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第43話 会合と事件考察


 新塾駅に到着し、西口改札前付近で待つが、丁度三〇分前の一八時半に堂島美咲(どうじまみさき)が改札から姿を現す。


「あんた、堂島美咲(どうじまみさき)だな?」


 わかりきっているが、演技もまた必要だろうさ。


「君が今朝の電話の?」

「ああ、相良悠真(さがらゆうま)だ。宜しく頼む」


 俺が右手を差し出すと、堂島の背後から目が線の様に細い黒髪の男が身を乗り出し、その手を握る。


「よろしく、僕は八神徳之助(やがみとくのすけ)、徳さんとでも呼んでよ」


 八神家――日本でも有数の魔術師の系譜であり、朝霧家、志摩家と並ぶ六つの家――六壬真家(りくじんしんか)の一つ。そして、武帝高校部体育連合会会長――八神吹雪(やがみふぶき)と同じ家。大方、八神吹雪の兄か何かだろう。

 それよりもだ。堂島の奴、他の捜査員に話しやがった。

 確かに、他の捜査員の一切の協力なく《一三事件》を解決できるとは俺だって考えちゃいない。

 しかし、俺達が置かれている切迫した状況と志摩家が裏にいることを知らねば、協力を仰ぐべき人物か否か判断し得ない。

 何より、一度約束したことをいとも簡単に反故するような人物など信用ができない。

 

「話が違う。俺は帰らせてもらう」


 俺が立ち去ろうとすると、堂島が慌てふためき、口を開こうとするが、徳之助に制される。


「彼女が話したのは僕だけ。そして、僕に話すことは、彼女が本事件の捜査に加わることの条件でもある。

 それにね、僕はどこぞの無能な捜査官ではない。僕らの(・・・)置かれてる危機的状況も理解しているつもりだよ」


 徳之助の言葉が真実なら、堂島も上司である徳之助に話せざるを得ないか。そもそも、捜査員全員に知らせないなど不可能もいいところなのも確かなのだ。約束を破った事実は気に入らないが、今回に限り堂島の不義は目を瞑るべきかもしれない。

それにしても、『僕らの』か。徳之助のこの口ぶりからも、捜査本部にスパイがいる可能性があるらしい。俺の予想、悪い方向だけ、やたら当たるんだよな。


「了解した。それじゃ、近くのカラオケボックスにでも入ろう。あそこなら話声も漏れない」

「OK! 頭がいい子供っていいよねぇ。話がスムーズでさ」



 新塾駅西口から三〇分ほど歩いた場所にあるカラオケボックス――《二四時ミュージアム》に入る。

 定員に部屋に案内され、飲み物と食べ物を頼むと、中々話し始めない俺達に痺れを切らした堂島が口を開く。


「では、さっそく、相良君、君の情報を教えて欲しい」

「ああ、その前に――」


 俺が徳之助に視線を向けると、子供がとっておきの悪戯に成功したかのような笑みを浮かべる。

 八神徳之助――三〇代前半で、警視正なら警視庁のキャリアなんだろうが、想像以上にやり手だ。

俺が他者の気配を読めるようになったのは、少しの気の弛みが死に直結する《滅びの都》での修行をしたからだ。しかも、俺が確信を持てたのは、《モンブラン》でのいざこざがあったから。キャリアで事務専門の警視正様が、気付くとは正直思わなかった。

 なら、徳之助に全て委ねよう。俺が話すと、多分こじれるし、徳之助の言葉なら奴も大人しく従うだろうから。

 徳之助は扉へ近づくと、勢いよく開けて――。


「さあ、入りなよ。部屋は四人分とってある」


 扉の前には、長門文人(ながとふみひと)が立っていた。


                ◆

               ◆

               ◆

「関係者がそろったようだし、話しを始めよう」


 関係者? 長門は部外者だろ?

 

「なぜ、貴方達がこの相良悠真と一緒にいる?」


 長門が顔を真っ赤にしつつも、立ち上がり、俺に指先を突き付ける。


「彼は《一三事件》の情報提供者。事件解決に協力してもらっている」


「情報提供……だと? また(・・)此奴が――」


 長門の俺を見る目に、凄まじい憤怒と憎悪の光が灯る。


「言ったろ。事件に協力してもらってるって。これは僕の勘だけどさ、彼の協力なくして、《一三事件》の解決はない。君もそれは本意じゃないんだろ?」


 ギリギリと奥歯を噛みしめていたが、長門は椅子に腰を下ろす。


「盛り上がっている所悪いが、マスコミの前で話す気はない」


 明日の朝、俺の名前が新聞の一面を飾るのは御免だ。そうなれば、俺はカリンを守れなくなる。


「相良、貴様ぁっ!!」


 激高する長門に、肩を竦めると、徳之助の判断を待つ。


「相良君、長門君はこの部屋の話を漏らさないよ」

「もったいぶらずに話してくれ。話が読めない」

「これは失敬、失敬! 長門文人(ながとふみひと)の妻は、ローザ・メスト。あとは(さと)い君ならわかるだろ?」


 メスト? おい、嘘だろ……どんな合致だよ。


「彼女は長門の姪、いや、ローザ・メストの妹か?」

「そう。フィオーレ・メストは、ローザ・メストの年の離れた実妹であり、長門文人(ながとふみひと)の娘――長門里香(ながとりか)の親友だ。

 フィオーレ・メストは、姉のローザ・メストを頼り、長門家にホームステイしていたわけさ」


 事情が大まかだが読めてきた。

 長門家にとって、フィオーレ・メストが娘同然の存在なら、昨晩のフィオーレの死により、長門の精神は限界のはず。ならば、土曜日に、長門が俺への嫌がらせを敢行したことの一応の動機にはなる。

 ただ、俺は《一三事件》とは完全に無関係。仮に関係があると捜査本部が見做しているなら、俺はとっくの昔に身柄拘束中だろう。その無関係な俺の八つ当たりのために、今日のような犯罪行為をするだろうか? 

 その点、長門が、俺、相良悠真を《一三事件》の関係者だと断定しているならば、一連の行為に説明がつく。


「それで、《上乃駅前事件》と《一三事件》との間にどんな関連性があるんだ?」


 俺の言葉に、堂島が口をパクパクさせ、長門が顔を歪める。そして徳之助といえば――。


「くははっ! 相良君、君は、最高だ。最高過ぎる! 

 そうさ。その関連性こそが、彼、長門君が執念の先に辿り着いた唯一の真実であり、僕ら捜査本部の犯した最大の過ちさ」


 どこかの悪の組織の親玉のように、豪快に笑う徳之助。


「徳之助さん、あんたは一々、回りくどすぎる。お互い無限に時間があるわけじゃないはずだぜ。もっと、ざっくりたのむ」

「了解。では、まず、《上乃駅前事件》と《一三事件》の関連性から。

 《一三事件》の被害者全員が、《上乃駅前事件》が起きる三六時間以内に、上野駅を訪れていたんだ」


 なるほどな。大まかにだが繋がった。長門は、愛娘を殺した《上乃駅前事件》の真相を知るため調べていた。そして仕事で、平行して『一三事件』の被害者を追っていくうちに、奇妙な符合に辿り着いたんだろう。その符合とは、被害者全員が、《上乃駅前事件》が起きる三六時間以内に、上乃駅を訪れていたこと。


「もう二年も前の事なのに、よく訪れていたことが分かったな?」


 長門は、腕を組んで、瞼を閉じ身動ぎ一つしない。


「日記さ。第一の被害者が、日記をつけていたんだ。

 そこには、《上乃駅前事件》の前日に、なぜか理由もなく上乃駅前を訪れた旨の記載があった。長門君が第二、第三の被害者の遺族や友達に、《上乃駅前事件》の前日の事を聞いた結果、彼らもまた、被害者から相談されたことがあったらしい。

 まあ、あの大虐殺の前日に、理由もなく、上乃駅前をうろつくなどのオカルティックな体験談だ。記憶には残ったようだね」

「長門夫婦も、フィオーレ・メストから同じ相談を受けていたわけだ。

 長門は、この情報を『一三事件』の捜査本部に伝え、保護を求めるも、誰も見向きもしなかった。そして、昨晩事件が起きる」


 ギリッと歯が軋む音が聞こえる。長門が口から血を流していた。

 それは無念だろうさ。そして、今日の俺への犯罪行為の理由も合点がいった。

 長門は、《上乃駅前事件》で愛娘を失った。加えて、《上乃駅前事件》が発端となった『一三事件』により、娘同然の人も失った。《上乃駅前事件》に対する長門の憎しみは想像を絶する

 そして、俺は《上乃駅前事件》のたった二人の生き残り。《上乃駅前事件》が起きた原因が俺にあると信じたい(・・・・)長門にとって、俺は憎むことができる唯一の対象。

 昨晩のフィオーレ・メストの死により、俺への憎しみが抑えきれなくなり、今日の暴挙にでたんだろう。

 

「貴様さえ――貴様さえいなければ、《上乃駅前事件》は起きなかった。里香が死ぬことも、フィオーレが死ぬこともなかった!」


 恨み骨髄の陰惨な表情で激憤する長門に、徳之助は感情を顔から消し、静かに言葉を紡ぐ。


「君の怒りと憎しみはよくわかる。でもね、相良悠真(さがらゆうま)は《上乃駅前事件》の被害者だ。彼もまた、君と同様、家族を失っている。いや、君はまだ妻がいるだけ幸せかもね。今の相良君には何もないから」

「……黙れ」


 俯きながらも肩を震わせる長門。


「相良君が《上乃駅前事件》の原因? 馬鹿馬鹿しい、一〇代前半の子供が意識的であれ、無意識であれ、二千人もの人間を殺せるわけなんてないさ。悪いけど、そんな眉唾な話、本気で信じている者など、この世界にいやしないよ。

 何より、《上乃駅前事件》の怪異は二一世紀の初頭突如出現した迷宮(ダンジョン)と同種のものだ。それはどの研究機関も認めてる。あのクラスの奇跡を人間ごときに造り出せるはずなどないんだ」

「黙れぇ!!」


 長門の顔はクシャクシャに歪んでいた。それでも徳之助は攻めの言葉を止めない。


「相良兄妹が《上乃駅前事件》の原因だというこじつけは、当時の『超常現象対策庁長官』――朝霧将蔵(あさぎりしょうぞう)が、未然に防げなかった政府への批判と混乱を避けるために使用した方便の一つに過ぎない。

 笑っちゃうよね。恥ずかしげもなく、偶々生き残った何の罪もない子供に責任を押し付けちゃうんだからさ。

 でも大人達は皆、そんな恥知らずな行為を選んだ。なぜなら、その方が楽だから」

「止めて……くれぇ……」


 悲痛な叫び声を上げて、長門は床に両膝をつき、崩れ落ちる。


「あの事件の真相を二年間、死に物狂いで調べてきたんだ。君だって、もうとっくに相良君がただの被害者にすぎないことに気付いてるんだろ?」

「……」

「フィオーレ・メストの死は僕ら捜査本部の失態だ。だから、言い訳するつもりはこれっぽっちもない。でもさ、何の責任もない相良君に責任転嫁するのだけは止めなよ。それは死んだフィオーレ・メストさえも侮辱することになる」


 遂に長門は、項垂れて一言も発しなくなってしまう。


「八神警視正。そろそろ、本題にはいりましょう」


 堂島の言葉に、徳之助も相槌を打つ。


「そうだね。僕も少し熱くなり過ぎた。相良君、君の情報を教えてくれ」

「わかった。その前に前提条件だ。俺は最近ある能力を発現させた」

「ある能力?」

「予知夢さ。その中で、俺は捕えられ、椅子に縛り付けられて、釘で全身を滅多刺しになっていた」


 長門が顔を上げ俺を凝視し、堂島が眉をしかめる。

 堂島の顔には、強い懐疑の念が読み取れた。俺が彼女の立場でも、予知能力なんて眉唾な話おいそれと信じはすまい。

 対して、徳之助は顎に手を上げると、ベンチシートから立ち上がり、部屋を歩き始める。


「続けてよ」

「やったのは、黒色のドレスを着たショートカット黒髪の女だ」

「八神警視正、流石に、予知夢の情報を鵜呑みにするわけには――」


 堂島が躊躇いがちにも進言してくる。ここまでは想定の範囲内だ。端から予知夢なんていう如何わしい事象だけで、俺の話しを信じてもらおうとは思っていない。

 俺は一枚の紙をポケットから取り出し徳之助に渡す。


「俺の夢で見た、黒髪女が使っていた釘の形状だ。そんな感じじゃなかったか?」


 十字架を象った白と黒のまだら模様の釘。中心に大きな穴が開いている。色としても形態としても、そんな特殊な釘、市販などされていないはず。


「や、八神警視!」


 イラスト用紙を覗き込み、堂島が頓狂な声を上げる。


「うん。釘の形状の公式発表はまだされていない。しかも、ここまで正確な描写、彼の話を疑う余地はないよ」

 

 この釘の情報は劇薬見等しい。俺の言葉の信頼性は増すが、反面、実行犯しか知りえない情報を知っているのだ。俺が、犯人であると疑われる危険性は飛躍的に増大する。

 ここからが勝負だろう。

 

「信じてもらえたところで恐縮だが、話しを先に進めるぞ」


 徳之助が大きく頷き、堂島が生唾を飲み込む。

 長門もベンチシートに座り直ると、俺に視線を向けて来る。俺を見る奴の瞳には、依然として憤怒、憎悪、懐疑も存在したが、それらと同じくらい強い決意も宿っていた。


「俺が拷問を受けていたとき、部屋には少なくとも四人はいた。一人は、拷問をしていた黒髪の女。多分、二〇代前半くらいだと思う」

「その黒髪の女についてこの後、似顔絵に協力してもらっていいかい?」

「構わねぇよ。元より奴らについて俺が知っている情報は全て吐き出すつもりできた」


 徳之助は満足そうに頷き、


「話の腰を折って悪かったね。続けてよ」


 片手を立てて拝む仕草を取ってくる。


「予知夢で、俺は椅子に縛り付けられていた。拷問をしたのは、黒髪の女だけで、他の奴らは俺の背後にいたから、顔はわからない。

 だが、少なくとも三人の声は聞こえた。

 一人は、野太い豪快な男の声。二〇代後半から三〇代くらい。

 もう一人は、俺と同じ歳くらいの男の声。

 最後が抑揚のない若い男の声だが、それ以外特徴は一切、感じられなかった」

「ふむ。最低でも『一三事件』の容疑者は四人いるってわけか……」


 部屋内を歩き回るのを再開する徳之助。おそらく、思考を整理する際のこいつの癖なのだろう。


「いや、五人だ。予知夢はもう一つ見た」

「もう一つ?」


 オウム返しに尋ねる堂島。


「もう一つの予知は明日の日曜日。赤色装束の仮面をした男に俺達は襲われ、殺される」

「……」


 絶句する堂島と眉をひそめる徳之助。気付くよな、やっぱ。


「君はなぜ、その赤装束の男とやらが『一三事件』の容疑者の一人だと思うんだい?」


 ここからが勝負だ。


「それこそが、あんたらをこの場に呼んだ理由だ。ここから先は、かなり危険で綱渡り的な話になる。引き返すなら今だぜ」


 脇の長門に視線を向ける。俺は長門が大っ嫌いだ。此奴のせいで、俺の中学時代は散々だったし、何より、小雪まで侮蔑する長門の言動だけは一生許すつもりはない。

 だが、一方で長門の気持ちが理解できてしまうのも事実なんだ。命より大切なものを二人同時に失えば、俺だってどんな行動をとるかは予測できない。

 それに、『一三事件』の解決が使命である徳之助や堂島と異なり、長門は遺族にすぎず、過剰な危険を冒す義理はない。

 だから、長門には引き返すための道は残しておきたい。それがフェアってもんだ。


「そうだね。長門君。僕もこれ以上君はこの場にいない方がいいと思う。あとは、記者としてこの事件を追えばいいさ」

「余計なお世話だ。相良早く話せ」


 右拳を左手の掌で握ると、長門は固く瞼を閉じる。この様子では気変わりはすまい。


「了解だ」


 大きく頷き、徳之助達をグルリと見渡し――。


「俺と一緒に殺された人物には、志摩花梨もいたのさ。そして、志摩花梨こそ、次の『一三事件』のターゲットの一人だ」


 この度の核心となる事実を口にした。


                ◆

               ◆

               ◆


 俺が考察の概略を話し終えると、一同暫し無言となるが――。


「志摩花梨もまた、《上乃駅前事件》の前日に上乃駅を訪れていた……」


 ようやく、堂島がボソリと誰にいうでもなしに呟く。

 そう。一週目、カリンは俺に、事件の前日、上乃駅前に足を運んだ旨の発言をしていた。あのときは、カリンの発言の意図が読めなかったが、今なら痛いほどその気持ちがわかる。

 俺と小雪が事件に巻き込まれたことを知り、今まで漠然とした不安にすぎなかった《上乃駅前事件》と自分の理由のない上乃駅の訪問との関連性が顕在化したのだろう。

 徳之助が立ち上がり、再び部屋内を歩きだしながら、口を開く。


「情報を少し整理しよう。

 相良君の見た予知夢は二つ。

 一つが、そこに至る詳しい経緯は不明だが、一一月二日に君は、志摩家を訪れ、志摩家当主に志摩花梨が近い将来襲われる可能性があることを告げる。そして、その晩、黒髪の女に拷問の末、殺されたこと。

 もう一つが、一一月六日(日)に赤色装束の男に襲われて志摩花梨共々殺されたこと。

 これで相違ないかい?」

「ああ、間違いない」


 徳之助の疑問に大きく頷く。

 実のところ、一一月二日の志摩家でのカリンが襲われる可能性の指摘は、一一月六日の赤装束の男の存在が根拠となっている。だが、それでは、予知夢の中で、予知の内容を告げるというとんでもなくヘンテコな事態になってしまう。そこで、予知夢は基本断片的という性質を利用させてもらった。要するに、その会話に至る詳しい経緯までは知らない、とオブラートに包んだわけだ。

 予知夢自体が研究途上の概念であるせいか、徳之助もそこは深く突っ込んではこなかった。まあ、尋ねられても答えようがないわけであるが……。


「一一月二日の予知夢では、《灰狼》とかいう暗殺者と『一三事件』の容疑者とみられる黒髪の女達の双方に襲われたが、《灰狼》は黒髪の女に尋問の上殺されたことからも、両者の連携はとれていなかった。

 『一三事件』のターゲットは、《上乃駅前事件》前日に上乃駅を訪れていた白人の少女であり、志摩花梨に限定されない。

 つまり――」


「『一三事件』とは別に、志摩家にはカリンの命を狙っている勢力がいるってわけだ」


 俺のこの言葉に、堂島が渋い顔するが、無理もない話だ。

 志摩家は、朝霧家と同様、六壬真家(りくじんしんか)の中でも頭一つ抜けており、その政界財界に対する影響力は凄まじいものがある。

 その内紛が目下勃発中で、しかも『一三事件』という猟奇マニア集団からも狙われている。カリン、お前、どんだけ、ドラを乗せれば気が済むんだ?


「相良君が、過剰なほど捜査本部の情報漏洩を心配する理由がわかった。

 確かに、志摩家の権勢なら、警視庁の上層部に圧力をかけて、捜査情報を得る事すら可能だろう」


 予想的中というわけか。全く嬉しくはないわけだが。


「『一三事件』の奴らが志摩家内の賊と関わりがあるかは不明だが、両者が目的を異にする以上、志摩家の黒幕を捕縛しても、『一三事件』は止まらねぇ」


「要するに、僕らは志摩家に気付かれず、『一三事件』を処理しなければならない。志摩家の黒幕としては、直に手を下さなくても、捜査本部に対する嫌がらせだけで、志摩花梨の殺害という目的は遂げられる。しかも、志摩家には『一三事件』のスパイまでいる可能性がある。

 これかなり、無理ゲーだよ?」

「わかっている。でも、俺達には武器がある」

「相良の予知夢……」


 長門の呟きに、徳之助が深い笑みを浮かべる。


「相良君の予知夢では、明日、一一月六日に赤色装束の男に相良君達は襲われる。そこを一網打尽にする。な~に、捜査本部にはAランクやSランクの戦闘職専門のサーチャーも控えている。負けはしないさ」


 Aランクのサーチャーの戦闘力は、他とは次元が違う。噂では、一人で機械化部隊の一個分隊を軽く全滅させる程の力があるらしい。まさに、人間兵器というところだろう。

 そして、さらにSクラス以上は真の意味での世界的強者であり、その戦闘専門職の強さはAクラスとは比較にならない。要するに、奴らを罠に嵌めることができるなら、俺達の勝ち。

 問題があるとすれば――。


「志摩家への圧力はどうすんだ?」

「そこは任せてよ。僕に考えがある。『一三事件』の容疑者を確保したら、次は志摩家に潜む狐狩り。これだけ好き勝手放題やってくれたんだ。な~に、じっくりたっぷり、追い込んでやる」


 徳之助は、俺が今まで目にした中で一番の凶悪な笑みを顔一面に浮かべた。



お読みいただきありがとうございます。

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