第十四話 平→W@喝&→(→望)→観
今日を終えれば四連休、つまり世間でいうゴールデンウィークに突入する。
そんなテンションの上がる木曜日。
「えっと、……あっ、これ何て意味?」
「それは――」
今日は、知らない言葉の意味を教えてもらっているようだ。
見慣れた光景は、例の事件があってからも何の変化もなく続いている。
現状維持。あくまで表面上のことだが、正直嬉しい気持ちの方が大きかった。
不地方さんと激突した上園を心配する風羅さん。
二人の仲に亀裂を入れようと仕掛けた作戦は、図らずも二人の仲を急接近させる作戦となった。
変化がないのは表面上のことに過ぎない。注意深く観察してみると、二人ともお互いに距離を図っているような、何処かぎこちなさを感じる。
もう、二人の間に俺の入る余地は無いのかもしれない。
でも、ならこの気持ちはどうなる?
……決まってる。
以前と同じように、心の奥底に隠しておけばいい。
視界の入らない所に、大事に大事に仕舞っておけばいい。
心を入れ替えよう。
これからは、大切な人と楽しそうに話す彼女を見守るんだ!
「ダメですよ!」
ダメらしい。
昼休み。俺は、水元さんに昨日の作戦について呼び出され、廊下に出ていた。
「諦める? じゃあ、私に言ったことはどうなるんですか!?」
「……そういえば、そうだっけか」
「そうですよ! 忘れないでください!!」
「うーん……」
確か、水元さんには俺たちと目的が同じだから、一緒にどうすればいいか考えようぜ、って誘ったんだっけ。
しかし、意外だな。水元さんなら、愛想を尽かして一人で行動を起こしそうなもんだが。
「"ある理由"っていうのも、りん先輩が小夜先輩のことが好きっていうことなんでしょう?」
「なんだ、分かってたのか」
「一番確実な理由だと思ったので」
「怒らないのか? 水元さんの好きな風羅さんを、最終的に俺は横取りしようとしてたんだぞ?」
「別に、そうするならそうさせないだけですから。それに、先ずは上園をどうにかしなきゃですし」
「なるほどね」
何をされるやら。まあ、その心配ももう無くなったわけだが。
「話を戻そうか。何故、俺が手を引いたら困るんだ?」
「……私は一人じゃ、怖くて何もできませんから」
水元は視線を下げた。
「昔から勢いだけで行動しちゃって、いつだって周りに迷惑をかけてきました。今回だって同じです。でも、りん先輩たちは私を止めてくださいました」
だから、俺が降りたら自分一人で行動し、何をしでかすか分からないか。不器用な子だな。
つか、昔は止めてくれる人がいなくて周りに迷惑をかけてきたのか。……もしかして、この子前科持ち!?
「だから、その、困るんです! 中途半端ですし!」
俺も同じか。周りを巻き込むという点では。
結果、三人ほど傷つけてしまったし。
……仕方ない。水元さんの恋愛の手助け役として、頑張るか。
「分かった」
「本当ですか!?」
「ああ、だから今から作戦会議しに行こう」
「了解です!」
やっぱり、水元さんのような元気な女の子には笑顔が似合う。
そう、俺の初恋相手のように……。
さすがに、ゲリラ的に作戦会議は出来ないということで、放課後行うことになった。
なので、俺は水元さんと別れ一人校舎内をぶらぶらと歩いていたのだが……。
「…………」
「…………」
数日前と全く同じシチュレーション。
消え入りそうな声、いや音と共に裾を引っ張られ、俺は足を止めていた。
「金潟さん?」
振り返った瞬間、顔を紅潮させ直様、俺から距離を取ったのは霧茅に恋する小動物系女子、金潟一輝さんである。
「…………」
「…………」
例によって言葉を発しない彼女に、俺も同じように黙って反応を伺う。
両手は自身の裾の辺りをぎゅっと握り締め、目線は時折こちらを見上げるように向けられるが直ぐに外される。
霧茅よ、何故こんな可愛さの塊である彼女を振ったし。いや、俺も風羅さんという名の女神がいるから、もし告られても渋々振ってただろうけど……。
「……あの」
決心がついたのか、一つ小さく息を吐き、彼女はこちらに目を向けた。といっても、見ているのは俺の胸の辺りだが。
「き、霧茅先輩とは、どういう関係なんですか?」
「えっと、友人だよ」
そういえば、ラブレターを渡された時、お知り合いですか? としか訊かれてなかったっけ。
しかし、今更、関係を訊くということは、間違いなく霧茅についてだな。大方、霧茅の好きなものとかを訊きたいんだろう。
「えっと、じゃあ、あの、どうすれば、その……」
俯いて黙ってしまった。
仕方ない。推測して、答えるか。
どうすれば、と訊いてきたということは、どうすれば自分の事を好きになってくれるでしょうか。といったところだろうか。
「えっとさ、霧茅に彼女がいることはもう聞いた?」
「……はい」
「あいつさ、知ってると思うけど、ああ見えてめちゃくちゃ真面目なんだよ。だから、少なくとも彼女がいる間は誰からの告白も受けないと思うよ」
だから諦めろ。君ならもっと良い人を見つけられるさ。と言って、簡単に諦められたら苦労はしないか。
「……でも、私、諦めたくないんです」
初めて、彼女は俺と目を合わせた。直ぐに逸らしたが。
それは、決意の目。力強い小さな声。一体、あいつの何処にそこまで惚れたのだろうか。
「……分かった。じゃあ、霧茅の友人として出来ることなら何でも協力するよ」
自分と重ねてしまったのだろうか。それとも、その目にやられたのだろうか。それとも、ただ可愛いからか。
どうにも、放っておけない。霧茅の性格を考えるなら、金潟さんの勝ち目はゼロだ。でも、手を差し伸べたくなる。力を貸したくなる。
「……ありがとう、ございます」
少し涙ぐんでいただろうか。
深く頭を下げ、彼女はサッと小走りで去って行った。
良かったのか? 勝ち目がないと分かっているのに、手を差し伸べて。
分からないな。でも、確率はゼロじゃないし。
頼られているんだから、やっぱり力を貸してあげたいよな。
放課後。いつもの場所に、俺たちは集合していた。
「にしても、お前意外と凹んでないのな」
「木窯こそ、作戦メンバーからハブられていじけてるのかいてててててて」
木窯のヘッドロック、地味に痛い!
「まあ、良かったよ。凛、無理してんじゃないかって思ってたから」
「正直、また勝手に凹んでるとは思ってたぜ」
「そうですぞ。作戦が見事なほどに悪い方向に成功してしまったのですからな」
「悪いな。あと、木窯ごめんなさい放して」
いててて。やっと、放してくれた……。
「でも、小夜さんのことを諦めるってのは意外だったけどな」
「まあ、いいんじゃね? どのみち勝ち目なかったし」
「そうですな。顔、性格から考えて九賀羽殿に希望はなかったですし」
「お前ら言いたい放題だな」
顔はともかく、性格なら負けてねえと自負してるよ。
と、そろそろ本題に入らねえとな。
「で、肝心の水元さんだけど」
「はい! みなさんのお力をお貸しください!」
彼女の誠意の籠った礼に、俺も含めた四人は「もちろん」と頷く。
と、言ったはいいが、今の二人の仲を引き裂くなんて出来るのだろうか。正直、また今回のように逆効果な結果になる気しかしない。
そもそも、水元が上園付きを妥協さえすれば、後は本好きになり、性格をもう少し抑えれば簡単に友達くらいにはなれると思うんだよな。
二人が出会って間もない頃なら、無理矢理水元さんと風羅さんをくっ付けて、上園が入る隙を潰すことが出来ただろう。だけど、今なら間違いなく、有る程度親しくなったら風羅さんの方から上園の名前を出してくる可能性がある。もちろん、読書仲間という体でだが。
「確認だけど、水元さんとしては上園排除は最優先事項なんだよね?」
「もちろん!」
うん、正攻法は無理だな。
となると、二人の仲に亀裂を入れなきゃならんのだが……。
「上園が潰せるなら、私なんだってやるので遠慮なく言ってくださいね」
笑顔で何を言ってるんだろうか、この子。
あれか、可愛く言ったら大丈夫という……確かにそうだな。いや、遠慮はするけど。
「思いついた」
不意に、そう言ったのは木窯だった。
なんだろう、嫌な予感しかしない。
「先ず、風羅さんと水元が仲良くなる。で、適当なタイミング、いや上園がいる前で、それとなく恋愛に関する話題を振る」
「上園の前で、ですか?」
「その方が効果がでかいからな。難しいなら、あいつを野菜とか案山子だと思えばいい」
それ、よく人前で緊張しない方法として使われるものだよな。
「それで、ここからが水元の腕の見せ所になるが、その話題の中で上手く風羅さんが上園を好きなんじゃないか、という方向に持ってくんだよ」
「マジですか……」
やっぱり、嫌な予感的中。
その方法は、俺も少し前に考えついたものだ。風羅さんの性格を考えると、恐らく恋愛というものに距離を置いているはず。つまり、風羅さんとしてはそういう話題は避けたいのだ。そんな彼女に、上園が好きなんじゃないかと訊けば、直様否定するだろう。それによって、二人の関係をギクシャクさせるのが目的だ。
だが、この作戦を行えば風羅さんを傷つけることになる。そう考えたから、俺は俺の中で却下したのだ。
でも、改めて考えてみるとどうだろう?
そもそも、風羅さんを傷つけずに二人の仲を引き裂くことなど出来ないんじゃないだろうか。
まして、初めて二人が出会ったあの日に比べたら、ここ最近の二人の関係は、もう切っても切り離せないものになっているのではないのか?
「――という具合に、風羅さんは自ら上園と距離を置くということだ」
「なるほど……」
木窯の理由解説が終わり、水元さんは腕を組み考え始める。
作戦とはいえ風羅さんに上園が好きなんじゃないかと訊くことによる恐怖。そして、恐らく一番彼女にとって大事なことだと思うが、上園の前で話さなければならないという悪夢。
これらと、上園の排除を天秤にかけているのだろう。
まあ、答えは聞くまでもないだろうが。
「分かりました。やってみます」
「そうこなくちゃなあ」
不敵な笑みを浮かべる木窯は、まるでRPGにおけるボスの一つ手前で地味な嫌がらせをしてくる敵Aといったところか。
「きりっち先輩と柳先輩は、 どう思います?」
「俺は、問題ないと思う」
「我輩も問題ないと思いますぞ」
「分かりました。では、こままん先輩の案でいきましょう」
あれ? 俺には訊かないの? いや、別にいいけどさ。
「じゃあ、先ずは風羅さんと知り合いにならなきゃな。あと、こままんはやめろ」
「それは簡単です。りん先輩とは違うので」
「そうだよなあ、水元は"りん先輩"とは違うよなあ」
「悪かったな、水元さんと違ってヘタレで」
「いやいや、私は別に"りん先輩"がヘタレだなんて一言も言ってねえけどなあ」
腹立つ。けど、言葉では勝てないから、もう言い返さないでおこう。
しかし、これで作戦が上手くいったら、さすがの俺も本気で凹むぞ。
「さて、じゃあ今日はもう帰るか」
霧茅の言葉に、各々帰り支度を始めた。
あとがき
例
それは、戻れぬ選択になり得るのか。
それは、後悔のない選択になり得るのか。
If
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early early early
REALLY?
RELAX RELAX RELAX......
それでも、私は選択するでしょう。




