第1話 入学
四月。
大阪――不良高校が街を牛耳る時代。
コンビニの前には制服姿の不良たちがたむろし、商店街には各高校の旗が掲げられている。警察すら、下手に手を出さない。
その中でも大阪で名を轟かせる一校――
愛嬌高校。
退学上等、喧嘩上等。
だが「筋」を通す奴だけが頂点へ行ける高校だった。
校門前。
桜の花びらが舞う中、二人の少年が並んで歩いていた。
田中「……デケェな、愛嬌」
170cm。鋭い目つき。短髪。
その隣を歩く、小柄な少年。
銀次「たっくん、絶対楽しいよぉ。強いやつ、いっぱい居るもん♪」
158cm。華奢。長髪。
二人は幼稚園からずっと一緒だった。
田中「お前、入学式で暴れんなよ」
銀次「えへへ、たっくんがやれって言ったら暴れるよ〜♪」
田中「言わねぇ」
銀次「じゃあやらな〜い♪」
周囲の新入生たちが、自然と道を空けていく。
「……あれ、田中じゃねぇか?」
「マジかよ……」
「“日愛中学最強バカップル”の……?」
「隣のチビが銀次……?」
ヒソヒソとざわめきが広がる。
だが二人は気にしない。
そのまま体育館へ向かった。
―――――
入学式。
壇上には、愛嬌高校を束ねる男たちが並んでいた。
まず中央。
3年B組。
番長――鬼塚。
長身。黒コート。
目だけで場を支配している。
新入生が息を呑む。
その左右には、“三鬼”と呼ばれる怪物たち。
3年A組――成田。
腕を組み、仁王立ちしている。
3年C組――初音。
長髪を揺らし、鋭い眼で新入生を見下ろしていた。
そして最後の一人。
3年B組――長口。
異様に大きい体。普通に立っているだけで威圧感がある。
鬼塚「――この学校にルールは一つだ」
体育館が静まり返る。
鬼塚「強ぇ奴が、上に立つ」
その瞬間、歓声が爆発した。
「うおおおお!!」
「愛嬌ォォ!!」
鬼塚はニヤリと笑った。
鬼塚「退学したくねぇなら、生き残れ」
―――――
ホームルーム。
1年A組。
田中と銀次が扉を開く。
ガラガラ…
教室内には、すでに喧嘩腰の連中が集まっていた。
金髪。リーゼント。刺青。
普通の高校とは空気が違う。
田中と銀次は窓側の後ろ席に座る。
銀次「たっくん、隣だぁ♪」
田中「当たり前みてぇに来たな」
銀次「えへへ♪」
その時。
前の席のひょろっとした男が、椅子をくるっと回した。
丸メガネ。細い目。
だが妙に落ち着いている。
察知丸「お前ら、田中と銀次だろ?」
田中「……誰だ」
察知丸「オレは察知丸。情報屋だ」
銀次「情報屋さん?」
察知丸「愛嬌高校の勢力図くらい知っといた方がいいぜ」
教室内の不良たちも耳を傾け始める。
察知丸「まず番長――3年の鬼塚。愛嬌の頂点だ」
田中「へぇ」
察知丸「同じく3年の三鬼は、成田、長口、初音。三人とも単独で並の学校なら潰せるレベルだが、番長に絶対の忠誠を誓っている」
銀次「わぁ、強そう〜♪」
察知丸「あと……柳」
教室の空気が少し変わる。
察知丸「アイツはヤバい。2年だが、1年の頃に当時2年だった鬼塚と引き分けてる」
教室がざわつく。
「は!?」
「マジかよ……」
察知丸「それ以降、二人は決着がついてない。だから“次の番長候補”って言われてる」
田中「……」
察知丸「他校もヤベェぞ。兵庫の“修羅工業”、京都の“黒百合”、奈良の“餓狼学院”……関西は戦国時代だ」
銀次「楽しそう〜♪」
察知丸「……お前ら余裕だな」
その時だった。
ガタン!!
教室の中央で椅子が吹っ飛ぶ。
リーゼントの男が立ち上がる。
「おいおいおい!!」
別の男も叫ぶ。
「田中と銀次って、あの二人だろ!?」
「日愛中学の最強バカップル!!」
「マジならA組のトップ決めるしかねぇ!!」
ドン!!
ドン!!
机が蹴り飛ばされる。
教師はもう居ない。
止める奴も居ない。
これが愛嬌高校だった。
リーゼントの男が前に出る。
大柄。190近い。
「オレァ1年A組の頭になる男、北澤だ」
田中「……」
北澤「田中ァ!! まずお前からだァ!!」
銀次がスッと立ち上がる。
銀次「たっくんに触るの、ダメだよぉ?」
その瞬間。
教室の空気が凍った。
北澤「……チビ、お前から潰すか?」
銀次「やってみるぅ?」
田中は静かに立ち上がった。
田中「……入学初日から騒がしいな」
クラス中の不良たちが笑いながら机を下げる。
円ができる。
1年A組。
最初の頂点決めが、始まろうとしていた。




