第十三話 down↑↑up↓↓
睡眠とは恐ろしいもので、どんな気持ちもリセットしてくれる。
作戦が失敗し、俺は逃げるように夢の世界へと落ちて行った。
どんな夢を見たかは憶えていない。
ただ、一つのシーンを除いて。
「…………」
悲しそうな表情を見せる少女。
今までも、彼女が俺の夢に出てくることはあった。その度に、俺は楽しく話したり、遊んだり……どんな形であれ、目覚めの良い夢ばかりだったと思う。
それは、今も同じだ。
夢の世界で、好きな人と出会えたのだから。
それは、所詮は夢の世界なのだから。
昼休み。
飯をダラダラと食っていた俺の前に現れたのは、火七海さんだった。
読書部に関してだろうか? 表情を見る限り、機嫌が良くないのは分かったので、多分全く違うことだろう。
というか、恐らく今朝のことだな。
「ねえ、作戦のこと、なんで事前に私に話してくれなかったの?」
「…………」
やっぱりか。
「後で言うつもりだったよ。ただ、その時は作戦に必要な人数が揃ってたから言わなかっただけで」
「薫が言ってたわ。作戦内容は金曜日に聞いたって」
なるほど。いくら不地方さんでも、友人からの追求には素直に応じるか。まあ、単に「火七海さんには黙ってて」と俺に言われたことを忘れていた可能性も否定できないけど。
「意図して黙ってたんでしょ? 私に知られるとまずいから」
「いや、そうじゃないよ。偶々、その日は火七海さんと会わなかったから」
「そんなの、どうとでも言えるじゃない」
「それは、火七海さんもそうでしょ? 知られるとまずいから伝えなかったなんて、ただの憶測に過ぎない」
「……それは」
火七海さんは、もうダメかな。まあ、読書部紹介してくれたし、感謝はしてるけど。
「まあいいわ。それより、私はあんたが薫にそういう役目を負わせたことが許せない」
「そう」
「そう、って……」
「やるやらないを決めたのは不地方さんだよ? 俺が無理矢理やらせた訳じゃない」
「そういう問題じゃ」
「不地方さんが怒ってるとか、精神的に傷ついたとかなら今から行って謝るよ。でも、そうじゃないなら、まあ感謝の言葉がまだだからどっちにしろ行くけど」
「あんた……」
"最低ね"。例えば、そんな言葉でも言おうとしたのか?
まあ、仕方ないよ。そう言われても。火七海さん、俺の印象だと優しいからそんなこと言わないだろうけど。
「……これ以上、薫に近づかないで」
「ああ、分かった」
最後まで何かを言いたそうにしながら、火七海さんは教室を出て行った。
いつ怒鳴り出すかとヒヤヒヤしたが、なくて良かった。
しかし、これで火七海さんと不地方さんは使えなくなったか。まあいいさ、代わりは居るにはいるし。
それにしても、今日の弁当美味いな。
六限目の数学は嫌がらせだと思う。こんな眠たく、また怠い時間帯に頭を動かそうなんて無理難題だ。
だから、俺は一人作戦会議を脳内で開くとしよう。
先ず、現状の整理だ。
作戦は失敗に終わった。何が失敗なのか? それは、二人の反応を見たら分かる。
事件が起きた後、風羅さんは心配をし、上園はそこまでリアクションを見せずに笑顔で平静を装った。
つまり、俺が思い描いていた状況である『上園が異性とやましい状態になり、風羅さんが引く』というものが出来なかったのだ。
むしろ、風羅さんは上園を心配し、より関係が近くなっていることを再確認させられたといっていいだろう。つまり、俺は二人の関係をより良くするためのアシストをしてしまったという事になる。
では、何故その状態を予測できなかったか。それは、俺が二人の関係がどの程度まで進んでいるかを計算に入れていなかったから。また、彼女の性格を完全に理解していなかったから。そして、思った以上に勢い良く不地方さんがぶつかってしまったのも原因だろう。
凄い音がしたからな。よく、あれで二人とも怪我をしなかったと驚くくらいに。
まあ、どちらにしろ風羅さんの優しい性格を考えれば、上園が倒れた時点で駆け寄っていたとは思うが。
……こうして考えてみると、俺の行動の空回りっぷりと勢いに任せ過ぎた感が酷いな。
多分、ここ数日、作戦会議ばかりしていて大した行動を起こせていなかったから焦っていたんだろう。まして、前日に二人が同じアパートに住んでいることを知ったんだ。焦るなという方が無理な話だ。
さて、問題はここから。
ここからどうやって二人を引き離せばいいのか。
もう、水元さんを当ててやろうか。いや、事件になって参考人として呼ばれるのは嫌だからやめよう。
とすると……うーん、火七海さんを失ったのはデカいな。
やはり、ちゃんと謝って再度仲間に引き入れるか? でも、あの手のタイプはめんどくさいんだよなあ。最初に会って説得した時も正直めんどくさかったし。
もう、風羅さんフレンズという名のカードを切ろうか。正直、何も思いつかないし。
でもなあ。うーん。ここまで来たら、無理して早く行動する意味もないし、ちょっとゆっくり考えてみるか。
……にしても、眠いな。午前中、ずっと寝てたのに。
…………。
………………。
「輝耶さんに怒られたらしいな」
「情報が早いな」
「玲が、薫ちゃんから聞いたんだよ」
「なるほど」
放課後。俺と霧茅は、木窯と蹴珠を待つため自転車置き場にいた。
「まあ、黙ってやったんだからな。怒られても仕方ないと思ってるよ」
「本当にか?」
「本当だよ」
「そうか」
「? それよりさ。この前のラブレター、もう答え出したのか?」
確か、ラブレターを貰ったのが先週の水曜日だったはず。だったら、もうそろそろ何らかの方法で答えを出していそうなもんだが。
「ああ、それな。うん、放課後に一輝さんを呼び出して断ったよ」
「ああ、断ったのか」
マジかよ。あんな、可愛い子の告白を断るとかこいつ、もしかして同性愛者なのか?
「一応、言っとくけど元々彼女がいたから断ったんだぞ」
「なんだよ、彼女いたのかよ。俺は、てっきりそっち系なのかと」
「いやいや、さすがに男を恋愛対象には見ねえよ」
「俺も、もしお前が『男が好きなんだ!』なんて告白した日には、今すぐにでも距離を置くからな」
「そうか。なら、今後それが理由で縁を切ることになるのは無いから安心しろ」
良かった。
にしても、彼女か。でも、校内で彼女っぽい人といるところなんて見たことないけどな。
「なあ、彼女ってここの生徒?」
「いや、別のだよ。ほら、中学の時に橋元結菜って子がいたろ?」
「ああ、いや、うーん、そんな気も」
「……まあ、居たんだよ。で、その子と付き合ってる」
成る程ね。いや、しかし全く記憶にないな。
「でもさ、一輝さん。諦めませんからって言ってたから、どうしよっかなあって」
「それはまた、モテモテですな」
「告白は嬉しいけど、やっぱ二股はダメだろ」
「真面目だねえ」
「売りだからな」
そういう意味じゃ、外見と中身が合致してないな。
しかし、金潟さん諦めてないのか。こんなチャラ男、さっさと諦めて新しい恋でも探せばいいのに。
「よう、なに話してたんだ?」
「恋バナですかな?」
「オタクが恋バナなんて言葉使ってんじゃねえ」
「おうふ、オタに対する理不尽な偏見」
「いや、やっぱデブが恋バナなんて言葉使ってんじゃねえ」
「おふううぅ」
「こらこら、オタクでもデブでも恋はするんだぞ」
「いや、しねえよ? したとしても、それは恋とかとは別物だ」
「おふぅ、ガチで否定された」
なんか、このやり取りを見ると落ち着くあたり、俺も大概おかしいな。
さて、気分も上がってきたし切り替えていきますか。
あとがき
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\☆☆☆/
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