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いつか、君の隣へ  作者: U
第二章 確執、力の在り処

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プロローグ 動機

 魔術――それは、人が未知に向かって飽くなき探究をした成果である。



  ***



 幸せな家庭だった。

 彼女は魔術師の家系に生まれ、それが当たり前かのように魔術の研究に没頭する十代を過ごした。

 同世代が青春という儚くも尊き、一瞬の輝きに中に浮かれていても、彼女は目もくれずに研究に終止していた。

 両親から受け継いだ金色アッシュブロンドの髪と力強い蒼穹の瞳は多くの男子を虜にしたが、彼女には関係なかった。研究に没頭し、色恋には興味なかったものの、長い髪の手入れは欠かさずに行っていた。

 高等学校を卒業する頃には、既に上の世代から高い評価を得ていた。イギリスにある魔術協会の最高学府かつ研究機関への入学も決まっていた。

 両親に送り出され、海を渡り、そこでも研究に没頭した。愛想は決して良くなかったが、ますます女性らしく成長し、若い未婚の教授からアプローチを受けたり、位の高い魔術師から息子や孫を紹介されることもしばしばだった。

 学府を優秀な成績で卒業し、配属になった研究機関で、彼女は運命の出会いを果たす。

 その男性の印象は決して良いものではなかった。何かあるとすぐに頭を下げ、困ったような笑顔を貼り付けて仕事を進めていた。誇りを感じることができないその姿は、十個も年上の先輩だが、敬おうとは思わなかった。

 先輩を先輩とも思わない態度を男性は叱りもせず、周囲と衝突しがちな彼女のフォローをこっそりと行った。彼女の仕事も彼女自身の研究も、思うように行かない時には一緒に悩んで、推し進められるようにアドバイスした。

 気付くと女性は男性の傍に憩いを求め、男性もそれを疎まずに受け入れる。

 二人は一緒になることを決意するも、男性の家系は魔術師の大動脈からかけ離れた一般人に近い端くれ。それなりの地位に在る彼女の家族は二人の結婚を良しとしなかった。二人は彼女の家の許可を貰うことができないまま、子供を授かる。彼女は研究機関からの扱いは変わらなかったものの、実家から事実上の絶縁を言い渡された。

 彼女はそれでも良かった。愛する夫と生まれた愛しき息子。彼女は間違いなく人生で一番の幸せを感じていた。

 魔術の研究への思いも変わっていた。ただただ深淵に降り、理に至ろうとする抽象的な研究から、愛する人を守れるような、愛する人が幸福に繋がるような研究にしようと魔術に精を出した。

 そして、息子が二才を迎え、彼女のお腹の中のもう一つの生命が娘だと判明した日。病院の帰り道、四人で公園で寛いでいた時。

 それは起きた。

 男性が、『天魔大戦を引き起こした天子虐殺の実行犯である』という情報を掴まされた天術士らによって、一家は襲撃された。

 夫は炎に焼かれ、息子は草陰の向こうで凶刃に刺された。彼女はお腹の中の娘を守る為、限界まで結界を張り続けた。彼女の結界がすぐに破れないと悟ると、ようやく天術士らは退散した。

 彼女は絶望に落ち、娘も失ってしまった。




 彼女は、復讐を誓った。



  ***



 きっと何も知らなければ、平穏を続けられた。

 少年は孤児だったが、厳しくも優しい院長先生や仲間たちと貧しくも満たされた日々を送っていけたはずだった。

 それでも知ってしまった。

 ここの仲間たちが何らかの事件の遺児たちであることを。自分の父も母も殺されたことを。そして、魔術の素養があることを。

 少年は力を望んだ。境遇を知ったことは伏せ、魔術師でもある院長先生に師事を願い出た。

 しかし、院長先生は決して首を縦には振らなかった。子どもたちには魔術に触れない、普通の幸せを願っていた。魔術の深淵を覗かせたくなかったのだ。

 少年は自分を引き取ってくれた院長先生への恩義と自分と仲間に降り掛かった理不尽を天秤にかけた。

 平穏を享受して幸せに生きて院長先生に報いることが、正しいと思った。それが望ましい姿だと。

 それでも、歪まされた生を、幸せだったはずの仲間たちを襲った理不尽を、耐えることはできなかった。のうのうと生きているだろう加害者たちを許すことはできなかった。

 何よりこれ以上誰も同じ目に会わせたくなかった。あらゆる理不尽から皆を、僕が守るのだと奮い立った。

 少年は院長先生の書庫に忍び込み、書いてあることを頭に叩き込んだ。けれど、書物だけでは所詮知識にしかならなず、魔術を行使することは叶わなかった。

 ジュニアスクールの卒業とともに、孤児院を飛び出した。

 奇しくもこの国は、魔術の最高学府とその研究機関がある国。

 孤児で曰く付きの子供を引き取るほど、表の魔術師は酔狂ではないし、自身の研究よりも興味がそそられない。

 しかし裏の世界の魔術師ならば――。



 少年の足取りは、一月で闇に消えた。

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