29.隣で歩む未来【完】
「アンナ、お願いだ。そこをなんとか!」
「いえ……いくらルーベンス様でも無理でございます。誰もお通しするなと、お嬢様からきつく言われておりますので……」
「でも、私は兄だぞ。少しくらい……」
「ルーベンス様……お嬢様を怒らせていいのですか」
「怒るなんて、そんな……」
「お嬢様はこのお式を楽しみにされていたのですよ。そんな日に、まさか口もきかないなんてこと……」
「そっ、それはダメだ! わかった、大人しく会場で待ってるから。リリアにそう伝えてくれ」
「……承知いたしました」
「……アンナがいてくれてよかったわ。お兄様ったら、あれほどお式の前はダメと言いましたのに」
「もし彼女がいなかったら、間違いなく入ってきていただろうな……鍵をかけていても、ルーベンスなら簡単に扉を壊しそうだし」
「さすがのお兄様でもそんなこと……できそうですね」
「だろう?」
見つめ合うアランとリリアージュは、思わず声を上げて笑った。
「それに……いくらルーベンスでも、こんなに綺麗な君を、先に見せるわけにはいかないさ」
部屋に差し込む穏やかな日差し。
その光の中に、艶やかな白いドレスを纏ったリリアージュが佇んでいた。
振り向くだけで華やかに光る金色の髪は綺麗にまとめられ、その上には王家に受け継がれてきたティアラが輝く。
そして、耳元には彼女の好きなアイスブルー、アランの瞳と同じ色のイヤリングが添えられていた。
「……綺麗だ」
自然と零れ落ちたアランの本音に、彼女は頬を赤らめ、静かに彼を見上げた。
「アラン……貴方も本当に素敵よ」
「そう?」
わざとらしく襟を正し、アランは胸を張っておどけてみせた。
タイトな白いタキシードで決めた彼のシャツにも、リリアージュの瞳と同じガーネットのカフスが光っていた。
「リリア……父の後を継ぐことが決まったよ」
「……そう」
リリアージュは小さく頷くと、穏やかな笑みでアランを見つめた。
「この後、結婚のお披露目と共に、そのことも父の口から皆に伝えられるそうだ」
「……不安ですか?」
「正直言えば、不安がないわけじゃない……だけど、隣に君がいるから、それすらもなんだか楽しいとすら思えるんだ」
「まぁ……頼もしい」
「だろう? このくらいの余裕がなければ君とは並べないよ」
アランはリリアージュの手を取り、まっすぐ彼女を見つめた。
「いずれ王となる私の横にいる女性は、君以外考えられない。リリア……覚悟はいい?」
アランの視線を受け止め、リリアージュは小さく頷いた。
「本当はね、ずっと前から思っていたの」
彼女は握り合った手を引き寄せ、アランの頬にそっと口付けた。
「花冠も王冠も……一番似合うのは、アランだって——」
終




