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完璧を強いられた令嬢と完璧公爵の甘やかな結婚  作者: いか人参


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37/56

37.エスコート役は貴方に


皆の元を離れたシュヴァルツはマリエッタと手を繋いだまま、器用に片手だけで料理を取り分けていく。彼女の好物を中心に、見栄えよく盛り付けた。


窓際の席に皿を置くと、軽く椅子を引いて丁寧にマリエッタを座らせた。まるでお姫様のような扱いだ。

軽口を叩かずにエスコートする様はさながら忠実な騎士のようで、つい惚けた顔で見てしまう。


彼は近くにいた使用人に声を掛けて飲み物をもらうと、マリエッタにグラスを手渡した。



「はい、どうぞ。」

「ありがとう。」


渡されたのは、赤く色付いたチェリーの浮かぶノンアルコールカクテルだ。この国では15歳から飲酒が許されているが、シュヴァルツにはまだ早いと思われたらしい。



「マリエッタ・シェパードか…」


グラスに口をつけたマリエッタが小さな声で呟く。

既に公的書類も貰っており、ロナウドにも挨拶済みだが、改めて自分の名を口にすると不思議な感覚がした。



「変な感じする?」


「うん…今まで家名なんて気にしたことなかったけど、やっぱりちょっとだけ変な感じ。慣れてないだけだと思うけどね。」


「慣れなくて良いよ。」


「え?」


急に真面目な声音になったシュヴァルツに、マリエッタが不思議に思って顔を上げた。



「だってすぐに、マリエッタ・メナードになるんだからさ。ね?」


決まり切った事実のように平然と言ってのけたシュヴァルツ。片眉を上げてイタズラ顔をしていたが、その瞳の奥には真摯さが見て取れた。


トクンッと心臓の跳ねる音が聞こえる。


(なんなの、その顔はっ……)


真っ直ぐな視線に耐えきれず目を逸らし、分かりやすくテーブルの上に視線を落とした。



「……この鶏肉、とても美味しそう。」


「あ、マリエッタが照れた〜!可愛い!」


「照れてないっ!!!」


あからさまに話題を変えたマリエッタに、シュヴァルツが嬉々として声を上げた。テーブルに頬杖をつき、膨れっ面をする彼女を愛おしそうに見つめている。



「今度のデビュタントのエスコート役なんだけどさ…」


黙々と食べ続けるマリエッタの皿に、次々と料理を追加しながらシュヴァルツが口を開く。少しの機微も見落とさないようにと、上目遣いで彼女の表情を注意深く見ている。



「もし良かったら、僕に君と最初に踊る栄誉をくれないかな?」


いつもはヘラヘラとしているシュヴァルツがひどく真面目な顔で見つめてきた。いつの間にか頬杖を止めて背筋を伸ばしており、雰囲気が硬い。


それを見たマリエッタが僅かに口角を上げて息を吐く。



「貴方以外に誰がいるって言うの?」


腕を組み、思い切り横を向いて答えたマリエッタ。


(なんでこんな言い方しか出来ないんだよっ!!)


心の中で泣きそうになる。


今ではもう、シュヴァルツといることが当たり前になっていて、彼以外の人にエスコートされるなんて想像すら出来なくなっていた。


いつだって親身になって一番の味方でいてくれるシュヴァルツ。恋愛などまだよく分からなかったが、彼といることで安心してる自分がいる。それはもう偽りようのない事実で、彼以外を考える隙間なんてなかった。


しかし、いつだって邪険に扱ってきた手前、今更素直に心の内を曝け出すことなど出来ない。



「う………そ……」


茶色の瞳を丸くさせ、驚きを露わにするシュヴァルツ。いつだって意図的に表情を操る彼が素の反応を示した。


取り繕うことなく呆然として、無防備に感情を曝け出した彼の両眼にうっすらと涙が溜まる。



「マリエッタに、逆プロポーズされちゃった…」

「してないからっ!!!」


素直になれなくて落ち込んだのも束の間、斜め上を行くシュヴァルツの反応に、気付いたら大声でツッコミをいれていた。



「え、だって、僕しかエスコートの相手がいないってつまり…僕と結婚してってことだよね?僕としたことが…女性に気を使わせてしまうなんて…いや、死ぬほど嬉しいんだけどさ。うぅ…幸福過多で呼吸が苦しい…」


「はぁ…私ちょっとデザート取ってくる。」


「僕も行くよ。」


すかさず立ち上がったシュヴァルツが向かい側に回り込み、マリエッタの手を取って立ち上がらせる。



「可愛い僕のマリエッタがナンパされたら困るし。」


「いや、身内しかいないのにそんなことあり得ないでしょ。」


「身内…つまり僕とマリエッタが家族…ちょっと幸せ過ぎて胸がいっぱい…目の前が霞む…」


「連想ゲームはいいから!早く行くよ!」


惚けた顔で突っ立っている彼の手を、当たり前のように引っぱるマリエッタ。その握りしめた強さに迷いはない。



「あ、うん。」


頷いてシュヴァルツも歩き出す。


マリエッタは決して自分を置いていかない。特別扱いもせず、1人の人間として容赦なく接してくれる。

彼の人生の中で、そんな風に自分のことを扱ってくれた相手はフィニアスと彼女だけだ。


急に真面目な顔をしても茶化さず、きちんと話を聞いてくれる。軽口を叩く癖が抜けなくても、呆れるだけで見放すことはしない。


彼の作り出す表側に翻弄されずに、こんな面倒くさい中身を見てくれることが何より嬉しかった。



「ねぇ、マリエッタ。」

「ん?」


名前を呼ばれて足を止めたマリエッタが振り返る。その手をグッと引っ張り、身を屈めて彼女の耳元に唇を寄せた。



「愛してる。」

「…………っ!!!!???」


唐突な愛の告白にマリエッタの全身が真っ赤に染め上がる。これまで何度か言われてきた言葉だが、一度意識するとその効果は何倍にも膨れ上がった。


(だーかーらー!なんでそういうことをさらっと言うの!!!)


驚きと恥ずかしさと少しの嬉しさと…心をはみ出して昂る感情をどう処理して良いか分からない。真摯な愛を伝えて来た相手のことを、無情にもポカポカと叩き続けていたのだった。





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