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24. お熱いですね

今話のi2M (image instrumental Music) はこちら!


アニメ ギルティクラウン OSTより

澤野弘之

『gエ19』

https://www.youtube.com/watch?v=MC0Zkit7PvA

ぜひ、すばらしいメロディを聴きながら、作品のイメージを膨らませて読んでください。

24


「それは、どういうことかね……」大隈は驚きを隠せず、興奮した様子で目を見開いた。


「博士の技術が、植物の修復機能を活用したプラントニューロンを外部から取り込み人間の病気を治療するものだとすると、この怪物に使われている遺伝子技術は、人間の細胞そのものの修復能力を異常なまでに増幅させて、通常ではあり得ない過剰な細胞分裂をさせて、肉体全体を肥大化させているのです。いえ、それどころか細胞分裂の限界さえ超越させて、無限に細胞を増殖させる技術……、と言えばいいでしょうか」葵は、同意を得るように、姉を横目で一瞥する。


「生物兵器の開発に、愛咲くんが関わっていた……、ということか?」


「それはわからないのです。なにしろ、遺伝子工学の技術は日進月歩。日々新しい研究や開発がなされ、昨日まで最新だった技術が今日には風化することも多いのです。ただ、少なくともあのバイオモンスタに使われた遺伝子は、愛咲博士の技術を盗用したものの可能性はあると思うのです。なにしろ愛咲博士の遺伝子技術は世界でも屈指のものだったのですから、博士の技術を軍事的に盗用するということはいくらでも考えられるのです」


「なぜ盗用だと?」


「二つの技術は目的こそ違えど、人間の細胞が持つ分裂の原理を狂わせるという意味で、その手法が酷似しているのです。ただし、そこにもひとつだけ大きな違いがあったのです。それは、愛咲博士が植物遺伝子やそれ由来の成分を利用しているのに対して、このバイオモンスタの遺伝子技術に使われているのは、クリスタルメス……、つまりメタンフェタミンという中毒性の高い劇物を利用して、人間の細胞を破壊して遺伝子操作している可能性が大きいのです。現に、この化け物の肉塊からも、多量のメタンフェタミンが検出されているのです」


「メス……。覚せい剤か……」大隈は低い声で言った。


「そうなのだ」今度は茜が答え、話を引き継いだ。「メスは材料入手も比較的簡単で、メスラブという簡易プラントさえあれば、爆発の危険はあるものの、そこらの高校生でさえ自宅で製造できるレベルのものなのだ。そのことからわかるように、このバイオモンスタの技術は、国家的規模、軍事的レベルでしか手に入らないはずの高度な遺伝子技術と、例えば資金の少ない小規模のテロリスト集団でも比較的安価に入手可能なメスの両方を利用した技術。しかも怪物自体、元は人間だった……。その事実から考えるに、論理を飛躍させることが許されるのならば、国家レベルの組織から技術提供を受けた反社会集団が覚せい剤中毒者を実験台として、生物兵器の生体実験を行っているという可能性さえ示唆している……。あたくしたちはそう結論づけたのだ」


「国家レベルの組織……、か」ゆっくりと呟いた大隈は、デスクの上に肘をついて手のひらを重ね合わせた。その親指に顎を乗せて、拝むようなポーズのまま目を瞑る。「茜くんは、今回の事件、しかも生物兵器の開発に国防軍が関わっているというのだね……」


「それが国防軍かどうかは確証がないからわからないのだ。もしかしたらどこか外国の勢力が関わっているかもしれない……。でも、それくらいの資金力と技術力がなければ、この生物兵器の生成は恐らく不可能なのだ」


「なる……、ほど……」大隈は目を閉じたまま大きく息をついた。


 狭くて白い部屋の中には、なんとも言えない鈍重な沈黙が訪れた。


 あまりに長く続くので、堪らなくなったみつほはつい片手を上げて、質問を投げ出した。


「あの……。そもそも、どうしてそんな技術が必要なんでしょうか……?」


「どうしてだと思う?」ホログラムモニタを凝視していた薫子が、すぐにこちらに視線を移して聞き返してきた。


「わかりません……。そういう人造兵器がもしも本当に存在するとしても、既存の兵器よりも勝っているとは思えないです」


「残念ながら、その逆ね」薫子は、手元のメモ帳を閉じてペンをその上にそっと置いた。


「逆……、ですか?」みつほは上目遣いで薫子を見た。


「そう。元来、戦争の歴史というのは、いかに短時間で効率良く低コストで一人でも多くの人間を殺すことができるか……。それを競い合ってきた技術の争いの歴史といってもいい。私たちが日常的に使っている物の多くは、もともと人殺しを効率化するために作られた物の派生だったりするのよ。例えばインターネットやパソコン、携帯電話や電子レンジ……、エンジンなんかもそうだし、大規模なところで言えば発電所の原子炉だって」


「そんなにたくさん……、ですか」普段、自分自身が使っている物ばかりの羅列に驚き、みつほは感嘆の声を漏らした。「原子炉も……」


「他にもあげ出せばきりがないけどね」薫子は口をへの字に曲げて肩を竦めてみせた。「そんな中で、生物兵器は一番効率がいいの。なぜかと言えば、一番は、費用対効果ね。少しのコストで、広範囲に渡って大勢を殺すことができる。そういう意味では、生物兵器に勝る兵器は今の所ないはず。特に細菌兵器がそうね。それから今、この場で問題となっているバイオモンスタ。これも理由は同じ。一見、非効率に見えるかもしれないけれど、感情のない怪物は訓練育成コストもかからなければ食費も給料さえも必要ない。しかも、生身の人間と違って感情がないから、恐怖を感じることもなければ殺人や破壊行為に対して躊躇などもない。文句を言って、主人に反抗することもないから、どんな状況でも扱い易いし、なによりどんな戦場にも投入することのできる汎用性を備えてる……。そんな怪物を低コストで無尽蔵に造り出せることができるとしたら……、果たしてどうなるかしら? きっと、ただでさえ資源不足で喘いでいる外国勢力は、人間の兵隊がいらなくなったーって、大喜びするかもしれないわね」


 薫子は言い終えると、艶のある瞳でみつほを射抜くように見据えた。


 みつほは、あんな巨大で不気味な化け物が群れをなして迫ってくる場面を想像しただけで、寒気のする思いに駆られてぞっとした。本当に寒くなったような気がして、両手で自分の躰を抱く仕草をする。


 すると、しばらく黙り込んでいた巧が鋭い口調で発言した。「もしかして総理官邸事件は、あの怪物を実験的に使う格好の場所だった……、ということですかね」


「さあ、それはどうかしら……。でも、あり得るかもしれない。生物兵器は、様々な理由で表向きには条約や協定で禁止されているけど、実際には、過去の多くの戦場で秘密裏に使われてきた歴史があるの。だから、実験かどうかはわからないにしても、あんな薄気味悪いバイオモンスタの存在は見たことも聞いたこともない……。そうなると、あの場に怪物が侵入したことは、なにかしらの意図があったと思うのは当然ね」


「……では、官邸に現れた、腕にガトリングガンが埋め込んであった軍服の男……。あいつもバイオモンスタでしょうか」巧は、畳み掛けるように質問した。


「んー、茜さん、葵さん、どう思う?」薫子は、横を向いて二人の伊集院に話を振った。


「どうもこうも、あれはバイオモンスタとは程遠いのだ」茜は急に腕組みをした。その姿はまるで、偉そうな自分を演出する幼い子供のようだった。


「遠いのです」妹の葵も、当然姉と同じポーズを取る。


「あんなもの、部分的な人体改造を施しただけの似非アンドロイド。サイボーグにもならないガラクタなのだ。カテゴリとしては生物兵器になるのだろうが、バイオモンスタのような高度な技術は必要ない。アンドロイドやヒューマノイド技術は、もう大昔から数多く研究されてはいるが、やはりそう簡単にはうまくいかないものなのだ。そもそも宇宙の神秘が産み出したあらゆる生命の完全性を、あたくしたち人間ごときの(つたな)い技術で完璧に再現することなど出来るわけがない。できると思うのは、愚かな人間の驕り高ぶり、思い上がりも良いところ。おこがましいこと山の如しなのだ」

「如しなのです」


「でも、バイオモンスタだって、プラントニューロンと同じで結構難しい技術なんじゃないんですか?」坂口が咄嗟に口を挟んだ。


「もちろんそうなのだ。しかしバイオモンスタは、殺人兵器として動けばそれで事足りるが、アンドロイドやヒューマノイドはそうはいかない。人間と見分けがつかないか、むしろそれ以上に精巧で、繊細で、緻密でなければ意味がない。あんな下品なバイオモンスタと比較してはいけないのだ」


「そ、そういうものですか……」坂口は、茜の熱弁に気圧されたように苦笑した。


「当たり前なのだ。仮にこの世にアンドロイドやヒューマノイドという存在がすでにいるとしても、それは……」茜はなぜか少しずつ声のトーンを落として俯いてしまった。


「それは……?」坂口は茜の顔をまじまじと覗き込んだ。


「それは……」


「お姉さま……」葵は、突然勢いを失った姉を、目を細めた悲しい表情で見守った。


 茜はしばらく俯いたまま何かを考え込んでいたが、すぐに顔を起こして坂口を見た。「……そんなものを作った不届き者は絶対に許さない。あたくしが徹底的に痛めつけて、やっつけてやるのだ」


「なんですかそれ……」坂口はかすかに口元を緩めて苦笑した。


「うるさいのだ……」向けられた冷たい視線をごまかすように、茜はひとつ咳払いをして正面の巧とみつほに目を移した。「……お前たちは、確か、海馬巧と高嶋みつほだったな」


「はい」二人は同時に頷いた。


「今の話で少しはわかったと思うが、とにかく、あたくしたちが身を置く軍事の世界は、なにも知らぬ世間一般の人間が想像できる領域をとうに逸しているのだ。兵器に限ったことではない。聖戦(ジハード)には、倫理も秩序も、道徳も常識も、協定も約束も、すべて通用しない。当たり前が通用しないからこそ、あのような薄気味悪い生物兵器でさえ開発され投入されるのだ。……あたくしがなにが言いたいか、お前たちにわかるか?」茜は鋭い視線で、NFIの五人をゆっくりと見回した。


 けれども、茜の問いに答える者は誰もいない。茜と目があった者から順に、気まずそうに顔を伏せて目をそらすことしかできなかった。みつほは、茜の言いたいことがわからないではなかった。なにを言われるのか簡単に想像はついた。けれども、わかると気軽には言えなかった。


 茜は数秒の間新入隊員たちからの返答を待ったが、しびれを切らしたように小さく舌打ちをした。


「わからぬか……、なら言おう。お前たちには、自分が危険な無秩序の戦場に身を置いているという自覚が足りないのだ……! 入隊直前で事情がわからぬとはいえ、愛咲博士から受け取った貴重なソリッドカルスを無断で体内に取り込むとは何事なのだ……!」茜の口調は穏やかだったが、内には苛立ちが込められていた。「結果としては良かったのかもしれない。しかし、もしもそれが万が一クリスタルメスのような毒物だったら……、危険な軍事的物資だったら……、今頃、橘エミリ……、お前はあの怪物のような、見るも無残な醜いバイオモンスタと化していたのかもしれないのだぞ。しかも、その危険性は未だに排除された訳ではないのだ」


「茜さん……、もうその話はあなたたち二人が来る前に終わっていることだから……」苦笑した薫子が茜を制するように言う。


「いいえ、あたくしは言わせてもらうのだ」茜は薫子と大隈を睨むように一瞥した。「所長も長官も、いつも若い隊員に甘すぎるのだ。光剣一輝などは、長官の命令を無視して無断で病院を抜け出す始末。本来なら訓告処分モノなのだ。そうやっていつも若い連中を甘やかしているから、こいつらはつけあがって……」


 茜の語気がどんどん強まる中、ずっと俯いたまま黙っていたエミリが突如、音もなく席を立ち上がった。


 驚いた茜は、喉元まで出かけていた言葉を止めてエミリを見上げた。真っ白い部屋の中、くっきりと浮かび上がった黒いシルエットのエミリに、全員の視線が集中する。しかし、彼女の表情は思わしくなく、かなり青ざめていた。


「な……、あたくしとやろうというのだな……! 氷の紫陽花は咲かなくとも、あたくしにだって花はあるのだぞ!」茜は咄嗟に胸元に手を突っ込み、例のおもちゃ拳銃を取り出した。


(それ、さっきのおもしろ拳銃じゃん……)一輝はそう思ったが、もちろん口に出しはしなかった。


「……そのことについては、本当に申し訳ありませんでした。私が軽率でした……」エミリは軽く頭を下げた。「……ちょっと気分がすぐれないので少し席を離れさせてください」


 エミリはそう言うと、誰からの許可も待たずにハンカチで口元を押さえながらドアを開け、暗い廊下に吸い込まれるように姿を消した。 


 部屋に残された一同は、しばらくそのままの状態で、彼女の消えたドアの方を見つめていた。


「……お、怒った……、のか……?」唖然とした茜はおもちゃの銃を懐にしまいながら、少しだけ不安な表情を浮かべて呟いた。


「茜主任……、そのおもちゃ銃まだ持ってたんですね……」と失笑する坂口。


「う……、うるさいのだ」


「橘さんはそんなにヤワな子じゃないわよ」薫子が落ち着いた口調で茜に言った。「彼女、さっきから顔色が悪かったし、本当に体調が悪いんじゃないかしら。もしかしたら、ソリッドカルスの影響が出始めているのかもしれない……」


「とにかく……!」茜は、再びコホンと咳払いをして残った四人の新人に向き直った。「ソリッドカルスに、躰におかしな花が咲くという形式を採用した愛咲博士殿の優れた美的感覚に感謝するのだ。もしも博士が、センスのかけらもない下品なマッドサイエンティストだったら、今頃橘エミリなどは、花が咲くどころか、本当に化け物のような醜い姿にさせられていたのかもしれないのだぞ!」


「感謝するのです!」


 あの気高いエミリがバイオモンスタになったらさぞや恐ろしい姿になるだろうと想像したみつほは、この状況でも、腹の奥から笑いがこみ上げてくるのを感じ、一抹の罪悪感を感じた。


 すると、思う事は同じなようで、ずっと黙っていた平太が、授業中の私語を我慢しきれなくなった高校生のように、隣の一輝に小声で笑いかけるのが聞こえた。「ある意味エミリは、元々の存在が化け物じみてるけどな……」


 一輝は、仕方なく苦笑い。


「大鎚平太は黙っていればいいのだ」と茜がきつく睨みを利かす。


「すんません……」


 次の瞬間、坂口の胸元から耳障りな電子音が鳴り響いた。


 音の種類で事態を判別できるのか、坂口は急に慌てた様子になって、すぐに胸ポケットからオムニスを取り出した。一旦、茜のオムニスが照射していた目の前のモニタを強制的にクローズしてから、自分のモニタを照射した。


「どうしたの?」坂口の様子を不審に思った薫子がすぐに尋ねた。


 全員の視線が、坂口に集中する。


「後醍醐隊長からの緊急連絡です」坂口はモニタに表示された文字を追いながら答えた。


「あの人……、から?」


 坂口は、入院中の後醍醐が見舞で尋ねてきた元SIT隊長から教えられたという話の詳細を、その場にいた全員に簡潔に伝えた。


 先月、都内近郊で大規模な覚せい剤の密造プラントが摘発され、そこの地下ではバイオモンスタの研究と開発が行われていたこと。プラントの管理は新興宗教団体y3の信者が執り行っていた可能性があること。そして、その捜査は警察主導で行われ、現在も情報が公になっていないこと。


 坂口が報告した要点は、以上の三つだった。


「危惧していた想像が現実になった、というわけだな……」しばらくの沈黙の後、最初に口を開いたのは大隈だった。


「伊集院主任の予想通りね……」薫子も感心した様子で息を漏らした。


「だから言ったのだ」


「言う通りだったのです」


「あたくしは大したことはしていないのだ。人間の脳細胞というのは、あらゆる必要な情報を正確に集めて精度の高い計算をすれば、大抵のことは容易に未来が想像できるように作られている。しかし、それをしない人間もどきが多すぎるだけのことなのだ」


 双子の姉妹は、口をへの字に曲げて鼻の穴を広げ、自信満々の表情だった。


「嫌な予感は当たるものですね……」坂口も、驚きを隠せないように呟いた。

 すると、場の空気が落ち着く前に、今度は部屋の外からNARDSFの制服をきた女性隊員がドアを開けて、部屋の中に駆け込んできた。


 その女性隊員は、みつほには見覚えがあった。総理官邸事件の際、司令室のニーナの横で司令補佐をやっていた女性。坂口と反対の椅子に座っていたもう一人の女性隊員だった。


「む、我妻隊員!」茜は、なにかを抗議しようと椅子の上に立ち上がった。「お前、さっき光剣一輝のことを……」


「主任、……今、ちょっと……そんなこと……聞いている場合じゃないんです」我妻と呼ばれた女性隊員は、息を切らしながら片手を上げて、茜の抗議を制した。


「むむう……」茜は、鬼気迫る状況を様子を察したのか、大人しく口をつぐんだ。


「なにがあった?」大隈は、ただならぬ様子の我妻に大きな声を投げかけた。


 我妻は、両手を膝につき全身を屈めて激しく呼吸していたが、ようやく息を整えて姿勢を正した。起こした顔の額には、うっすらと玉の汗が浮かんでいるほどだった。


「先日の中央棟爆破の犯人の身元がわかりました……!」


 我妻の言葉が放たれた瞬間、小さな白い会議室に、青白い電流のような衝撃が走ったのを、その場にいた全員が感じただろう。


 一輝の脳裏には、撃たれた瞬間の衝撃と痛み。みつほの脳裏には、男たちのいやらしい息遣いと、トリガにかけられた薄汚れた指。頭を打ち抜いた草凪美都里の二発の銃声が、鮮明に蘇っていた。


 我妻は、まだ完全とは言えない、乱れた呼吸のまま報告を続けた。


「これは、まだ軍部からの公式な情報ではありませんが……、凡その情報が入手できました。犯行を行った男性二人は、金子達夫、四十二歳。木村一正、三十九歳。先月末までこの基地で清掃員として仕事をしていたらしく、過去には、都内の陸軍駐屯基地で一般志願兵として職務についていた経歴もあるそうです。また、これも不確定情報ではありますが、草凪少佐に射殺された二人の遺体からは非合法の薬物反応……、多量のメタンフェタミンが検出されたそうです」


「なんというタイミング……」茜と葵は同時にユニゾンでつぶやき、互いに顔を見合わせた。

 薫子は、報告を片耳で聞きながら、物凄いスピードで検索作業を始めている。


「他には?」大隈が話を促した。


「……はい、まだあります。二人は以前から、インターネット上で過激な反政府言論活動などを展開しており、彼らが実名で登録していたSNSサイトでは、実際に、幾つかの団体が行う街宣活動やデモ活動に頻繁に参加している様子がアップされていました。その団体は、以前から宗教団体y3からの資金提供が幾度となく取りざたされている問題の過激派組織で、彼らの背後にもy3がいるのは容易に想像がつきます」


「このサイトね?」検索を終えた薫子は、入り口に立つ我妻を呼び寄せてモニタを確認させる。


「はい、そうです。このサイトです」薫子の横からモニタを覗き込んだ我妻は頷いた。


「光剣くん、高嶋さん、どう? あなたたちを襲ったのは、この男たち?」薫子は矢継ぎ早に質問を繰り出す。


 それと同時に、全員の目前に、再びマルチモニタが照射された。 


 聞かれた一輝とみつほは、モニタを確認してからすぐに返答する。


「はい、間違いありません。この男たちです」一輝が激しく頷いた。


「私も、間違いないと思います」みつほも、彼らの顔をはっきりと思い出し、同意した。


「大隈長官……」一輝とみつほに無言でうなづいた薫子は、大隈に向かって意見を乞うような視線を向けた。


 大隈は、しばらく手元を見ながら思考を巡らせた後、ゆっくりと口を開いた。「……ということは、今回の同時多発テロは、あのAGITという集団が行ったのではないということか……」


「わかりません」我妻が答えた。「総理官邸を占拠し、その後、AGITを名乗る男に殺害された十七名のテロリストたちの正体も依然不明ですし……。一体、この国ではなにが起ころうとしているのでしょうか……?」


「それはわたくしたちが聞きたいくらいなのです……」葵がいたずらっぽく口元を斜めにして、小声で呟いた。


 大隈は、我妻の質問には答えず、すぐに次の行動を指示した。「……わかった。いずれにしても情報収集が最優先だ。坂口くんは後醍醐少将に。我妻くんは阿蘇大佐に、各自連絡を取って状況を伝えて欲しい。それから、情報収集も引き続き頼む。ニーナ司令には私から連絡を入れる」


「了解しました」二人の女性隊員は、張り艶のある声で返事をしてすぐに行動に出た。


「あ、坂口さん」薫子は、部屋を飛び出そうとした坂口を呼び止めた。「悪いんだけど、私の代わりに、あの人に、入院なんてしてないで早く帰ってこいって伝えておいて」


「わかりましたよ」坂口は首を傾けて微笑むと、すぐに部屋を飛び出て行った。……と思いきや、入り口から彼女の顔だけが戻ってきた。「お熱いですね」


 閉まるドアから逃げるように、ニヤけた坂口の顔が廊下に消えていった。


 坂口にからかわれた薫子は、真っ白だった顔をゆでダコのように赤くしていた。それを隠すかのように、腕組みをして「……確かに、甘やかしすぎね。もっと厳しくしてもらわないと」と憤った様子で言い放った。


「だから言ったのだ」

「言ったのです」

次回投稿は一週間後、2016年6月16日(木)。連続更新はテキストに余裕が出来次第順次スタートしていきます。原則としてはTwitterアカウントにおいてお知らせしますが、告知なく始める場合もございますのであらかじめご了承ください。)


※この物語はフィクションであり、実在する人物、法律、団体、名称とは一切関係ありません。

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