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17・他人がやっちゃ意味がない

 翌日。

 私は外出の許可を取るため、ライナス殿下の元に向かった。


 婚約してまだ日も浅いのに、買い物に出かけたいと言って、彼は頷いてくれるだろうか……。

 不安だけど、やってみるしかない。



「どうした?」



 挨拶もそこそこに、執務室に入ると、ライナス殿下がそう問いかけてきた。


 どうやら、今日はプレゼントはないみたい。昨日のことが効いているんだろう。良い傾向だ。


「え、えーっと……」

「言いたいことがあるなら、言ってみるといい。君の願いを、俺は全て叶える」


 真っ直ぐ、そう言ってくれるライナス殿下。


 ……うん。この雰囲気なら言えるかも。


「実は……」


 意を決して、私はこう口を動かした。


「買い物に出かけたいんです」

「なんだと?」


 ライナス殿下が眉をピクリと動かす。


「もちろん、構わないが……理由を聞いてもいいか?」

「実は編み物をしたくなって。そのためには、材料が必要です。それを買いに行こうと思いまして」

「材料を買いに行く? 布なら、城にいくらでもあるぞ。そもそも、君が編み物をする必要はない。なにか必要なら、一流の職人を用意しよう。その者になんでも言えばいい」

「そ、そうじゃなくって……」


 どうしよう。

 なんとなくそう言われそうな気はしていたけれど、ライナス殿下は簡単に首を縦に振ってくれない。


 しかし、それ以上否定することもない。彼は顔の前で手を組み、じっと私の言葉を待ってくれる。

 彼の心遣いが、とても有り難かった。


「……他人にしてもらってはダメなんです」

「君は、俺の婚約者だ。編み物どころか、望めばなんでも手に入る立場にある。君自身がわざわざする必要はないような気がする」

「そ、そうじゃなくて……っ!」


 私はぎゅっと目を瞑って、勢いに任せてこう言った。


「わ、私が手作りした服を、あなたにプレゼントしたいんです! それなのに、他の人が編んでくれたものを渡しては、意味がありません! そのために、材料にもこだわりたくって……っ!」


 あっ、言っちゃった。

 サプライズで渡すつもりだったのに、それを明かしてしまって……ライナス殿下は変に思わないだろうか。


 恐る恐る顔を前に向けると、何故だかライナス殿下はあたふたと落ち着かない様子を見せていた。


「そ、そうか。お、俺へのプレゼント……だから言いにくそうにしていたんだな。問い詰めるような真似をしてしまって、申し訳なかった」


 頬は軽く紅潮しており、恥ずかしさを誤魔化すようにしきりに髪を触っている。


 照れている?

 正直、ちょっと可愛い。


「そもそも、アリシアの安全を保障するためとはいえ、城に閉じ込めすぎたかもしれないな。それについても反省する。すまなかった」

「謝らないでください。私も城の中で快適に過ごさせてもらっているから、今まで外出の必要性を感じなかっただけですし」

「そう言ってくれると、少し安心するよ。外出についてだが、もちろん許可しよう。城の中にずっといても、息が詰まるだけだろうしな」


 よかった……!

 ほっと胸を撫で下ろす。


 勇気を出してみたけど、なんでも言ってみるものだ。まだ自分の希望とか伝えるのが苦手なので、ドキドキしてしまった。


「だが、一つだけ条件がある」


 安心している私に、ライナス殿下がこう続ける。


「俺も付いていく」

「ライナス殿下も……ですか?」


 思いもしていなかった言葉に、私は首を傾げる。


「うむ。外出先でアリシアが危険な目に遭う可能性もある。護衛のためにも、君一人での外出は認められない」

「なんだか申し訳なくも感じますが……真っ当な意見ですね。とはいえ、護衛としてライナス殿下が来る必要がないのでは? どちらかというと、殿下も守られるべき対象のように感じます」

「忘れたのか? 自分で言うのもなんだが──俺は魔法師として一流だ。そんじょそこらの暴漢には後れを取らない」


 確かに。


 十日ほど前、ライナス殿下は私が負った火傷の跡を、魔法であっという間に治してしまった。


 しかも、治癒魔法は専門外だという。

 その魔法がなにかを守るために向けば……それこそ、妹のシルヴィア以上の力が発揮出来るんだろう。


「わ、分かりました。ですが、本当によろしいのですか? ライナス殿下だって、お忙しいでしょう」

「君と街を歩いてみたかったんだ。それに……俺には俺で、ちょうど買いたいものがあったしな」


 ちょうど買いたいもの……?


 彼は私に対しては、出し惜しみなくお金を使うようだが、自分に対してはそうでもないように感じていた。


 もっとも、私が知らないだけの可能性もある。

 ただでさえ、まだ彼と再会してから十日ほどしか経っていないのだし。


「さすがに、すぐに……というわけにはいかん。三日後の朝から──これでどうだ?」

「もちろん、大丈夫です。楽しみにしてしますね」

「うむ」


 それからいくつか他愛もない話をし、私は執務室を後にした。


「三日後……か。ライナス殿下に恥をかかせないよう、どんな服を着ていくか、ミレーユさんと相談しなくっちゃ」


 気合いを入れる。


 ライナス殿下は、どんな格好で来るつもりなんだろう? いつもの王族衣装のまま街を出歩くわけではないと思うが……。


 そこで気付く。



 これってもしかして、初めてのデートなのでは?



 今さらな事実に驚愕し、顔が一気に熱くなるのを感じた。

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