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第一話 究極的な片想いの最果てを、彼は今日も空想せず美しき想いに心を浸す

 片想いの終わりは二つある。

 一つは決着という名の終わり。

 もう一つは、自然消滅という名の終わり。

 前者の場合は、一つの始まりと終わりを迎えさせてくれる。だが、後者の場合、終わりと定義するのは自分自身となる。


 片想いと侮るなかれ。

 出来るならば、その想いに決着をつけることをおすすめする。


 出来るならば、早期の決着を。

 片想いは待ってはくれない。

 後悔するか? 所詮は、片想いと割り切れるか?


 終わりを探さない想いは、いつしか想いでは無くなっていく。

 その意味に気づくのに、少し時間がかかり過ぎたようだ。











「ふあああぁぁ……」


 すぐ横の窓から入る暖かい風を受けながら、俺は今日もいつも通り自分の席に座り、それはそれは大きな口を開け、今年で十八となる魂が抜けるのではないかというぐらいの大きな欠伸をかました。

 窓際の列の一番後ろの席というベストポジションを、新学期早々の席替えによって、確立三十六分の一を掴んだ俺も今年で高校三年生。つまり、受験生だ。恐らく人生上、と言ってもまだ十七年とちょっとしか生きてないが、大事な年になるだろう。


「…………」


 実は、この席の良いところはそれだけではない。

 この席の隣の列、つまり黒板を前にして右側の列になるが、その列の一番前の席には、ある一人の女子生徒が座っている。実は、その女子生徒に俺は片想いをしていた。

 彼女の名前は、風羅(ふうら)小夜(さや)。苗字名前共に、教師がそう呼んでいるのを聞いて知った。ちなみに、字は名簿を見て確認した。

 風に、羅針盤の羅で風羅。で、小さい夜と書いて小夜。まるで、夜に気ままに吹く風に行く先を任せ、旅をする船旅人みたいじゃないか。いや、彼女が旅好きかどうかは知らないが。


 そんな彼女に、俺は人生二度目となる一目惚れをした。

 始業式が終わり、教室に戻って、席に座って、一息ついた。そんな俺の視界に入ってきた彼女は、静かに本を読んでいた。文庫本だ。さすがに何の本かはまで分からないが――まあ、読んでる本は何だっていい。

 読書に耽る少女。その後ろ姿を見ただけで、彼女が物語の中へと没入しているのがよく分かった。

 それだけで十分だった。

 想いは日に日に膨らみ、気づけば視界には、いつだって彼女が入っていた。授業中も、休み時間も。いや、授業中は黒板を見ようとしたら自動的に視界に入ってくるのだが。


 おかしいか? 読書をしている彼女の後ろ姿に惚れるのは。

 おかしくなんてないさ。一目惚れなんてそんなもの。

 一目で惚れる。だから、一目惚れ。

 言葉で説明出来ないような。そんな魅力というか、何というか、そういった正体不明のものが俺の胸に、感情に突き刺さったのだ。


 ちなみに、今も視界に入れている。それとなく、自然な形で。ボケーっとしているようで、実は視界には彼女を入れている。

 休み時間である今、彼女はいつものように読書をしている。

 時折、窓から入るそよ風になびく、ミディアムに切りそろえられた髪。真っ黒で真っ直ぐなそれは、伸ばせば一般的な文学少女を象徴するロングヘアーとなるだろう。彼女には、あまり似合わないだろうが。

 彼女は、今何を読んでいるのだろうか。

 ファンタジー? サスペンス? ラブコメ?


 この時間が一番幸せだ。

 ただ、見ているだけ。もちろん、話をしたいと思う。一緒に話を、本の話、俺はよく分からないから、多分、一方的に聞く側に立つんだろう。

 色んな話をしたい。寡黙で、あまり話をしないタイプなら、迷惑にならない程度に。

 別に、隣にいるだけでいい。

 それだけで、十分だ。




 だけど、あわよくば…………。






「風羅さん?」


 静寂は唐突に切り裂かれた。幸せで、何者の侵略も許さない風景は一瞬にして破られた。

 彼女の隣に立っていたのは、見知らぬ男子生徒だった。

 見た目は好青年。優しそうで、落ち着きがある。

 誰だろうか? 風羅さんの友人? いや、そんな筈はない。

 この数週間で分かったことだが、風羅さんにはあまり友人はいないらしい。確認しただけでも、文学少女っぽい眼鏡をかけた子が一人と、活発そうな子が一人。どちらも女子だ。

 少なくとも、男子が事務的なこと以外で彼女に話しかけているのを見たことがない。

 今だってそうだ。風羅さんの横顔が、あまり変わらない表情が困惑の色に染まってる。彼女から見て、目の前の男は明らかに他人だと、顔が言っている。


 でも、だったら何だ? 男は、風羅さんに事務的なことで用があるから話しかけたのか?


「えっと、今何読んでるの?」


 男の二言目を聞いた瞬間、自動的に"事務的なことで話しかけた"説が消滅した。

 明らかに雑談のために話しかけてる。

 おいおい、ふざけんなよ。俺だって話しかけたいのに、まだ話しかけてないんだぞ。風羅さん、読書に夢中だから話しかけるの悪いかなと思って黙ってたのにお前……!


「…………小説、だけど」

「いや、小説は見たら分かるけども」


 会話が成立してしまった! 事務的な会話ならともかくっ、普通の会話がっ!! 異性との会話がっっ!!

 い、いや、落ち着け俺。会話くらい成立しても問題ないじゃないか。少し冷静になろう。取り敢えず、握り締めた拳を解こうじゃないか。リラックスだ。リラックスー。


「何の小説読んでるのかなーって。ほら、風羅さんいつも本読んでるじゃん」


 おい、おいおいおい。

 この展開は少しダメな気がする。うん。これ以上、野郎が会話を続けようとするなら、俺も少し本気を出すことを考えてしまうくらいダメな気がする。


「……今読んでるのはファンタジーもののやつで」

「へえ、ファンタジーか。意外」


 へえ、ファンタジーなんだー。うん。俺も同じ感想。意外。

 じゃ、な、く、て! ヤバい、これは凄くヤバい。

 このままじゃ、風羅さんが、風羅小夜さんが、爽やかな野郎に聖域を犯されるっ!! 静かな読書タイムという聖域が!!

 プラスして、俺の幸せな時間も!


「じゃあさ、今度――」


 《キーンコーンカーンコーン》

 彼の言葉を遮ったのは、授業の始まりを告げるチャイムの音だった。


「やべっ。じゃあ、風羅さんまた」


 足早に、男は教室を出て行った。風羅さんに手を振りながら。

 まるで、スコール。それは、唐突に始まり唐突に終わった。


 …………。

 つか、"また"じゃねえよ! もう来んなよ!!

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