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「完璧令嬢」と言われた私が婚約者から「ハリボテ」と罵られてからの一週間  作者: 真岡鮫


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7/10

7.完璧な令嬢とは…1日目②

 リリアージュの前に腰をかけたアランは、背筋をピッと伸ばし眉を寄せる彼女の姿に、思わず笑みをこぼした。


「リリア嬢、緊張しすぎだよ」

「でも、アラン様とご一緒するのも久しぶりですし……緊張だってしますわ」

「そうだね。こうして二人きりで話をしたのは、君がガブリエルと婚約する前、だもんね」


 寂しげに少し目を伏せてから、アランはまるで開き直るように大袈裟に咳払いをした。

 

「……さぁ、とにかく始めようか。まずはじめに、君に聞きたいことがある」


 瞬く間に第一王子たる威厳を纏ったアランに、リリアージュは静かに息を呑んだ。


「リリアージュ・ハインツベル公爵令嬢、貴女にとって『完璧な令嬢』とはどういう令嬢かな」


 そのまっすぐな問いかけに、リリアージュはしばし黙り込んだ。

 ガブリエルとの婚約が決まってから、口癖のように彼の口から漏れる「完璧な令嬢が好きだ」という言葉に促され、リリアージュはずっと努力を続けてきた。


「……完璧な令嬢とは、容姿、教養、ふるまい、ダンス、それらすべてを誰よりも美しく、そしてたおやかに表現できる令嬢だと思います」


 これまでの自分の行いを信じ、そう誇らしげに口にするリリアージュ。

 だが、アランは無情にも顔色を変えることなく言い放つ。


「それは本当に君が思う『完璧な令嬢』なの?」


 刹那、リリアージュの心が戸惑いに揺れた。


「確かに、容姿は整っているに越したことはない。教養だって身につけるべきものはある。ふるまいやダンスも、秀でていることは素晴らしいことだ」

「ええ、ですから……」

「でも、それは、君自身が本気で望んだことなの?」

「えっ……」

「そうあるべきだと思っていたのは、君ではなくガブリエルの方、ではないのかな?」


 いつしか彼女の心にじわりと広がっていた闇に今、アランが与えた一滴の希望の雫。


「そっ、それは……」

「もちろん君はガブリエルを支えたくて、頑張ってきたんだ……間違っていたわけじゃない」


 その瞬間、リリアージュの瞳が微かに揺れ動いた。


「ほら、このドレスだって……」


 真っ赤なドレスを見つめ、アランは寂しそうに目を伏せる。


「本当は……あの花のような色が好きだっただろう?」

「それは……」


 アランが視線の先にあったのは、ブルースター。彼の瞳にもよく似た穏やかな青。

 

「もちろんこのドレスだってすごく似合っている。髪型も、アクセサリーも、君を存分に輝かせてくれている。だけどね……」


 リリアージュの顔がドレスにも負けない色に変化していく。


「好きな色を纏い微笑む君は、もっと……」


 ゆっくりとリリアージュの方を向き、アランが目を細めた。


「さぁ、リリア嬢。最初の課題だ」

「えっ……」


 唇を引き上げ、アランがリリアージュをまっすぐに見つめる。


「貴女にとって『完璧な令嬢』とは、どんな令嬢か……一週間後、さっきと同じ質問をしよう。だから今日は、それにどう向き合っていくか、自分自身でよく考えてみて」

「私、自身……」

「そう、教えられるばかりじゃつまらない。たまには、こういう時間が必要だろう?」

「でも……」

「大丈夫、そばにいるから」


 やわらかに微笑んだアランは、その後口を開くことはなく、リリアージュに視線を送ることすらなかった。

 静かにテーブルの上を本を手に取り、細く長い指でゆっくりとページをめくっていく。

 差し込む光が彼に降り注ぎ、それはさながら舞台のワンシーン。


「アラン様……」


 リリアージュは静かに息を吐き、アランに倣い本を手に取る。

 それは、前に妃教育の一環として読んだことのあるこの国の歴史書。

 よく見れば、テーブルに置かれている本は全て、リリアージュがこれまでに読んだことのある本だった。


「こんなにあったのね……」


 想像よりも高く積まれた本を見つめ、リリアージュは自然とため息をついていた。


「私にとって、完璧な令嬢……この中に『答え』は があったのかしら」


 


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