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「これだけは譲れない。例え、ゼファーちゃん相手でも」

※ 作者リアル多忙につき、投稿が遅くなってしまいました。申し訳ありません。

(んな無茶な! 仮にそれが出来たとして、ラニアは台座を離れる寸前まで抵抗するに決まってるよ? もし、施設のメイン動力に直結する箇所をクラッシュさせられたりしたら!)

(分かっています。でも、もうこれ以外に方法がありません。ラニアを説得する段階は既に過ぎてます。それに、あの空の裂け目。晶子様は一刻も早くあれを閉じねばならないんでしょう?)

 ゼファーの言う通りだった。晶子の予想が正しければ、あの裂け目は淀みの精霊が封じられている場所に直結している。仮に直結していなくても、彼の精霊の領域内にある何処かしらに繋がっているのは明白だ。

 そこから今にも抜け出そうとする手が、今なお裂け目を広げている。

(それはっ……たしかにそうだけど……っ!!)

「晶子! 躱せ!」

「っ!」

 鑪の声に反応して、反射的に飛び退いた場所にケーブルが叩きつけられる。

「アハハハははハハハハハはハはハハハっ!!」

 正しく壊れた高笑いを上げるラニアは、完全に正気を失っているようだった。

(おい晶子、迷ってる場合じゃねーぞ! というか、お前は何迷ってんだ!?)

(それは……)

(……ラニアの事、ですよね)

「っ……」

 図星だった。一月にも満たない時間ではあったが、晶子は何だかんだラニアを放っては置けない存在だと認識している部分があった。

 警戒は続けていたが、それ以上に彼女を救いたい、幸せな結末にしてあげたいと願い始めていた。

(ラニア、なんだかんだ晶子様の事好いていましたから)

(え、ラニアが!?)

(えぇ。皆が寝静まった夜更けにやって来て、晶子様の事を沢山話しておりました)

 意外だった。まさかラニアがそんな事を言っているとは。精々自身の目的の為に利用しようと近づいてきているのだとばかり思っていたが、どうにもそれだけでは無かったらしい。

(晶子様に再編してもらったって、彼女が宝物だって大事にしてる絵を見せてくれたんです。その時、なんだかとっても懐かしい気持ちになって……)

(ゼファーちゃん……)

(だからこそ、これ以上彼女を苦しめたくないんです。もう、楽にしてあげたいんです。やった事の罪はなくなりません。けれど……! けれど……もういいじゃないですか……)

 脳内に響くゼファーの声は、今にも泣きそうだった。

(ラニア、頑張ったじゃないですか。大切な家族を殺されて、壊されて、復讐の為に自らの人生の全てを捧げて……これ以上はもう……っ!)

 それは、長年苦楽を共にしてきた同僚へ憐憫か、それとも己を作った創造者への哀れみか。はたまた、もっと深く特別な……。

(ラニアの義家族……シヤカ・アクラニャーとメイド魔道具のロータス。二人の潜在意識みたいなものがまだ残ってて、それがラニアに対して未練のようなものをゼファーに抱かせているのかも……)

 真相は闇の中だ。

(……分かった。ラニアの事、なんとか台座から引き剥がして見る)

(っ、よろしくおねがいし——)

(壊すんじゃないから。……一時的に、別の場所に寄せるだけ。全部終わったら、ラニアの事、再編するから。……いい?)

 晶子のただ一つ譲れない信念、自身が愛する推し達に幸せな結末(ハッピーエンド)を。ラニアは元々、ゲームの中には存在しなかった。けれど、この世界で出会って、晶子は彼女の事を憎めなくなっていった。

 『ラニア』という存在好きになるのに、そう時間はかからなかったのである。

「これだけは譲れない。例え、ゼファーちゃん相手でも」

(晶子様……)

 向かって来たケーブルを大太刀・煌一閃(かがやのひとひら)でいなす。

「鑪さん! ラニアを台座から引っぺがすの手伝ってください!」

「承知!」

 そう言うなり、晶子は再び襲い掛かって来たケーブルの群れを飛んで躱し、それ自体を足場にしてラニアへと急接近した。

(アルベート! ハーミーズの方はどう?)

(ダメだ、全然起きねぇ。ピクリともしないぞ)

(まじか!? どうしよ……)

(私にお任せください!)

「え」

 自信満々な様子でそう言うと、ゼファーはハーミーズの頭に向けて自身の体の中から伸ばした細いケーブルを、思いっきり叩きつけた。

 さながら、関西人が漫才コントでハリセンを使って相方を叩くようにスッパーンと。

「いったああああ!? ちょっとゼファーなにすんの!?」

「うわほんとに起こせた……」

 思わず引いてしまった晶子を尻目に、ゼファーに文句を言おうとしたハーミーズが、しかし彼女の倒れ伏して動かない姿を見て動揺する。

「ゼファー!? そんな、なんて酷い事を……!!」

「そもそもお前、一体全体どうして気絶なんかしてたんだ?」

「っ……そうだ、ラニア……! あいつ、ゼファーに掴みかかってたから止めようとしたんだけど、そのせいで背後に迫ってた攻撃に気付かなくて……」

(それで気絶してたのか……)

 成人男性の胴回りくらいの太さと、中枢の床を簡単に凹ませてしまえる重量のあるケーブルからの打撃を直に受けていたとあれば、致し方ないというもの。

(むしろよくその程度で済んだね……)

(こう見えて、石頭だったとかか?)

(……それ、鑪様の外殻とどっちが硬いですか?)

(ゼファーちゃん聞くべき場所はそこじゃないのよ……!!)

 緊迫した空気の中でも別の事が気になる様子のゼファーに、思わず心の中でツッコミを入れてしまう。

「って、そんな事より、ハーミーズ! ラニアをあの台座から引っぺがすから、手ぇ貸しな!」

「……!! わかった!」

 瞬時に状況を飲み込んだらしいハーミーズは、迫りくるケーブルに向かって魔法を放とうとする。

「わー!! バカバカ!! そのケーブルは施設内に情報やらエネルギーやら運んでるやつだから切っちゃダメ!!」

「嘘でしょ!? この数、この動きをする相手を切らずに牽制しろってこと!? んな無茶な!!」

「ふん、その程度も出来ぬのか??」

 鑪が嘲笑するように言った。

「かっちーん!! いいじゃんやってやろーじゃん!! 僕の真の力を見てろよこの野郎!」

「……安い挑発に乗りおって、いつもの余裕は何処にいった」

 呆れたとばかりに首を振る鑪の姿に、晶子は不器用なんだからと思わずにはいられない。鑪なりの心配であるのだが、当然ながら通じる訳も無く。

「うっさいこの頑固じじぃ!!」

「……」

「なんでお前ってやつは、そうやってハーミーズに対してだけ素直になれないんだよ……」

 むすっとした様子の鑪に、アルベートが肩を竦めた。

「……我は何も」

「ほんっとうにい意地っ張りというか!! 素直に心配だから無理するなって言ってやれよ!!」

 あまりの頑固さにやきもきしたアルベートが、地団駄を踏みながら言った。

「お互いに気に入らねぇところはあるんだろうけどなぁ、今はそうやって悪態つき合ってる場合じゃねーんだよ! 無駄な口喧嘩せずにしっかり手を動かせ!!」

「は、はい……」

「う、うむ、すまぬ……」

 腰に手を当てて二人を叱る姿に迫力はないのに、正論故、誰も言い返せなかった。

「おーこわ。流石お父さん」

「うっせ。それよりどうすんだ晶子」

「それなんだけど、先に向こうのがやばそうだから閉じてくるわ」

「は? 向こう?」

 晶子はそう言うと、そのままラニアによって変形した部屋を飛び出し、亀裂に一番近い場所、まるで鍵の先端部分のように突出した場所に立った。

「二人はそっちの対応とあたしの援護、頼んだ!!」

「とりあえず、晶子を守ればいいんだね?」

「雑作も無い。任されよ」

 後を追いかけて来ようとするケーブルの群れを、片や四振りの太刀で、片や風の魔法で、鑪とハーミーズが牽制する。

 それぞれの動きからして、互いの癖や行動を心得ているのは明白であり、数百年来の共闘とは思えない程の連携を見せつけた。

(やっぱりあの二人、仲いいんじゃないかな……)

 絶対に二人は認めないであろう事を考えながら、晶子は苦笑する。

(おっといけない。こっちに集中しないと)

 晶子は一度自身の両頬をパンッと叩いて気を引き締めると、空に浮かぶ亀裂に目を剥けた。最初の頃と比べても明らかに大きくなっており、穴を広げようとする手の数も増えているようだった。

「悪いけど、あんたには出てこられたら困るのよ」

 煌一閃を鞘に納めると、胸の中に抱きしめる。頭の中で穴を塞ぐためのイメージと、遠くへ攻撃を飛ばすイメージを掛け合わせ、手の中の武器をもう一度再編していく。

(遠く、遠くへ……そう、この世界に合わせるなら、弓が良い。強く、しなやかで、どこまでも遠くに飛んで、絶対に……外さない)

 黄金色の輝きと共に、腕の中の大太刀が形を変えていく。細く、けれども頑丈に。強く、しなやかに。そして遠く、どもまでも飛んで……絶対に外さない弓に。

 現れたのはハンドル部分が真鍮、弓の腕部分が白銀で作られたリカーブボウだった。真鍮部にサファイアやルビー、エメラルドに翡翠が埋め込まれており、キラキラと輝いている。

 その弓は、晶子の手に驚く程良く馴染み、微かな魔力すら帯びていた。

「……うん、重さもそれなり、弦も……ちゃんと引けるね。よし」

 晶子はそう呟くなり、弓を構える。しかし、肝心の矢は無い。ならばどうするか。

(ないなら、作れば良い……!)

 マナを矢の形に形成すると、それを番えて亀裂へと向けた。ギチギチと弦が鳴り、矢を引く腕の震えが狙いをブレさせる。

(落ち着け……初めての弓がこんな緊迫した場面だなんて想定外だけど、あたしなら出来る。ううん、やらなくちゃいけない!)

「……すぅー……はぁー……狙いを、定めて……射る!」

 引き絞っていた弦から手を離した瞬間、マナで出来た矢は轟音を立てながら飛んで行き、亀裂のど真ん中、中にいる何かに見事命中した。

 《——————————————!!!!!!!!!!》

 空間を揺らすような咆哮が轟き、幾つかの手が中へと引っ込んだ。

「もういっちょ!!」

「ヤメロオオおおおおオオおおおお!!」

 続けて一矢、二矢、更にもう一矢と射続ける晶子を止めようとラニアがケーブルを使って妨害しようとするも。

「ちょっとちょっと、僕らを無視しないでよ♪」

「貴様の相手は我々だ」

 見事な連携をとる鑪達によって阻止される。

 そうして何度も射抜かれた亀裂の中の何者かは次第に奥へと引っ込み始め、亀裂を広げようとする手はたったの四本へと減っていた。

「最後の仕上げ!」

 そう言って放たれた矢は、蒼い光の尾を引きながらまるで意思を持っているかのように飛び回る。

 亀裂の元まで到着すると、文字通り空間を縫うようにして右に左に蛇行しはじめた。

 蒼い光が刺繍糸のように亀裂の上に張り巡らされると、晶子はその光の端と端に当たる部分を摘まむような真似をして、ぎゅっと引き絞るように左右に引っ張った。

 すると、光は本当に引っ張られているような反応をし始め、大きく開いていた亀裂を徐々に小さく狭めていく。

 辛うじて穴の大きさを維持しているだけだった手の抵抗も空しく、亀裂はあっという間に閉じられて、何もなかったかのように跡形もなく消滅した。

「これでよしっと」

(はぁ~……上手くいって良かった……心臓に悪いからやめてほしい)

 そんな事を思いながら一息ついていた晶子だったが、突然足元が揺れ始め、施設が再び変形を始める。

「おわぁ!?」

「晶子危ない!」

 あわや落下する、という所を飛んできたハーミーズに抱えられる事で間一髪逃れた晶子。しかしホッとする暇もなく、形を変えていく研究所を眺めているしかなかった。

「これ、どうなってるの……?」

「晶子が空の亀裂を閉じたから、ラニアが起こってるんだよ。……ほら、見えて来た」

 あらゆる階層がごちゃ混ぜになって組み直されていく光景に圧倒されながらハーミーズの指し示す方を見れば、広々とした空間へと改築された中枢で、ラニアがこちらを睨みつけていた。

「ヨクモ、ヨくモ私ノ計画を邪魔しテクレたナ!!」

「言ったでしょ。あんたの手は取れないって」

 ハーミーズに降ろしてもらい、ラニアと向き合う場所に足を付けた晶子が弓を構える。それに倣ってハーミーズが風魔法の発動準備を始め、アルベートとゼファーを安全な場所に避難させていた鑪が戻って来る。

「前線は任されよ」

「はい、任せます。……お気をつけて」

「案ずるな、決して無茶はせぬ」

 晶子の労いに、鑪は短くもしっかりと返事をした。

「えー? 僕には無いの?」

「はいはい、あんたもしっかりお願いね」

「ちょっと適当すぎない!? ……まあ、やるけど」

(いややるんかーい)

 思わずツッコまずにはいられなかった。

「ごちゃゴチャ五月蠅イ!! お前達まトメてアの世に送ッテヤる!!」

「悪いけど、それもお断りだね!!」

 無数のケーブルが襲い来る中、晶子の一矢がラニアへと飛んで行った。

次回更新は、10/16(金)予定です。

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