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第二十七話 クウソウダイレクトショット

 現在の状況を端的に説明するとこうなる。


 上園(かみその)火七海(ひなみ)さんと月下(つきか)さん、俺こと九賀羽(くがわ)が、一つの机の上で勉強をしている。


 つまり、勉強会をしているということだ。ちなみに、場所は上園の住んでいるアパートである。つまり、上園の自室ということになる。

 では、何故、勉強会をすることになったか。それは簡単。受験生だから、勉強会の一つや二つやっておこうぜ、と上園が提案したからだ。

 では、何故この四人なのか。それも簡単。当初誘っていた風羅さんが風邪で寝込んでしまったため、代役として火七海さんと月下さんが呼ばれたということだ。

 つまり、当初は俺と風羅さんと上園で勉強会をしようということになっていた。結果としてそれは叶わなかったかが、風邪ならば仕方ないだろう。見舞いに行った火七海さん、月下さん曰く、辛そうだったらしい。


 ……見てみたかっ――ごほんごほん。


「ここってどう解くんだっけ」

「はあ。ここは……」


 火七海さんは、上園に近づき、問題の解説を始める。どうやら、本当に火七海さんは上園を諦めたらしい。らしい。らしい? まあ、いいか。

 ちなみに、四人の頭の出来具合だが、月下さんがトップ、次点で上園、火七海さん、そこから数段落ちて俺という形になっているようだ。根拠は、現在行われている火七海さんの解説が理解出来ないから。以上。


「なるほどなあ」

「これくらい楽勝でしょ?」


 室内は、上園が気を利かせてクーラーをつけており涼しい。もし、ここで上園が違う意味で気を利かせ、クーラーを付けなかったら色々と捗ったのだろうが、ここは上園の真面目さが勝ったといったところか。

 いや、もしかしたら、そもそもそんなことを上園は一瞬たりとも考えていなかったのかもしれない。だが、それはそれで、同じ男子高校生として、ちょっと心配になるレベルではある。


「……そろそろ休憩するか?」


 その声にふっと思考を辞めた俺は、上園と目が合う。

 どうやら、俺に向けて発せられた言葉らしい。難しい、いや疲れた顔でもしていただろうか?


「ああ、いやどっちでもいいけど」


 言いつつ、俺は視界の端で他の二人を捉える。二人とも、まだまだ行けるといった感じだった。まあ、この程度なんでもないのだろう。


「……四十分くらいか。よし、一休みしよう」


 ここに着いたのが十三時半頃。今は室内の時計曰く十四時半頃だ。

 いつの間にか、時間は経っていたらしい。まあ、異性の隣で、しかも割と近くで過ごしているのだから、そりゃ時間なんて気にする余裕なんてなく。時間が経つのが早く感じるのも仕方がないというものだろう。


「そういえば、風羅さんは自分で小説とか書いたりしないのかな?」

「えっ?」


 唐突も唐突。しかも、この場にいない者に関する発言に、発言者である月下さん以外は目を丸くする。


「また、えらく急にきたわね」

「まあね。いや、前から気にはなってたんだけど、いつだったか直接訊いた時は上手い具合に流されたからねえ」


 流した? 月下さんを? すげえ。


「で、どうだろうって。ふと」

「凄い、"ふと"だな。うーん、でも読むの好きなら作るのも好きなんじゃねえのかな?」

「そうかしら。あんまりそういうイメージないけど」

「意外と頭の中は妄想ワールドでいっぱいだったりしてね」


 風羅さんが、妄想…………。


「よし、いい機会だし、今からなんか作らない? ねえ、九賀羽君も一緒に」

「うん!? あっ、いや、俺もかよ。つか、どうやって四人で小説を作る気だよ」

「リレー小説、みたいなさ。いい気分転換になるんじゃない?」


 休憩してるのに頭使わせるのが、良い気分転換??

 まあ、いいか。なんか面白そうだし。


「じゃあ、どうしよっかな。モチーフ決めた方がやりやすいかな?」

「モチーフ? 例えば、昔話を改良するとか?」

「そう、例えば桃太郎とか」

「いいね、桃太郎。分かりやすいし、作りやすそうじゃん」


 桃太郎か。桃から生まれた桃太郎が、仲間を集めて、鬼を退治する。

 なんか、考えてみるとRPGみたいだな。桃太郎って。


「じゃあ、早速。じゃーんけーん」


 ポン。


 じゃんけんの結果、上園、火七海さん、月下さん、俺という順番になった。

 上園の前か……捻るか。


「じゃあ、俺からな。『むかーし、むかし……というのは嘘で、時は近未来』」


 上園は、いきなり物語を改変し語り始める。


「『ある高級住宅地に、おじいさんとおばあさんが住んで居ました。おじいさんは、山へゴルフ場を建設しに。おばあさんは川へダムを作りに行きました』。ほい、次は輝耶(かぐや)

「ここでとか無茶振りでしょ。 ええと……『ある日、ダムの建設を進めていたおばあさんは、川の上流からある物が流れてきたのに気づきました』。はい、パス」

「無茶振りを無茶振りで返すとはさすが火七海さん。じゃあ、『それは、自然保護団体によって川に流されたおじいさんでした』」

「怖えよ!」


 なんだよ、川に流されたおじいさんでしたって! 黒い何かが見え隠れしてるよ!!


「『あらまあ、おじいさんでしたか。おばあさんは、振り返りダム建設の指揮を取り続けます』。はい、頑張れ九賀羽君」

「いやいやいやどう頑張れと!? つか、じいさん助けてやれよ!!」

「嫌だよ」

「即答かよ!」

「まあ、そこは九賀羽が助けてやればいいんじゃないかな」

「それもそうか。なら、『おばあさんは気が変わり、おじいさんを助けることにしました。ダム建設推進派によって救助されたおじいさんは、懸命の心臓マッサージもあり、無事に息を吹き返しました』。どうだ、助けてやったぜ」

「別にいいけど、凄い真面目に描写したわね」


 いや、だってかわいそうじゃね?


「じゃあ、次は俺な。『すると、息を吹き返したおじいさんは飲み込んでいた大量の水とともに桃を吹き出しました』」

「強引ね」

「まあ、そのあたりはファンタジーだしな。じゃあ、次は輝耶」

「そうね……『こっ、これは、幻の桃じゃないか!? 推進派の一人が吐き出された桃を見てそう言いました。そうです。それは幻の、この世界を無に帰す存在が封じられている桃だったのです』。はい、パス」


 火七海さん、すげえノリノリじゃねえか……。つか、なにがどうなって幻の桃を飲み込んだんだよ、このじいさん。


「良い展開だね。じゃあ、『その桃を見ておばあさんは言いました。小腹も空いたし休憩しようか』」

「幻の桃を、小腹が空いたからって食おうとする、ばあちゃん凄えな」

「おばあさんの器量の大きさが伺えるね。じゃあ、ここらで九賀羽君にパス」

「技量の間違いだろ。……うーん、じゃあ『おばあさんは包丁を取り出し、桃を真っ二つに切りました』。はい」

「『プシュー』」

「おい待て。月下さん、今は俺の番だぞ。えっと、『すると中から、赤ん坊の泣き叫ぶ声が』――」

「『どろっ』」

「どんだけグロい展開にしたいのよ。全く、九賀羽が変なことするから」


 原作通りの展開にしたのに、何故か矛先が俺に。


「じゃあ、次私ね『なんと桃の中から小さな男の子が出てきました。そうです。彼こそ、この世界を零に導く存在なのです』。はい、パス」


 そして、何故か火七海さんは中二的な表現をする。


「やっと私か。待ちわびたよ。『こ、こいつはやべえですぜ! ダム建設推進委員会から幾つもの恐怖混じりの声が飛んできます。しかし、そんな声など余所に、おばあさんはその子を優しく抱き上げました。ふははははっ、この子が居ればダムを滞りなく建設できるわ!』。はい、九賀羽君」

「このおばあさん畜生じゃねえか!」

「さっきもおじいさん見捨てようとしたからね」

「そうだった!」

「なら、またここは九賀羽の腕の見せ所だな!」

「そうなるのか……『そうはさせん! 声と共に一筋の雷がおばあさんの身体を突き抜けました』」

「うん、殺しちゃダメだと思う」

「それはないでしょ、あんた」

「見損なったぜ」

「思った以上に大不評で泣きたい……」


 つか雷が突き抜けただけで、死んだとは描写してないからセーフだと思うんだ。いや、現実的に考えると、間違いなく死んでるけど。


「これは、上園君にかけるしかないようだね」

「期待してるわよ」

「おう。『雷が突き抜けた刹那、同時におじいさんにも雷が落ちました』」

「お前、さっき俺の展開に文句いってたよな?」

「いや、だって片方だけ殺すのもな?」

「いやいや、そもそも、殺しちゃダメって言ったのお前ですやん……」


 理由になってねえよ……。


「『二人の老夫婦が死んでから幾らかの時が過ぎ……。桃から生まれた、通称桃太郎は立派な若者へと成長していました』」

「急に進めたね。それにしても、ようやくプロローグが終わったってことかな?」

「ここから、犬、キジ、猿と出会って、島に行くんだよな?」

「鬼ヶ島な。島だけだと、ただの観光だ」

「九賀羽細かい」

「ほんと、だからあんたは九賀羽なのよ」

「確かにね。もうちょっと、大雑把さも欲しいよ。九賀羽君」


 お前ら、俺になんか恨みでもあんのか。あれか、まだあの事件のこと引きずってんのか。


「うん。少しグダってきたし、ペースを上げていこうか。鬼ヶ島に到着した――」

「端折り過ぎだろ!」

「そう?」

「せめて出会いくらいは描写しようぜ!?」

「仕方ないな。九賀羽君、こういうことは一回だけだよ」

「まるで、俺が駄々をこねたように言いやがった……」

「では、仕切り直して。『ある日、いつものように蒔きを割っていた桃太郎の耳に、ある噂が飛び込みます。数日後、この超科学都市にバイオテロを起こそうとしている者がいると』」


 何故、サイバーテロではないのか。何と無くなんだろうが、どうにも腑に落ちないし、そこからどうやって鬼ヶ島に繋げるのか全く想像できない。


「『桃太郎は決心します。バイオテロを起こそうとしている輩を見つけ出し、襲わせる前に襲ってやろうと』」

「…………」

「ツッコミのない九賀羽君なんて、九賀君と同義だよ」

「誰だよ!」


 敢えてツッコまなかったらこれだよ!


「さて、続き。『ならば、仲間がいる。桃太郎は、さっそく準備し、仲間探しに都会へと繰り出しました』。はい」

「老夫婦殺したから、割と大事なアイテムでもたる『きびだんご』を持たせられないな」

「その辺りは九賀羽が上手くやってくれるでしょ?」

「無茶振りに次ぐ無茶振りに折れそうだよ……」


 なんだろ。目の前に、木窯(こかま)水元(みなもと)がいるみたいだ……。

 まあ、いいか。ここまで来たら、トコトンリアリティを無視しよう。


「じゃあ、『仲間探しに都会へと繰り出した桃太郎は、さっそく喋る犬、雉、猿と出会いました。そして、事情を説明したところ、三匹の協力を取り付けることに成功したのです。更に仲間を探していると、ミニスカ女子高生、死んだ目のサラリーマン、中小企業の社長さんと出会いました。同じように事情を説明すると無事仲間になりました。更に同志を探すためコンクリートの道を進む桃太郎一向。そんな彼の前に、イベントから帰宅途中の達成感に満ち溢れたオタク、現実という悪夢にうなされる新卒社会人、そして、絶望を希望へと還す者が現れました』――」

「さすがは、九賀羽君。それでこそ君だよ」

「月下さんの俺への評価が気になるところだけど、取り敢えず上園、パス」

「ここで俺に振るのか。そうだな『更に仲間捜しを続行する桃太郎の前に、なんと都民に虐められている亀が現れました』。ほい、がんばれ」


 浦島太郎が混ざってきたんだが。


「そういうことね。じゃあ、『桃太郎はその腰に携えていたマサカリで都民を撃退します。しかし、ある都民だけはそれをひらりとかわしてしまいます』。はい」


 ファンタジー要素が濃くなっていくのと同時に、縛りが発生したことに驚きしかない。そして、浦島太郎、金太郎ときて次に月下さんが何を選択するのか地味に楽しみなんだが、果たして何を選択してくるのか。


「いいね。なら、『都民は笑みを浮かべ言います。貴様が桃太郎か。ふふっ、竜宮城の鬼姫と呼ばれた私を倒せるかな』」

「乙姫様じゃねえか!!」


 つか、仲間の亀を虐めたのか、この鬼姫!


「『そうか、貴様がバイオテロを画策しているテロリストか! 桃太郎、そしてその一行は鬼姫に対して一斉に武器を構えます』。ほい」

「そうだな、『これが最後の戦いだ! ―ご愛読、ありがとうございました』。」

「打ち切りエンドかよ!! つか、ぜってえ飽きただろ!」

「まあ、そろそろ休憩時間終了でいいかなって」

「そういえば、なんで私たちこんなことし始めたんだっけ」

「よくわからない事は、よく考えても分からないもんだよ。ということで、勉強でも再開しようじゃないか」


 月下さんに上手い具合に纏められ、上園と火七海さんは勉強を再開した。

 なんだろう、このモヤモヤ感は。でも、月下さんの言う通り、考えても答えは出なさそう、というよりめんどくさいので俺も、他の三人に倣って勉強を再開した。


あとがき


水「いつきん、なんか次回予告して欲しいって頼まれたんだけど」

金「そう、なんだ」

水「でもさ、私次回予告とかやったことないんだよね」

金「うん」

水「でも、頼まれたからにはやっちゃうよ」

金「がんばって」

水「いや、いつきんもやるんだよ?」

金「えっ? わ、わたしは……」

水「ほらほら時間ないから、取り敢えずタイトルだけ読み上げて」

金「え、えっと、次回『ビューティフルマジックシーサイド』」

水「次回は遂に水着回です!」

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