表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/253

第42話 裏路地でのやり取り


 群がる超常者(イモータル)たちをやり過ごし、道具屋へ直行する。

 道具屋で、金級の【HP回復薬(ポーション)】と【MP回復役(エーテル)】を二〇〇個ずつ購入する。ルピなど、このMP回復役(エーテル)くらいしか使い道がない。まだ、一〇〇万ルピ以上あるし、構いやしない。


 カリンの件が佳境を迎えつつあるからか、それとも、セシルの想いを知ったせいだろうか。どうしても、【覇者の扉】を使う気になれず、俺の足は、『府道総合病院』へと向いていた。


 現在、『府道総合病院』前の自動販売機で、俺は小雪の病室を眺めなら珈琲を飲んでいる。

 もちろん、病院内には入らない。俺は『府道駅』へ向かう途中に通りかっただけ。そういう体裁にしなければならないから。


(情けねぇな……)


 カリンの一件が片付くまで、小雪には近づくまいと心に誓ったはずなのに……。

 この数日の経験でどうしょうもなく会いたくなってしまった。この世でたった一人の肉親に俺の話を聞いてもらいたくなってしまった。

 でも、それは最悪の現実逃避。病室で寝ている小雪に話したところで、大事な奴が悲しむ事実は覆らない。大切な奴が惨劇の檻の中に閉じ込められている状況は変わらない。

 だから、俺は――。


「小雪、また来るよ」


 そう、宣言すると、空になった珈琲の缶をゴミ箱に捨て、府道駅へ向かう。


                ◆

               ◆

               ◆


 府道駅から、芽黒駅への電車に乗り、カリンを迎えに行く。

 感覚が少々過敏になっているのかもしれない。終始、誰かに監視されているような視線を感じつつも、カリンと共に《バーミリオン》に到着する。

 更衣室で着替えて、店長に挨拶に行くと、部屋には厳さんが上機嫌で新作の料理の説明をしていた。この厳さんのテンションの高さも容易に察することができる。


「今日もカリンの指導、お願いします。フロアは人数足りてますから」

「そうか、そうか、カリンの嬢ちゃん、料理の筋がいい。あれは鍛えれば化けるぞ!」


 今にもスキップでもしそうな勢いで、厳さんは部屋を出ていく。あんな厳さん、マジで見たのは初めてだ。


「店長、今日か明日、あの記者が店に来るかもしれません」


 一週目では、今晩、長門文人(ながとふみひと)が俺達に嫌がらせをしてくる。奴も、いつもはあそこまで強引な事はしない。あのときの長門はある意味常軌を逸していた。この店を訪れる可能性も否定できないのだ。


「わかった。来店したら丁重にお帰り願うことにする」


 店長の口調が変わり、いつものふざけた雰囲気が消失する。多分、こっちのギラギラしている方が、この人の素だ


「ご迷惑をおかけします」

「職場で、従業員をフォローするのは店長の職務。迷惑とは違うよ」


 白い歯をだして気持ちよい笑みを浮かべると、俺の肩をポンポン叩き、店長は部屋を退出する。

 


 カリンの厨房アイドル化は、さらに促進し、俺が厨房に様子を見に行くだけで大顰蹙(だいひんしゅく)を買う事態にまで発展していた。というか、俺は一応カリンの教育係なんだが、厨房の連中はわかっているんだろうか。

 ともあれ、長門も訪れず、カリンも滅茶苦茶仕事に集中しており、今日のバイトも無事終了した。

 

 帰宅につき、一週目と異なる点は、朝比奈先輩と明美も一緒ということ。

カリンと俺が毎日スイーツ巡りしている旨を聞きつけた二人が、昨日、店長に相談し、急遽二人も今日、同行することになったわけ。


「ここだよ。ここが美味しいんだよ」


 朝比奈先輩が子供のように頬をほころばせてガラス張りのシックな店を指さす。

 看板には、カフェ――《モンブラン》と記載されていた。


「先輩、転ぶなよ」

「もう、私、相良君より年上なんだよ!」


 プンプンする先輩に苦笑しつつも、店に入る。

 店は、円形テーブルとイスの二人用の席と、四人以上用の長方形のテーブルの席があった。

 最奥の長方形のテーブルまで行き、窓際のベンチシートには朝比奈先輩と明美が座り、俺とカリンが其の対面のシートに座る。

 現在、甘党の朝比奈先輩のチョイスの超特大パフェをスプーンでつつきながら、興奮気味のカリンの成果の報告を聞いている最中だ。

 

「そう。よかったね。カリンちゃん」

「うん!」


 朝比奈先輩の言葉に快活に返答するカリン。

 一週目の二人のぎこちなさが嘘みたいだ。お互いを、よく知り、理解することの重要性をこの時ばかりはつくづく実感する。


「だけど、厨房ばっかじゃ駄目だぞ、カリン。明日はフロアの仕事な!」


 明美は昼間、かなり機嫌が悪かった。これも、生徒であるカリンが厨房の仕事に従事していたことが原因だと俺は踏んでいる。

 

「はい!」


 明美の言葉にカリンは満面に喜色を湛える。

 こいつら、友達というより仲の良い姉妹のようだ。朝日奈先輩も明美も一人っ子らしいし、カリンは、初めてできた妹なのかもしれない。


「君、めっさ可愛いじゃん」


 金色に染めた髪にニット帽を被り、赤のジャケットを着た男が、俺を押しのけるようにカリンの隣のベンチシートに座る。次いで六人の男達が、俺達のテーブルを取り囲む。

 カリンはあたりきょろきょろと見渡し当惑顔をし、朝日奈先輩は嫌悪の表情を浮かべ、明美は目をすっと細める。


「なあ~、こんなパッとしない奴ほっといて、俺達と遊びに行こうゼェ」


 フードを深くかぶった男がカリンを挟むように座る。逃がさないようにする常套手段。

奴ら火遊びでもして味を占めたのだろうが、今日は相手が悪かった。

 明美は実家が古武術を営んでいるらしく、頻繁に顔を腫らしてくる。以前、抜刀した複数人を素手で叩きのめすという修行があると豪語していたことがあったが、あながち冗談とも思えない雰囲気だった。刃物相手に圧倒できるやつに、こんな雑魚が勝てるはずがない。

 朝比奈先輩は合気道。あの小さい身体にどこにそんな力があるのかは不明だが、実際に、店長の命で、明美をふんじばっていたことがあった。少なくともこいつらの誰よりも強いのは間違いない。

 俺だって、腐っても武帝高校生だ。強くなる前の俺でもこんな三下に負けはしかかっただろう。今なら、猶更だ。

 兎も角、明美に店内で暴れられても困る。


「悪いことは言わねぇ。失せろ」

「あら、あら、女の前で恰好つけちゃってぇ――」


 俺とカリンの間に割り込んで来た金髪ニットが左肘を俺の顔面に放って来た。

 やけに緩徐に迫る肘を左手の掌で受ける。

 問答無用で攻撃かよ。手慣れているところもあるし、予想以上に真っ当な奴らではなさそうだ。

 カリンの位置からは、金髪ニットの俺への肘鉄は視界に入らない。カリンを過剰に心配させたくはない。左肘から左手を放すと、立ち上がり、金髪ニットの肩に右腕を回し、ロックする。


「何しやがる!!」


 一般人が他者を殴るのは抵抗があるのが通常だ。なのに、この金髪ニットの俺に対する肘鉄には一切の躊躇いはなかった。この慣れた手際からも、この愚行、今回が初めてではあるまい。

 因果応報。手を黒く染めたものは、いつか数十倍になって返って来る。此奴らは近いうちに、この世の地獄を見る事になるだろう。

 俺は聖者でも神父でもない。安寧の生活を捨て、自ら進んで地獄へ行進しようとする馬鹿を更生させようとは思わない。だから通常なら、適当にあしらって終わらせていた。

 しかし、今回はこの場にカリンがいる。俺がここで適当に排除すれば、俺達は奴らから少なからず恨みを買う。その恨みの鉾先は、きっと、無防備なカリンに向くだろう。特に、カリンは俺の知り合いの中でもダントツで危なっかしい。一人で不用意に出歩き、俺達の目の届かないところで襲われることも十分想定の範囲内だ。

 それに、この手の身の程を知らない雑魚ほど危険なのだ。己の力の無力さを理解していないから、怖い者知らず。相手の力量を確かめもせずに、不用意に他者を襲うし、自らを劫火に焼かれる覚悟もなく、人としての一線を簡単に踏み越えようとする。

 だから――。


「放せっつってんだろっ!」


 金髪ニット帽は、逃れようとバタバタともがく。


 ――少し遊んでやる。


 金髪ニット帽の耳元で囁くと、カリン達に視線だけを向ける。


「ちょっとここで待っててくれ。こいつらと話しあって来る」

「了解。やりすぎんなよ」


 明美は口端を上げると、パフェをスプーンで掬い口に放り込む。

 明美が、俺の勝利を微塵も疑っていないのは、俺が武帝高校生であることを知っているから。武帝高校生は、普通の人間にとって猛獣に等しい。一般人など、幾人いようと物の数にはならない。


「ユウマぁ……」


 不安に彩られた顔のカリンの頭を左手で撫でてる。そして、背後の馬鹿共に付いて来るようジェスチャーをし、金髪ニットを引きずりながら店を出る。



 カフェ――《モンブラン》の横の裏路地の先は、都合の良い事に、袋小路の広い空間となっていた。

 ここなら少し無茶しても、問題はない。

 よし、金髪ニット以外に六人、ちゃんとついてきている。

 金髪ニットを放り投げる


「舐めやがって!」


 身体が自由となった金髪ニットは激昂し、俺から十分な距離を取ると、ベルトに挟めていた特殊警棒を取り出し、俺に向ける。

 他の六人も、俺を遠巻きに囲み、それぞれの武器を取り出す。

 ――特殊警棒、スタンガン、ナックル、トンファーバトン、おまけに、ボウガンまであった。

 全員完全武装だな。しかも、ボウガンって、撃たれ処が悪かったら死ぬぞ。完璧に抗争用の装備だ。女を襲うにふさわしいとも思えない。若干、きな臭くなってきやがった。


「三下共、こいよ」


 右手の掌を上にして指先を上下に振る。


「やるぞ!」

 

 突進してくる金髪ニット帽と特殊警棒を持った坊主の赤髪男。他の奴らは油断なく、身構えている。一度に攻撃を仕掛けられるのは三人が限界。そして、この限定された空間では、二人がベストであり、それ以上はかえって邪魔になる。やっぱりだ。こいつら、喧嘩慣れしてやがる。

 突如、俺の三メートルほど前で金髪ニット帽と坊主の速さが増す。何らかのスキルでも発動しているのかもしれない。

 もっとも、俺にとってはスローモーションに変わりがない。

 金髪ニット帽と、坊主が振り下ろす特殊警棒を掴み、取り上げる。


「なっ!?」


 驚愕に目を見開く金髪ニット帽。俺は、口角を上げると、二つの特殊警棒をグシャグシャに握り潰す。

 メキッ、メキョッと金属が軋む音とともに、二つの金属製の特殊警棒はボール状まで圧縮された。

 金髪ニットは地面に尻もちをつき、他の男達は顔を盛大に引き攣らせている。

 地面を蹴り、ボウガン男の背後に移動し、肩に腕をかけ首を握る。


「まだやるか?」


 男達は無言で首を左右に振ると、武器を放り投げ、両手を上げる。

 奴らを袋小路の壁に沿って正座させ、顔写真付きの証明書と携帯を掲出させる。

 七人の氏名、住所、電話番号を簡単にメモする。


「なぜ、俺達を狙った?」


 こいつらの装備は、女を襲うようなレベルではなかったし、連携もとれていた。それに、よく考えれば、こいつら、朝比奈先輩と明美には目もくれず、カリンだけを狙っていた。

 朝日奈先輩はお子様容姿だから置いておいても、明美は口さえ開かなければ、美女で通る。突発的な動機だと解するには聊か特殊な事情がそろい過ぎている。


「頼まれたんだよ」


 だろうな。女を襲うにしては、違和感ありまくりだし。


「誰に?」

「眼鏡をかけたおっさんだ」


 眼鏡をかけたおっさん。思い当たるのは、一人しかいない。


「そいつは、白髪交じりで、四〇代のスーツ姿の男か?」

「思い当たるのかよ! あの野郎、適当な事言いやがって!」


 歯茎を剝き出しにして拳を地面に叩きつける金髪ニット帽の男。


「無駄口を叩くな」


 金髪ニットの頭部のすぐ脇を蹴り上げると、ドゴッと俺の爪先が壁に突き刺さった。


「はひ」


 真っ青な顔で、何度も頷く男達。


「依頼の内容はどんな内容だった?」

「写真の金髪の女を脅せって。ただし、一緒にいる男の方は多少痛めつけてもいいが、金髪の女には一切危害を加えるな。そんな変な依頼だ」


 金髪ニットはズボンから写真を取り出し、俺に渡す。

 写真には、俺の腕にしがみ付くカリンの姿が映っていた。

 場所は府道駅前。視線を感じていたが、気のせいではなかったようだ。

 こんな事をするような奴は、一人しか心当たりがない。

長門文人(ながとふみひと)、十中八九、奴だ。そうすると、明らかに変だ。

 奴は俺を憎んでいたが、犯罪行為をするほど落ちてはいなかった。あくまで記者という枠内で俺を攻撃していた。それが、この度の行為は、確実にいくつかの犯罪に該当している。『帝都新聞社』にばれれば確実に解雇だ。

 一週目もこの土曜日に奴は行動を起こした。長門にそうさせる何かがあるのかもしれない。

 兎も角、カリンに危害を加えようとした以上、長門も放ってはおけなくなった。


「最後の質問だ。お前ら、いつも女を襲ってるのか?

 あっと、調べればすぐわかる事項だし、嘘はつくなよ」


 弱者を襲って好き放題するような屑なら、直ぐにでも警察に突き出し自首させる。自首しなければ、したくなるようにするだけだ。


「じょ、冗談じゃねぇよ。俺達のチームは女とクスリは御法度だ。今回だって、女は脅すだけで一切危害をくわえねぇつうから受けたんだ。報酬も多額だったしよ」


「二度と聞かねぇ。それは真実か? 偽りなら――」


 右手で金髪ニット帽の胸倉を掴むと左拳を握り締める。


「当たり前だ!」


 俺は奴らの氏名、住所、電話番号まで抑えている。俺がその気になれば、いつでも命を摘み取れることくらい理解していることだろう。今のこいつらに偽りを述べる余裕はあるまい。

 もうこいつらに用はない。踵を返して、《モンブラン》へと戻ろうとするが、背後から声をかけられる。


「俺達は、『F・T』だ。あんたは?」


『F・T』ねぇ。素人のお飯事には微塵も興味がないし、今後も関わることは皆無だろう。

 故に、答えず《モンブラン》へと戻る。



 戻ると、カリンに話は上手くいったのかと詰め寄られるので、肯定しておく。誰も傷つかず、破損したのは、奴らの特殊警棒のみ。話と大差ないし、嘘はついていない。

 カリンは端から金髪ニット帽達に大して怯えていなかった節がある。奴らに敵意がない事を本能で感じ取っていたのかもしれない。だから、俺の話し合いという言葉を微塵も疑ってはいないんだ。とは言え、奴らに敵意がないのは、カリンに対してだけで、俺には結構本気で殴りかかっていたわけだが。

 この点、金髪ニットの俺への肘鉄を現に目にしていた朝比奈先輩からは何度も、本当に怪我はしなかったのかと尋ねられた。先輩も、明美と同様俺が武帝高校であることは知っているはずなのだが、どうやら今回の件は先輩を過度に心配させてしまったようだ。

 対して明美の言動には、俺に対する心配の『し』の字もなかった。とまあ、明美のこの薄情さと正直さは俺には、心地よいわけでもあるのだが。

 《モンブラン》前で、朝比奈先輩、明美と別れて、はしゃぐカリンを屋敷まで送り届けると、俺は待ち合わせの《新塾》へ向かう。



 お読みいただきありがとうございます。

 ※以下は若干のネタバレです。

 悠真はF・Tを雑魚認定していますが、実際はF・Tは実際は、かなり強いです。スキルを駆使すれば、武帝高校の一般生徒を打破できる程度の実力はあります。

 ただ、今の悠真はレベル6。もはや、実力が離れすぎてしまって、ただ弱いという感覚しかありません。ですので、雑魚認定してしまったわけです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ