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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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38.怒らない理由



「好みはあるか?」


料理の前に立って皿を手にしたフィニアスが、エリーナに問い掛ける。


会場の真ん中に用意された長机の端から端まで、肉、魚、野菜、つまみ、デザート、スープなど多種多様な料理が並んでいる。どれも一口サイズに作られており、取り分けしやすくなっている。


身内だけのパーティーとはいえ、ここは社交場に準ずる場所。エリーナは自分でやりますと言いたい気持ちを抑えて、料理に視線を向けた。


この場合、男性に取ってもらうのが淑女のマナーだ。口元に指を添えたエリーナが真剣な表情で思案する。



「白身魚のお料理が気になりますわ。あちらに並んでいる陶器の入れ物はスープでしょうか…良い香りが漂ってきてとても美味しそうです。」


「分かった。」


エリーナの言葉に、フィニアスが嬉しそうな雰囲気で頷いた。

さっと足を動かして長いテーブルを回り込み、手際よく料理を皿に盛る。


(フィニアス様は手先も器用なのだわ。それになんて洗練された動きなのかしら。)


料理を取るだけだというのに彼の気品ある所作に見惚れるエリーナ。その一挙一動を見落とさないよう、姿勢の良い後ろ姿を食い入るように見つめる。


その後フィニアスはテーブルの端まで移動してスープの入った陶器の壺を二つ取り、皿に乗せた。エリーナの元へ戻る途中、食べやすそうな野菜料理をいくつか皿に追加していく。



「待たせたな。」

「あっ」


料理で一杯になった皿を手にして戻ってきたフィニアスを目にした途端、エリーナは自分のしでかしてしまったことに気付く。


(フィニアス様にテーブルの端から端まで歩かせてしまったわ!本来なら、取りやすい位置にあるもの若しくは相手のお任せでお願いすべきなのに、つい本音で…)


サーっと血の気が引いていく音がする。

勝手を言ってしまった罪悪感に、腹の奥がドスンと重たくなってきた。


席に向かって歩き出したフィニアスに駆け寄り、ぎゅっと彼のジャケットの裾を掴んで顔を見上げる。



「フィニアス様、申し訳ありません。大変な我儘を申し上げてしまいましたわ。淑女としてあるまじき行為を私はっ…」


自分で口にした言葉に耐えきれずに下を向く。


『本当にお前は、言われたことも出来ないのですね。いいですか、お前が取って良い行動は、教本通りか相手好みかのどちらかだけです。お前がどう思っているかなど関係ありません。』


頭の中でメロウナの叱責する声がした。

失敗する度に言われてきた言葉だ。もう治ったと思っていた傷が開き、見えない血が流れてズキズキと痛み出す。


(私は本当に何も出来ない…)


頭の中の声に反論出来るほど自分に自信がない。

簡単に失敗を繰り返す自分に嫌気が差す。


こんな自分ではいつか捨てられてしまうかもしれない…



「エリーナ」


近くのテーブルの上に皿を置いたフィニアスが振り返り、強張るエリーナの手を取った。



「こんなこと我儘でも何でもない。俺が聞きたくて聞いたことで、エリーナは聞きたかった答えを教えてくれた。それだけのことだ。」


落ち着いているいつものフィニアスの声音。


怒っている様子は微塵も感じられず、責められているようにも思えない。飾り気のない言葉は紛れもない本心に聞こえた。


でもなぜ責められないのか分からない。

分からないことが不安に変わっていく…



「フィニアス様は、どうして私のことを怒らないのでしょうか…?」


視線を上げ、息を呑んでフィニアスの反応を窺う。



「怒る…?なぜだ?」


質問を質問で返されてしまった。

フィニアスが眉を寄せる。そこに不愉快さはない。単純に疑問に思っている声音だった。



「それは私が不甲斐なく、ご迷惑を掛けてばかりいるからですわ。だからそろそろこんな私に失望してお怒りになってもおかしくな…ひゃっ!」

「考え過ぎだ。」


今にも泣きそうな表情で罪を告白するかのように話すエリーナの頭を、フィニアスがぞんざいな手つきで撫でてきた。



「可愛い妻の失敗など、俺にとっては可愛いだけだ。」

「か、かわっ…」


ぽんっと軽快な爆発音を立ててエリーナの頬が朱色に染まる。


(フィニアス様が私のことを可愛いだなんて、そんなそんなっ…)


これはよくある貴族の社交辞令のひとつであって他意はないと思うのに、動揺が止まらない。込み上げた熱は全身を駆け巡り、彼女の体温を上昇させる。


フィニアスは恥ずかしさに悶えるエリーナの姿をしっかりと堪能した後、まるで今思い付いたかのようにそ知らぬ顔で声をかけてきた。



「食べないのか?」

「食べましゅっ」

「ふふ」

「//////////////」


思い切り噛んだエリーナに、フィニアスが声を出して笑う。

エリーナは顔を真っ赤にして目に涙をためながら、彼が引いてくれた椅子に腰掛けた。


テーブルの上には、いつの間にか用意されていた二人分の飲み物とフィニアスの取って来てくれた料理が並ぶ。


彼は流れるような所作でワイングラスを口元に運び、喉を潤す。グラスは音を立てることなく元の位置に戻された。



「今後の話だが…」


エリーナは真剣な表情でひとつ頷き、背筋を伸ばして姿勢を正した。



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