↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢クリスタは、破滅と没落の夢を見る  作者: 日比野 くろ
第三章 侯爵令嬢とアンリ・パトリックの奪還
PR
45/108

第44話 侯爵令嬢と裏路地の幼女 前編

 休憩を終えて、再び街を歩いていたクリスタは、不意に道の中心で足を止めた。


「クリス様、どうしたんですか?」


 後ろからついてきていたアリスが、特に何もない場所を見つめている主を見て、不思議そうに目を瞬かせる。


 クリスタが注目したのは、賑わう大通りの建物の間の隙間。

 薄暗く、店のものと思われる木箱が積み上げられている雑然とした空間だ。

 前を歩いていたレティシアも、戻ってきて一緒に目を細める。そして、何かを見つけたように、うなった。


「むむ……あれは……?」


 一見、何もないように見えた裏路地。

 しかし、よく見れば何かの影が動いているのが見えた。

 

「……さっそく、見つけましたわね」


 それを見つけたクリスタは悪どく笑んで、裏路地へと真っ直ぐに進んでいく。

 ぎょっとしたアリスは、慌てて引き留めようとした。 


「クリス様! だめです、そんな場所に入ったら……!」

「いえ、アリスちゃん。問題ありません」


 昼間とはいえ、人の目の届かない場所に入りこむべきてはない。

 だが、むしろアリスの制止は、レティシアによって止められた。二人はそのまま、何の迷いもなく裏路地に踏み入っていく。

 アリスには、なぜ危険に飛び込んでいくのか、訳がわからなかった。


「うぅ……ま、待ってくださいっ……!」


 ここに取り残されるわけにもいかないし、主を行かせるわけにもいかない。

 五秒ほど逡巡したあと、覚悟を決めて後を追いかけていった。


 裏路地は思った通り、道というのもおこがましいほどの場所であった。

 狭くて汚く、関係者以外が立ち入るとは思えない。

 そして表通りにいたときには聞こえなかった音が聞こえてくる。何やら争うような物音とともに、奥の方で誰かが騒いでいるようだった。

 

 アリスが、その不気味さに怯えながら進んでいると、その正体が分かった。

 大の男が三人――そのうちの一人の細身の男が、幼い子供の口を塞いで抱えている真っ最中であった。


「あなたたち。ここで一体、何をしていますの?」


 どう見てもまともではない三人組に、クリスタが冷たく問いかける。

 子供の口を塞いでいる当人の男は、あからさまに慌てた様子を見せた。

 

「先輩まずいですよ! ヤバいところを見られちまった……!」

「お、おい馬鹿、余計なことを言うな!」


 猿顔の男が、慌ててたしなめるが、もう遅い。

 クリスタ達の視線が冷たくなっていく一方で、ボスと思われる日焼けした男が、明らかに訝しむ表情でクリスタ達を見返した。

 

「なんだ……お前ら? こんな場所に女三人で、何しに来やがった」


 クリスタ達三人は、明らかに普通の平民という風態ではない。

 しかし、この場に訪れるようなはぐれ者でもない。どこかの商家の娘と使用人だと予想したが、それにしては雰囲気が鋭すぎる。

 男は警戒度をより一層高めて、クリスタは細身の男が抱える、幼い子供に視線を落とした。


「もう一度聞きますわ。あなたたち、その子供に何をしていますの?」

「あんたには関係ねえな。三秒数えるから、その間に失せな」


 猿顔の男が威嚇するように前に出て、小さなナイフを取り出した。

 それを見たアリスは、恐怖で顔を青ざめさせて、後ずさった。だがクリスタと、その前を守るように立ったレティシアは、一向にその場を離れない。

 そのまま三秒が経った。

 その間に、細身の男も冷静になってきたのか、下衆な笑みを浮かべた。


「度胸のある嬢ちゃんだ。見たところ、どっかの家のお嬢様ってとこか?」

「ヒヒヒッ。驚かせやがって。拐って売っぱらてやろうか……?」

「ひぃっ!」

 

 猿のような男が浮かべた下衆な笑みに、アリスがますます萎縮する。

 それに比べて、やはり前の二人には全く動揺がない。特に青い髪の女は何か普通ではないと、リーダーの男は警戒心を高めていた。

 一方で、クリスタは見た目や言動から、男達の情報を探っていた。


(思ったよりも早く、当たりを引きましたわね)


 視線を堕とす。抱き抱えられている幼女は、おそらく五歳程度。

 本来のクリスタの髪色と似た白水色の髪で、今は首を掴まれて、涙を流しながら、大人しく抱えられている。

 普通に考えれば、誘拐――そう考えて間違いないだろう。


「あなたたちは、王の膝下であるこの街で、犯罪を犯そうとしていますのよ。それを理解していますの?」

「ああぁ? お前。状況、分かってんのか?」

「ええ、よく分かっていますわ……特にあなた。"裏"の組織の人間ですわね」


 クリスタが、悪どい笑みを隠さずに指を差すと、男の警戒度が一変した。

 二人は「だから何だ」と言いたげな表情であったが、ボスは舌打ちして、二人に対して命令を下す。


「逃げられると面倒だ……”表”で騒がれないうちに、やれ」

「へへ。任せてください」 


 細身の男は、口を塞いでいた子供をボスに渡して、壁際に放置されている細長い木材を手に取った。ナイフを持った猿のような男と二人で、かかってくる気らしい。その顔には、ありありと欲望の色が浮かんでいた。

 猿顔の男は三人を見定めるように視線を滑らせた。

 クリスタ、アリス、そしてレティシアに視線を動かして……後ろに隠れるアリスに視線を戻した。


「よく見りゃあ、先頭のちっこいの以外は、全員いい女だなァ……」

「どこに目をつけているんですか!?」


 ギラつき始めた男の発言に、レティシアが思いっきり憤慨した。

 怯えていたアリスは視線を逸らし、クリスタも不快感に耐えるように腕を組んで、言いつける。


「……レティ。遊んでいないで、やりますわよ。早く片付けてしまいなさい」

「むー……今の侮辱は、到底許せません。覚悟してください。痛い目に遭ってもらいますっ」

「へへ。お前達だけでどうするっていうんだよ……!」


 男達は、あからさまに、一歩前に出てきたレティシアを侮った。

 全力で悲鳴をあげられれば、誰か人が来る。そうなると面倒なことになりかねなかったが、向こうにその気配はない。

 どうやら本気で、自力で自分たちを何とかしようと思っているようだ。

 ならば、いくらでもやりようはある、と……そう考えていた。

 

 しかし、男達の考えていることは、全て妄想でしかない。

 僅かに姿勢を屈めたレティシアの体が、一瞬だけ、白く輝いた。


 ――そして、跳んだ。


 人間では、到底あり得ない跳躍に、誰も反応もできなかった。


「うぐっ!?」


 レティシアはまず、細身の男の首に当身を入れた。

 前倒しになって、そのまま白目を剥いて倒れていく。隣に影を捉えた仲間も、気づいて、慌てて腕を振るった。


「な、このっ……がぁっ!?」


 猿のような男は、頬に思い切り平手打ちを食らった。

 盛大な音と共に壁まで吹っ飛んで、そのまま地面に突っ伏して気絶した……頬には、真っ赤な痕が残った。

 そこまでやって、レティシアは一旦息を吐くために止まった。

 一瞬で陣形を崩されるのを見て、リーダーの男はあからさまに慌てた。


「っ、何がっ!?」

「あなたも、寝ておいてくださいっ!」

 

 地面に留まったレティシアが、再び飛びかかろうとする。

 だが、ぶんっ、と。

 慌てたように、抱えていた幼女を投げ飛ばしてきて、面食らった。


「うぇっ!? と、とっとっ……!」

 

 途中で、かかとを使って急ブレーキをかけたレティシアは、かろうじて投げ飛ばされた幼女を、丁寧に受け止めた。

 その隙に男は振り返って、一目散に、さらに奥の路地へと逃げ出していく。

 

「くそがっ……!」

「あ、ちょっ、待ってください!」


 そっと幼女を地面におろして、慌てて追いかけた。

 しかし遅かった。入り組んだ路地は、すぐさま男の姿を隠してしまう。遅れて駆け出したレティシアは、気配を追いきれなかった。

 一瞬、魔法を使うことも考えたが、結局土地勘がないので追いつけないだろう。

 とぼとぼと、幼女のそばに寄ったクリスタのもとに戻ってくる。


「すみません、クリスタっ……クリスさま。逃げられてしまいました」

「一人仕留めれば十分ですわ。アリス、レティ。暴漢を監視しておきなさい」

「了解です!」


 意識のない子供の様子を確かめるクリスタに言われて、二人も頷いた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。