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【完結】捨てられ令嬢ですが、後悔するのはそちらですよ? 〜冷酷な王子が私にだけ甘々です〜  作者: 鬱沢色素


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31/41

31・ドキドキで彼の顔が真っ直ぐ見れません

「どうしたんだ、アリシア。様子がいつもと違うぞ」

「い、いえ……っ」


 ライナス殿下が、私を真っ直ぐ見つめる。

 式が近いとはいえ、夜になるとライナス殿下の部屋を訪れ、彼の手を握ることは変わらない。


 だけど、ここ最近では妙に彼を意識してしまい、会話も少なくなってしまっていた。

 そのことを悟られたのだろう。


「な、なんでもありませんっ」

「嘘だ。最近の君は、俺の顔を真っ直ぐ見てくれない。特に今日は酷い」


 うっ……図星。


 お昼にミレーユさんから言われたことが頭の中で反芻して、真っ直ぐ彼の顔を見られなくなっていたのだ。


 恋の病──。

 初めて経験することだし、彼に言ったら「子どもっぽい」と笑われるかと思って、上手く言葉に出来なかった。


「そ、そんなことありませんよ。私はイツモドオリです」

「やっぱり、違うじゃないか。俺に嘘を吐くとは、大した度胸だな」


 そう言って、ライナス殿下は悪戯っぽく笑みを浮かべる。

 彼はそのまま私から手を離した。


 ……? 今日はもう終わり?


 そう思ったのも束の間、なんと彼はそのまま腕を伸ばし、私を強く抱きしめたのだ。


「で、殿下っ!」

「俺だってこれでも我(・)慢(・)しているんだ。だが、君が傷つくと思って手を出さない。君が言わないつもりなら、無理矢理にでも口を開かせるつもりだが?」


 こんな大胆なライナス殿下は初めてだ。


 すぐに離れようとするけど、それは出来ない。彼にこうして抱きしめられることは嬉しくて、とても心地いいから。


 胸の鼓動が大きくなっていくのを感じていると、しばらくして、彼はゆっくりと体を離した。


「……すまない。困らせてしまったようだな。無理矢理だなんて、嘘だ。君がなにも言ってくれないから、ちょっと悪戯したくなってしまった」

「い、いえいえ! 私も悪いですから」


 二人してもじもじする。


 恋の病は治らない。それどころか、時が経つごとに酷くなっていく。


 さぞ、今の私の顔は真っ赤になっているだろう。それを見られるのが恥ずかしくて、俯くしか出来なかった。


「……ともあれ、今日もマシになった。アリシア、いつもありがとうな」


 ライナス殿下も、同じ恥ずかしさを感じていたのだろうか。

 咳払いをしてから、そう礼を言った。


「こ、これくらいで殿下のお役に立てるなら本望です。最近では、魔力暴走も起こさなくなったんですよね?」

「そうだな。軽いものはあるが、我慢出来ないほどではない。これも毎日のように、君が手を握ってくれるからだ」


 そこまで言って、一転、ライナス殿下の表情に真剣味が帯びる。


「アリシア、本当になにも心当たりはないか? どうして君が触れるだけで、俺の魔力暴走が治るのか……についてだ」

「……はい」


 と頷く私。



 ──今までライナス殿下から、同じことを何度か聞かれてきた。



 魔力暴走は急激な感情の奔流によって引き起こされやすい。

 でも、私に触れると安心するから、魔力暴走が治る。

 だからではないか。


 ……と思っていたが、さすがに少し考えにくいらしい。私に触れるだけで魔力暴走が治るくらいなら、彼も今まで苦労していないからだ。


「私は……昔から、蔑まれてきました。魔力を持たない、なにも出来ない『無能』だと。私に殿下の魔力暴走を治める力があるとは、考えにくいです」

「そうか……いや、いいんだ。無理に理由を解明したいとも思っていない。問い詰めるような真似をして、すまなかったな」


 と謝るライナス殿下。


「話を変えようか」


 空気がどんより重くなってきたことを感じたのか、ライナス殿下はベッドから起き上がり、机の引き出しを開ける。


 彼が取り出したのは、書類の束であった。


「それは……結婚式当日の招待客リストですか?」

「そうだ」


 と首肯するライナス殿下。


「式の当日には、多くの人が訪れることになる。それらに囲まれて、俺たちは結婚を祝われる」

「うぅ、分かっていたことだけど、想像するだけで緊張します」

「気持ちは分かるが、そう気張らなくてもいい。当日は俺に任せてくれ」


 ライナス殿下は頼もしいことを言ってくれる。


 続けて、顔を顰(しか)めて。


「ただ……ルネヴァン家──つまり君の両親や妹を呼ぶ気はない。今さら、あいつらに顔を出してほしくないからな。それに、貴族名簿から除名された彼らが逆恨みをして、俺たちに危害を加える可能性もある」

「危害……」

「だから、君の親族は不在となるわけだが……あらためて聞く。君はそれで問題ないか?」

「はい」


 即答する。


 両親とシルヴィアを招待しないことは、事前にライナス殿下から聞かされていたことだ。

 私の幸せな姿を見てほしいという気持ちもちょっとはあるけど、それ以上に顔を合わせたくない。


 一月ほど前の、シルヴィアとの一件もあるからね。

 暴走した彼女によって、無用な騒ぎが生まれる可能性は否定出来ない。


「いいんです。家族との確執は解消出来なかったけれど、せめて式当日は安心して迎えたい。両親とシルヴィアが来るとなったら、不安で胸が一杯になってしまいます」

「分かった」


 そう言って、ライナス殿下は招待客リストを引き出しに戻す。


「では、この話は終わりだ。当日は君の親族は不在のまま進行する。君は安心して、式に臨むといい」

「私も分かりました」


 恋の病……っていう厄介な病気にかかったけど、結婚式に向けて順調に進んでいる。


 だけど、どうしてだろう。

 家族──特にシルヴィアのことを考えると、胸騒ぎがした──。

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