36・愛する人だけは渡せない!
これだけは譲れない!
私が言うと、シルヴィアは笑顔から一転、「はあ?」と憎悪で顔を歪めた。
「あんた……」
「私はライナス殿下のことが好きなんです! そして、彼だって私を愛してくれている! 私の代わりはどこにもいません!」
今までの私は臆病だった。
欲しいものがあって、どうせ奪われるだけだから。
シルヴィアに酷いことを言われても、首を横に振ることが出来なかった。
でも……もう迷わない。
他の全てを奪われても、ライナス殿下だけは渡せない!
「言うようになったわね」
とシルヴィアは怒りで顔を染め、掌の上に炎を顕現させた。
「いいわ。ちょっと予定が変わっただけ。さすがに人殺しになるのには抵抗があったけど……あんたがそう言うなら、もう躊躇う必要はないわね。あんたを殺して、私が殿下の隣に立つ」
シルヴィアが顕現させた炎は、さらに強さを増していく。
彼女の魔法の才はピカイチ。その中でも炎魔法に特化している。
一方の私は魔力を持たない『無能』。その現実は変わらなかった。
今にも放たれようとする魔法の炎を前に、どうにしかして逃げようと考えを巡らせていると……。
「アリシア!」
部屋に光が差し込む。
扉が開け放たれた先にいたのは──私の愛する人、ライナス殿下だった。
「ライナス殿下!」
私も彼の名前を呼ぶ。
「ど、どうして、この場所が分かったのよ!?」
シルヴィアも驚愕し、ライナス殿下の方に目を向ける。
「貴様がいくら策を講じても、無駄だったというだけのことだ」
ゆっくりとシルヴィアに歩を進めるライナス殿下。
一方、シルヴィアは彼から『愛する人』という言葉を聞き、さらにその顔が歪みを増していく。
「ちっ……! ならば、『無能』だけでも!」
シルヴィアはライナス殿下から視線を切り、私に再び顔を向ける。
掌から炎魔法が放たれ、一直線に私の元へと──。
「させん!」
しかし、ライナス殿下がすかさず氷魔法を放つ。
シルヴィアの炎魔法を完全に相殺し、私の元へと駆け寄った。
「アリシア、大丈夫か?」
「はい!」
彼に手を添えられながら、私はそう頷く。
形成逆転。
いくらシルヴィアでも、ライナス殿下には勝てない。
それは先ほどの一瞬の攻防で分かった。
追い詰められたシルヴィアは、ジリジリと後退りする。
「な、なんで……なんで上手くいかないのよ! 話が違うじゃない! この力を受け入れれば、なんでも叶うっていう話だったんじゃ……」
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