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第12話 敵襲来


《バーミリオン》に出勤するが、店長から明日からの新人のバイトの指導の件は話題に上がらなかった。志摩家から、カリンのバイトの中止の連絡を受けたのだろう。

 明日は、休みだが、カリンの非常識な行動力を鑑みれば、屋敷を抜け出してくる可能性も零じゃない。だから、明日から四日間、バイトに入るよう俺の方からシフトを変更してもらった。結果、とってつけたように、月曜からの店長の友達とやらの修練を報酬として提示される。大方、俺の意思如何に関わらず、店長は既に俺の修練を頼んでいたのだろう。


 二三時となり、バイトの終業時間が終了し《バーミリオン》を出る。

 《バーミリオン》から俺の家までは、徒歩三〇分くらいで、さほど遠くはない。

 今日は、色々あって精神的にも肉体的にもヘトヘトなこともあり、途中のコンビニでパスタを購入していると、雨が降って来た。

 

(ついてねぇ、降って来やがった)


 傘を購入し、外へ出ると、真冬を思い起こさせるような鋭い冷たさが肌を刺す。

冬が到来したばかりでまだ本格的に寒くはないが、夜間で雨のコンボがあると話は別だ。真冬並みの寒さと言っても過言ではあるまい。


 暫く公道を歩くと、周囲には民家が消え、代わりに樹木が立ち並ぶ。

俺の家は山のど真ん中にあり、周囲には民家一つない。

 昔から俺の家に遊びに来たクラスメイトからは、『お化け屋敷』との有り難い感想を賜っている。実際に、何か出たとしても俺も大して驚きはしない。

 アスファルトが遂に途絶え、赤茶けた土壌が露出する山道へと変化する。

 


 俺の家が視界に映ったとき、パラパラという傘への雨粒の落ちる音が、消えていることに気付く。


(止んだか)


 上空を見上げると、生い茂る木々の隙間には、雲から出たばかりの満月が夜空を照らしていた。

 傘をたたみ、歩きだす。


(ん?)


 当初は、俺の靴が水たまりをはじく音だけだったが、そこに次第に異物が混じり始める。


 ぴちゃぴちゃ! 

 ぴちゃびちゃびちゃぴちゃ!

ぴちゃびちゃぴちゃびちゃびちゃ!


 足を止めてみるが、相変わらず鼓膜を震わす複数の足音に、背中をつららで撫でられたように悪寒が走る。

 この参道は基本一本道、周囲は木々しかない。しかも今、地面は雨により水たまりだらけ。カリンの危機を知らせてからの絶妙なタイミングでの今鼓膜を震わせている無数の足音。正直、肯定的な考えなど全く浮かばない。

 恐る恐る肩越しに後ろを振り返ると――。


「~っ!!」


 山道の遠方、闇に溶け込むように黒色の毛並みの巨大な犬、数十頭を網膜が認識し、戦慄が電光のように頭に閃く。

 さらに、その犬共に守護されるかのように、七三分けにした黒髪のスーツ姿のサラリーマン風の男が、俺に向かってゆっくりと歩いてきていた。


「くそっ!」


 無意識にも俺の脚は疾走を開始する。


「噛み殺せ」


 男の言霊が一息遅れて紡がれると、背後から一斉に吠えながらも迫る無数の犬達の気配。

 一心不乱に足を動かす一方で、背中に浴びせられる唸り声は無常にも近づいて来る。

 玄関口まで、約十メートル。

 不意に水の中に入ったような独特の感触。


(よし! あとは結界を発動させるだけだ)


 俺の両親は考古学を専門とする《サーチャー》であり、特に母さんは結界に関してはそれなりに名前が売れていた。故に、俺の家の周囲にはそれなりの強度の結界を発動させる《魔道具》が設置されている。一度結界が発動されてしまえば、そう簡単には奴らも侵入できないはず。少なくとも、時間稼ぎにはなる。その内に、警察に連絡するしか方法はない。

 スイッチは家の玄関の下駄箱の前だ。家の玄関口を開け、身体を滑り込ませ、扉を閉めるが――。


「ゴアッ!!」


 黒犬は、閉めようとした扉に巨大な顔を滑り込ませ、扉に鋭い牙を突き立てる。咄嗟に、右手の傘を黒犬の口の中に渾身の力で突き立てる。


「グギャッ!」


 傘の先の金具が、西瓜程もある大きな犬の頭を見事に貫き、断末魔の叫を上げる巨大黒犬。

 人形のように力がなく崩れ落ちる黒犬を蹴り飛ばし、扉と鍵を閉める。次いで、下駄箱の上の壁の非常ベルのようなボタンを押すと、機械音が鳴り響く。

 安堵感からか、不意に足の力が抜けて、床に両膝をつく。あらい息を整えようと腰を下ろそうとするが……。


 ドンッドンッと、繰り返し響く玄関への衝撃。


(う、嘘だろ!)


 ドアスコープから外を見ると、七三分けの男と大部分の黒犬は結界の外だが、四匹の黒犬がその頭に生えている角で、扉に体当たりをかましていた。

 俺が家に飛び込み、結界を張るまで若干のタイムラグがあった。結界内への五匹の侵入で済んでいる時点で、むしろ運が良かったと考えるべきかもしれない。というか、あの七三分けが異常に慎重で助かったというところか。

 兎も角、この家は母さんの趣味でやけに頑丈な造りになっている。四匹程度の体当たりなら、後あと十数分は持つ。

 急いで居間に行くと警察に電話しようとするが、固定電話も携帯の両方も使用不能となっていた。授業で、結界によっては電子機器が一時的に使用不能となることがあると聞いたことがある。おそらくその類だ。だとすると、籠城の手段を若干変更する必要がある。

 予想では、外の結界は持って一時間。それ以上は不可能であり、俺はこのままでは確実に食い殺される。

 親父(おやじ)達が使っていた工房が地下にあったはず。親父は《考古学》、母さんは《魔道具作成術》の権威だ。だから、親父達の貴重な研究資料や研究物がゴロゴロあることもあり、工房はやたら厳重にできている。

 部屋の机の引き出しから工房へ入るカードを取り出し、冷蔵庫や戸棚にある食料の有りっ丈抱えて、地下への階段を下りていく。

 地下への階段の先には金属製の扉が聳え立っており、脇の機械にカードと通すと、音もなく数十センチの厚さの扉がスライドしていく。そして、俺が扉を通ると、扉はゆっくりと閉じる。

 

 その先、三つほどの扉で同様の操作をして、ようやく相良家工房へ到着する。

 あの扉は特別製であり、外からではよほどのことがない限り、開くことはない。換気口もあるから、窒息死の心配もない。仮眠室、トイレ、水、風呂などもついており、問題は食料だけだが、缶詰がしこたまあったから、一週間ほどなら楽勝で持つだろう。

 家に張っている結界もあと一時間程度で消え、外との連絡が可能となる。そうなれば俺の勝利だ。

 その間に、少し情報を整理したい。

 まず予知との関連性。予知では、今日の襲撃は起きなかったはず。なのに、俺は命を狙われた。予知の場合との最大の相違点は、ケント達を助けて、辰巳おじさん達と会った事だ。そして、俺はカリンが命を狙われていることをおじさん達に伝えている。

 俺が狙われる理由はいくつか考えられる。

 一つが、クリス姉との婚約の事実。時宗が強硬的手段を用いてきたことも一応考えられるが、俺は断っているし、小雪という人質がいる以上、このタイミングで奴が俺を襲うメリットはさほど高くない。

 だとすると、やはり、カリンの危機について告げたことが地雷だったと考えるのが素直だ。もちろん、あの部屋にいたのは、辰巳おじさん夫婦を除けば、ミラノと半蔵さんのみ。二人とも、昔から志摩家に仕えており、可能性は限りなく低い。となると、あの部屋以外の者で、辰巳おじさんが本件を相談するほど信頼している者。となると、志摩本家のものか。

 だとすると、志摩本家のカリンを狙う理由が不明だ。志摩家を初めとする日本の伝統ある《陰陽術師》の系譜は、歴代の当主の性別は家によって固定化されるのが一般的だ。そして、志摩家は男性が当主であり、男のケントが次期当主のはず。カリンの命を狙う理由はやはり見当たらない。

 どの道、今は救助を待つしかない。実際には賊が捕縛されればわかることであり、今俺が考えても始まらない。

 今しなければならいことは、この状況の早期打破。依然として外とは連絡が取れておらず、救助が来るとは限らない。ならば、武器となるものの獲得は最善手だ。おあつらえ向きに今俺は、工房にいるわけだし。

 親父達は、この工房には危険なものも多い事を理由に、俺と小雪がこの工房に足を踏み入れるのを禁じていた。あの事件後、家の金庫を調べると、工房のカードと手紙が入っており、その手紙には、知識がつくまで工房内の本格的な探索は、控えよるよう記載されていたのだ。

 今は賊に襲われて既に生命の危機的状況にある。工房の探索をすべきときだ。


                ◆

               ◆

               ◆


 それから、約三十分、工房をくまなく探索した。

 ――見たこともない生物の死体のホルマリン漬けの部屋。

 ――何に使うのか不明な機械だらけの部屋。

 ――数千冊にも及ぶ巨大な書庫

 ――銃火器やミリタリーナイフ等の武器、防弾チョキや衝撃吸収用の衣服等の防具が無造作に放置された部屋。

 書庫は、あの二人の趣味だろうし、武具の保管庫は母さんが作成した試作品だと思われる。


「最後はこの部屋だけだ」


 最奥の部屋だけは、カードと四桁の暗証番号が必要であり、通常の部屋とは様相が異なっていた。

 おそらく、この部屋は他とは別格なのだろう。親父達の性格からして、この先に極めて重要な何かがあるのは間違いない。

 そして、困った事に、俺は暗証番号など知らない。金庫にもその旨は一言も書かれていなかった。

 親父達の銀行や金庫の暗証番号、他にも考えられる限りの数字を入力してみるが反応しない。


「親父達が付けそうな暗証番号か。親父から貰ったものなどこれだけだが……」


 ポケットから、古ぼけた電子手帳を取り出す。この電子手帳は中学の入学祝いに貰ったものだ。当時は最新式であったが、今は大分旧式となっている。とは言え、抜群に使いやすいし、壊れないので未だに買い替えないでいる。

 そういや、親父の俺に当てた祝いの言葉が手帳には記載されていたはずだ。


『悠真君。中学入学おめでとう。

 いや~君ももう中学、十二歳、早いものだねぇ。このままじゃ、僕もあっという間におっさんだ。

 上記主張に、君は多分、「お前、もうおっさんだろ」とでもいうつもりだろうが、断じて否。僕と母さんはまだまだ若い。新鮮な魚のように、ピチピチとしているよ。

 そろそろ、本題に入るね。

 君にはこれから、多くの困難が待ち受けていることだろう。でも絶対に小雪ちゃんだけは守らなければない。どんなに悔しくても、悲しくても、ズタボロになろうとも、何度でも立ち上がらなければならない。だって君はお兄ちゃんなんだから。わかったね。約束だよ。

 ところで、悠真君、君も思春期。エロエロな年頃だ。僕らのアイドル――朱里ちゃん、クリスちゃんやカリンちゃんに卑猥な目を向けられても困る。そこで君のどす黒い欲望を発散させるために僕から素晴らしいプレゼントを贈ろう。辰巳キュンにもらった僕の宝物!  

 その場所は、ジャンジャンジャンジャーン――屋根裏さ』


 何度読んでも、反吐が出る文章だ。これを中学の入学に息子に送る神経が俺にはわからない。途中までいい話なところが余計、イラっとくる。

 ちなみに、怒髪天を衝く状態の当時の俺は、屋根裏部屋の情報を母さんに伝えた。結果、多量のエロ本が出土され、赤鬼と化した母さんに親父が折檻を受けたことは甘酸っぱい思い出だ。

 兎も角、親父が俺にヒントを残したのなら、この文章しかありえない。そして、親父の性格からも、その内容は暗号と呼ぶには(はばから)れるような実に単純で馬鹿馬鹿しい事のはず。


(それにしても、この文、どこか違和感があるんだよな……)


 当時は怒りで気付かなかったが、読み返して見ると、確かに小骨が喉に刺さったかのようなひっかかり感がある。

 もう一度よく読み返すと、すぐにその正体に気付いた。

 第一、普段、親父は俺を『悠真』と呼び、『悠真君』なんて呼んだのはこの時が初めてのはずだ。

 第二、同様に、『小雪』であり、『小雪ちゃん』などとは呼ばない。

 第三、親父の一人称は『私』であり、『僕』ではない。

 第四、辰巳おじさんは、『辰ちゃん』であり、『辰巳キュン』など聞いたのはこの時限り。

 つまり、誤った言葉は、『君』、『ちゃん』、『僕』、『キュン』。

 そして、五十音順にならべ、その文内に出て来る数字をカウントすると――。


『君』――8個

『キュン』――1個

『ちゃん』――5個

『僕』――5個。


(流石にねぇとは思うが……)


 あまりにくだらなさすぎる。大して期待もせずに、カードを通し、『8155』と入力すると、扉はゆっくりと開いてく。

 絶句――それが俺の偽らない本心だ。


(あの不良中年、どうしてこうも、阿呆なことを思いつきやがるんだ?)


 親父に反吐を吐き出しつつも、扉をくぐる。

 扉の中は教室ほどの空間であり、部屋の片隅には小さな台がある。そして、部屋の中心にあるのは、幾何学模様の装飾が施された黒色の扉。


(この扉、どこかで……)


 突如、頭の片側がズキンズキンと鈍く疼く。


(くそ、こんなときにっ!)


 痛みは激しくなり、視界が歪みぼやけてくる。普段なら兎も角、こんなところで気を失えば、下手をすれば死亡する。頬をかなり本気で平手打ちする。

 数回試みると、口の中に広がる鉄分の味とともに、頭内の痛みが引いていき、視界も戻る。

 あの黒色の扉、今はこの上なく危険だ。検証はこの事件が一段落してからにする。

 片隅にある台まで行く。

 台には、黒の自動式拳銃(オート)弾倉(マガジン)が置いてあった。

 おっかなびっくり自動式拳銃(オート)を手に取る。

銃身は通常よりも長く、揺らめく紅の炎のような装飾がなされており、グリップは掌に吸い付くようにぴったりだった。

 台の脇にはご丁寧に、親父の今までの研究資料が置いてあったので、パラパラと中身を確認する。

 

 黒色の銃は、南米のダンジョンから出土されたものであり、長年の研究でもその材質や製法などは親父や母さんをしても検討もつかなかったらしい。確実にオーパーツだ。

 とは言え、幾つかの機能を確認することができた。

 この黒銃は、自身の魔力を用いて、銃弾を最大50発分創造装填し、放つことが可能。

この銃弾の創造充填数と威力は、創造に用いられた魔力が強大なほど高くなる。試してみたが、今の俺の魔力では7発が限界のようだ。

 次が所有者限定の機能。グリップにある魔法陣に自身の血液をつけると以降はその者しか扱えなくなるらしい。

 とは言え、血液さえあれば誰にでも上書きが可能なことから、中途半端な効果なものであり、大した意義もないようだが。

 

 掌をナイフで切り、登録を行い、動作確認をする。

 結論的に言えば、操作は簡単だった。要するに、武帝高校の前期の実習で嫌っというほど学んだ物質に対する魔力浸透の方法だ。

 グリップを握り魔力を篭め全体に浸透させると、僅かに自動式拳銃(オート)全体の重みが増す。あとはトリガーを引くだけだ。

 試しに空き缶を的にして動作試験をしてみたが、的にした空き缶に銃弾がかすっただけで、一瞬で爆砕したくらいだ。かなりの威力だろう。今は緊急事態。武器を得たことは極めて重要な意義を持つ。

 目ぼしいものはこの銃と黒扉だけのようだが、扉の検証は後にすべきだ。

 この部屋には水もトイレもなく、籠城には不適だ。それにあの厳重な扉がそう簡単に破られるとも思えない。一度、黒銃を持って休憩所まで移動しよう。

 


 休憩所に着くが、防音状態になっているのか、犬の吠え声どころか、物音一つせず、静まり返っていた。

 突如ポケットにあるスマホが振動する。


(この状況で、心臓に悪いぜ)


 ポケットから取り出し画面を見ると、知らない番号だった。まあ、俺が知る番号自体が限られているという事情もあるわけだが。

 意を決して、電話に出る。耳に当てたスマホから、春のそよ風のような優しい声が聞こえて来る。


「ユウちゃん?」

「クリス姉……か?」

「うん!」


弾んだ声で答えるクリス姉。こういう所は、妹のカリンとそっくりだ。


「どうかしたか?」


 電話が繋がったということは、結界が破られたことを意味する。奴らも馬鹿じゃなければ、この地下工房へと侵入する次の手を打ってくるはずだ。いや、もう既に実行中かもしれない。

 今は呑気に電話している場合じゃない。


「ど、どうかしたの?」


 俺の声に含まれた焦燥を読み取ったクリス姉が、躊躇いがちに尋ねてくる。


「いや、それより何の用だ?」

「お父様に聞いたのよね?」


 辰巳おじさんに聞いた? ああ、あの許嫁の件か。


「大丈夫だ。心配せんでも、おじさんの申し出は断ったし、クリス姉の婚約の件は話していない」

「ちょ、それってどういう――」


 賊は多分、カリンを狙っている。そして目下俺は強襲され中。下手に本件に関わって、賊共の矛先がクリス姉達に向くとも限らない。これ以上の今の俺との会話は、彼女にとって害悪でしかない。


「悪い。今取り込み中だ。切るぞ」


 だから、一方的に電源を切る。

 

(まずは警察か……)


 110番通報しようと、スマホに番号をタップしていると、再び振動する。

 今度は非通知か。このタイミング。間違いなく敵だろう。

 スマホを耳に当てる。


相良悠真(さがらゆうま)だな?」


 低い男の声が耳に飛び込む。この声、七三分けだ。なぜ、俺の電話番号が? やはり、志摩家が原因か。


「そうだ。お前は?」


 無駄だろうが僅かでも、時間を稼ぎたい。


「警察には言うな。今から、三〇分間だけ待ってやる。もし、時間が経っても出てこないときは、貴様の妹――小雪とやらを襲いに向かう」


(クソ、会話が成立しねぇ。しかも、小雪の事を知っていた時点で、戦闘は避けられんし、何より、俺には選択肢がもう一つに絞られた)


 俺に有利な点があるとするなら、あの黒犬は傘を突き立てた程度で絶命するほど貧弱ということだ。ならば、数は多いが、自動式拳銃(オート)で確実に脳天にぶち込んでいけば、俺にも十分勝機はある。

そして、七三分けはここで確実に行動不能にしておく。奴は、俺の命より大切な小雪を殺すと言った。ただで済ますつもりは毛頭ない。



 武具が置いてある区画へ行き、素早く衝撃吸収用のズボンにシャツ、ジャケットに着替え、腰にホルスターを装着し、黒の自動式拳銃(オート)を収める。さらに、両腕にガントレットを、ジャケットにミリタリーナイフを装着する。加えて、居間から手鏡を拝借し、スマホの電源を切る。黒銃を取り出し、魔力を籠めて、銃弾を最大の七発分装填する。これで三分。


 二つの扉を開け、三つ目の最後の扉の数メートル前に、バリケード代わりに休憩室にあった比較的大きな机と複数の椅子を通路に転がす。

 最後の扉の直ぐ傍の壁に設置されているモニターで外の様子を確認すると、黒犬2匹が扉の直前に、5匹が少し後方で待機しているのが知覚できた。

 右手で銃口を向けつつも、左手の壁の開口のボタンを押すと、扉はゆっくりとスライドしていく。

俺の生まれて初めての命を懸けた闘いがこうして開始される。



お読みいただきありがとうございます。

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