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いつか、君の隣へ  作者: U
第一章 再会、開かれた扉

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第十四話 覚悟宣誓

 天宿がオリバーに焼き討ちに遭い、鳴神支部が壊滅させられてから一夜が明けた。

 曇天の中の轟雷と月永の屋敷の全焼。月永の名を知らぬ大人がいない鳴上において、屋敷の火事は街を騒然とさせた。消防車と救急車が入り乱れ、患者を受け入れる病院は逼迫した。

 怪我が日常茶飯事である天子たちが、お得意様となっている八坂病院も例外ではない。天子の事情を把握している八坂病院などだけでは対処できず、一般の救急病院へ搬送される者もいた。

 重大な任務の前には、天会が万が一に備えて病院を手配しておく。その為、重い怪我を負ってもすぐに病院で治療を受けることができる。しかし、天宿が襲撃され、壊滅させられるなど前代未聞であり、事情を慮った対応には限界があった。

 しかしながら、夜を徹した救急隊や医療関係者の獅子奮迅の働きで助かった命が多くあった。

 幸いにして広輝もその命から漏れることなく、無事に病院に運ばれ、昼近くに八坂病院のベッドで目を覚ました。四人部屋で目を覚ました広輝は、同室で先に目覚めていた隆也から知る限りのその後を聞いた。隆也の疲れ切った暗い表情が気になったが、ひとまず情報の入手を優先した。

 天宿は文字通り壊滅し、優里菜が攫われたこと。全員が怪我を負い、死者も出ていること。しばらくの間、天会の一支部としての活動不能であり、現状では優里菜の捜索・救出の体制が取れないこと。唯一の不幸中の幸いとして、魔導人形を一体も残さず破壊していたことで、一般人への被害が出なかったこと。

 隆也から(もたら)されるあらゆる情報が、冷徹と化した広輝の頭の中で処理される。

 杯が持ち去られるだけではなく、優里菜が攫われた。目的は不明だが、最悪のことを考えると急がなければならない。脳が焦った。心が逸った。体が落ち着かなかった。だからこそ自分に冷や水を浴びせる。

 冷静に、冷徹に、冷酷に、そして冷血に。情報を隆也の真実と事実に分け、視野を広く、高く持つこと。そして自分が見聞きした経験との照合。目的の為に出来ることを全部やる。凡能ができるのはそれだけだ。

 全員が怪我を負った……天宿にいた全員ではないか。

「天宿の外で警戒に当たっていた人たちは?」

「無事だ。けど、翠が中心で蒼は少数。今は彼らが中心となって色々対応してくれている」

「廃工場を調査していた部隊はどうなってますか」

「向こうにも人形が現れたけど、一樹さんを中心に撃退したらしい。負傷者は別の病院にいる」

「天守は? オリバーと戦ったのですか」

「オリバーの抑えは天守に代わって父が自ら…………天守は救助に専念していた。そのおかげで今の陣頭指揮も天守が行っている」

「…………陽本の情勢はわかりますか」

「勝弘さんは外出中で無事。天守の元で陽本側の対応を行っていて、復興を優先して動いている。幹部級は負傷して入院。月永(うち)と同じようにな」

 広輝は感服した。隆也も目が覚めてからそんなに時間は経っていないだろうに、事態・事情をよく把握している。広輝の質問に間髪入れずに答えてたのがその証拠。隆也の暗い雰囲気は、優里菜を助けようと情報収集に奔走したが、月永が優里菜の救出に乗り出せず、八方塞がりになってしまったから。広輝に知り得る限りの情報を惜しみなく話しているのも恐らく藁をも掴む思いなのだろう。

「他の天宿への応援は?」

「……やっているらしいが、芳しくない。分家の反応も良くないしな。それにオリバーの存在が最大のネックだ」

「……なぜ分家の反応が?」

 血統主義の血族ならば、直系に不満はあれど血は維持するはず。

「面子を気にしてるんだろう、きっと。それと()がいれば問題ないってことだ」

「あー……」

 (はじ)まりの御三家たる月永が他に応援をお願い(・・・)するのが恥だと思っている。広輝はそんな場合ではないだろうに、と内心ため息をつく。同時に会議で相対したあの二人ならそう思うだろうなと納得した。そして血脈に関しては、ある意味感嘆した。そこまで非情になれるのかと。女系ならば優里菜を重要視していると思っていたが、本当に隆也がいればいいと思っているのならば、血脈がどうのこうのというよりも、もう血を残すことを目的としている。

 ただオリバーに対する他の天宿の気持ちは、広輝も気持ちはよくわかった。あれに対峙するということは、余程の実力がない限り、命を投げ捨てるということ。しかも五大支部の一つ、鳴上支部を壊滅させたのだからその脅威はその事実を聞くだけで察するに余りある。関わっただけで感電しかねない。触らぬ神に祟り無し、だ。同じ支部ながら陽本もきっとそんな思いだろう。優里菜の救出という月永の事情に首を突っ込んで、これ以上の被害は抑えたい思いのはずだ。だから優里菜の捜索にも人を出さない。

 しかし、だからこそ、オリバーさえどうにかしてしまえば動いてくれるところがあるはずだ。

「隆也さん、ご両親に会わせてください」

 月永の直系、天守の娘夫婦で隆也と優里菜の両親は、二人共オリバーと戦って負傷。今は同じこの病院に入院していると、一通りの情報の中で隆也は言っていた。

 まずは手を増やす。

 優里菜を救いたいと思っていて、人を動かす力を持っているから。

 軋む身体に鞭を打ち、隆也の後に続いて病室を出た。




 隆也の案内で、隆平の個室に入室。

 中では玲菜が点滴を打ちながら寄り添っている。

「いらっしゃい」

「……」

 玲菜の広輝たちを出迎えるその笑顔は、明らかに無理をしている。

 反対に上半身を起こすように傾けられたベッドには、右足と左腕にギブスをつけ、全身を包帯に巻かれた隆平がムスッとした表情で沈黙していた。

「申し訳ありませんでした。護衛の任を果たせず、優里菜を攫われました」

 広輝は開口一番に深々と頭を下げ、謝罪した。広輝は優里菜に不自然な行動をさせない為に優里菜の護衛を任じられていることを伏せていた。広輝の意に沿い、天守の命令でその任務を知っている者も優里菜に伝えることはなかった。その甲斐あってか、優里菜が無理に広輝の側に来ることはなかった(鍛錬の食い下がりには驚いたが)。

 しかしそんな対策を嘲笑うように、オリバーは力ずくで優里菜を奪取していった。

「仕方ないわ。彼を誰一人として抑えられなかった。誰もあなたを責められない」

 隆平然り、玲菜も然り。魔導人形の数に翻弄され、[雷鬼]オリバー・エクスフォードに鳴上支部は惨敗した。

 隆平は広輝から目をそらさず、じっと見ている。口を開かないが、何も言わないので、玲菜の思いと概ね同じなのだろう。

 広輝は儀礼的な前振りを終えると、腰から折っていた頭を上げて本題に入る。オリバーが自分だけに伝えた情報を開示して。

「オリバーの居場所がわかるので、人を出してもらえないでしょうか」

 玲菜と隆也が両目を見開き、広輝を見る。いくらか顔の血色が良くなったように見える。隆平は表情一つ変えることなかったが、ようやく口を開いた。

「ーー何故わかる」

 ただ一言、端的に。

 広輝を信用していないというよりも、品定めしているように見える。使えるのか使えないのか。

 広輝は隆平のプレッシャーに臆することはなかった。むしろ余計な回り道をしないので、話し易かった。

「最後にオリバーが僕に言いました。『深間と黒根に隠れた城で待つ』と」

 この時点で広輝はオリバーが待つ場所がどこかわかっていない。深間という地名に少し心当たりがあるが、黒根がどこか知らなかった。月永で調べてもらえればわかるだろうと思い、オリバーの言葉をそのまま伝えた。

「深間? 黒根? どこ?」

「深間山と黒根岳じゃないか。関東と中部の境の」

 玲菜には思い当たる節はなかったようだが、隆也が当ててみせる。

「……恐らくな。あの山間には深い谷と細い川があるだけだと思ったが」

 隆平も隆也の意見に同意した。隆平は近くに行ったことがあるようだが、城には心当たりは無いようだ。

 ほんの少し何か考えて、隆也に指示を出す。

「隆也、天守に報告を」

「わかった」

 携帯で連絡したかったところだが、オリバーのせいで壊れていた。データの復旧すら難しそうだ。

「隆也さん」

 部屋を出ようとする隆也を広輝が引き止める。

「天守と直接話せたら、岳隠の天守の旧友に連絡してみてほしいと伝えてください。あくまで天守と僕のよしみで」

 広輝は一応月永の分家に配慮するつもりがあるらしい。月永から人が出せなければ、岳隠にお願いしてもらってくれという意図だ。鳴上支部からの正式な依頼ではなく、旧友やかつての部下を助けると思って動いてくれないかという岳隠の天守への私的な打診だった。隆也と隆平の推測から、オリバーの言った場所も鳴上傘下と岳隠傘下の境目だ。

「ーーわかった。忙しい祖父ちゃんの肩でも揉んでくるよ」

 隆也も広輝が言いたいことを理解したらしい。隆也はそう言い残すと病室を出ていった。あくまで孫が祖父を訪ねるだけだ。

 隆也を見送っても広輝はその場を動かない。まだ広輝は用件があるようだった。

「まだ何かあるのか」

「ちょっと隆平さん」

 早く出てけと言わんばかりの圧に玲菜が隆平を諌める。

 隆平の立場からしたら広輝はかなりの異物。用件を済ましてさっさと出ていってほしい気持ちは広輝も十分に察する。きっと自分もそうなると。だから用件さえ終わればすぐに出ていく。

 広輝は次の話に移った。

「現状、戦える人材を教えてください」

 隆平は眉をひそめる。その意図を察したからだ。

「……知ってどうする」

「優里菜を助けに行きます」

「無謀だ。オリバー・エクスフォードに殺されに行くようなもの。態勢が整うのを待て」

 優里菜を助ける手立てがあるのならすぐにでも実行していた。その手がないから、隆平たちは病室で時間を浪費している。

 オリバーに対抗するには[紫]以上もしくは[紅]力が複数人必要だと実感していた。そんな相手に無謀な特攻などさせられるはずもない。天守も許可しないだろう。

「オリバーは僕が引き受けます。だから他をお願いしたいです」

「正気? 彼は三つの相乗天術をも受けきったのよ」

 玲菜の言う通り、広輝の提案は蛮勇に映る。相乗天術を三つも同時に受け止める天子など聞いたこともなかった。だが同時に、確かにオリバーの矛先が広輝だけに向かうのなら、優里菜の救出に協力してくれる天子は居るだろうとも。

「僕はそれを斬りました。地面がボロボロになっていたので、大地を砕く雷槌(トールハンマー)の後のことです」

 体は痺れて満足に動かせない。僅かな運動神経と天力でようやく体を動かしていた。視野は狭く、周辺の音が聞こえない。極限状態だった。それでもオリバーを斬ったのを憶えている。ただの切り傷程度だったけれど、確かにオリバーの雷の鎧を斬ってオリバーに傷を与えた。

「万全の状態なら、次は必ず」

 あれと同じことができればオリバーに太刀が届く。広輝は確信していた。

「……勝機がある、と言いたいのか」

「はい」

 娘と歳も背丈も対して変わらない目の前の少年に、一つの光明を見つける。もしも本当に広輝がオリバーに対抗できるのならば、優里菜を助けられるのならば。悪魔だろうと[堕天子]だろうと魂を売ろう。子供を死地に送ることになろうとも。隆平はその業を背負う覚悟があった。

「待って、隆平さん」

 玲菜が今にも広輝に優里菜の救出を託そうとしていた隆平を止める。

 それは広輝を思って、というようりも子を持つ親として、だった。

「正直に言うわ。優里菜を助け出してほしいのは本当よ。でも、あなたにも家族、大切な人はいるでしょう? その人たちを悲しませるようなことはしないで」

 玲菜だって藁にも縋りたい気持ちだ。だけど、天位が蒼だろうが、[堕天子]と呼ばれていようが、広輝が十五歳の子供であることに変わりはない。広輝の親御のことを思えば、オリバー(化物)の前に再び立たせることなどできるはずもなかった。

「……それで、いいんですか?」

 玲菜は広輝の問い掛けに一瞬息が詰まった。

「良くはないわ。けれどーー」

「何故そこまでする。パートナーとは言え、優里菜は君にとって出会って一月にも満たない」

 隆平が玲菜を遮る。隆平は広輝が優里菜の護衛という任務の失敗を取り戻そうとしているのだと思った。義務感、責任感、どちらにしろ[堕天子]という好き勝手しそうな名とは逆だった。玲菜の制止をも振り切ろうとする。思えばオリバーが現れてから、広輝は優里菜を守ろうとしていなかったか。鳴上への着任時、天守よりも先に陽本に挨拶しに行くという無礼かつ利己的な広輝が。陽本と月永の垣根など構うことなく、その行動はいつだって必死ではなかったか。今も最大の危険を引き受けてでも優里菜を救い出そうとしている。

 冷めた表情からは読み取ることができない感情は、ちゃんと行動に出ていた?

 広輝は目を閉じて、ほんの少し顔を伏せる。銀色の腕輪をした左手で心臓あたりをぐっと握りしめる。何かを思い出すように、秘めた感情を絞り出すように。

「……かつて僕は、優里菜には心という名の命を助けてもらいました」

 広輝は忘れはしない。何が起きようと、何を起こそうと、あの日を忘れはしない。最初の絶望から救ってもらったあの時を。

「全てを失って心を閉ざした僕に、再び光をくれました」

 何故あんなことを繰り返してくれたのかを広輝は知らない。だけどあの日が、間違いなく久下広輝の始まりだ。彼女がいなければ、只の空っぽの人形のように毎日を繰り返した。それは今も続いていたかもしれない。

『だからね、明日(まえ)をみよう?』

 いつだって広輝の根幹にあったのは、あの日のあの言葉と笑顔だった。

 彼女に誇れる自分ではなくなってしまったけれど、自分の醜態を見せたくなくて再会を喜ぶことはできなかったけれど、貰ったものくらい返すことはできる。

 広輝は瞼を開き、しっかりと隆平を見据える。

「優里菜に助けてもらった命です。碧い瞳の女の子(ゆりな)を助ける為に賭しても不思議はないですよね」

 ほんの少しだけ広輝の表情が柔くなった。歳相応の心を少しだけ覗けるように。

「……何の話だ」

 広輝が優里菜に恩があるのだけはわかったが、隆平は広輝の話が飲み込めない。しかも何故か無性に癇に障った。その理由がいまいち判別しないが、何か、無性に、腹立たしい。

 隆平とは反対に玲菜は驚いたような顔をしたものの、すぐに穏やかに微笑んだ。

「そう。広輝くんは広輝くんだったのね」

 玲菜は全部が腑に落ちたように感じた。広輝が優里菜を見て驚いていたのも、優里菜をどこか気にしていたのも。

 同姓同名が何人もいるこの世界で、名前だけが同じところで「あの人かも」と思ったりはしない。幼い頃の面影も、二人の面影もない。名字だって違う。それにあの人たちの息子が、あんなことを為出かすはずがないと、玲菜はそう思っていたから。後で問い詰めてやるという思いを今は伏せる。

「玲菜?」

「この子は勇人(はやと)さんたちの息子……そして(はるか)さんたちの息子さんよ」

「なに?」

 隆平の広輝を見る目がより一層鋭くなる。只、得体のしれない敵を見るような感じから、よく知っているが気に食わない者を見るような感じの目に変わった。

 広輝は隆平の目に戸惑いつつも、玲菜から出てきた名前に、二人が両親たちを知っていたことが意外だった。

 鳴上に住んでいたとは言え、月永や天会と関わりがあったとは聞いておらず、勇人()も岳隠の人間で隆平と知り合いだとは知らなかった。

「知っていたんですか」

「知っていたのは、あなたを勇人さんたちが引き取ったところまで。その後は美幸(みゆき)さんとも連絡取ってなくて……養子にしていたのは知らなかったわ」

「久下、そうか美幸たちの名字か」

 隆平の言う通り、広輝の姓の久下は母方の姓だ。義父(ちち)義母(はは)に婿入りした。

 隆平が義母(はは)を呼び捨てにしていることから、ある程度の関係を持っていたことが伺えた。

「母たちを知っているんですか」

「ええ。あなたのご両親全員と面識があるわ」

「…………」

 両親の意図はわからないが、広輝にはわざと伝えずにいたと思われる。

 玲菜は感慨に浸っているようだが、隆平の表情は厳しい。眉間のしわがオリバーの話をしていた時よりも深い。

「……あいつ、勇人の奴も鳴上(こっち)にくるのか」

「え、はい。義妹(いもうと)が中学を卒業したら……。??」

 従姉妹かつ義妹は現在中学三年生。来年の春には三人とも鳴上市に引っ越す予定だ。

 それを聞いた隆平の表情がだんだんと険しくなる。義父(ちち)と何かあるのは察せたが、そこまでかと思うくらいに嫌そうだった。もしかしたら義父の養子であることを隆平に気付かせない為に何も言わなかったのかもしれない。

「ふふ。この人と勇人さんはライバルだったから」

「思い出すだけでも忌々しい」

「ふふふ」

 広輝は、義父が結婚を機に引退したと聞いている。なので少なくとも十五年以上前の話のはずなのだが、まだ尾を引いているようだ。

 昔を思い出してか、穏やかに笑っていた玲菜が一つ息をついて冷静になる。

「だったら尚更ね」

 玲菜が広輝を見てちゃんと言う。

「オリバーと戦うなんて止めなさい。あなたが殺されてしまったら美幸さんたちにも申し訳が立たないわ。それに身内を失う悲しみは嫌というほど知っているでしょう」

 玲菜は一天子としてではなく、一人の親という他人事でもなく、身内のように広輝を諭す。

 しかし玲菜の心内を理解した上で、広輝の決断は揺るがない。

「はい。だからこそ行くんです」

 広輝は誰かを失う痛みは人並み以上に知っていると自覚している。

 心にぽっかりと穴が空いたような(かな)しみも、もう会えない絶望の悲しみも、胸を抉られるような締め付けられるような限りない痛みも。全部、全部知っているつもりだ。

 だから、それを、誰にも味わわせない。

 もう大切な人を誰も失くさない。

 それが今の広輝の信念。

「それに今回の目的はオリバーに勝つことではありません。僕がオリバーを抑え、他のメンバーが優里菜を助ければいい」

 オリバーに勝つことが主目的ではない。あくまで優里菜の救出がメイン。もしも広輝が倒れようと誰かが優里菜を救出すれば任務は完遂。加えてオリバーの雇い主を排除できれば、オリバーが優里菜を狙う理由もなくなる。オリバーは雇い主のオーダーを受けていたのだから。

「オリバーは戦いを望んでいます。戦い方を間違えなければ、次の戦いを残す為に僕を殺すことは無いと思います」

 オリバーが広輝に居場所を漏らしたのは雇い主のオーダーにはないはずだ。それはオリバーの独断。戦いに愉しみを見出すオリバーが広輝との戦いを望んだから。

「…………」

 玲菜は広輝の意志が固いことを察し、押し黙った。こうなった男どもは梃子でも動かないことを知っている。目は雄弁で、納得はしていないと強く語っているが。

 隆平も広輝の意志を感じ取る。この広輝なら大丈夫かもしれないと。ただ、隆平の目算ではオリバーと戦うのは広輝ではなく、鳴上における最強の天子だった。けれど広輝が優里菜救出の一翼となってくれるだろう。そう思っている。

「託して良いんだな」

「ダメです。託すのは救出班に、です」

 せっかく隆平が広輝を信用しそうになっていたにも関わらず、広輝はそれをへし折った。

「お前……」

「月永が陽本の、それも[堕天子]に大事なものを託してはダメです」

 広輝ははっきりと言っておく必要があった。結果も出していない口だけの天子を信用してはならないと。

 全ての結果を以て、判断して貰う必要があった。

「ただ役目は全うします。伊達に蒼で[堕天子]なんて呼ばれていませんから」


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