっすよね」


フィアが少し間を置いた。


それからバルドを見た。


「……証拠はありますか。二十年前のオルドの行為を示す、公式な記録」


バルドが少し驚いた顔をした。


「……なぜそれを聞く」


「三年間、ギルドの内側から探してきました。でも記録が消されている形跡があった。ギルドマスターなら、消される前の記録がどこにあるか知っているはずです」


バルドが俺を見た。


「……お前が仕組んだのか」


「フィアさんが三年間やってきたことっすよ。俺は一緒に来ただけっすよ」


バルドが長い間、黙っていた。


窓の外で、夕日が沈んでいく。


「……ある」


バルドが静かに言った。


「親父が死ぬ前に、保険として残していた記録だ。俺に渡してきた。自分が死んだ後、誰かに暴かれたときの言い訳として使うつもりだったんだろう」


「それを、渡してもらえますか」


「……渡したら、ギルドはどうなる」


「それはバルドさんがこれからどう動くかによりますよ」


バルドが俺を見た。


「……どういう意味だ」


「二十年前の話を公にするかどうか、それはバルドさんが決めることっすよ。でも記録を渡してくれたなら——俺たちはバルドさんが動くまで待ちますよ」


「待つ?」


「バルドさんが自分でケリをつけるなら、俺たちが動く必要はないっすよ」


バルドが長い沈黙の後、机の引き出しを開けた。


厚い封書を取り出した。


テッドの方を見た。


「……これを、お前に渡すべきだったんだろうな。二十年前に」


テッドが黙って受け取った。


「……遅すぎる」


「そうだ」


「でも——受け取る」


バルドが頷いた。


それからフィアを見た。


「……エリナは、いい冒険者だった。俺も知っていた。お前に直接謝る資格が俺にあるかどうかわからないが——」


「今はいいです」


フィアが静かに遮った。


「……まだ、整理ができていないので」


「……そうか」


「でも——記録を渡してくれたことは、覚えています」


バルドが少し目を細めた。


それだけだった。


---


ギルドマスター室を出ると、廊下でガルドが腕を組んで待っていた。キュウがガルドの肩に乗っていた。


「どうだった」


「記録が手に入りましたよ」


「……本当に話したのか、バルドが」


「話しましたよ」


ガルドがテッドの手の封書を見た。


「……これで、二十年前の話が動くのか」


「動きますよ」


テッドが封書を見下ろした。


「……長かったな」


誰も何も言わなかった。


フィアが窓の外を見ていた。


夕日が完全に沈んで、ランセルの街に夜が来ていた。


(ナビ)


「はい」


「今日のこと、記録しておいてくれ」


「記録しました」


少し間があった。


「……カイト」


「なに」


「フィアが、泣きそうな顔をしていました」


「わかってますよ」


「……声をかけなくていいんですか」


「今は、そっとしておく方がいいっすよ」


「……そうですか」


また間があった。


「……私には、そういう判断ができません」


「そのうちできるようになりますよ」


「……本当ですか」


「ナビが変わってきてるのは、俺が一番知ってますよ」


頭の中で、ナビが静かに黙った。


その沈黙は、少し温かかった。


---


後書き


ここまで読んでくださってありがとうございます!


今回の見どころはバルドの告白でした。悪人ではなかった。でも二十年間、黙り続けた男。テッドの「遅すぎる。でも受け取る」という一言に、全部が詰まっています。


フィアが泣きそうな顔をしていた——ナビが気づいて、カイトに教えた。ナビはLv2に近づいています。




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次話予告:記録が手に入った。次は——この記録をどう使うか。そしてリリスという名の魔族の少女が、ランセルに現れる。


それでは第16話でお会いしましょう!


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