第44話 滅びの都攻略
徳之助達との相談の結果、作戦決行は明日の一八時。俺の役割は、捜査員が潜伏中の《府道駅前公園》のベンチで、カリンと話すというそれだけの単純な作業。
AやSランクのサーチャーがいるのでは、俺など足手纏いがいいところだし、実に妥当な作戦だろう。
その後、堂島が赤装束の男と黒髪の女の似顔絵を描くことに協力する。まあ、協力と言っても、ただ椅子に座っていただけ。
堂島は俺に黒髪の女を具体的にイメージするようにいうと、左手を俺の額に手を当てて、瞼を閉じ、右手で高速で描き始める。数分で写真のような正確さをもって模写が完成していた。おそらく、念写のようなスキルだろうが、中々どうして警察の仕事では重宝されると思われる。
ようやく、解放され、俺も自宅へ戻る。
今は、《滅びの都》の荒野のフィールドに来ている。
確かに、『一三事件』解決の目途が立ったが、敵の能力で捜査員達と俺達が分断されることはなお考えられる。一人で戦いきる力は必須だ。
今日は、できる限り先に進むことにする。
《サンダーバード》の群れを抜けると、《メガワーム》という名のLv5の巨大芋虫が荒野の大地を埋め尽くしていた。昼間は土の中に潜っているが、夜間になると地上に出てくるらしい。
虫かごの中に閉じ込められたかのような心境であり、壮絶に気持ちが悪い。狙撃銃仕様の《時限弾》で殲滅し、先に進む。
芋虫のお次は、四つの赤い目に、二つの角と蝙蝠の翼を持つ魔物――《ガーゴイル》。このお伽噺の悪魔のような外見の魔物もレベルは5であり、ほぼ危なげなく倒すことができた。
そして、ようやく《深域》最後の草原のフィールドに到着する。
心底、うんざりする。それが、俺の《滅びの都》に対する偽りのない感想だ。
小型のビルほどもある人の形をした樹木が大地をノッシノッシと歩いていた。そのあまりの巨体からか、大地は振動し、地響きと土煙を上げている。
鑑定してみると――。
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『ジャイアントドリアード』
〇説明:草原に生息する移動可能樹木系の魔物。夜間行動性があり、昼間は大木として活動を休止する。
〇Lⅴ:6
〇種族:魔植
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あの大きさでは、通常の弾丸など効果はほとんどあるまい。《時限弾》で処理するべきだ。
まずは、《時限弾》で倒せるか。
狙撃銃の標準を五〇〇メートル先の『ジャイアントドリアード』の中心へと固定する。
引金を引くと、弾丸が発射されジャイアントドリアードの体内深く突き刺さる。次いで、引金を長押すると、盛大な爆音を鳴り響かせて、大爆発を引き起こす。
空中で粉々の破片まで破壊されたジャイアントドリアードは、地面にバラバラと落ちて轟音をあげ大地を震わせる。
やはり、《時限弾》なら問題なく、倒せるようだ。
さて早速討伐を開始する。
エンカウントしたジャイアントドリアードを《時限弾》で遠方から打ち殺す。これをひたすらくりかえす。ジャイアントドリアードは動作も鈍く、的も大きい。一定距離まで近づかなければ怖くもなんともない。まさに、独活の大木だった。
俺のレベルは7へと上がる。レベルアップの際の行動不能状態が回復するまで、ジャイアントドリアードを破壊した破片を椅子替わりに腰を下ろす。
それではレベル7の確認。
『休息』がⅬv4となり、完全修復までの時間が一時間となり、『アイテムボックス』はLv5となり、収納可能容量が一〇〇〇立方メートルへ、劣化速度は外界の一〇〇分の一まで上昇する。
『鑑定』はLⅴ5となり、《魔物図鑑(限定的解除)》で、『能力変動値』も表示可能となる。
さらに、《権能》に『改良(Lⅴ1)』という項目が増えていた。
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『改良(Lⅴ1)』
〇説明:武具・魔道具などを融合させ、新しい物へと進化させる。
■中級改良:武具・魔道具を最大中級まで改良することが可能。
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生産系の権能だが、今は戦闘中だし、考察はピノアに帰ったらにしよう。
この点、【エア】に変化はなく、ステータスを確認すると、レベル7の『次レベルへ至る条件』は、『レベル7の獣系の魔物を新たに三〇〇匹討伐』となる。
休憩後も、ジャイアントドリアードを見つけ次第、破壊することを繰り返し、巨大樹木の生息地体を抜ける。
それから、巨大蝗の大群、やけに素早い蜥蜴の群れを連続で殲滅し、俺は今、目の前の空を高速で跳躍する化け物兎共を眺めている。
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『レッドラビット』
〇説明:草原に生息する赤色の毛並みの兎の魔物。超高速飛行が可能。
〇能力変動値:
・筋力58/100
・耐久力:17/100
・器用:80/100
・俊敏性:100/100
・魔力:10/100
〇Lⅴ:7
〇種族:魔獣
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(死んだな……)
ぼんやりとそんな呑気感想を浮かべ、俺の今日初めての命懸けのバトルの火蓋は切って落とされた。
四方八方からの絶え間ないレッドラビットの猛追。
レットラビットが俺の脳天目掛けて、その長く強靭な右脚をしならせつつ踵を振り下ろしてくるが、それを独楽のように重心を移動して避けつつも、その頭部目掛けて【エア】の銃弾を撃ち放ち粉々に破砕させる。
同時に、左から兎とは思えぬ鋭い爪を突き付けてくるレッドラビットを左手のミリタリーナイフで垂直に脳天から切断し、後方からも迫るクソ兎に腕だけ動かし銃口を向けて銃弾を撃ち放つ。
(足を止めんな!)
足元から這い上がって来る疲労により、悲鳴を上げる身体にご無体な命令を下しつつも、地面を疾駆し続ける。
これだけ数がいれば、戦術も糞もない。一撃でも直撃をくらえば、蹴られ、切り裂かれ、齧られて即ゲームオーバー。
四肢は鉛のように重く、幾つもの小さくはない傷が体中に刻まれる。
レッドラビットの耐久力は低く、頭部を殴れば首をへし折れるし、【エア】やミリタリーナイフで容易に屠れる。しかし、俊敏性は明らかに現時点での俺より上であり、しかも高速飛行も可能ときている。何より魔物のお替りはげんなりするくらい存在する。
十分な警戒もせずに、不用意にこの赤い悪魔の生息地体に踏み込んだ自分自身を全力で殴りたい。
後悔先に立たず。既に数百匹に完璧ともいえる布陣で包囲されている。逃げるのは無理。
この戦闘が終わるのは俺が力尽きたときか、この兎共を駆逐したとき。
「やって――やる」
決意の言葉を口にした途端、カチリと俺の中のスイッチが入れ替わる。
――今までの堪えがたい焦燥と人間の根源的な死の恐怖は、灼熱の暴虐な感情により一掃される。
まただ。グスタフの時と同じ。ある激情が身体と魂を蹂躙しているのに、戦闘に関しては妙に冷静。そんな矛盾極まりない感覚。
「クソ兎共、精々楽しませろよ」
口角が上がり、俺の顔は嘗てない凶悪で獰猛な表情を形作る。
生存のため、互いの命を賭けた死闘。その事実に全身が歓喜で奮い立つ。
足で地面を蹴り飛ばし――。
◆
◆
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最後の一匹の頭部を左手で握り潰し、ようやく俺は地面に膝をつく。
額から出血した血液と汗が交じり合い、顎を伝って草原の大地にポタリと落ちる。
とっくの昔に、痛みや疲労の感覚はおろか、時間の感覚さえもない。
見渡す限りの大地を埋め尽くすレッドラビットの死体。歯向かう敵は全て殺し尽くした。この場に立っているのは俺一人。俺が勝者だ。
猛火で焙りたてるような激情に、俺は力の限り咆哮した。
自宅に戻り、朝まで泥の様に眠ると、今まであった興奮は嘘のように消失していた。
変わりに、生じたのは、強烈な疑問。
あれは駄目だろう。いつから俺は頭の螺子が飛んだ狂戦士になった? レベルが8になった段階で、勝負は決していた。普段の俺なら、適当に見切りをつけて、休憩していたはずだ。なのに、俺は止まらず、向かってくるレッドラビットを完全沈黙するまで殺し続けた。
あの狂戦士モードになるのは、決まって危機的状況に陥るとき。真に命を賭けた高いになると、頭が闘い一色に塗り替えられ、他の一切が隅に追いやられる。
あの状態は俺が俺でなくなったようで、正直、ぞっとしない。予防は、危機的状況に陥らないことだが、このぶっ飛んだダンジョンでは極めて難しい。
(仲間でもいりゃあ、違うんだろうがな……)
本来あの赤兎は、一人が防御系スキルや魔術で結界を張り、結界内からの遠距離攻撃が基本のはずだ。それなら、十数分で全て駆逐できていたことだろう。
この一件が済み次第、この世界で背中を預ける仲間を探すことも考慮に入れるべきなのかもしれない。
ともあれ、レベル8の確認だ。
まずは権能について。
『アイテムボックス』は変化が認められなかったが、『鑑定』はⅬv6となり、《魔物図鑑》の『自身と同Lv以下の存在に限る』の条件が取っ払われた。
また、『休息』はⅬv5となり、修復能力が大傷から特傷までになり、完全修復までの時間が四五分となる。
さらに『改良』がLⅴ2になり、《上級改良》の能力により、武具・魔道具を最大上級まで改良することが可能となった。
今回の大きな変化は新たな権能『魔物使役(Lⅴ1)』と【エア】の新機能の獲得だ。
まずは、『魔物使役(Lⅴ1)』から。
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『魔物使役(Lⅴ1)』
〇説明:魔物を使役させる。
■使役条件:
・同種の魔物を二〇〇匹以上討伐したこと。
・自身のレベル以下のものであること。
・対象となる魔物に右手を触れること。
・使役できるのは二匹まで。
〇魔物小屋(Lv1):使役した魔物を最大二匹まで住まわせることができる。
入屋で魔物小屋に収納し、解放で小屋から出す。ただし、解放できるのは、一匹につき一日一度のみ。
■解除:魔物との使役関係を解消する。
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魔物使役……。使用してみないと実用性はわからない。
新たに二〇〇匹の魔物を倒すのは骨だし、流石に、一匹くらい、空に退避していたレッドラビットがいるだろう。
【覇者の扉】から、《滅びの都》へ行き、草原を歩き回ると、案の定数匹のレッドラビットにエンカウントする。
『魔物使役(Lⅴ1)』を押し、高速でレッドラビットに迫り、額に右手を当てると『きゅう』と叫び大人しくなった。
《滅びの都》は同レベルでの戦闘がメインであり、防御結界一つ張れない低レベルの魔物が一匹や二匹増えても大した意味はない。
『一三事件』の掃討作戦も、レベル7の魔物ごときが役立つとも思えない。今のところ、使用する場所を思い描けないが、結局、二匹のレッドラビットを使役し、入屋で魔物小屋に放り込んで置いた。
次が、【エア】の新機能。
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■常時機能:
〇特殊弾威力範囲制御:弾丸の威力と範囲を自在に制御し得る。
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キタコレ! 《時限弾》の威力と範囲が出鱈目すぎて、近接戦闘に明らかに不向きだったんだ。これで、戦闘手段が飛躍的に向上した。
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『ユウマ・サガラ』
〇レベル8
〇称号:覇王(憤怒)
〇HP:100%/100%
〇MP:100%/100%
〇筋力:74/100
〇耐久力:74/100
〇器用:75/100
〇俊敏性:76/100
〇魔力:76/100
〇次レベルへ至る条件:レベル8以上の虫系の魔物を新たに三〇〇匹討伐。
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『改良』の《上級改良》の能力を確かめようと思う。
【HP回復薬】を一〇個取り出し、テーブルの上に置く。
『改良』のテロップを押すと、机の【HP回復薬】が点滅し、【初級HP回復薬】のテロップが出現する。
試しに二個の【初級HP回復薬】のテロップを押してみる。
テロップを押した二個の【HP回復薬】は光り輝くと、消失し、一個の【HP回復薬】が机にゴロンと転がる。
鑑定をかけてみると――。
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【中級HP回復薬】
■説明:治癒能力と細胞分裂を亢進し、中傷――比較的深い傷や軽度な骨折のような傷を修復する。
■魔道具クラス:中級
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中傷までの修復が可能となっている。中傷は、『比較的深い傷や軽度な骨折のような傷』の修復。深い傷まで回復できるのは大きい。
さらに、【中級HP回復薬】と【初級HP回復薬】のテロップを押すと、【中級HP回復薬】のまま。さらに、【初級HP回復薬】を融合させると、【上級HP回復薬】に変化する。
ちなみに【上級HP回復薬】を鑑定した結果は、治癒能力と細胞分裂を亢進し、大傷――内臓の軽度の損傷や複雑骨折のような傷を修復する、だった。
つまり、重症を負ってもこの【上級HP回復薬】を飲めば修復するわけだ。
今晩の作戦では、少なからず捜査本部の捜査員にも、怪我人が出る。そして、今回俺はサポートに徹することになるわけだし、この手の回復手段を持つことの意義は大きい。
そこで、六〇個の【上級HP回復薬】と二五個の【上級MP回復役】を改良により作成し、《アイテムボックス》へ収納する。




