第四十八話 ワンショットリベレーション
仮説。
成宮は、本気で上園を邪魔者だと思っていない。
理由。
上園は、至極真っ当に恋愛してきているから。
では、何故俺が狙われたか。
それは、俺が今まで地味にアクションを起こし過ぎたから。
せっかくだ、恥ずかしい歴史を数えてみよう。
一、不地方さんに上園にぶつかるよう命じたこと。
二、火七海さんに嘘偽りを吹っかけられた腹いせに、復讐したこと。
三、理不尽に廃部に追い込まれた魔術部を復活させたこと。
四、水元に、上園の前で風羅さんに上園との関係について訊かせたこと。
以下は、成宮は知らないだろうが、敢えて上げよう。
五、金潟さんに霧茅を諦めてもらうために、肝試しを利用したこと。
自分からアクションを起こした出来事は、これくらいか。これ以外にあったとしても、細か過ぎて忘れてるから省略。
では、何故アクションを起こし過ぎたからといって、狙われる要因になるのか。
理由は、行動的な方が何をするか分からないから。成宮視点で考えるなら、恐らく俺は必ず何かアクションを起こしてくると予想しただろう。そして、それは大なり小なり何らかの悪影響を及ぼすとも考えたはずだ。
当然だよな? 上記の中で、悪影響を及ぼさなかった事柄なんて魔術部だけだぜ? しかも、これだけ恋愛が一切絡んでいない。恋愛という不確定要素、また何にでもなれる感情があるから、予想できず、また簡単に悪化してしまう。
以上、証明終了。
さて、次からは茨の道筋について語ろうか。
翌日、俺は昼休みに、上園から水元の現状について聞いていた。
上園曰く、水元は謹慎処分を受けたらしい。当然といえば当然だと思うし、それに対して驚きはない。だが、なら俺に対して教師陣から一言あってもいいんじゃないっすかね。
あれか? 俺が魔術部復活させたのが気に食わないのか? なら、"腹いせに"次は生徒会でも潰してやろうか。
いや、しないけども。つか、できないだろうけども。
話を戻そう。水元に関しては、あとは金潟さんに任せる他ないだろう。金潟さんが元凶である可能性が高い以上、もう一度、最悪脅してでも金潟さんから誤解を解いてもらう必要がある。
もちろん、フォローはする。水元はその程度で人を嫌いになったりしないだろうから、余計なお世話だとは思うが……。
さて、問題は成宮のほうだが、これに関しては最高で最悪の作戦を既に考えついている。あとは、上園が乗ってくれるかどうかといったところか――。
「……で、成宮に関してはどうするつもりなんだ?」
「なあ、上園。風羅さんのことは好きだよな?」
鳩が豆鉄砲をどうたらこうたらとはよく言ったもので。まさしく、今の上園を表す言葉と言えるだろう。
「い、いや、急に何言い出すんだよ!」
「いやー、本当に上園は火七海さんに似てるな」
「何の話だよ! 展開が急過ぎてついていけねえよ!」
「そうか? 俺はついていけてる」
「発言者がついていけてなかったら問題だろよ!」
俺は、シンプルに感じたことを言っただけなんだけどなあ。
「で、風羅さんのことは好きだけど、それがどうした」
「ああ、告白しろ」
「ああ、告白な……あ?」
鳩がどうたらこうたら。うん。やっぱり反応が火七海さんに似ている。
「告白!? 俺が!?」
「好きなんだろ? じゃあ、告白だろ」
「いや、いやいやいや。急過ぎんだろ! なんで、こんな唐突に告白しろって俺言われてんだよ!」
「はあ。じゃあ、ちょっと真面目モードで理由を話すわ」
「いや、最初からそうしてくれ」
上園は、良いリアクション芸人になれそうだ。いや、良いリアクション芸人の条件なんて知らねえけどさ。
「理由は、成宮がもうそろそろ告白するからだ」
「……えっ?」
「ソースは新聞部。疑うなら訊いてきてもいいぞ」
「えっ、いや、つか、いくら新聞部でも、そんな……」
「新聞部だからな。あいつらに、わからねえことはねえよ。といっても、新聞部は俺関連で嘘ついた前科があるからな。真偽の程は、本人にも訊いてきた」
「成宮にもか!?」
「ああ。で、告白するってさ。あいつ、やっぱ外見通りだな。あっさり喋りやがった」
「いや、でも……」
もう一押しか。
「どう思う? 成宮は成功すると思うか?」
「いや、それは……」
「しないと高を括ってるだろ。甘い甘い。知り合ってからの期間は短いとはいえ、人の気持ちなんて水物だからな。あっさりOK出す可能性も十分にある」
「……でも、なら九賀羽はどうなんだ?」
焦りからか、それとも、ようやく現実味が増してきたからか。上園の表情は、いつの間にか真面目なそれへと変わっていた。
「成宮が告白する。だから、先に告白しろって言いたいんだろ? なら、九賀羽はどうなんだ? お前だって、風羅さんのことが――」
「まあ、待て。それは分かってる。でも、冷静に考えてみろよ。成宮はともかく、今の状態で俺が風羅さんに告白して成功するとでも?」
「そんなの、やってみなくちゃ分からねえだろ」
「分からねえよ? でも、可能性が低過ぎる。今の俺は、後輩を虐めた先輩って立ち位置だからな。それに、一年の子とそういう関係だって噂もある。正直、この状態で告白しても、それはただの思い出作り――いや、苦い思い出作りにしかならないさ」
「そりゃ――いや、でも」
「なあ、上園。お前は、どうしたいんだ」
「??」
「お前は、俺と恋のライバルであることが好きなのか。それとも、風羅さんが好きなのか。どっちなんだ?」
「違う、俺は……」
上園は、馬鹿じゃない。俺のこの嘘塗れの発言に、違和感を感じるからこそ、躊躇っているんだろう。
でも、そんなことはどうでもいい。躊躇いなんて必要ない。さっさと告白に行ってくれ。さっさと俺に終わりを見せてくれ。
「…………いいんだな」
「後で文句は言わないよ。でも、成功してもしなくても、また三人で話そう。四人でも、五人でもいいけど。先ずは、三人で話そう。それが、俺の唯一の願いだ」
「ああ、分かった。約束だ」
意を決したのか、上園は真っ直ぐ俺の方を向いて、そう答えた。
これでいい。大丈夫。お前なら大丈夫。少なくとも、俺が告白するよりは、良い結果になるよ。
予鈴が鳴り、俺は上園と別れた。
これが、茨道。嘘を使って、上園を風羅さんに告白させる。
成宮を負かすということだけに重点を当てるなら、この上なく予想外な作戦。これには、さすがの成宮も対処の仕様がないだろう。
何故、この作戦を取ったか。
簡単だよ。ちゃんと言葉にもしただろ?
なんだかんだ強がっても、俺は成宮に負けたんだよ。
週明けの朝、教室に入ってすぐに、俺の敏感なアンテナはある一つの違和感を受信した。
噂話、噂話、噂話、噂話、噂話……。
まだそれを受け入れる準備が整っていなかったらしい俺は、教室を出て行きたくなる気持ちを抑え、俺は自分の机に鞄を置き、噂話に耳を傾けた。
『風羅』
一つのワード。
『告白された』
ワード。
『三年。上園。かっこいい。なんで』
ワード、ワード、ワード……。
風羅さんは、まだ教室には来ていなかった。では、上園は? 成宮は? つか、お前ら肝心の答えを噂しろよ。すげえ気になるだろ。
「なあ、凛?」
知らない人、ではなかった。霧茅だ。おおよそ、噂話を聞き、俺のクラスに来たというところだろう。
だったらちょうど良い。霧茅なら、既に結果についても把握しているだろうからな。
「霧茅、どうだった? 上園の告白は、どうだったんだ?」
「凛、お前、まさか……」
そんな顔をするなよ。別に、霧茅が何か想うこともないだろ?
「で、どうなんだ?」
「……告白は――告白は成功したらしい」
「そうか」
良かった。いや、予想通りだから、そこまで感動はしないが。
「凛がやったんだな?」
「ああ、上園に告白するよう勧めた」
「……そうか」
何か言いたそうな顔を押し殺し、霧茅は教室を出て行った。
そうか、成功したのか。
成功。予想通り。全て、俺の予想通り。
考え得る中で、一番ベストな展開。
だが、嬉しくない。何も嬉しくない。
予想通り、完璧に物事が進んだ。でも、何も、素直に嬉しいと思えない。
「茨の道、だもんな」
終わる。ようやく終わる。長かった想いの果て。ここが終着点。良くも悪くも楽しかった日常が、ようやく終わる。
これで、俺はようやく普通に――。
「よっ、九賀羽」
ああ、まだやることが残ってた。成宮の顔。その調子に乗った顔に、少しでも泥をつけてやりたかった。終わらす言い訳をくれた成宮に、恩を仇で返してやろうと……。
「……なんで」
「うん?」
「なんで、変わらないんだ」
「何が」
何故――。
「お前は……お前は、なんでいつも通りに! 何一つ変わらずに! そうやってヘラヘラとしてやがるんだ!!」
「どうして? いや、そりゃそうっしょ」
……?
「俺は、別に風羅のことなんて好きでも何でもなかったし」
「……は?」
「いや、『は?』じゃなくて。俺としては、別に風羅と付き合うつもりなんてさらさらなかったってこと」
「いや、待てよ――じゃあ、あの時の、あの言葉は全部嘘だったって言うのか!?」
「いや、そう感じたのはマジ。でも、付き合うのはねえ。タイプじゃねえし」
成宮は、何て言った?
『まあ、なんつうの? 雰囲気? ほら、読書してる時の風羅ちゃんってさ、なんつうか、すげえ神秘的っていうか』
『そりゃ、側だけじゃねえよ? 実際に話してみても、他の女と違って、着飾ってねえんだよ。純粋? っていうかさ。そういうところに惹かれた』
勘違いだったのか? 俺が、勝手な解釈をしただけなのか?
「じゃあ、なんであんな……」
「それは言えねえけど。まあ、強いて言うなら暇潰してきな?」
「暇潰し……?」
暇潰し? 暇潰しに巻き込まれた? 俺は、そんなくだらない理由に巻き込まれた?
「そこそこ楽しかったぜ。暇潰しにしては、な」
また、いつもの軽い笑みを浮かべて、成宮は去って行った。
…………。
俺は、何を……。
違う。
理由はいいじゃないか。俺は言い訳を。ただの言い訳を。気持ちの置き所を。想いの決着を。友人の応援を。ただ、欲しただけ。遅かれ早かれ。
ちがう。そんなことない。
こいつさえ現れなければ。俺はまだ。
違う。
言い訳を。
違う。
欲して。
そうじゃない。
理由。理由。理由。理由。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
理由。
違う。
ただ、諦めて。
決めつけて。
余計なことを。
俺は。
理由が、欲しかったんだろ。
行動理由を。
原理を。
納得させるだけの理由を。
上園龍という壁を越えることは出来ないという理由を。
これ以上、傷つく必要のない理由を。
お門違いもいいところだろ。成宮にキレるなんて。
俺が選んだ道なのだから。望んでいた結果は得られたのだから。
いつだって、間違ってきたのだから。




