第三十三話 フェイクギアブレイク
八月五日、月曜日。
朝から火七海さんに呼ばれた俺は、木七海さんに連れられ、火七海家に来ていた。
「…………」
火七海さんは、別荘や使用人を持っているほどお金持ちである。だったら、家も凄く豪勢なはず。と、むしろどんな非現実的な光景が見られるかドキドキしていたくらいなのだが……やはり火七海家は、俺の、割と厳しめに設定したハードルを軽々と大きく飛び越えていった。
ひたすら大きい鉄製の黒い門の先には、ひたすら大きい庭。
そして、白い大豪邸。
小難しい言葉で表現する必要はない。彼女の"家"の前では、そのような大雑把な言葉で十分だ。小細工など必要ない。
"決して"、俺が難しい言葉を知らないからというわけではない。
「遅かったわね」
大豪邸への扉を通って直ぐ、聞き入った、今の俺にとってはある種の安心感を芽生えさせてくれる声が前方からかけられた。
「すみません。彼が支度に手間取ってしまったので」
「いや、急に『うちに来い』って言われたら誰だって手間取るだろうよ」
そして、それは見た目に関しても同じことだった。
周りの光景からするに、ドレス姿で出てこられても不思議ではなかったが、火七海さんは至ってラフな格好で俺を出迎えてくれた。
つか、ここでドレス姿で来られたら、俺のTシャツジーンズ姿が本気で浮くから、ほんと良かった。
「悪かったわ。さっ、もうみんな来てるし、部屋に行きましょ」
「みんな?」
言って歩き出した火七海さんに、俺は聞き返す。
だが、冷静に考えれば、火七海さんが俺だけを家に招待する理由は無いからな。他に人が来てても不思議ではないか。
「龍と薫、それに風羅さんよ」
「いつものメンツか」
「あんたにとっては、そうでもないんじゃない?」
「……まあ、それもそうか」
いやしかし、何かの間違いで金持ち仲間でも呼ばれてたら、俺どうしようかと。
そりゃ、霧茅や木窯、蹴珠が居たら、まさしくいつものメンツになって、安心感が更に増しただろうけどさ。この場に、俺も含めて、いつもの面子は場違いも甚だしい。
「にしても、広い廊下だな」
赤い絨毯の敷かれた廊下は、人が四、五人横に立って歩いても、まだ余裕のある広さとなっている。
そのおかげか、とても開放感があり、また落ち着かない。
「そういや、メイドさんとかいるのか?」
「ええ。数十人いるわ」
「へえ、数十……」
数十? いや、まあ十分多いけど、そんなもんなのか。屋敷の大きさを考えれば、少ない気もするのだが。
つか、そこまでリアクション取れなくなってきた辺り、俺も相当感覚が麻痺してるな。
「もちろん、専属のメイドさんとか居るんだよな」
「ええ。というか実質、零耶が専属メイドのようなものね」
「へえ」
まあ、そんなに不思議でもないか。
火七海家に代々仕える木七海家。そして、木七海さんは昔から火七海さんに仕えている。
専属のメイド、いやスーツ姿だから執事という方が合っているだろうか。それに、木七海さんが"そうだった"としても、別に驚きはない。
「つか、"実質"てことは、木七海さんとは別に専属メイドさんが居るんだな」
「ええ。でも、殆ど零耶一人でこなしちゃうから、自然と雑用係に回されたわ」
さすがは、木七海さんといったところだろうか。
と、そうこう話してるうち、俺たちは目的の部屋についた。
扉の前で、二回ノックした火七海さんを先頭に、俺たちは部屋の中へと入っていく。
「うへー、また負けたっすぅ……」
部屋に入ったと同時に、聞きなれない女性の声が聞こえてきた。
「おっ、九賀羽じゃん。ちょうどよかった、一緒にババ抜きしねえ?」
「そうですよー、一緒にしましょーよー」
部屋の中で、テーブルを四方に挟むように置かれた赤いソファに、それぞれ腰掛けていたのは上園、不地方さん、そして風羅さん。プラスして、見知らぬ涙目のメイドさんだった。
ちなみに、リアルでメイドさんを見たのは人生初だったりする。
そして、人生初メイドさんが涙目という奇跡に、俺はその状況を作り出してくれた上園に感謝の意を表したい。
「龍、私はババ抜きしてもらうために実家に呼んだわけじゃないわよ」
「いや、まあそうなんだけどさ」
つか、こいつメイドさんと風羅さんと不地方さんと男女比1:3でトランプしてやがったのか。羨ましっ!
「でも、野上さんが勝つまで辞めないって」
「当然っすよ! 負けてばっかじゃ悔しいじゃないっすか!!」
さあ、もう一度勝負っす! とトランプを纏め始めた野上さんの頭に、木七海さんの平手打ちが決まった。
「い、いたいっすぅ……」
「仮にもメイドの立場であるお前が、主である輝耶様を困らすな」
「うっうぅ、究極の選択っすぅ……」
どうしてもトランプがしたいらしい。そして、勝ちたいらしい。
これには、火七海さんもため息しか出ないようだ。
「仕方ないわね。一回だけよ」
「いいんっすか! やったー!」
「輝耶様。あまり甘やかされては」
「"一回だけ"よ」
主である火七海さんのお許しが出て、目に見えて喜ぶ野上さんはトランプを七人分配り始める。
「つか、全員揃ったんだから、なんで俺たちを呼んだのか教えてくれてもいいんじゃね?」
「そうね。時間も惜しいし」
上園たちも何故、火七海家に呼ばれたのか聞かされてなかったらしい。
それにしても、今更だがこの場に風羅さんがいることに、凄い違和感を感じる。
火七海さんは、上園のことが好きなはず。なら、わざわざライバルである風羅さんを呼ぶ理由がない気が。
「話しながらでも、ババ抜きできるし」
配られた手札を確認しながら、火七海さんは続ける。
「あなた達を、わざわざ実家に呼んだ理由。それは、この家にある、私の叔父が使っていた部屋について一緒に調べてもらうためよ」
「叔父? ああ、陽炎叔父さんか」
「そうね。えっと、叔父は私の母の兄に当たる人よ」
ご丁寧に捕捉を加え、火七海さんは手札からカードを一組取り前に出した。
よくよく考えたら、上園と火七海さんは幼馴染の関係にあるんだったな。
にしても、上園どうやって、こんなお嬢様と知り合ったんだよ……。しかも、名前知ってるってことは結構付き合い深いだろ、これ。
つか、陽炎って、すげえ名前だな。
「でもいいのか? 陽炎叔父さん、俺たちに部屋に入るなって毎回言ってたじゃん」
「それは昔の話でしょ?」
「いや、まあそうだけどさ」
「それに、陽炎叔父さんから直々にお許しが出たのよ」
「へえ。なら、大丈夫か」
ちなみにだ、と一つ咳払いをして俺からジョーカーを持って行った木七海さんが口を開く。
「……。陽炎様は冒険家で、よく出先で買ってきたという怪しげな物を自室に持ち込んでいらっしゃる」
「そうっすよねー。ほんと、傷つけたら呪われそうな物ばかり持って帰ってくるんすよねー。この前も、お土産と言われて埴輪の形した鉛筆を……あ! 木七海先輩酷いっす!!」
「…………」
「そうよね。でも、だからこそ好奇心をそそるじゃない? はい、上がり」
「早っ!」
気づけば、火七海さんの手から札は無くなっていた。いや、いくらなんでも早いだろ。
「じゃあ、俺は不地方さんから引けばいいんだな。つまりだ。簡単に言うと、好奇心はあるけど一人では心許ないと」
「まあね。なんか呪われたら大変じゃない?」
「そうだよねー。はい、私も上がりー」
気づけば、不地方さんの手からも札は無くなっていた。
なんなんだ、こいつら……。
「うーん、なんかとんでもないことに巻き込まれてる気がしないでもない」
「貴様、言葉を慎め。火七海家に来れただけでも奇跡なのだぞ?」
「いや、上園とか子どもの頃から来てんだろ? 何をどうやってそうなったのかは知らんけどさ」
「いや、たまたま住んでるところというか、遊び場が近かったというか……」
印象を気にしてか、風羅さんの方をチラチラ見る上園、分かり易過ぎて面白い。
「でも、当時はびっくりしたっすよ。輝耶お嬢様が、男の子を連れきたんっすから――あああぁぁぁ」
「あと、一枚なのに中々上手くいかないものね」
「…………」
「スタート三枚っすよ? ちょっと、これは酷いっす……」
「輝耶様は一枚スタートでしたよね。さすがです」
「当然よ。まあ、薫も一枚だったんだけどね」
マジか、ちゃんと見てなかった。
ちなみに、現在のそれぞれの持ち札だが、俺が三枚、木七海さんが二枚、野上さんが風羅さんに引かれて一枚、風羅さんが二枚、上園が三枚といった状況になっている。
「さて、ここからが騙し合いの始まりっすね」
「お前は一方的に騙される側だがな」
「木七海先輩酷いっす!」
さてさて、どうなることやら――。
――といっても、残り枚数を考えれば、そこまで長丁場にはならないことは簡単に予想出来たし、現にその通りの展開になっていた。
いや、まさか俺が最後の二人のうちの一人になるとは思ってなかったけどさ。
「さあ、勝負っす!」
俺から後丁寧にジョーカーを持っていった野上さんは、残り二枚の手札を前に出す。
……残念だが、これで決まりだろう。
「さあさあ、さあさあさあ!」
俺は、先ず右側の札に手をやる。野上さんの表情は明るかった。
今度は、左側の札に手をやる。野上さんの表情は焦りを含んでいた。
俺は、そっと手を戻す。
野上さんは、典型的な顔に出るタイプだ。しかもかなりはっきりと。つまり、俺は運に任せなくとも、勝とうと思えば今すぐにでも勝てるということになる。
だが、いいのか? それで。
野上さんの負けが、第二ゲームの幕開けを告げるものだったら? そもそも、俺が負けることによって何らかのデメリットが発生するのだろうか。
野上さんは、恐らく顔に出ることに気づいていない。だったら、俺がワザと負けても特に気にすることはないだろう。
強いて言うなら周りがどう思うかってところだろうか。
……まあ、でも答えは決まってる。
俺は優しいからな。
俺は、そっと左の札に手をやった。
場所は、火七海さんの叔父さんの部屋の前。
俺たち七人は、部屋の中から漏れ出る邪悪で危険なオーラに怖気付いていた。
いや、正しくは六人か。
「にしても意外ね、風羅さんにこういう趣味があったなんて」
俺を含めた六人が、ドアを開けるのを躊躇う中、風羅さんだけは今か今かと目を輝かせていた。
まるで、待てと命令されている犬のようだ。いや、風羅さんが犬とは言ってないぞ。あくまで、例えだ。
「にしても大丈夫っすか? なんだか、立ってるだけで呪われそうなんすけど」
「そうだねー」
「なあ、火七海。マジで中に入るのか?」
「当然よ。ここまで来て引き返すわけないでしょ」
「輝耶様。ここは私が先頭を」
「いいわよ! 私が開けるから!」
意を決したのか、半ばやけくそになったのか、火七海さんは勢い良くドアを開けた。
バンっと勢いよく開かれたドアの先、先ず最初に視界に入ったのは――。
「――!!」
日本人形だった。
しかも、凄い長い髪の。
これには、さすがの俺も身体をビクつかせたし、隣の上園も軽く後退していた。
というか、火七海さんと野上さんに限っては木七海さんに抱きつき、続いて空気を読んでか不地方さんも飛びついていた。
風羅さんくらいか。反応がなかったのは。
「か、輝耶様、大丈夫です、か?」
「――えっ、あっ」
正気を取り戻したのか、火七海さんはサッと木七海さんから離れる。
それに露骨に残念そうな顔をした木七海さんを、俺は見逃さなかった。
「て、ていうか、なんで人形がいるのよ!!」
まるで不動を決意した番人のように立つ、長い黒髪を床に垂らす人形は、埃の被った目玉をこちらにぎょろりと向けていた。
確かに、これは見ているだけで呪われそうだ。
「と、取り敢えず、中に入ろうぜ」
「そうね……」
俺たちは、日本人形に興味津々の風羅さんを引っ張り、部屋の中へと入って行った……。
バタン。
「――!!!」
唐突に響く、ドアが閉まる音。
瞬間、響く女子の甲高い叫び声。
これは、危ないやつだ――。
「キャーッ!!!」
「わわわわわ、なんすか、何が起きたんすか!?」
「みんな落ち着け! ドアが閉まっただけ――!?」
「うん? 誰の手だろうー?」
「わっ! いや! 悪いっ!?」
「――!? !!」
「おいなんかすげえ生々しい音が聞こえたんだけど!?」
「おい貴様ぁぁ! 暗闇に乗じて輝耶様に手を出したりしてないだろうなあ!」
「……だ、大丈夫だ。お、俺はほんなやわな男では」
「ぎゃー!! 上園さんがやられたっすー!!」
「上園くん、大丈夫?」
「おっ、おう。この程度、何ともないぜ」
「くそー! なんも見えないからこそなんか無性に腹立つ!!」
「それより、誰か電気付けなさいよ!」
「いや、それよりカーテンを開けるっす!」
「うーん、迷うねー……あっ」
「あ?」
「えっ?」
「おいなんだ。さっきから上園何してやがるんだ!」
「ち、違うぞ。これは、事故というか不可抗力的な何かというか」
「やっばなんかしてんじゃねえかー!!」
「珍しく、九賀羽が切れたわね」
「輝耶様!? よかった、ご無事でしたか!」
「ええ。それより、早くこの場を何とかして」
「承知!」
「いでっ」
「ひえー、怖いっすー、暗いっすー、誰かー」
「誰だよ、いま俺の頭踏んだの! つか、俺立ってるのによく踏めたな!」
「輝耶様ー! この部屋に窓は無いのですかー?」
「そういえば、紫外線がどうのこうのって陽炎叔父さんが言ってた気が」
「よし、じゃあ電気を探すぞ」
「私に指図するなー!!」
「いでっ! おい、俺は無関係だ!」
「ていうか、あんたらこの部屋の物に当たったり壊したりしてないでしょうね」
「それは、多分大丈夫。そういう感触は今のところないし」
「いでっ! おい誰だ! 俺に肘打ちかましたの!」
「くっ、このままじゃ埒が明かないな。仕方ない文明の進化に頼るとしよう」
木七海さんの言葉と同時に、くっきりとした明かりが小さく急に灯された。
「スマホ、ね」
「その手があったか」
「なんで、今までバカみたいに騒いでたんすかね。私たち」
「バカだからー?」
「……否定出来ないわね」
一時のテンションとは怖いものである。これも、お出迎えしてくれた日本人形の呪いなのだろうか。
結局、入口近くのスイッチを入れ、暗闇に閉ざされていた部屋に光が灯された。
「広いな」
部屋は教室程度の広さだろうか。
窓がないため地下室のような雰囲気を持つ部屋には、それこそ俺たちが騒いでいた入口付近には何もないが、少し先には怪しげな人形から置物、壺、書物等々が乱雑に置かれていた。
恐らく、もう少し移動していたら誰かが何かを壊していただろう。
「……うーん?」
野上さんが、風羅さんと一緒に、その乱雑に置かれた数々の土産を見て回っていく。
入口近くの日本人形ほどのインパクトを持つものは他にはなく、どれもこれも不気味という言葉が似合うだけのものばかりだった。
「なんだか、もっと凄いものがあると思ったんすけどねー」
それには俺も同感である。
つまりは、なんだかよく分からないものが沢山あるだけなのだ。
言い換えれば、ガラクタの山。
部屋の前で感じていた嫌なオーラは、気づけばすっかりなくなっていた。
「そうね。でも――」
しかし、火七海さんは何か意思を持って、そのガラクタの山へと歩いていく。
まるで何かを探しているかのように、辺りを入念に見渡しながら。
「昔、陽炎叔父さんが言っていたわ」
誰に言うまでもなく、火七海さんはぽつりと喋り出す。
「この部屋には、十八で来るからこそ意味がある、と」
「十八? 年の話か」
「当時は、その意味なんてまるで分からなかった。それどころか、十八を年ではなく人数だと勘違いしていたくらいよ」
「…………」
「でも、ようやく分かった。この年になって、陽炎叔父さんに部屋のことを言われて、ようやく」
火七海さんは、立ち止まりガラクタの山の中を漁り始める。
何を探しているのかは知らないが、俺も手伝うとするか――。
「あっ」
「!?」
手伝おうと歩き出した瞬間、また電気が消えた。全く、今度は誰が消したんだ?
「すみませんっす」
「野上、後で説教だからな」
「ひえー!」
「ひえー、じゃねえよ。取り敢えず、電気を点けっ――いでっ」
直後、軽い浮遊間に襲われた俺は、そのまま落下し、尻を強打する。いや、最初は転けただけかと思ったのだが、どうにもそうではないらしい。
つか、俺さっきから痛い思いしかしてねえ……。
「大丈夫?」
声は火七海さんのものだった。それは、すぐ横から発させられているようで、どうやら火七海さんも俺と同じように落下? したらしい。
らしいという曖昧な表現を使った理由は、まだ暗闇の状態が続いているからである。
「取り敢えず、ルクスの確保だな」
「バカっぽく見えるから、そういう中途半端に横文字使うのやめたら?」
「まるで、前からよく使っていたかのように言うのはヤメロ」
「はいはい。それより、ようやく見つけられたわ」
「ん? なにが? 探し物か?」
「そうね。探し物かもね」
曖昧な言い方をする彼女が、今どんな表情なのかは分からない。だが、今の状況、つまり俺と火七海さん以外の人の気配、また声がしない状況に全く動じていないということだけは分かった。
「せっかくだし、話でもしましょうか」
「うん? いや、それよりも今の状況をどうにかする方が先なんじゃねえの?」
「この場所は知ってるし、暫くどうにもならないことも知ってる」
「そうなのか? じゃあ、ここは何処なんだ? 他のみんなは何処にいるんだ?」
「あんた男でしょ? もうちょっと余裕見せたら? そんなんだからモテないんでしょ」
「何故、今俺がボロクソ言われてるのか理解出来ねえんだが」
「……はあ。仕方ないわねえ」
大きな溜息をついて、彼女は話し始めた。
今いる部屋は、先ほどまで居た部屋に繋がる隠し部屋らしい。だが、ただの隠し部屋ではなく、二人しか入れない部屋なんだとか。一体どういう仕組みなのか。それは、火七海さんでも分からないのだとか。
つか、なら今の俺は異性と真っ暗な部屋で二人きりということになるのか。……風羅さんとが良かったな。
「ついでにネタバレすると、私は賭けをしていたのよ。ここに誰と入るのか」
「上園と入ったら百万円、とかか?」
「自分によ。誰と入るかで、どうするかを決める」
「上園と入ったら告白するとか?」
「……腹立つけど当たりよ」
「マジか。じゃあ、俺と入った場合はどうなるんだ?」
「……終わらすのよ」
「終わらす? なにを――」
火七海さんは話し始めた。
恐らく、相手が俺だから。微妙な、知人。しかし、自分のことをよく知っている知人。
だからこそ、嘘偽りなく自分の気持ちを話したのだろう。
自分の、今の自分の上園に対する率直な気持ちを。
火七海さんは迷っていた。
自身の想いに。自身の身の振り方に。
引くべきか、戦い続けるべきか。
決心させたのは、先日の金潟さんと高橋さんの戦いだった。
だが、プライドの高い彼女は、ただ単に引くという行為を許せなかった。
だから、彼女は知ろうとしたのだ。
二人の想いを。
自分に勝ち目がないという残酷な現実を、直視しようと。
プライドが邪魔をした。
だから、彼女は酷く傷ついた。
だが、気づけばその心には、雲ひとつない青空が広がっていた。
やめてくれよ。
まるで、こういう方法もあったんだと、あのやり方は間違っていたと、再認識させるような真似を。
火七海さんは、笑顔で皆を見送った。
皆は、車中で疲れて寝てしまっていた。
俺だけを除いて。
助手席から、バックミラー越しに肩を寄せ合う二人を見て、火七海さんの選んだ道の正しさと、俺自身の選んだ道の険しさを感じながら。
あとがき
九「やっと俺の出番か。でも、なんで相手がお前なんだ? 風羅さんだろここは?」
上「風羅さんは次回だな」
九「じゃあ、俺は二回連続か?」
上「残念ながら大人の事情で無理だ」
九「大人の事情だと……!」
上「それより、次回は遂に祭り回らしいな」
九「あ、ああ、夏休み回ラストを飾るらしい」
上「楽しくなるといいな」
九「最後だからな」
上「ということでじか――」
九「次回、『 リノ 二 イ、 リノ 二 ウ』」
上「また、取られた……」




